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企業が不祥事や法令違反のリスクを軽減するために、内部通報制度はますます重要な役割を担うようになっています。
従業員が不正行為やハラスメント、コンプライアンス違反を社内で報告し、それに対処する仕組みを整えることは、健全な経営を支える土台です。
しかし、特にベンチャー企業や中堅企業では、この制度をどのように構築し、運用すべきかに戸惑うケースも少なくありません。
本記事では、内部通報制度の基礎から実務的なポイントまでを、幅広い視点から解説します。
まず、基本的な視点として、内部通報制度に関する概要と企業経営における位置づけについて解説します。
内部通報制度とは、従業員が社内で見つけた不正行為や違法行為を、社内の窓口に通告することができる仕組みを指します。
この通報は、通常、社内の特定部署や担当者に届けられ、その後調査や対応が行われます。担当部署は、法務やコンプライアンスを所管する部署であることが一般的です。
この制度は、企業が法令順守(コンプライアンス)を徹底し、内部からのリスクを早期に検知して対処するための重要な役割を果たします。
例えば、不正な経理操作や従業員間でのハラスメント、役員の法令違反などが対象となり、通報が迅速に行われることで、問題の深刻化を防ぎます。
内部通報制度は、企業が健全な経営を維持し、社会的信頼を守るための仕組みとして重要な役割を果たします。
特に大企業では、コンプライアンス強化のための基本的な施策として制度を設けており、中小企業やベンチャー企業でもその導入が進んでいます。
企業における内部通報制度は、コーポレートガバナンスの一環として位置づけられています。
特に、外部からの監査や株主に対する説明責任を果たすために、内部通報制度の存在は欠かせません。
また、従業員が積極的に通報できる文化を醸成することで、企業の透明性と倫理性が高まり、外部からの評価も向上します。
経営者や法務担当者は、制度の整備だけでなく、通報者が安心して声を上げられる環境作りにも力を入れることが必要です。
内部通報制度について押さえておくべき根拠法令が、公益通報者保護法です。また、公益通報者保護法は、近年改正も短いスパンで発生している法令の1つです。
公益通報者保護法は、内部通報者が報復や不利益を被ることなく、安心して不正行為を報告できるようにするための法律です。
ここでいう内部通報は、同法において公益通報という形で整理され、その類型や報告先、報告体制の在り方などが定められています。
内部通報者が、企業内での不正行為を報告した結果として解雇されたり、降格されたりといった報復行為を防ぐため、企業は適切な対応が必要です。
この法律に基づいて企業は内部通報制度を整備し、通報者が匿名性を保ちながら報告できる仕組みを構築することが求められています。
また、公益通報の対象となるのは、法令違反やそれに準ずる行為であり、企業の規模や業種を問わず、通報者の保護が重視されています。
近年、企業の不正行為やコンプライアンス違反が報道される機会が増加しており、内部通報制度の強化が急務となっています。
特に、情報漏洩や内部告発、データ偽装などの事例が目立ち、企業の信頼性が問われる中で、迅速かつ適切な対応が求められています。
これに対応するために、多くの企業が内部通報制度を見直し、通報者保護の強化や外部窓口の設置に力を入れています。
そして、公益通報の実効性を確保するための根幹となる公益通報者の保護のあり方について、企業内の運用実態を踏まえてアップデートされています。
内部通報制度の必要性は、どのような点にあるでしょうか。
2022年6月に施行された改正公益通報者保護法では、企業が内部通報制度を整備し、通報者保護の強化を図ることが求められました。
特に、300人を超える従業員を有する企業に対しては、内部通報窓口の設置及び対応が法的に義務付けられています(300人以下の場合には努力義務とされる)。
この改正により、企業は通報窓口の設置だけでなく、通報後の迅速かつ適切な対応を求められるようになりました。
そのため、企業が従業員に対して通報を促す環境を整えることが、より一層重要になっています。
特に、通報者が報復を恐れることなく、自由に意見を表明できる体制を整備することが、法令遵守と企業ガバナンスの向上に寄与します。
近年のコンプライアンス違反事例を見てみると、大手企業からベンチャー企業や中堅企業など、企業の規模を問わず不正行為が問題となっています。
例えば、データ改ざんや、IT企業での機密データの抜き取り行為、ハラスメント行為、不正な会計計上などの行為が挙げられます。
これらの事例は、内部通報制度の整備が不十分な場合、企業が法的リスクやreputational damage(評判の損傷)を被る可能性が高いことを示しています。
従業員が安心して通報できる体制の構築は、企業が違法行為や不正行為から身を守るための第一歩です。
内部通報制度は、具体的にどのような制度なのでしょうか。法令の内容や構造から、内部通報制度の仕組み、対象事案、運用フローなどを解説していきます。
内部通報制度の基本的な仕組みは、従業員が不正行為や法令違反、ハラスメントなどの行為を報告し、その内容を調査・是正するプロセスから成り立っています。
通報者は匿名で通報できる場合もあり、企業は通報内容に対して迅速に調査を行い、適切な措置を講じます。
具体的には、通報窓口を設置し、報告内容を受理してから、法務部門や内部監査部門が調査に乗り出します。調査結果を元に、必要な是正措置や改善策などです。
内部通報制度の対象は、企業内の様々な不正行為や違法行為に及びます。
ガバナンスの実効性を確保する上では、個々の問題に対して社員が法令違反や犯罪行為の該当性を厳密に判断することは困難です。
特に、法令違反としての実質があるかを問わず広くカバーしておくことが実務上適切であると考えられます。
もっとも、公益通報者保護法において通報対象行為となるのは、犯罪行為や過料の行政処分対象となるものなど一定の重大性のある類型が定められています。
重大性のある事案であるほど、通報者への報復行為なども想定され、通報者保護の必要性が高まるためです。
【公益通報者保護法上通報対象行為となる例】
参考:組織の不正をストップ!従業員と企業を守る「内部通報制度」を活用しよう|政府広報オンライン
特に、コンプライアンスが社会的に重視される中で、上記のような行為を漏れなく検知できるよう、通報制度を活用してリスクを早期に特定することは、企業の長期的な安定性に寄与します。
通報があった場合の初動対応は、企業の信頼性を左右します。
通報内容をただちに確認し、社内外の専門家の助言を受けつつ、適切な措置を講じることが重要です。
具体的な対応フローとしては、次のステップを含むことが推奨されます。
調査の記録や対応経過なども、時系列で詳細に保管しておくことで、中長期的にみて違反行為の原因や再発防止策のための検証において有効といえるでしょう。
内部通報制度について、実務上の対応ポイントを簡単に3つ解説します。
企業内部だけでなく、外部の通報窓口を併用することは、通報者が匿名で通報できる選択肢を広げるために有効です。
内部の通報窓口の場合には、匿名性を確保するための受付方法として、電話やメール、専用チャットやフォームなどが考えられますが、通報内容によっては間接的にも通報者を推知することができてしまうことも想定されます。
また、社内で初動対応を行うにあたっては、窓口担当となる法務・コンプライアンスの担当部署は、関係者へのヒアリングをするために通報者が誰かを把握する必要があります。
その限りで、匿名性が一部緩和されざるを得ないこともあるといえるでしょう。
通報者の選択として、匿名性が十分に担保される形で行える手段や、社内の人間関係や利害関係に縛られずに報告をするためには社外というチャンネルがあることも重要な要素です。
外部機関の通報窓口は、通報者が企業内部の利害関係を避けて報告できるため、より客観的かつ中立な立場から問題に対応することができます。
内部通報制度の運用を円滑に進めるためには、従業員に対して定期的な研修や啓発活動を行うことが重要です。
具体的な事例を交えて研修を行うことで、従業員が制度を理解し、安心して利用できるようになります。
そして研修の際には、社員が通報窓口を明確に認識するために、具体的に社内のどの部署が窓口であり、通報の際に用いるツールやフローイメージを含めて説明することが重要です。
通報後の対応が不適切であれば、企業の信頼を損ない、従業員の士気にも悪影響を与える可能性があります。特に、通報後の迅速な対応と透明性が重要です。
問題が適切に処理されていることを通報者に伝えることで、信頼関係を保つことができます。
通報後に誰がどのような手順で対応を進め、どのように調査結果が伝えられるのかなどを法務・コンプライアンスの担当部署を中心にマニュアル化しておくことが必要です。
最後に、内部通報制度に関し、近時代行サービスやAIの活用が進んでいるため、3つほど例を紹介していきます。
近年では、企業が独自に通報窓口を設置するのではなく、第三者機関による代行サービスを利用するケースが増えています。
これにより、通報者の匿名性を保ちながら、外部の専門家が適切に通報内容を処理ができます。
このようなサービスは、企業が内部通報に対して迅速かつ公正に対応するための手段として有効です。
公益財団法人などが提供する外部通報窓口サービスも、企業にとって有効な選択肢です。
例えば、PLATは、公益通報者保護法に準じた通報窓口として広く利用されています。企業は、こうした外部機関を利用することで、内部リソースを最適化しつつ、通報の信頼性を高めることができます。
AIを活用した匿名通報サービスは、従来の通報システムよりも効率的で、迅速な対応が可能です。AIは通報内容を自動的に分類し、緊急性の高い案件を優先的に処理することができます。
また、通報者とのコミュニケーションも自動化されているため、情報の漏洩リスクを最小限に抑えながら、対応の透明性を保つことができます。
内部通報制度は、企業のコンプライアンス体制を強化し、リスクを最小限に抑えるための重要な仕組みです。
特にベンチャー企業や中堅企業では、その導入と運用が不十分な場合も多いですが、適切な制度を整備することで、企業の健全な成長を支えることができます。
通報窓口の設置や外部サービスの活用、AI技術の導入など、内部通報制度の充実を図り、従業員が安心して通報できる環境を整えることが、今後の企業経営における成功の鍵となるでしょう。
愛知県弁護士会所属。旭合同法律事務所に所属しながら、事業会社の法務部に出向。企業法務に関心があり、取り扱い分野は戦略・政策渉外、コーポレートガバナンス、内部統制、M&A、ファイナンス、AI、Web3.0、SaaS、人材プラットフォーム、航空・宇宙、データ法務、広告法務、エンタメ、消費者被害、相続、破産・再生など。学生時代は法律問題を取り上げるメディア運営会社にてインターンを経験し、現在もWEBメディアにて執筆活動を続ける。詳しいプロフィールはこちら:https://asahigodo.jp/lawyer-introduction/kawamura-masaki/