360度評価とは、対象となる従業員に対して、直属の上司だけでなく、同僚、部下、他部署の関係者、場合によっては取引先などの顧客を含めた、多様な立場の人間が評価を行う仕組みのことです。自分を取り巻く全方位(360度)からフィードバックを受け取ることから、この名がついています。
従来の人事評価は、上司から部下への一方通行が基本でした。しかし、上司は部下の業務のすべてを見ているわけではありません。特にプレイングマネージャーの増加やリモートワークの普及により、上司の目が届かない「隠れた貢献」や、逆に見えていない「周囲への悪影響」が存在することが増えています。360度評価は、こうした死角をなくし、より客観的で納得感のある評価を実現することを目指しています。
360度評価が近年さらに注目を集めている背景には、大きく分けて3つの要因があります。
ここが最も重要なポイントですが、360度評価の導入目的は大きく2つに分かれます。
多くの専門家や成功事例が推奨するのは、「2. 人材育成」を主目的とすることです。
もし給与や昇進に直結させてしまうと、評価者同士で「お互いに良い点数をつけ合う(談合)」や「嫌いな相手の足を引っ張る」といった政治的な動きが生まれやすくなり、正確なフィードバックが得られなくなるからです。まずは「気づき」を与えるためのツールとして導入し、本人の行動改善を促すために使うのが一般的かつ効果的です。
正しく運用された場合、360度評価は個人と組織に計り知れないメリットをもたらします。
一方で、運用を誤ると組織に深刻なダメージを与える諸刃の剣でもあります。
360度評価を単なる「互助会」や「吊るし上げ」に終わらせないためには、以下の3つの鉄則を守る必要があります。
「これは給与を下げるためのものではなく、あなたの成長を支援するためのものです」というメッセージを、経営層や人事が繰り返し発信し続けることが不可欠です。心理的安全性が確保されて初めて、本音のフィードバックが集まります。
評価者が特定されないよう配慮することは必須です。自由記述欄などで個人が特定されそうな場合は、人事が内容を要約して本人に伝えるなどの工夫が必要です。
評価結果をレポートとして本人に渡して終わり、では何の意味もありません。むしろ、ショッキングな結果を見て自信を喪失するだけの場合もあります。結果をどう読み解くか、そこからどのような行動計画を立てるかについて、上司や外部のコーチが面談を行い、対話を通じて本人の背中を押すプロセスがセットであって初めて効果を発揮します。
360度評価は、ビジネスパーソンにとっての「鏡」です。鏡がなければ、自分の襟が曲がっていることに気づけません。しかし、鏡を見ただけでは襟は直りません。鏡を見て(評価を受け)、自らの手で襟を正す(行動を変える)ことこそが本質です。
組織においては、「評価する・される」という関係性を超えて、「互いの成長に関心を持ち、率直にフィードバックし合える文化」を醸成するための起爆剤となり得ます。導入には慎重な設計と丁寧な運用が求められますが、それが定着した時、組織の視座は一段高く、より強固なものになるでしょう。