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法務のスキルマップ作成方法は?法務人材の必須スキルを細かく解説

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法務のスキルマップ作成方法は?法務人材の必須スキルを細かく解説

健全な企業活動を継続させるには、法的リスクに対する適切なマネジメントが不可欠です。

そして、コンプライアンスを遵守しながら円滑な企業経営を継続するためには、企業法務部門の充実・強化を欠かせません

本記事では、多様化する経済活動や企業経営に対応する際に役立つ法務スキルマップについて、分かりやすく解説します。

自社の法務部門の強化を検討している経営者の方や、企業法務のスペシャリストとしてキャリア形成を目指している方は、ぜひ最後までご一読ください。

BEET

法務人材のスキルマップとは

法務人材のスキルマップとは、企業の法務部門を担う人材を育成するためのロードマップのことです。

まずは、法務人材スキルマップが重視される背景や目的について解説します。

法務スキルマップが重要視される背景

近年、企業経営を取り巻く環境は目覚ましい変化の最中にあります。

例えば、グローバル化や急速なイノベーションの変化、企業が果たすべき社会的責任の増大などを踏まえると、企業には高い専門性や経営センスが要求されるようになっているといえるでしょう。

そして、特に社会構造が複雑になったときに避けられないのは、企業が直面するリーガルリスクです。

各種規制緩和や諸外国法制などの外的要因だけではなく、労働関連法制など企業統治の内部にも影響を与える法規制について、適切な知識・ノウハウをもって順応しなければいけません。

そのため、この複雑な現代社会において企業活動の健全化を実現するためには、各社が有するべき法務機能を明確に定義したうえで、その職責を果たすことができる人材をピンポイントで配置する必要があると考えられます。

そして、法務機能面における適材適所を実現するためのツールとして、法務人材スキルマップを重視する傾向が強まっているのが実情です。

参考:法務人材育成の方向性のストーリー|経済産業省

経営法務人材スキルマップ|経済産業省

法務スキルマップ作成の目的

法務スキルマップを作成・活用する最終的な目的は、「各企業の法務機能の充実化」です。

そして、この最終的な目標を達成するために、法務スキルマップは以下3つの場面で役立てられています。

法務部員の能力やスキルを可視化する

法務スキルマップは、法務部門に所属している従業員の能力・スキルの可視化に役立ちます。

法務部門の機能充実化や底上げを狙う場合、まずは所属従業員が現段階でどの程度のノウハウを有しているのかを把握するのが出発点です。

法務部員の現段階の状況を客観的に把握したうえで、各従業員の成長可能性の判断や教育方針の明確化に役立てましょう。

法務部員の育成・評価に利用する

従業員の昇進昇格や人事評価を算定するときには、客観的な指標が不可欠です。

しかし、営業部門なら営業成績などによる算定が可能ですが、法務部員は部門全体として取り組む業務が多いため、個別法務部員の評価をするのが簡単ではありません。

法務スキルマップを活用することで、恣意的な評価が排除された客観的な視点で各法務部員を育成・評価できるでしょう。

法務部員の採用基準にする

法務スキルマップを作成しておけば、法務部員の採用基準としても役立ちます。

例えば、新卒を募集するときには新卒一括採用方式が一般的ですが、法務スキルマップが社内で明確に設定されていれば、法務部門としてのニーズを採用基準に盛り込むことができるでしょう。

また、中途採用や他社からの招聘を検討するときにも、自社独自の法務スキルマップを設定することで即戦力採用が実現しやすくなるはずです。

法務のスキルマップ作成方法

法務スキルマップは法務部門の現状把握だけではなく、企業基盤の盤石化にも役立つ指針です。

ここでは、法務スキルマップを作成方法について解説します。

求める「法務人材像」を決める

企業ごとに、法務部門が担う役割は異なります。

したがって、法務スキルマップを作成するときには、自分の企業に必要な「法務人材像」を明確化するのがスタートラインといえるでしょう。

例えば、知的財産権や独占禁止法などの専門的な知見を有すること、法学部やロースクールで一定期間法律を勉強して基本的な法的素養を有すること、法務部門以外の業務経験があることなど、自社にとって役立つ人材像を設定してください。

法務のキャリアパスを整理する

法務部門で採用した人材のキャリアパスを、想定・整理するのも大切なステップです。

例えば、法務部門で採用した人物を部門を担うプロフェッショナルとして「深く狭く」教育するのもキャリアのあり方のひとつです。

その一方で、法務担当管理職のポストに就いた人物のマネジメント能力を評価し、新規プロジェクトや他部門の役職に転用する道も選択肢として挙げられます。

組織運営の形態が多様化する現代では、法務部門の人材を縛り付けるだけでは企業経営は立ち行きません。

法務部門以外の部署や経営陣としての採用など、幅広いキャリアパスを用意するべきでしょう。

法務業務と必要なスキルを洗い出す

法務スキルマップを作成する前提として必要になる情報が、現在の法務業務とそれに役立つスキルです。

日常的な契約書チェック、外部弁護士との協議、行政手続きへの対応、クレームなどの顧客対応時のリスク抽出、自社商品と知的財産権の問題など、企業活動の種類によって法務業務や習得すべきスキルは異なります。

業務とスキルの洗い出しに成功すれば、どのような人材を採用し、採用後にどのような方向性で教育するべきかが明確になるでしょう。

評価のレベルを決める

法務スキルマップは、法務部員のキャリアに関するロードマップのようなものです。

勤続年数や経験を積むにつれて、昇進・昇格により適切なポジションに配置する必要があります。

そのためには、法務部員の能力を客観的に評価するための指針が不可欠です。

具体的なジョブディスクリプションを作成したうえで、法務部門における評価指針として活用できるものにブラッシュアップしてください。

社内全体の評価指標とすり合わせる

従来型の日本企業の雇用形態では、法務は閉鎖的な部門と位置付けられていました。

「法務として採用した人材は法務としてキャリアを積み、やがては法務部門の管理職として業務を遂行する」というのが一般的な流れです。

しかし、現在では人材の流動性を高めて常識に囚われない、多様なキャリアパスを受け入れるのが一般的な傾向です。

また、法務機能が高度化し、多様なテクノロジーを企業活動に取り込むことができるようになっているので、法務部門の独自性に固執する必要性も乏しいと考えられます。

したがって、法務スキルマップを作成するときには、法務独自の評価指標だけではなく、社内全体の評価指標とのバランスを意識するのも重要です。

法務として採用した人材が途中でキャリアチェンジをして今以上に才覚を発揮する可能性や、逆に、法務部門以外の人材が法務へ配置転換される道を用意しておくべきでしょう。

スキルマップ作成の効率化

法務スキルマップは今後の企業経営の基盤を強化するために役立つものです。

そのため、法務部門だけではなく他部門とも丁寧に協議を進めながら、法務スキルマップの内容を充実させるのが本来あるべき姿でしょう。

しかし、法務スキルマップを作成する段階であまりに労力・時間を割くのも適切ではありません。

ここでは、法務スキルマップの作成作業を効率化するための手法やツールを紹介します。

スキルマップのテンプレート

法務スキルマップのテンプレートを用意・共有しておくことで、各法務部員に対する人事評価や教育プログラムの設定をスムーズにおこなえるようになります。

テンプレートを作成するときには、可能な限り汎用性の高い内容を意識しましょう。

例えば、エントリー、スタッフ、シニアスタッフ、マネージャー、シニアマネージャのように階層を分けて、それぞれどのようなスキルを習得する必要があるのか(要件・要求レベル)を列挙してください。

スキルマップ作成に便利なツール

「法務スキルマップを作成するときのテンプレートやヒントが欲しい」とご希望の場合には、「キャリアマップ、職業能力評価シート及び導入・活用マニュアルのダウンロード|厚生労働省HP」を参照するのがおすすめです。

業種ごとに、設定するべき基本的なスキル指標が例示されているので、自社内の法務スキルマップ作成時にも叩き台として役立つでしょう。

その他、有償・無償でスキルマップ作成テンプレを販売・公表しているWebサービスもあるので、利便性などに鑑みながらご活用ください。

法務の5つの基礎スキル

法務スキルマップに掲げるべき「法務の基本スキル」を紹介します。

ただし、ここで紹介する基本スキルは一般的・代表的なものであり、全ての企業に妥当するとは限りません。

あくまでも、業務内容や企業規模・組織構成や従業員数などの各社の個別事情を踏まえたうえで、自社の法務部門に必要な基礎スキルを採用するようにしてください。

法律に対する理解力・勉強意欲

法務部門で仕事をする以上、法律に対する理解力は不可欠です。

例えば、基本六法だけではなく、行政手続き、業法、国際法、知的財産領域など、企業の業務に必要な範囲の法的素養を有する人物が求められます。

さらに、法律、政省令、通知、業界ルールなど、事業に適用されるルールは都度改正がおこなわれる点にも注意が必要です。

最低限の法的素養を有するうえで、日々研鑽を積むモチベーションを有する人物でなければ、法務部門の人材としての成長は期待しにくいでしょう。

ビジネスに対する理解力

法務部門の人材は、ただ単純に法曹のように法律に詳しいだけではなく、法的知見をビジネスの場面に適用させる能力が必要です。

また、取引相手などと交渉などをする機会も少なくありません。

そのため、法務部員として仕事をする以上、企業の業務内容だけではなく、ビジネス全般に対する理解力の有無をスキルマップに掲げるべきでしょう。

情報収集スキル

法務部門では、企業の法的リスク等に関する問題に対応するために、膨大な資料を確認したり行政関係の細かい手続き・ルールなどを調べる必要に迫られることが多いです。

したがって、法務部門として円滑に業務に対応するには、情報を取捨選択する能力や、必要な情報を効率的に収集する能力、収集した情報を法的に適切な形で評価する能力が欠かせません。

書類作成スキル

法務スキルマップでは、書類作成スキルが基礎的能力のひとつに掲げられることが多いです。

例えば、標準的な契約書、非標準的な取引に対応する法律文書、ITツールやクラウドシステム等を活用したリーガルチェック、法的判断について記した社内向け広報、法的争訟が懸念される競合企業などとのメール等のやり取りなど、さまざまな場面で起案能力が問われます。

事務処理スキル

経理や人事などのバックオフィスと同じように、法務部門でも事務処理スキルは不可欠です。

法律関係の業務では、期限が厳格に定められていることが多いです。

例えば、1日でも期限を徒過した時点で許認可の申請が通らないということになりかねません。

そのため、法務スキルマップでは、適切なスケジューリングの中で所定業務を達成するだけの事務処理能力が欠かせないと考えられます。

法務に必要な3つの素養

法務部門で採用する人物に、欠かせない3つの素養を紹介します。

なお、業種・業態によっては別の素養が求められる可能性があるので、法務スキルマップに掲げる素養に関する事項については、必ず自社の特徴に応じたものをピックアップしてください。

コミュニケーション能力

「法務部門はバックオフィスなのでコミュニケーション能力は求められない」というのは間違いです。

なぜなら、法務部門内で連携をとりながら業務をこなす必要があるからです。

経理作業などと違って、法務部門ではチームでプロジェクトが進められます。

そのため、部門内で円滑な意思形成を実現するために、コミュニケーション能力は不可欠といえるでしょう。

倫理観

法務部門でキャリア形成を目指す以上、他部門以上に高い倫理観を備えている必要があります。

平素から遵法精神を発揮し、企業倫理に反する事象が発生したときには、誰よりも率先して解決を目指す人材を確保するべきでしょう。

法務のキャリアアップに必要な7つのスキル

法務スキルアップにはキャリアアップを前提とした項目も掲載することが推奨されます。

なぜなら、法務部門の階層ごとに要求されるスキルは異なるからです。

ここでは、法務部門で昇進・昇格をするための指針となる代表的なスキルについて解説します。

マネジメントスキル

法務部門で勤続年数を重ねて必要な法的スキルを習得した場合、法務部長などの管理職への昇進・昇格が視野に入ってきます。

例えば、効率的に組織を運営する能力、部下に適切な指示を与える能力、外部の専門家や争訟相手と直接的に話し合うことができる能力などが必要です。

リーダーシップ

企業法務における業務はチーム制を前提とすることが多いです。

そのため、チーム全体を統率する力や課題に対して丁寧に目標を設定する力、部下の力量に応じて業務を配分する能力など、リーダーシップを発揮できる人材は法務部門でのキャリアアップを目指しやすいでしょう。

発想力

法律関係の業務にも、発想力は欠かせません。

例えば、事案が複雑なケースでは、解決に導くためのアプローチはひとつだけに限られないことが多いです。

また、取引相手の魂胆や係争相手の戦略を想定して、有利な状況を作り出すための施策を創造する必要がある場面もあります。

特に、弁護士などの法曹とは違って、法務部員として働く以上「組織の利益を最大化すること」「企業のために働くこと」が職責として課されます。

そのため、流動的なビジネスに対応できるだけの柔軟性・発想力は不可欠だと考えられます。

提案力

現段階では露見していない法的リスクを経営陣に示したりリーガルリスクを排除した事業戦略の提案をしたりするなど、法務部門の業務には幅広い仕事が含まれます。

したがって、法務部員には企業が必要とする事項を、適切かつ迅速に提案できる能力が必要だといえるでしょう。

行動力

法務部門でキャリアアップする人材には、行動力も求められます。

例えば、法令の修正変更に関する各種ロビイング活動や、法務部員のマインドセットの変革主導などについて、行動力がなければ法務部門での昇進・昇格は期待しにくいでしょう。

交渉力

法務部門でのキャリアアップに、交渉力は不可欠です。

例えば、営業部や広報部などの社内部門との意見交換だけではなく、株主総会での説明や取引相手・顧客への対応、外部専門家との相談機会などで交渉力が発揮されます。

危機管理・監視スキル

法務部門のキャリアアップに、欠かすことができない能力が危機管理・監視スキルです。

法務部門の業務は、「現在発生している法律問題への対応方法を検討すること」だけではありません。「リーガルリスクを事前に発見して回避・軽減すること」によって、企業活動の健全性は保たれます。

企業内の法務部門の危機管理能力が高いほど、経営面の安全性を高めることができるでしょう。

法務スキルマップ活用のポイント

法務スキルマップを作成した後の活用ポイントや注意点は、以下の通りです。

法務部員全体に周知する

作成した法務スキルマップは、法務部員全体に周知徹底してください。

これによって、法務部員全員が評価指針や習得するべきスキル・ノウハウを理解できるので、法務部の業務遂行の効率化を実現できます。

目標や評価、採用基準に反映する

法務スキルマップを作成した以上、課題設定や評価・採用基準はこれに依拠する形で実施しましょう。

上司の独断・恣意を排除することで、業務内容の客観性・合理性が担保できます。

マニュアルを用意しておく

法務スキルマップをマニュアル化することを強くおすすめします。

これによって、法務部門を構成する人員に大幅な変動があったり、マニュアルを作成してから長期間が経過したりしても、法務部門の業務の軸がブレずに済みます

試験導入をおこなう

法務スキルマップ作成段階でどれだけ議論を重ねたとしても、実際に運用する際には、実務の内容と齟齬が生じる可能性を否定できません。

法務スキルマップの妥当性や修正点を探すために、必ず本格的な導入の前には試験導入期間を設けましょう。

現場に即してブラッシュアップする

法務スキルマップを現場に導入して、初めて発見できることもあるでしょう。

法務部門の実務との適合性を都度勘案しながら、実態に即した内容にブラッシュアップする柔軟性も意識してください。

まとめ

多様化する経済社会に対応しながら業績向上を目指すには、法務部門の強化は避けられない課題です。

法務スキルマップの作成・導入によって、法務部門の業務の効率化を通じた企業経営全体の健全化を実現しましょう。

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BackOfficeDB編集部
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BackOfficeDB編集部
こんにちは。BackOfficeDB編集部です。 私たちは、管理部門に関する情報発信を専門にしています。 業務効率化や、各職種のキャリアプラン、スキルアップなど、管理部門の様々なお悩みにお答えします。