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労働災害(労災)とは?認定基準・事例や補償内容のほか、労災保険の申請手続きについて解説

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労働災害(労災)とは?認定基準・事例や補償内容のほか、労災保険の申請手続きについて解説

業務中や通勤中などに発生した事故や病気などの災害を「労働災害(労災)」といいます。

「労災」という言葉やその意味については知っているものの、被害に遭ったり労災保険を申請した経験のある方は少ないのではないでしょうか。

また、会社に雇用されている従業員やアルバイトではなく事業主(経営者)の場合、労災について正しい知識を持っておかなければ、場合によっては刑事責任を問われてしまう可能性があることを把握しておく必要があります。

本記事では、労災の基本的な情報をはじめとして、実際の事例や注意点などを解説しています。

労災について悩まれている方や、労災保険の申請手続きについて詳しく知りたい方の一助となれば幸いです。

目次

労働災害(労災)とは

「労災」とは労働災害の略称で、具体的には労働者が仕事中や通勤中などに負傷・病気・死亡といった災害・事故に遭うことです。

事故などによる身体的なケガなどはもちろん、それ以外にも長時間労働を原因とする過労死や精神疾患なども労災に含まれます。
 
なお、事業主には労働者の労災申請を支援するとともに証明する義務があり、報告義務を怠った場合は処罰される可能性があることを把握しておきましょう。

3種類の労災を解説

労災は、災害の要因や被災場所・時間によって分類されます。以下では、3種類の労災について解説します。

業務災害

「業務災害」とは、業務中に労働者が負傷・病気・死亡するなどの事故を指します。

製造工場などで機械に巻き込まれたり、作業中に高所から転落したりする事故は、業務災害のわかりやすい例でしょう。

なお業務災害の認定を受けるためには、業務と事故との間に相当因果関係が必要です。因果関係に関しては、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要素から判断されます。

詳しくは、後述の「労災の認定基準や認定・否認事例」で解説します。

通勤災害

「通勤災害」とは、通勤中の労働者が傷害を負ったり死亡したりする事故を指します。

通勤災害の例としては、通勤中の交通事故が挙げられます。

通勤経路や通勤方法が合理的であれば労災保険の補償対象となりますが、仕事とは関係ない目的で通勤経路から外れた場所において事故に遭った場合は、たとえ通勤中であっても補償の対象外です。

第三者行為災害

「第三者行為災害」とは、第三者の行為によって生じた事故を指します。この第三者とは「政府」「事業主」「労災保険の受給権者」以外のことです。

例えば、同僚が操縦する重機の操作ミスによってけがを負ったり、第三者によって引き起こされた通勤中の交通事故は第三者行為災害の一例とされています。

このような第三者行為災害による損失を負担するのは労災保険を給付する政府(国)ではなく、損害賠償責任を負った第三者です。被災労働者または遺族に対して、第三者が損害賠償の義務を有します。

※参考:労災保険給付の概要|厚生労働省
※参考:第三者行為災害について|東京労働局

労災に遭ったら労災保険を請求しよう

「労災保険」とは、労働者が業務中や通勤中の事故などで傷害を負った場合に、労働者に対して必要な保険給付を提供する日本の制度です。

労災保険は、正社員だけでなくアルバイトやパートタイマーを含む、すべての雇用形態の労働者に適用されます。

労災保険の給付内容には、労働者の社会復帰支援・遺族援護・労働安全衛生の推進などがあります。

通常、保険料は事業主が負担し、被災した労働者に支払われる保険金は政府(国)が負担します。

第三者行為災害の場合は、保険料は事業主が負担しますが、被災した労働者に支払われる保険金は損害賠償責任がある加害者が最終的に負担します。労災保険が一時的に損害賠償を建て替え、加害者に求償します。

労災保険の申請方法は、後述の「労災保険の申請手続きの流れ」「第三者行為災害における労災保険の申請手続き」で詳しく解説しています。

※参考:労働者災害補償保険法|e-GOV法令検索
※参考:労災保険とは|東京労働局

労災の認定基準や認定・否認事例

労災保険には認定基準が設定されており、労働者が業務に従事している間に発生した負傷・疾病・障害・死亡が対象です。

労災保険の対象としてイメージされやすい業務中の事故はもちろん、過労死やセクハラ・パワハラによる精神障害なども含まれます。

認定基準のもっとも重要なポイントとしては、業務上もしくは通勤途中の事故や病気であることです。

以下では、労災保険の認定基準を詳しく解説し、実際の認定事例をご紹介します。

労災の認定基準

労災保険の給付はどんな傷病であっても受けられるわけではなく、まず労災の認定が必要です。

認定基準には「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要件があり、これらの要件から労働者が受けた傷病が労災保険でカバーされるべきかどうかを判断します。

労災の認定基準
認定基準 内容
業務遂行性 労働者が負ったケガや病気が、業務中に起きたかどうかを示す要件です。労働契約に基づいて事業主の支配下で業務をしていたかどうかが、もっとも重要な条件となります。
業務起因性 仕事が原因でケガを負ったり病気になったりしたことを示す要件です。業務中の事故などは判断しやすいものの、病気や精神疾患などは発症原因の特定が困難な場合もあります。

※参考:労災保険給付の概要|厚生労働省

労災の認定事例

労災の認定事例をご紹介します。

よく似た状況であっても労災認定されるとは限らないため、あくまでも参考程度に留めてください。

医療従事者が感染症に感染した

新型コロナウイルスの感染が拡大している際に医師として治療にあたり、労働者自身も新型コロナウイルスに感染してしまいました。

業務外で感染したことが明らかではなかったことから、労災と認定されました。

新型コロナ労災認定事例、13事例に増加(調剤薬局事務員など)/2020年10月21日|全国労働安全衛生センター連絡会議

住宅の補修作業で中毒を起こした

一般家庭のフローリングを補修するために有機溶剤を使用したところ、急性有機溶剤中毒になってしまいました。会社からは、作業中に窓を開けることを禁止されていました。

労災申請後、会社を退職して療養していた最中に、労災認定の知らせが届きました。

床のフローリング補修で中毒 東京●急性有機溶剤中毒の労災認定|全国労働安全衛生センター連絡会議

パソコンやFAX業務で腱鞘炎になってしまった

社員一人で大量のデータ入力作業に従事しており、深夜までサービス残業を続けるうちに腱鞘炎を発症。作業が困難であることを上司に訴えたところ、退職勧告されてしまいました。

会社に頼れず個人で労災申請を行うことを決意したものの、約半年間審査が進みませんでした。東京労働安全衛生センターで専門家に相談することでやっと審査が進み、労災認定に至りました。

パソコン・FAX作業で腱鞘炎で労災認定-倉庫の受発注システム担当者 東京●A・Mさんからの寄稿|全国労働安全衛生センター連絡会議

金型製造中に有機溶剤中毒になってしまった

プラスチックを成型するための金型を製造する会社で、金型にトルエンを吹き付ける作業をおこなっていたところ有機溶剤中毒を発症しました。会社に保護具はなく、換気扇も利用されていませんでした。

労災申請のため病院で尿検査を行ったが病院が尿を紛失するアクシデントがあり、労災認定まで半年ほどかかりました。

金型製造で有機溶剤中毒、労災認定:病院のミスで認定に遅れ/東京|全国労働安全衛生センター連絡会議

労災の否認事例

労災の否認事例をご紹介します。

以下の事例とよく似た条件でも認定される可能性があるため、まずは会社の担当者や厚生労働省の「労災保険相談ダイヤル」に相談してみましょう。

長時間労働と解雇によって精神障害を発症した

バスの運転手をしていた労働者が、長時間労働と解雇によって精神障害を発症したと労災申請をおこないましたが、業務に起因する疾病とは認められませんでした。

再審査請求もおこないましたが、証拠が不十分だったため棄却されました。

平成25年労第154号 判決事案|厚生労働省

業務によってうつ病を発症し自殺してしまった

営業職として働いていた労働者がうつ病を発症して自殺したため、遺族が労災申請をおこないました。

調査の結果、本人が主張する労働時間と実際に確認された労働時間に差があり、不当な労働環境であったとは認められませんでした。

平成25年労第159号 判決事案|厚生労働省

会議中に脳内出血で倒れた

取締役支店長としてクレーム対応などをおこなっていた労働者が、定例会議中に脳内出血を発症して倒れました。

本人は業務上の事由によるものとして労災申請をしましたが、調査の結果、発症を引き起こすような「異常な出来事」や労働環境は見当たらず認められませんでした。

平成25年労第181号 判決事案|厚生労働省

業務中に急性心不全により死亡した

学校の事務局長をしていた労働者が事務所内で急性心不全により死亡し、遺族が労災申請をおこないました。

普段の勤務状況や健康診断の結果などを調査したところ、もともと発症のリスクを持っていたとして、業務上の事由による発症とは認められませんでした。

平成25年労第242号 判決事案|厚生労働省

第三者行為災害の労災認定・損害賠償事例

第三者行為災害の被災者は、加害者に対する損害賠償請求権と保険の給付請求権を同時に得ることができますが、同一の事故に対して両者から重複して受け取ることはできません。補償が重複すると、実際の損害額より多くの支払いを受けることとなり不合理なためです。

以下は、第三者行為災害によってけがを負った労働者が、労災保険を受給し、一部損害賠償の支払いを受けた事例です。補償対象が重複しているもの、損害が認められないものに対しては棄却されている判例です。

よく似た状況でも認定結果が異なる可能性があるため、あくまでも参考程度に留めてください。

児童が蹴ったボールで非常勤講師が負傷した

児童が蹴ったサッカーボールが頭部にあたったことで、非常勤講師として勤務していた労働者が頚椎捻挫等の傷害を負いました。

労働者は労災申請をおこない、休業補償給付として保険給付金額(1167万4926円)と特別給付(389万0634円)、あわせて1556万5560円を受領しました。

さらに、小学校の設置・管理者である地方公共団体および児童の親権者を相手に、損害賠償請求をおこないました。

事故によって負ったけがの治療費・入通院費・休業損害・後遺障害慰謝料・逸失利益・裁判にかかった弁護士費用の支払いを求めましたが、治療費・入通院費の一部と弁護士費用、および遅延損害金分の197万3022円の請求のみ認められました。

棄却されたのは、休業損害と後遺症や脳脊髄液減少症に関する要求でした。

休業損害に関しては、労災保険の給付金1167万4926円によってすでに補償されているとされ、損益相殺の対象となるため請求を棄却されました。

後遺症や脳脊髄液減少症については医学的に認められず、それらに対する損害賠償請求についても棄却されました。

平成19年(ワ)第813号 損害賠償請求事件 判例|裁判所

労災の補償内容

労災として認定された場合、労働者やその家族は保険給付の提供が受けられます。

こちらでは、労災が認められた場合に提供される主な補償内容をご紹介します。

療養補償給付

労働災害によって負傷した労働者が医療機関で治療を受ける場合、労災保険によって治療費が支払われます。

治療を受ける医療機関が労災保険指定医療機関だった場合は直接給付がおこなわれ、労働者は治療費を支払う必要がありません。

障害補償給付

労働災害によって障害を負った労働者に対して、その障害の程度に応じた一時金や年金形式での給付がおこなわれます。

障害の程度は軽度から重度まで設定されており、補償の額も障害の程度に応じて変わります。

休業補償給付

労働災害によって労働者が仕事を休む必要が生じた場合は、休業4日目から休業補償給付が支給されます。

休業補償によって労働者の収入の一部を補填できるため、労働者は安心して回復に専念できます。

遺族補償給付

労働災害が原因で労働者が亡くなった場合、労働者の配偶者や子どもといった家族が経済的な困難に直面しないよう、遺族に対して一時金や年金などの補償がおこなわれます。

葬祭料

労働災害によって労働者が亡くなった場合に、葬儀に関連する費用として葬祭料が支給されます。

葬祭料の支給によって、遺族が葬儀をおこなう際の経済的負担を軽減できます。

傷病補償年金

労働災害による傷病が長期化することで一定の障害等級に該当する場合、長期にわたる治療費や障害による収入減少を補うために傷病補償年金が支給されます。

介護補償給付

労働災害により介護が必要となった労働者が適切なケアを受けるとともに、その家族が介護の負担を軽減できるように介護にかかる費用の一部が補償されます。

その他の補償

上記のような補償が主要な内容となりますが、それ以外にも労働者やその家族の経済的な負担を軽減するために労働者のニーズに応じた柔軟な対応が可能です。

※参考:労災補償|厚生労働省
※参考:労災保険給付の概要|厚生労働省

労災保険の申請手続きの流れ

業務中や通勤中の災害によって負傷した場合など労災に該当すると判断できる場合は、労災保険の受給を申請することができます。

労災保険の申請手続きの基本的な流れをご説明します。

補償内容に応じた請求書を作成する

労災保険の申請には、補償内容に応じた請求書を作成する必要があります。

まず請求書を厚生労働省のWebサイトからダウンロードし、事故の詳細・発生した損害の種類・必要な治療や補償の範囲などを具体的に記載します。

請求書は労働者が直接提出するだけでなく、会社を通じて提出することも可能です。

補償内容の判断や記載内容に不安がある場合は、会社の担当者や専門家に相談して申請を進めることをおすすめします。

労働基準監督署長に書類を提出する

作成した請求書は、労働基準監督署長に郵送もしくは直接訪問によって提出します。

請求書を提出する際には、事故の状況や被害者の状態を証明するための診断書などの書類も一緒に提出する必要があります。

提出書類は労災の種類や状況によって異なるため、必要書類は事前に確認しておきましょう。

調査の結果、給付可否が決定

提出された書類は労働基準監督署によって詳細に調査され、労災保険の給付が適用されるかどうかが決定されます。

この過程では、事故の原因や被害者の状態、業務との関連性などが検討され、労災と認定されれば保険給付の手続きがおこなわれます。

不服申し立て(審査請求)

労災として認定されず労災保険の給付が不支給と判断された場合、不服があれば異議申し立てとして再評価を求める審査請求をおこなうことができます。

不服申し立てをおこなう際には、新たな証拠や情報を提供することで決定の見直しを求めます。

労災保険がおりるまでにかかる時間

労災保険の給付を受けられるまでの時間は、申請内容や調査の複雑さによって異なります。

緊急性が高いケースでは期間が短縮される場合もありますが、一般的には申請から給付までに数週間から数ヶ月かかります。

「労災の認定事例」にあるように証拠不十分として認定が遅れるケースもあるため、迅速な給付を受けるには用意する申請書類の正確性と完全性が重要です。

※参考:労災保険給付の概要|厚生労働省

労災保険の申請タイミング

労災保険は、傷病が発生した時点で申請が必須ではありません。

実は、発症から時間が経過している場合や退職後でも申請が可能です。ただし、申請には期限が設定されているため、何年も申請せずにいると受理されない可能性もあります。

こちらでは、労災保険の申請タイミングについて解説します。

時間が経っても退職後でも労災保険の申請はできる

労災の対象になるような事故や病気が発生しても、その影響がすぐには明らかにならない場合や、退職後に症状が悪化する場合もあります。

そのため労災保険の申請は事故や病気が発生してから時間が経過していている場合や、退職後であっても可能です。

申請するために重要なのは、労働災害とその結果生じた健康被害との間に因果関係が認められることです。因果関係が明確であれば、申請が認められる可能性は高くなります。

労災保険の申請には期限がある

労災保険の申請は発症から時間が経っていても可能ですが、期限も設けられています。

設定された期限を過ぎた場合、たとえ正当な理由があっても申請が受理されない可能性があります。

労災事故が発生した場合は、できるだけ速やかに申請手続きをおこないましょう。

労災保険の給付金別時効は、以下のとおりです。

労使保険の申請期限
給付金 時効
療養(補償)給付 療養の費用を支出した日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年
休業(補償)給付 賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年
遺族(補償)年金 被災労働者が亡くなった日の翌日から5年
遺族(補償)一時金 被災労働者が亡くなった日の翌日から5年
葬祭料(葬祭給付) 被災労働者が亡くなった日の翌日から2年
未支給の保険給付・特別支給金 それぞれの保険給付と同じ
傷病(補償)年金 監督署長の職権により移行されるため請求時効はない。
障害(補償)給付 傷病が治癒した日の翌日から5年
介護(補償)給付 介護を受けた月の翌月の1日から2年
二次健康診断等給付金 一次健康診断の受診日から3ヶ月以内

※引用元:7-5 労災保険の各種給付の請求はいつまでできますか。|厚生労働省

第三者行為災害における労災保険の申請手続き

第三者行為災害に関する労災保険を申請する場合、業務災害や通勤災害とは提出する書類が異なります。

労災保険の補償内容に応じた請求書のほかに、「第三者行為被害届」を労働基準監督署に提出します。正当な理由なく第三者行為被害届を提出しない場合、労災保険を受給できません。

また第三者行為被害届には、損害賠償責任の証明などに必要な書類の添付が求められます。必要書類については、以下で詳細に解説します。

被災者の提出書類

第三者行為災害の被災者は、労働基準監督署に以下の書類を提出します。

  • 労災保険の補償内容に応じた請求書
  • 第三者行為被害届
  • 念書(兼同意書)

示談が行われた場合には、次の書類の提出が必要です。

  • 示談書の謄本(写しでも可)

念書(兼同意書)には、労災保険を受給するうえでの注意事項が記載されています。また「損害賠償請求権を政府が取得し、第三者に求償をおこなうこと」「個人情報の取り扱い」に関する、同意の確認も念書でおこないます。

よく読み、十分に内容を理解したうえで、被災者自身が署名しましょう。

交通事故による災害の場合は、次の書類も提出します。

  • 交通事故証明書(もらえない場合は交通事故発生届)
  • 自賠責保険等の損害賠償金等支払い証明書または保険金支払通知書(仮渡金または賠償金を受けている場合、写しでも可)

交通事故証明書は、自動車安全センターで交付されます。

交通事故以外の要因で公的機関の証明書が受け取れる場合はその証明書も届け出ると、被災を裏付ける手助けになるかもしれません。

被災者が亡くなられて、ご遺族の方が申請を行う場合は、次の書類も提出します。

  • 死体検案書または死亡診断書
  • 戸籍謄本

加害者の提出書類

第三者行為災害の場合、災害を発生させた本人である加害者(第三者)が「第三者行為災害報告書」を労働基準監督署に提出します。

第三者行為災害報告書は第三者に関する情報のほか、被害発生状況や損害賠償金の支払い状況等を確認するために必要な書類です。

※参考:第三者行為災害について|東京労働局

労災保険の申請前に確認すべき注意点

労災保険の申請時には、さまざまな問題点が発生しがちです。

こちらでは、労災保険の申請時に問題になりやすい内容をご紹介します。

会社が拒否しても申請できる

労災保険の申請において、従業員が労災事故を申請する際には、会社は申請を支援するとともに証明することが法律で義務付けられています。

万が一、会社が協力を拒否した場合でも、労働者は独自に労災保険の申請をおこなうことが可能です。

労災申請は労働者にとって重要な権利であり、会社の対応に左右されずに補償を受けることができるため、事前に把握しておきましょう。

公的年金も給付される場合は併給調整がはいる

労災保険に加えて、障害年金のような公的年金の併給が発生する場合は、両方からの給付が重複しないように併給調整がおこなわれます。

たとえば労災事故によって障害を負った労働者が労災保険の給付と障害年金を同時に受け取る場合、併給調整によって適切な給付額が決定されます。

第三者行為災害の場合は示談・保険の調整に注意

交通事故など第三者行為災害の場合、加害者と話し合いで解決する「示談」で済ませるケースがあります。

当事者間で解決できる点が示談のメリットですが、示談が成立すると「損害賠償請求を放棄する」こととなります。損害賠償請求権をもたなければ、労災保険が申請できません。

労災保険を申請する場合は、まずは所定の手続きどおりに労働基準監督署に必要書類を提出しましょう。同時に示談を進める場合は、示談書の謄本もあわせて提出します。

自営業は原則として労災保険の対象外

自営業者は、原則として労災保険の対象外とされています。

ただし特別加入制度を利用することで一定の条件下で自営業者も労災保険に加入することができ、自営業者も業務中の事故や病気に対する補償を受けることが可能になります。

自営業者は、特別加入制度の存在とその利用方法を確認しておくことが重要です。

※参考:労災保険の特別加入制度(一人親方その他の自営業者)について【労働保険徴収課】|神奈川労働局

労災発生時の企業の対応

労災が発生した場合には、企業が特定の責任と義務を負います。

こちらでは、実際に労災が発生した場合に企業がどのように対応すべきなのか、重要なポイントを解説します。

労災において企業が負う責任

企業は、労働安全衛生法に基づいて、労働災害を防止するための安全衛生管理責任を負います。

法違反が発生した場合は、労災事故の有無にかかわらず刑事責任を問われる可能性があります。
 
労災事故が発生した場合、事業主は労働基準法によって補償責任を負いますが、労災保険に加入している場合は保険給付によって一定の補償がおこなわれます。

ただし労災保険に加入していない場合や、労災による休業の初期段階では、事業主が直接補償をおこなわなければなりません。

労災の被災者および遺族への対応

労災事故が発生して従業員が負傷・死亡した場合、事業主は被災者やその遺族に対して適切な対応をおこなう必要があります。

対応の内容として挙げられるのは、休業補償給付・障害補償給付・遺族補償給付・葬祭料などの保険給付です。

労災保険の給付は、労働基準監督署に提出する請求書によっておこなわれます。

労災の報告義務

事業主は、労働災害が発生した場合には遅滞なく労働基準監督署に労働者死傷病報告を提出しなければなりません。

労働災害の原因分析や再発防止対策の策定のためにも、労災の報告は重要な役割を果たします。もし報告を怠ったり虚偽の報告をおこなったりした場合、事業主は刑事責任に問われることがあります。

労災の再発防止対策

労働災害が発生した場合、同種の労働災害を防ぐためにも事業主は災害の原因を分析し、再発防止対策を策定して実施を要求されます。

場合によっては、労働基準監督署から再発防止書の作成・提出を求められることもあります。

※参考:労働災害が発生したとき|厚生労働省

労災申請をしたが否認された場合

労災の認定は、申請した傷病が労災の適用範囲かどうかで決まります。否認されたものの納得できない場合は、審査請求することも可能です。

こちらでは、労災申請が認められなかった場合の対応についてご紹介します。

労災が認められない場合の医療費は自己負担

労災が認められなかった場合の医療費は、全額自己負担です。

労災が否認された場合は医療機関から全額の請求書が届きますが、健康保険組合に問い合わせることで健康保険の適用が可能かどうかを確認できます。

労災が否認されても審査請求や損害賠償請求は可能

労災が認められなかった場合、審査請求や加害者・勤務先への損害賠償請求が可能です。

審査請求は労働基準監督署の判断に不服がある場合に、労働局に対しておこなう手続きです。

加害者や勤務先に対する損害賠償請求は、労災の認定・審査請求とは別の制度であり、並行して進められます。

弁護士解説|労災のQ&A

労災や労災保険について、よくある質問に弁護士が答えます。

今回ご協力いただいたのは、ウカイ&パートナーズ法律事務所鵜飼弁護士です。

労災認定に有効になりえる証拠はどんなものですか?

多くの場合ポイントになるのは業務起因性ですが、業務起因性を裏付ける証拠はケースによって多岐にわたります。

例えば、過労死の場合、就業規則、労使協定、賃金台帳、出勤簿、タイムカード、セキュリティカードの記録、パソコンのログ、業務日報、送受信メールなどで、過重労働の存在を証明していきます。

会社のマニュアルや規程に従わなかったために負傷した場合、労災に含まれますか?

労働者に過失があっても、労災保険の支給は満額受けることができるのが原則です。ただし、損害賠償は過失相殺によって減額されてしまいます。

出張の移動中(業務時間外)に交通事故にあった場合、労災に含まれますか?

出張は、使用者の命令で出張先に行き、出張先で業務を行い、出張先から戻るまでの一連の過程が含まれます。

出張中は使用者の支配下にあり、出張の移動も含めて業務行為とされています。そのため、出張の移動中に遭った事故は業務災害となります。

病気やけがが完治したあとでも、労災申請は可能ですか?

完治した後からでも、時効になる前であれば労災申請は可能です。

証拠が不十分だったり審査が長引いたりした場合、どこで誰に相談すべきですか?

証拠が不十分などの理由で審査がなかなか進まないというような場合には、証拠をさらに追加するなどの対策を、弁護士など専門家に相談することをおすすめします。

まとめ

本記事では、労災に関する基本情報から認定の基準、補償内容、実際の事例などを紹介してきました。

労災保険は労働者やその家族の負担を減らすために重要な制度ですが、認知されていないこと点が多いのが現状です。

労災の申請は退職後であっても可能であることや申請には期限が設けられていること、事業主には労災に関する義務があることなど、労働者・事業主ともに押さえておきたい内容です。

労働者は自分自身の権利として、事業主は義務として、労災についての知識を身に着けておくと良いでしょう。

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BackOfficeDB編集部
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鵜飼 大
この記事の監修者
鵜飼 大

大学卒業後、大手アパレルでバイイングやマーケティングなど販売促進の業務に携わり、数年間の社会人経験を経たあと、弁護士となる。現在は、ウカイ&パートナーズ法律事務所に在籍。取扱い業務は、離婚や相続といった家事事件を中心に調停や裁判などの実務にあたるほか、顧問弁護士として企業のコンサルティングを担当。会社のコンプライアンス整備から契約書等のリーガルチェック、ベンチャー起業の立ち上げの支援など多岐に渡って企業法務に携わっている。 平成29年10月には、大企業を相手に「名ばかり管理職の残業代請求事件」の判決を得て、記者会見を開き、NHKや大手新聞各社で報道されるなど多彩な弁護士活動をしている。東京弁護士会所属。詳しいプロフィールはこちら:https://www.roudou-bengoshi110ban.com/bengoshi.html#ukai