「経理担当者が辞めてしまい、後任が見つからない」「毎月の締め作業が特定の1人に集中している」——そんな悩みを抱える経営者・管理部門責任者は少なくありません。
経理事務の有効求人倍率は上がっており、採用市場での競争は年々激しくなっています。人材不足を放置すると、月次決算の遅延や内部統制の弱体化を招き、経営判断そのものが遅くなるリスクがあります。
本記事では、経理人材不足の原因・リスク・解決策を体系的に整理します。採用・育成・アウトソース・DXの4軸から、自社に合ったアプローチを見つける際の参考にしてください。
経理・会計職の採用環境は、ここ数年で一段と厳しさを増しています。
厚生労働省「一般職業紹介状況」によれば、直近2026年2月の有効求人倍率は1.19倍で高止まりが続いています。ただし、この全体数値以上に注目すべきは職種別の偏りです。事務系職種全体では求職者数が求人数を上回る局面も多い一方で、会計事務の分野は全職業平均を上回る採用難が慢性化しているのが特徴です。「事務系は買い手市場」という一般的な印象とは裏腹に、経理職に限っては応募者の絶対数が足りない状態が続いています。
採用が難航する一方で、現場の業務量はむしろ増え続けています。2023年10月開始のインボイス制度対応、2024年1月からの電子帳簿保存法の電子取引データ保存完全義務化など、制度対応のたびに新たな実務が積み上がる構造です。加えて、経理特有の「属人化」により、既存担当者が退職すると後任採用が決まるまでの間、残ったメンバーに業務が集中する悪循環が発生しやすい職種でもあります。
会計事務の求人は増える一方で応募者が追いつかず、さらに制度対応で業務量は膨らむ——この構造的なギャップが、経理人材不足を慢性的な経営課題に押し上げています。
※出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年2月分)について」
原因を正しく把握することが、有効な対策への第一歩です。経理人材不足には、採用市場の問題と社内の体制問題の両方が絡んでいます。
経理業務には簿記・会計知識だけでなく、税法・インボイス制度・電子帳簿保存法への対応力が求められます。IT化が進んだ現代では、会計システムの操作スキルも必須です。簿記・会計・法令対応・ITリテラシーを兼ね備えた人材は市場に少なく、採用競争が激しくなっています。
長年同じ担当者が処理を続けてきた結果、仕訳ルールや処理の段取りが担当者の経験則にしか存在しない状態になりがちです。マニュアルが整備されていないと、新しい人材が入っても仕事を引き継げず、定着しないまま離職するケースが続きます。属人化は採用の悪循環を生む構造的な問題です。
経理は売上に直接貢献しないバックオフィス機能のため、人員補充の優先度が営業・製造より低く見られる傾向があります。欠員が出てから急いで採用を始めても、即戦力が見つかるまで既存メンバーへの負担が集中し、さらなる離職を招く悪循環に陥りやすくなります。
2023年10月開始のインボイス制度対応、2024年1月からの電子帳簿保存法の電子取引データ保存完全義務化など、経理業務は法改正のたびに新たな対応業務が積み上がっています。人員が変わらないまま業務量だけが増えると、担当者の疲弊と離職につながります。
経理の仕事は「安定している」反面、昇進・スキルアップの道筋が見えにくいと感じる若手も少なくありません。評価基準が曖昧で、頑張りが処遇に反映されにくい職場環境では、転職市場で引く手あまたな経理人材はすぐに他社に移ってしまいます。
人材不足を「経理の内部問題」で終わらせてはいけません。放置することで、経営全体に深刻な影響が及びます。
月次決算が締まらないと、経営者は先月の数字を見ながら今月の意思決定をすることになります。資金繰りの悪化サインを見逃したり、不採算事業の撤退判断が遅れたりするリスクが高まります。スピードが競争力に直結するビジネス環境では、経理の遅延は経営の遅延につながります。
人手不足によるキャパシティオーバーは、仕訳ミス・支払漏れ・申告ミスの温床になります。取引先への支払い遅延は信用問題に発展し、税務申告の誤りはペナルティを招きます。一度失った取引先・税務当局との信頼は、取り戻すのが困難です。
属人化が進むと、相互チェックが機能しなくなります。1人が請求書の発行・承認・支払いをすべて担当する状況になれば、不正が発生しても発見できません。上場企業であれば内部統制報告制度への対応も困難になります。
特定の担当者への業務集中は残業増加につながり、疲弊した担当者が離職するとさらに残った人員の負担が増えます。こうした連鎖退職が起きると、経理部門の機能が一時的に麻痺するリスクすらあります。
監査対応や財務デューデリジェンスには正確な財務データと適切な経理体制が欠かせません。経理人材が不足した状態では、IPO準備や資金調達・M&Aのプロセスが進められなくなります。成長機会を逃すコストは、採用・ツール投資の比ではありません。
経理人材不足の解決策は、大きく「外部調達」「業務自動化」「業務標準化」「採用・育成」の4軸に整理できます。どれか1つを選ぶというより、自社の課題と優先度に応じて複数を組み合わせるのが現実的です。
まず全体像を把握するために、4つのアプローチを即効性・中長期効果・コスト観点で比較します。
短期で効くのは解決策1・2、中長期で組織の強さを作るのは解決策3・4です。人手が今すぐ足りない局面ではBPO+DXで土台を作り、並行して標準化・採用育成で「組織で回る経理」に移行するのが定石の流れです。
採用が難しいなら、外部の専門人材に業務を委託する方法が有効です。経理BPO(Business Process Outsourcing)では、記帳代行・請求書処理・月次決算補助などを外部の専門会社に委託できます。
メリットは即効性の高さです。採用活動に数ヶ月かけなくても、契約後すぐに専門人材が業務を担います。繁忙期のみ業務量を増やせる柔軟性も魅力です。
デメリットとしては、社内にノウハウが蓄積しにくい点と、外部への財務情報提供に伴うセキュリティ管理が必要な点が挙げられます。委託範囲の設計と契約時のセキュリティ要件の確認は丁寧に行いましょう。
向いている企業としては、急成長中でバックオフィス人材の採用が追いつかないスタートアップ・ベンチャー、経理担当者が退職して緊急対応が必要な中小企業などが挙げられます。
経理人材不足の根本的な解決には、業務量そのものを減らすアプローチが欠かせません。デジタルツールの活用で、定型業務を自動化し、限られた人員でより多くの仕事をこなせる体制をつくります。
導入効果が高い領域は以下の4つです。
紙・PDFの請求書をAI OCRで自動読み取りし、会計システムへの仕訳データを自動生成するツールです。手入力を大きく減らせるため、請求書処理にかかる工数を削減できます。インボイス制度・電子帳簿保存法への対応も自動化できるため、法改正対応コストも抑えられます。
紙の領収書をスマートフォンで撮影するだけで経費申請が完了するシステムです。交通費は経路検索と連携して自動計算され、承認フローもオンラインで完結します。月末の集計・仕訳作成も自動化できるため、担当者の負担を軽くできます。
銀行口座・クレジットカードと連携し、取引データを自動取得・自動仕訳するクラウド会計ソフトは、入力作業の大半を自動化できます。リアルタイムで経営数字を把握できるため、月次決算の早期化にもつながります。
稟議・申請・承認をオンライン化することで、紙の回覧・押印待ちのロスをなくせます。承認履歴がシステムに記録されるため、内部統制の証跡管理にも役立ちます。
ツール導入の前提として、業務の棚卸しと標準化が必要です。誰がやっても同じ品質で処理できる体制を整えることが、人材不足への根本的な対処につながります。
まず現在の経理業務を洗い出し、「誰が・何を・いつ・どのくらいの時間で」行っているかを可視化します。業務の棚卸しによって、重複作業・非効率なチェック工程・属人化している業務が浮き彫りになります。
洗い出した業務の手順を文書化し、誰でも処理できるようにします。特定の担当者だけが把握しているルールやノウハウをマニュアルに落とし込むことで、引き継ぎコストが大幅に下がります。担当者の急な離職・休職にも対応できる組織体制になります。
「経理部門がやらなくていい業務」を見極め、他部署や外部に移管することも有効です。社内の経理担当者は付加価値の高い業務(経営分析・資金繰り管理・税務戦略)に集中できる環境をつくります。
即効性のある解決策と並行して、採用・育成の中長期戦略を立てることが、安定した経理体制の確立につながります。
「簿記2級以上・経験3年以上」といった高いハードルを設けていると、候補者が極端に少なくなります。業務標準化・ツール活用で未経験者でも業務を担えるようにしたうえで、採用基準を緩和するアプローチが有効です。育成に時間はかかりますが、定着率が高まりやすい傾向があります。
経理業務のクラウド化が進めば、自社オフィスへの通勤を前提としない採用ができるようになります。地方在住の優秀な人材や、育児・介護との両立を望む経験者にもアプローチできるため、採用母集団を広げられます。
「経理担当者→主任→マネージャー→CFO補佐」といったキャリアラダーを明示し、スキルアップと処遇改善が連動する評価制度を整えます。成長の見通しが持てる職場環境は、定着率の向上につながります。
解決策は企業の規模・状況によって優先順位が変わります。自社の状況に近いパターンを参考にしてください。
経理担当者を社内で採用するより、クラウド会計ソフト+経理BPOの組み合わせが費用対効果で優れます。月次決算・請求書処理・経費精算を外部に委託しながら、必要に応じてCFO候補の採用を検討するのが現実的な流れです。
経理担当者が1〜2名いるケースが多く、「特定の人材への依存リスク」が大きな課題になります。ツール導入による業務量削減→マニュアル整備→採用・育成の順で取り組むことで、組織としての経理体制を段階的に強化できます。
定型業務のBPO化・ツール自動化を進めながら、経理人材を分析・管理会計・経営戦略支援にシフトさせる「経理部門の高付加価値化」が目指すべき方向です。管理会計システムやERPの活用も検討する価値があります。
経理業務の自動化・外部化を支援する代表的なサービスを紹介します。

請求書の受取からデータ化・仕訳生成・支払処理まで一気通貫で自動化できるクラウドサービスです。AI OCRとオペレーターのダブルチェックで高精度のデータ化を実現し、手入力の負担を大きく減らせます。
インボイス制度の登録番号照合・電子帳簿保存法のタイムスタンプ付与に自動対応しているため、法改正対応の工数も削減できます。freee・マネーフォワード・弥生など多数の会計システムと連携でき、既存環境に合わせて導入しやすい点も魅力です。
| サービス名 | invox受取請求書 |
| 初期費用 | 0円 |
| 月額料金 | 980円〜+データ化料金 |

スマートフォンで領収書を撮影するだけでAI OCRがデータを自動入力し、申請・承認・仕訳生成・会計連携まで一気通貫で処理できます。交通費は経路検索と連携して自動計算されるため、担当者の確認工数も減らせます。
電子帳簿保存法のスキャナ保存・電子取引情報保存、インボイス制度に対応しており、国税庁Web-APIを用いた適格事業者登録番号の自動照合機能も備えています。マネーフォワードクラウド会計・弥生・勘定奉行クラウド・SAPなどERPを含む多数の会計システムと連携でき、既存の会計基盤を維持したまま導入できます。
| サービス名 | invox経費精算 |
| 初期費用 | 0円 |
| 月額料金 | 1,980円+300円/人〜 |

経理を中心に、財務・人事労務・総務・庶務・補助金/助成金までバックオフィス業務全般を、専門人材チームが担う経理アウトソーシングサービスです。記帳代行・入金消込・月次締め・振込代行・請求書発行・給与計算・社会保険手続きなど幅広い業務をカバーします。
単なる代行にとどまらず、業務プロセスの可視化→マニュアル作成→実施というステップで、委託しながら業務の標準化も同時に進められます。経理担当者の急な退職・産休など緊急時の対応にも柔軟に応じられます。
| サービス名 | BackofficeForce |
| 初期費用 | 要問い合わせ |
| 月額料金 | 200,000円~ |

銀行口座・クレジットカードと連携して取引データを自動取得・自動仕訳するクラウド会計ソフトです。多数の金融機関と連携しており、入力作業の大半を自動化できます。決算書・税務申告書の自動生成機能も備え、経理担当者の手作業を軽くできます。
資金繰り予測・部門別損益分析・経営レポートのリアルタイム確認など、経営管理機能も充実しています。インボイス制度・電子帳簿保存法への対応も標準機能に含まれています。
| サービス名 | freee会計 |
| 初期費用 | 0円 |
| 月額料金 | 2,980円〜 |

月額定額制で記帳・仕訳作成・売掛金管理・経費精算・給与計算・月次決算まで一括して委託できる経理代行サービスです。法人専門で、年商数千万〜100億円・従業員1〜100人規模の企業を対象としています。
業務量に応じてスモール・スタンダード・アドバンスの3段階プランが用意され、成長に合わせてプランを変更できます。コンサルタント・税理士・記帳オペレーターによる3名以上のチーム体制で運用するため、属人化を避けながら業務の引き継ぎや細かい相談にも対応できます。
| サービス名 | Wheat Accounting |
| 初期費用 | 要問い合わせ |
| 月額料金 | 30,000円〜 |

経費精算・請求書受取・請求書発行・会計ソフト連携を一つのシステムで管理できる経費精算ツールです。ICカード・法人カードとの連携、AI-OCRによる領収書自動読取、多数の会計ソフト連携など、幅広い機能を網羅しています。
ハーモスシリーズ(勤怠管理など)と連携できるため、他の人事・総務業務とのデータ連携も一元化できます。電子帳簿保存法・インボイス制度への対応も標準で含まれています。
| サービス名 | ハーモス経費 |
| 初期費用 | 0円 |
| 月額料金 | 29,000円〜 |
A. 経理職の採用難は以前からありましたが、2023年10月開始のインボイス制度、2024年1月からの電子帳簿保存法の電子取引データ保存完全義務化以降、業務量の増加によってさらに深刻化しています。加えて、生産年齢人口の継続的な減少が求人倍率を押し上げており、2024年3月時点で会計事務の職業の有効求人倍率は2.60倍(厚生労働省「一般職業紹介状況」)に達しています。
A. 緊急度によって異なります。すぐに業務が回らない状況であれば、経理BPO・アウトソーシングへの委託が即効性の高い対処になります。中長期的な体制強化であれば、まず業務の棚卸し→マニュアル整備→ツール導入の順で取り組むことで、採用に依存しない安定した体制をつくれます。
A. ツールの種類・規模によって大きく異なります。クラウド会計ソフトは月額数千円〜数万円程度、経費精算システムも月額数千円〜数万円程度から利用できるサービスが多くあります。無料トライアルを活用して複数のサービスを試してから選定するのがおすすめです。
経理人材不足は採用市場の問題であると同時に、業務体制・組織設計の問題でもあります。有効求人倍率1.19倍が続く採用環境の中で、会計事務に限れば求人増と応募難のギャップはさらに大きく、採用努力だけで解決しようとするアプローチには限界があります。
まずは自社の業務を棚卸しし、どこに負荷が集中しているか・どの工程が属人化しているかを把握するところから始めましょう。即効性が必要ならBPO・アウトソーシングから、中長期の体質改善ならツール導入と業務標準化から着手するのが現実的な流れです。
具体的なツール・サービスが気になった場合は、2〜3サービスに資料請求を行い、自社の業務量・予算・既存システムとの適合性を確認してみてください。