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病気やけがにより仕事ができないときに、生活を守るための制度が傷病手当金です。
また、メンタルヘルスが不調の場合も、条件があるものの給付対象になります。
実際、全国健康保険協会が調査した結果によると、20歳〜39歳の傷病手当の申請理由の半数はメンタルヘルス不調となっています。
従業員から傷病手当金の給付金を希望された場合、企業は適切に対応しなければなりません。
この記事では、傷病手当金の手続きや新様式の書類記入方法について解説します。
傷病手当金を受給するには、健康保険の被保険者であり、なおかつ以下の条件を満たさなければなりません。
自費で診療を受けた場合、仕事をするのが不可能という証明があれば傷病手当の支給対象です。
なお、業務中や通勤災害の場合は、労災保険の給付対象となるので支給されません。
医師の診断書に基づき、仕事をするのが不可能と判断された場合に支給されます。
傷病手当金の申請には、医師の診断書が必要です。
病気やけがにより仕事を休んだ日を待機1日目とし、そこから連続する3日間の休みを経て、4日目以降に休んだ分が支給対象です。
連続する3日間を待機期間と呼び、2日休んで出勤した場合は支給されません。
待機期間の考え方は、以下のとおりです。
引用:傷病手当金 こんな時に健保(支給される期間) | 全国健康保険協会
連続する3日間は有給消化をして、4日目以降は傷病手当金の給付を受けることもできます。
休業中の生活保障を目的とした給付金のため、給与の支払いがある場合は給付対象外です。
ただし、給与の支払いがあっても、傷病手当金の日額より少ない場合は差額分を受給できます。
傷病手当金の支給期間は、支給を開始した日から通算して1年6ヵ月です。
以前は、支給開始日から最長で1年6ヵ月でした。
2022年1月1日からは、支給期間の途中で就労などにより支給されない期間があっても、通算して1年6ヵ月支給されるようになりました。
待機期間が終わった、4日目から支給開始となります。
傷病手当金の支給額は、以下の計算方法で算出されます。
1日の支給額=直近1年間の標準報酬月額を平均した額÷30日×3分の2
標準報酬月額とは、毎月の給与額を標準報酬月額表に当てはめて、1〜50等級に区分した額です。
支給開始日から1年前までの標準報酬月額を合計し、月平均した額から1日の支給額を算出します。
参考:病気やケガで会社を休んだとき | こんな時に健保 | 全国健康保険協会
傷病手当金の支給額の計算方法に当てはめた、各等級の傷病手当金は以下のとおりです。
具体例を見てみましょう。
【例】
過去1年間の月平均給与:21万円 支給対象期間:30日
月平均21万円の場合は、下記の表に当てはめると標準報酬月額が20万円となります。
休んだ期間が30日なので、4,444×30日=133,320円が支給額です。
等級 | 標準報酬月額 | 報酬月額 | 給付日額 |
---|---|---|---|
4 | 88,000 | 83,000~93,000 | 1,956 |
5 | 98,000 | 93,000~101,000 | 2,178 |
6 | 104,000 | 101,000~107,000 | 2,311 |
7 | 110,000 | 107,000~114,000 | 2,444 |
8 | 118,000 | 114,000~122,000 | 2,622 |
9 | 126,000 | 122,000~130,000 | 2,800 |
10 | 134,000 | 130,000~138,000 | 2,978 |
11 | 142,000 | 138,000~146,000 | 3,156 |
12 | 150,000 | 146,000~155,000 | 3,333 |
13 | 160,000 | 155,000~165,000 | 3,556 |
14 | 170,000 | 165,000~175,000 | 3,778 |
15 | 180,000 | 175,000~185,000 | 4,000 |
16 | 190,000 | 185,000~195,000 | 4,222 |
17 | 200,000 | 195,000~210,000 | 4,444 |
18 | 220,000 | 210,000~230,000 | 4,889 |
19 | 240,000 | 230,000~250,000 | 5,333 |
20 | 260,000 | 250,000~270,000 | 5,778 |
21 | 280,000 | 270,000~290,000 | 6,222 |
22 | 300,000 | 290,000~310,000 | 6,667 |
23 | 320,000 | 310,000~330,000 | 7,111 |
24 | 340,000 | 330,000~350,000 | 7,556 |
25 | 360,000 | 350,000~370,000 | 8,000 |
26 | 380,000 | 370,000~395,000 | 8,444 |
27 | 410,000 | 395,000~425,000 | 9,111 |
28 | 440,000 | 425,000~455,000 | 9,778 |
29 | 470,000 | 455,000~485,000 | 10,444 |
30 | 500,000 | 485,000~515,000 | 11,111 |
参考:令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表|全国健康保険協会
被保険期間が12ヵ月に満たない場合は、以下のいずれか低い額を使用して算出します。
傷病手当金は、出産手当金や障害厚生年金、老齢年金、労災保険などと同時には支給されません。
ただし、傷病手当金の給付額がほかの給付金よりも低い場合は、差額を支給されます。
まずは、業務外の疾病・けがで長期間仕事ができない状況を医師に診断してもらいます。
診断の証明となるため、申請書の療養担当者記入用を医師に記入してもらわなければなりません。
療養担当者記入用は、具体的な傷病名や仕事を休まなければならない客観的な判断理由、療養が必要な期間などを記入してもらいます。
病院側の書類作成には、2週間程度かかる場合もあるので早めに依頼しましょう。
従業員から傷病手当金受給の申し出を受けたら、申請書の被保険者記入用を記入してもらいます。
被保険者記入用の記入項目は、被保険者情報や振込先口座情報、申請理由などです。
2023年1月より受取代理人欄が削除され、原則申請する本人の口座への振込となりました。
会社側は、傷病手当金支給申請書の事業主記入用を記入します。
記入項目は、従業員の勤務状況や事業者情報などです。
申請書以外にも、添付書類が必要になるケースがあるので事前に確認し、不備がないように準備しましょう。
下記のような条件の場合は、別途添付書類が必要です。
条件 | 添付書類 |
---|---|
支給開始日以前の12ヵ月以内で事業所変更があった場合や定年再雇用などで被保険者証の番号に変更があった場合 | 変更前の事業所の名称、所在地および事業所に使用されていた期間がわかる書類 |
障害厚生年金の給付を受けている方でマイナンバーの情報照会を希望しない場合 |
年金給付額などがわかる書類
|
障害手当金の給付を受けている方でマイナンバーの情報照会を希望しない場合 | 障害手当金の支給を証明する書類のコピー |
(申請期間が資格喪失後の場合) 老齢退職年金の給付を受けている方でマイナンバーの情報照会を希望しない場合 |
年金給付額などがわかる書類(すべての書類が必要)
|
労災保険から休業補償給付受けている場合 |
休業補償給付支給決定通知書のコピー |
傷病の原因が第三者の行為によるものである場合 | 第三者行為による傷病届 |
被保険者が亡くなられ、相続人が請求する場合 | 被保険者との続柄がわかる「戸籍謄本」 |
被保険者のマイナンバーを記載した場合 | マイナンバーカードの表面、裏面の両方のコピーを貼付台紙に添付する |
参考:健康保険傷病手当金支給申請書 | 申請書 | 全国健康保険協会
傷病手当金支給申請書の4枚書類が揃ったら、保険者(全国健康保険協会や保険組合)へ申請します。
健康保険の保険者は、全国健康保険協会(協会けんぽ)と健康保険組合の2種類あります。
多くの中小企業の従業員が加入しているのが協会けんぽで、大企業の従業員が加入しているのが健康保険組合です。
加入している保険者によって、申請してから振込までの日数が異なるので、保険者に確認しましょう。
傷病手当金は、医師と会社の証明が必要になるため事後申請です。
申請期間にかかる給与の確定(給与締め日)後に申請します。
例えば、月末締めの場合は1日から末日まで、15日締めの場合は16日から翌月15日までが申請期間です。
提出期限は、申請可能となった日の翌日から2年です。2年経過すると権利が失効するので注意しましょう。
参考:健康保険傷病手当金支給申請書 | 申請書 | 全国健康保険協会
審査が通ると、保険者から支給決定通知書が届きます。
通知書には、手当金の支給額や振込予定日が記載されているので確認しましょう。
書類などに不備がなければ、申請から1ヵ月程度で指定口座に手当金が振り込まれます。
2023年1月より、傷病手当金支給申請書の様式が変更になりました。
記入方法が記述式から選択式に変更され、わかりやすく記入しやすい書式になっています。
様式には、以下の変更点が挙げられます。
傷病手当金支給申請書は4枚あり、1・2枚目は被保険者、3枚目は事業主(会社側)、4枚目は医師が記入します。
それぞれの記入方法は、以下のとおりです。
1枚目は従業員が記入するため、上記番号の該当箇所に下記内容が記載されているか確認します。
2枚目も従業員が記入するため、記入漏れがないか確認します。
3枚目は、企業側が記入します。
4枚目の記入は療養担当者(主治医)が記入するため、記入漏れの有無を確認します。
新型コロナウイルスで休養する場合や、退職後に支給する場合はどうなるのでしょうか。
ここからは、傷病手当金についてよくある質問を解説します。
新型コロナウイルスによって療養が必要な場合、申請期間の初日が2023年5月8日以降であれば医師の証明が必要となりました。
理由としては、新型コロナウイルスが第5類に移行したことが関係しています。
退職後の場合は、以下の条件をすべて満たす人が申請可能です。
退職日に出勤しておらず、退職後も引き続き就労不能で療養している場合に限ります。
退職後に、医師に仕事に就ける状態と判断された場合は給付終了です。
また、給付金の支給終了後も同一の傷病で仕事に就けない状態だとしても、初回支給開始から1年6ヵ月以上の期間の受給はできないので、期間をすぎての再受給はできません。
参考:傷病手当金について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会
退職後は給与の支払いが発生しないため、会社が対応する必要はありません。
ただし、申請期間に退職日が含まれる場合は、退職日までの証明が必要になるので、記入の対応が必要です。
退職後は、被保険者記入用と療育担当者記入用のみを被保険者が提出することで、申請ができます。
参考:退職後も傷病手当金の支給を受けるためには条件があります|全国健康保険協会 福岡支部
この記事では、傷病手当金の手続きについて解説しました。
従業員が傷病手当金を希望した場合は、企業が適切に対応しなければなりません。
2023年1月には申請書が新たな様式になり、変更点もいくつかありました。
書類や記入に不備があると支給まで遅くなり、従業員の生活に負担をかけてしまうため、企業の担当者は、制度や手続きを正しく理解して対応しましょう。