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有給休暇の取得は労働者の権利です。
そのため、有給休暇の取得条件や規則などは人事労務担当者がおさえるべきポイントとなります。
知識を取り入れておくことで、従業員との有給に関するトラブルを防げるでしょう。
そこで本記事では、有給休暇の仕組みについて解説します。
通常の労働分の給料をもらったうえで、休暇を取得できる制度が「有給休暇」です。正式には年次有給休暇と言い、労働基準法第39条で定められています。
(年次有給休暇)
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
また、2019年4月に施行された「働き方改革関連法」によって、年次有給休暇が付与された日から1年以内に5日分を取得することが義務化され、従業員に取得してもらわないと労働基準法違反になります。
違反した場合、取得できていない従業員1人につき30万円以下の罰金が発生します。(労働基準法:第三十九条,第百二十条)
そのため、有給取得日数が足りてない従業員がいる場合は時季指定をして、取得してもらいましょう。
また、取得をしていない従業員には促すことも会社側の重要な役目です。
※参考:労働基準法 第39条|e-Govポータル
年5日の年次有給休暇の確実な取得|厚生労働省
有給休暇は通常、入社から6ヵ月経過したタイミングで付与されます。ただし、6ヵ月の労働日数の間、8割以上出勤していることが条件です。
2回目以降は、初回付与から1年経過するごとに付与されます。
ちなみに、会社によっては独自の基準日を設けており、必ずしも法定どおりのタイミングで付与するわけではありません。
入社後6ヵ月経過するよりも前、もしくは入社初日に有給休暇を付与する企業もあります。
例えば、入社後半年に付与していると入社日がバラバラの場合に管理が難しくなります。
そのため、基準日を前倒しにして全社員の付与日を統一させている会社もあります。
有給休暇の取得タイミングについて従業員から質問があった際は、会社独自の基準日が設けられているかを確認すると良いでしょう。
※参考:年次有給休暇とはどのような制度ですか。パートタイム労働者でも有給があると聞きましたが、本当ですか。|厚生労働省
有給休暇の付与日数は労働基準法で規定されているため、会社独自の付与はできません。
フルタイム勤務の一般就労者は、勤続年数に応じて有給休暇が付与されます。
フルタイム勤務とは「週所定労働時間が30時間以上」「週所定労働日数が5日以上」「年間所定労働日数が217日以上」の従業員を指します。
以下が、付与される時期と日数です。
勤続年数 | 0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数 | 10 | 11 | 12 | 14 | 16 | 18 | 20 |
※引用:年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています|厚生労働省
このうち、年5日は有給休暇の取得義務が生じます。
取得義務は働き方改革法で定められており、パートやアルバイトなどの従業員は、フルタイム勤務の一般就労者とは異なる基準を用いて有給休暇が付与されます。
以下のように、週所定労働日数と継続勤務日数によって付与される日数が変化します。
週所定労働日数 | 年間所定労働日数 | 継続勤務日数0.5 | 継続勤務日数1.5 | 継続勤務日数2.5 | 継続勤務日数3.5 | 継続勤務日数4.5 | 継続勤務日数5.5 | 継続勤務日数6.5 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
5日以上 | 217日以上 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
4日 | 169~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
2日 | 73~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
1日 | 48~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
パート・アルバイトであっても、フルタイム勤務者と同じ条件で働いている場合は、同じ日数の有給休暇が付与されます。
また、有給休暇が10日以上付与される従業員に関しては、一般就労者と同じく年5日の有給休暇取得義務が存在するため、注意が必要です。
賃金の計算方法について紹介します。なお、賃金は「最低保証賃金」と定められています。
この金額を下回った額の支払いは認められないため、注意しましょう。
一般的な方法は、通常の労働と同等の賃金を支払うものです。
月給制や時給制を問わず、出勤と同じ扱いで計算するため、事務処理が簡単にできます。
平均賃金を有給休暇分の給与として支払うには、以下の2つの計算方式を用い、どちらか金額の大きい方を支払います。
例えば、賃金の総額が60万円、休日を含む全日数が92日、労働日数が65日としましょう。その場合、上は6521円、下が5538円となり、6521円を支払います。
そして、有給休暇を取得した日数に平均賃金をかけると、有給期間中の賃金を計算できます。
どのような形態で契約している従業員でも、同じ計算式を使って金額を求めることが可能です。
しかし、土日祝などが多い月では全日数が少なくなり、支払額が減る恐れがあります。
通常の勤務よりと比べて有給休暇の賃金が低いと、有給休暇を取得するメリットを感じられず、取得を渋られるかもしれません。
企業側としては有給休暇を取得させることは義務のため、従業員とのトラブルに発展する可能性もあります。
標準報酬月額という、社会保険料を決定するために用いられるものがあります。
この月額を30で割った額が「標準報酬日額」で、この金額を支払います。
社会保険料を支払うべき従業員であれば、標準報酬月額はすでに算出されているため、日額の計算は簡単です。
しかし、社会保険料の支払いがない従業員の場合、新たに標準報酬月額を算出するところから始めなければなりません。
さらに、標準報酬月額には上限が設定されています。例えば、上限が30万であった場合、日額は1万円です。
それ以上の日給で働いている場合は、もらえる額が少なくなる可能性があります。
有給休暇は法律で定められているため、いくつかルールが存在しています。
ここでは、有給休暇について企業側が覚えておくべきルールを解説します。
有給休暇が10日以上付与される従業員は、年間5日分有給休暇の取得が義務付けられています。
有給休暇は従業員の正当な権利なものの、上司に良い顔をされない・同僚に遠慮するなどの理由により、取得しにくいという課題がありました。
そのため、ある程度の取得を義務付けて、取得率を高め働き方が改革できるよう取得が義務となりました。
年10日以上の有給休暇が付与される従業員であれば、一般就労者だけではなく、アルバイトやパートの就労者も対象となることがポイントです。
年10日以上の有給休暇を付与された従業員が、年5日の有給休暇を取得しなかった場合、企業側にペナルティとして罰金が科せられます。
罰金は、有給休暇を取得しなかった従業員一人あたり最大30万円です。
罰金の負担が発生することはもちろんですが、従業員のパフォーマンスを落とさないためにも、有給休暇は必ず取得してもらいましょう。
また、取得義務の発生に関連して企業は「年次有給休暇管理簿」を作成し、3年間は保存する義務も発生しました。
年次有給休暇管理簿は従業員ごとに作成するもので、以下の3つの事項を書き記しておきます。
必要事項さえ記載していれば、決まったフォーマットなどはありません。わかりやすく管理簿にまとめておきましょう。
※参考:年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
有給休暇の取得日は、理由に関わらず従業員が決められます。
従業員の権利であるため、従業員の同意なしに会社が勝手に有給休暇を取得させることはできません。
反対に、従業員が取得したいタイミングで理由なく取得を断ることも違反です。
特に取得したいときに取得させない行為は、繰り返し説明しているとおり、労働基準法違反として6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。
しかし、繁忙期に有給休暇をまとめて取得されると業務に支障がでて困る会社も存在するかもしれません。
その際、会社側への対策として「時季変更権」があります。時季変更権とは「事業の正常な運営を妨げる場合に限り」行使できる権利です。
なお、すでに退職が決まっている人や、育休・産休などにかぶる形で有給休暇を取得している人などは、有給休暇を動かせないため時季変更権を行使できません。
また、時季変更権を濫用すると有給休暇を取得させない働きであるとして、罰金を科される恐れがあります。権利の行使は十分注意をして行いましょう。
付与された年に取得できなかった有給休暇は、翌年に繰り越しが可能です。
ただし、2年の時効が定められています。また、繰り越せる日数は最大で20日間です。
10日以上有給休暇を付与されると1年以内に5日取得する義務が生じるため、最大保持日数は6年半以上フルタイムで勤務した人の35日となります。
繰り越しをした有給休暇は、消化する際に優先的に使われます。
時効が来た有給休暇は消滅するだけですが、従業員のエンゲージメントを考慮すると、声掛けをして取得を促すと良いでしょう。
退職する際も有給休暇を取得できるため、取得を促しましょう。
ただし、突然の退職の場合、従業員の担当する業務が最後まで終わらない・引継ぎができないなどのトラブルも考えられます。
余裕を持った日程で退職相談してもらい、円滑に有給休暇を取得してもらうことが、双方にとって理想といえるでしょう。
退職者が有給休暇を取得する場合、最終出社日を有給休暇の前にするかあとにするか、2パターンあります。
最終出社日を有給休暇の前にするパターンでは、引継ぎや業務をすべて終えてから有給休暇を取得してもらいます。
退職日から従業員が取得できる有給休暇の日数を逆算し、最終出社日を決定しましょう。最終出社日を有給休暇のあとにする場合、退職日よりも前に余裕を持って有給休暇を取得してもらいます。
有給休暇の取得後に引継ぎなどを行えるものの、スケジュールを知らないほかの従業員が不安になる可能性があります。前もって退職者のスケジュールを伝えておくことで、無用な心配を避けられるでしょう。
有給休暇の取得は従業員の権利として労働基準法第39条に定められており、原則は買い取りできません。
もし会社側が買い取りを強要すると、従業員に不利な状況を作り、権利を脅かしたとして労働基準法違反になります。
ただし、例外として買い取りが認められるパターンもあります。
その一つが、退職者の有給休暇です。
休暇の消滅は従業員にとって損とも考えられるため、退職者は「有給休暇をすべて取得するために退職日を延ばす」か「有給休暇を買い取ってもらう」のどちらかを選ぶことが可能です。
もし買い取りをした場合、買い取った有休は「賞与」として扱うことになり、賞与支払届の提出を行う必要があります。
賞与支払届の提出期限は、賞与を支払った日から5日以内と短いので注意が必要です。
有給休暇の買い取りについては法律上の規定がないため、厳密には有給の「買い取り」ではなく、有給買い取り相当額として金銭で給付することになります。もし「退職に伴って無効になる年次有給休暇を買い取った場合」は、退職を起因した一時金として、『退職所得』に該当するものとされています。 |
通常、有給休暇は1日単位で取得します。
しかし、従業員がより柔軟に働けるように、半日や時間単位でも取得できるようになりました。
この制度は、一時的な用事がある場合など、数時間だけ仕事を休みたいときに便利です。
時間単位年休は、1年間に5日分しか取得できません。5日を超える分は1日単位で取得する必要があります。
また、翌年に繰り越すこともできます。ただし、繰り越した分も5日分の単位に含めなければなりません。
1日未満の端数が残った場合は、会社がその時間分を繰り越すか、1日の有給休暇として繰り越すかを決めます。
時間単位年休は、労使協定で1日の有給休暇に相当する時間数を定めなければなりません。
また、1時間単位で付与され、1時間あたりの賃金に取得した時間単位年休を乗じた額が支払われます。10分単位での付与はできません。
有給休暇を取得するにあたって、就業規則として定めておくべきことがあります。
例えば、申請方法や期限などを決めておくと、取得の際にトラブルを起こさずに済むでしょう。
有給休暇の取得方法はルールで決められてはおらず、各企業で設定できます。
就業規則には周知義務があるため、変更する場合は従業員に周知しなければなりません。
ここでは、就業規則の内容について解説します。
有給休暇の申請をどのように行うのか・誰に申請すれば良いのかを決めましょう。
一般的には申請書を提出し、有給休暇取得を願い出ます。企業によってはチャットやメール、口頭での申し込みも許可されます。
ただし、申請した・しないなどのトラブルになるリスクがあるため、なるべく記録に残るもので申請してもらう方が無難です。
申請期限は法律で定められてはいないため、企業ごとに就業規則としてルールを作ります。
期限は企業によりさまざまで、2週間前〜1週間前と定めている会社が一般的です。
前日の申請は代替となる人物を確保できないため、受け付けない企業もあるようです。
有給休暇は事前申請が原則ですが、重大な病気や災害など、やむを得ない理由によっては認める企業もあります。会社や従業員に不利益が出ないような期限を設定し、就業規則を作成しましょう。
なお、有給休暇には取得日数や義務、2年間の繰り越し期限も設けられています。
付与した日数以上の取得は、やむを得ない理由があってもできません。
また、時効になると消滅するため、申請期限も考慮したうえで取得させるようにしましょう。
有給休暇は従業員の権利ですが、濫用されると会社側に被害があるかもしれません。
反対に会社側が従業員に職務を強要すると、権利を侵したことで法律違反となります。
ここでは、有給休暇の取得で起こりやすいトラブルと、その対策について解説します。
有給休暇の取得を柔軟にすると、管理に時間や手間が割かれます。
また従業員が多いほど、一人ひとりの有給取得状況の確認や連絡が追いつかないケースもあり得るでしょう。
そうなると、義務化されている年5日の有給取得漏れが発生してしまいます。そして法律違反になり、30万円以下の罰金を科せられます。
そのため手間がかかったとしても、従業員の有給休暇は常に把握しておかなければなりません。
従業員への有給休暇の付与は入社日から6か月後、そこから1年毎に付与します。
そして、勤続年数に応じて付与日数が増えていく仕組みになっています。
しかし、従業員の入社時期を勘違いしており、有給休暇を少なく付与してしまうミスもあり得るでしょう。
従業員は過去2年分の中で少なく有給を付与されていた年があった場合、労働基準法第115条の請求権によって請求することが可能です。
そのため、過去2年間分(最新で付与された年も含む)で有給休暇の付与日数の間違いがあった場合は、従業員に手続きに間違いがあったことを伝えて正しい日数を付与し直しましょう。
有給休暇は、8割以上の出勤を6カ月続けることで、1年目は10日付与されます。
そのうち5日は取得義務があるため消化されますが、残りの有給休暇は取得できていないという方もいらっしゃるでしょう。
その場合、残った有給休暇を翌年に繰越すことが可能です。
しかし、手続きの間違えで繰り越し日数を誤ってしまうかもしれません。
繰り越した有給休暇の日数が、実際の繰り越し日数よりも少ない場合は労働基準法第115条により、違反になってしまいます。
ただし、繰り越し対象となる有給休暇は最新で付与された年から1年前に付与された分のみで、それより前の分については繰り越しの手続きは不要です。
もし、従業員から2年前の有給休暇の繰り越しを請求されても対応は不要です。
社員が増えるほど有給休暇の管理は煩雑になるものの、工夫によって手間や時間の負担が減ります。
ここからは、管理しやすくなる方法を紹介します。
有給休暇は入社日から半年での付与が前提ですが、前倒しであれば、いつ付与しても問題ありません。
そのため年始・年度初め・月初などで統一しておくと、管理がしやすくなります。
従業員の有給休暇取得予定を把握し、調整をしやすくするためにも、取得計画表の作成が重要です。
計画表は、月や年度ごとに提出してもらいます。
有給休暇の取得状況と取得予定を一目でわかるように管理しておくと、把握漏れを起こしづらくなるでしょう。
有給休暇には計画的付与制度が存在し、5日間以外は会社側が指定して取得させることもできます。
しかし、計画的付与制度を使用するには、労使協定を結ばなければなりません。
計画的付与の例として、夏季休暇やGW前後に付与し、長期の休暇を取得させるケースがあります。
また、誕生日などの記念日に付与することも可能です。
個人や全体だけではなく、班やグループなどのまとまった集団にも付与できます。
制度を活用すると、会社側で有給休暇の取得を把握しやすくなるでしょう。
また、有給休暇の消化率が低い場合、計画的付与を用いて取得させやすくできます。
年次有給休暇管理簿は必ずつけなければなりませんが、そのフォーマットは会社の自由にして良いとされています。
なるべく全従業員の有給休暇がわかりやすくなるようなフォーマットを作成すると、管理に役立つでしょう。
また、有給休暇の管理にはツールの導入もおすすめです。
管理ソフトなどを導入すると、管理が徹底できて把握漏れを防げます。
ソフトには有給休暇の管理に特化したもののほか、勤怠をまとめられるものも存在しているため、目的にあったものを導入しましょう。
有給休暇についての把握は、会社側にとっても重要です。
定められているものを順守しなければ、法律違反として罰則を科せられる可能性もあります。
働き方改革が進められる昨今、有給休暇の制度はさらに複雑化しています。
従業員が働きやすいように制度を使用すると、業務効率化にも繋がるでしょう。
ぜひ、有給休暇を現在の労働環境に組み入れてみてください。