関連サービス
キャリアアップ助成金とは、有期雇用労働者の正社員化や待遇改善の取り組みを実施する事業主を対象に助成金が支給される制度です。
費用負担を軽減しながら、従業員のキャリアアップを促進することができるため、企業にとって活用するメリットは大きいでしょう。
しかし、キャリアアップ助成金を受け取るには、要件を満たしている必要があり、しっかりと申請に準備をしておかないと審査に落ちたり、不正受給とみなされる事態になりかねません。
本記事では、キャリアアップ助成金の対象者や申請方法、令和6年度の主な改正点などを解説していきます。
キャリアアップ助成金とは、有期雇用労働者のキャリアアップの推進を目的として厚生労働省が定めた助成金制度です。
正社員化や処遇改善を実施した事業主が利用でき、キャリアアップに必要な制度の整備がしやすくなり、人材の定着化や成長を期待できるでしょう。
令和5年の場合にキャリアアップ助成金の対象となるのは、下記すべての要件を満たしている事業者です。
- 雇用保険適用事業所の事業主
- 雇用保険適用事業者ごとにキャリアアップ管理者を置いている事業主(複数の事業所および労働者代表との兼任は不可)
- 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に係るキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主
- 実施するコースの対象労働者の労働条件、勤務状況および賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにすることができる事業主
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主
引用:キャリアアップ助成金のご案内(令和5年版)|厚生労働省
要件がひとつでも欠けてしまっていると対象から外れてしまうため、不足している要件がある場合には、補う対応をしていきましょう。
キャリアアップ助成金の対象となるのは、雇用期間が通算6ヶ月以上の有期契約労働者といった正規雇用ではない労働者です。
ただし、対象となる労働者の細かい要件は、コースごとに異なります。
一方、正規雇用労働者をはじめ、正規雇用を条件に雇用している労働者や、過去3年以内に無期雇用および正規雇用していた労働者は助成金の対象となりません。
また、事業主や3親等以内の役員の親族も対象外です。
参考:キャリアアップ助成金のご案内(令和5年版)|厚生労働省
キャリアアップ助成金「正社員化コース」を拡充しました!|厚生労働省
キャリアアップ助成金の種類は、大きく分けて「正社員化支援」「処遇改善支援」の2つです。
正社員化支援とは、非正規雇用労働者を正規雇用に転換する際に利用することが可能です。正社員化支援の中でも、2つのコースに分けられます。
正社員化コースとは、アルバイトから正規雇用に切り替えて正社員化するケースなどで利用できるコースです。
正社員化コースの助成額(1人あたり)は、次のとおりです。
中小企業 | 大企業 | |
---|---|---|
有期→正規 | 80万円 | 60万円 |
無期→正規 | 40万円 | 30万円 |
引用:キャリアアップ助成金のご案内 (令和6年度予定版)|厚生労働省
【加算額(1人あたり)】
有期雇用労働者 | 無期雇用労働者 | ||
---|---|---|---|
派遣労働者を派遣先で正規雇用労働者で直接雇用する場合 | 28.5万円 | ||
対象者が母子家庭の母等又は父子家庭の父の場合に加算 | 9.5万円 | 4.75万円 | |
人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員化した場合 | 自発的職業能力開発訓練または定額制訓練以外の訓練修了後 | 9.5万円 | 4.75万円 |
自発的職業能力開発訓練または定額制訓練修了後 | 11万円 | 5.5万円 | |
正社員転換等制度に該当した場合 | 1事業所あたり20万円(大企業の場合は15万円) | ||
多様な正社員制度に該当した場合(注:勤務地限定・職務限定・短時間正社員いずれか1つ以上) | 1事業所あたり40万円(大企業の場合は30万円) |
引用:キャリアアップ助成金のご案内 (令和6年度予定版)|厚生労働省
障害者正社員化コースとは、障害者をアルバイトから正規雇用に切り替えて正社員化するケースなどで利用できるコースです。
障害者正社員化コースの助成額(1人あたり)は、次のとおりです。
【重度身体障害者、重度知的障害者及び精神障害者の場合】
中小企業 | 大企業 | |
---|---|---|
有期→正規 | 120万円 | 90万円 |
有期→無期 | 60万円 | 45万円 |
無期→正規 | 60万円 | 45万円 |
引用:キャリアアップ助成金のご案内 (令和6年度予定版)|厚生労働省
【重度身体障害者、重度知的障害者及び精神障害者以外の場合】
中小企業 | 大企業 | |
---|---|---|
有期→正規 | 90万円 | 67.5万円 |
有期→無期 | 45万円 | 33万円 |
無期→正規 | 45万円 | 33万円 |
引用:キャリアアップ助成金のご案内 (令和6年度予定版)|厚生労働省
処遇改善支援とは、非正規雇用労働者の待遇を改善する際に利用が可能で、大きく4つに分けられます。
賃金規定等改定コースとは、非正規労働者の賃金を3%以上増額改定し、その規定を適用させた際に利用できるコースです。
賃金規定等改定コースの助成額(1人あたり)は、次のとおりです。
中小企業 | 大企業 | |
---|---|---|
3%以上5%未満 | 5万円 | 3.3万円 |
5%以上 | 6.5万円 | 4.3万円 |
引用:キャリアアップ助成金のご案内 (令和6年度予定版)|厚生労働省
また、職務評価手法の活用によって増額改定した場合、1事業所あたり20万円(大企業の場合は15万円)が加算されます。
賃金規定等共通化コースとは、正規雇用・非正規雇用の労働者共通の賃金規定を新規作成し適用した際に利用できるコースです。
賃金規定等共通化コースの助成額は、次のとおりです。
中小企業 | 大企業 | |
---|---|---|
1事業所当たり | 60万円 | 45万円 |
引用:キャリアアップ助成金のご案内 (令和6年度予定版)|厚生労働省
賞与・退職金制度導入コースとは、非正規雇用労働者に対して新規に賞与・退職金制度を設けた際に利用できるコースです。
賞与・退職金制度導入コースの助成額は、次のとおりです。
中小企業 | 大企業 | |
---|---|---|
1事業所当たり | 40万円 | 30万円 |
引用:キャリアアップ助成金のご案内 (令和6年度予定版)|厚生労働省
賞与と退職金の制度を同時に導入した場合、16.8万円(大企業の場合は15万円)が加算されます。
社会保険適用時処遇改善コースとは、短時間労働者に対して以下のいずれかの取り組みを実施した場合に利用できるコースです。
社会保険適用時処遇改善コースの助成額(1人あたり)は、次のとおりです。
中小企業 | 大企業 | |
---|---|---|
手当等支給メニュー | 50万円 | 37.5万円 |
併用メニュー | 50万円 | 37.5万円 |
労働時間延長メニュー | 30万円 | 22.5万円 |
引用:キャリアアップ助成金のご案内 (令和6年度予定版)|厚生労働省
キャリアアップ助成金の申請方法は「正社員化支援関連コース」「処遇改善支援関連コース」で異なります。
ここでは、各種コースの申請手順について解説します。
正社員化支援関連コースの申請方法は、次のとおりです。
それぞれ詳しく解説します。
キャリアアップ管理者とは、キャリアアップの推進に向けて、必要な知識・経験を有していると認められた人のことです。
一方、キャリアアップ計画書は、正社員化をいつ頃実施するのか、目標・目標達成に向けた措置などをまとめた書類のことです。
このステップでは、キャリアアップ管理者を事業所ごとに配置したうえで、3~5年以内の計画期間を設定してキャリアアップ計画書を作成します。
作成後は、労働局へ提出して労働局長の認可を受けます。
就業規則に正社員化への規定がない場合、正社員化への規則を盛り込んで、就業規則を改定し、労働局へ提出しなければなりません。
この際、労働者代表の意見を聞いたうえで労働基準監督所に届け出なければならない他、改定は正社員化の前に実施する必要があります。
就業規則に沿って、正社員化を実施します。
正社員化支援関連コースを利用するためには、6ヶ月間の賃金を支払う必要があります。
そのため、正社員化後6ヶ月間雇用し、6ヶ月分の賃金を支給した翌日から2ヶ月以内に労働局へキャリアアップ助成金の支給申請を実施します。
提出した書類をもとに労働法令違反がないか確認され、不明瞭な部分がある場合は資料の追加提出を求められます。
審査に通過した場合は、支給決定の通知書が交付されて、キャリアアップ助成金が振り込まれます。
申請から支給までの期間は6ヶ月程度です。
処遇改善支援関連コースの申請方法は、次のとおりです。
若干の違いはあるものの、正社員化支援関連コースの申請方法と大きな違いはありません。
キャリアアップ助成金の受給メリットは、次の3つです。
それぞれ詳しく解説します。
キャリアアップ助成金を受給すれば、直接雇用や賃上げ、手当の支給など、自社に適した働き方改革の費用負担を軽減しながら推進が可能です。
働き方改革を推進して働きがいのある職場をつくれれば、魅力のある企業だとアピールできるため、自社のブランドイメージ向上を図れます。
人材確保につなげられるのも、キャリアアップ助成金を受給するメリットの1つです。
同一労働同一賃金をはじめとする働き方改革により、自社のブランドイメージを向上できれば、求職者の応募数増加が見込まれるため、人材確保にもつなげられます。
キャリアアップ助成金は、賃上げや正社員転換などの取り組みを実施し、要件さえ満たしていれば利用が可能です。
また、キャリアアップ助成金は返済の必要がありません。
そのため、企業は費用負担を軽減しながら、販路開拓や職場環境の改善を実施できます。
キャリアアップ助成金の注意点は、次の4つです。
それぞれ詳しく解説します。
キャリアアップ助成金は、キャリアアップ管理者の選出および、キャリアアップ計画書の作成や取り組みの実施、賃金支払いなどを実施しなければなりません。
そのため、支給申請までに6ヶ月以上、申請後も審査に数ヶ月程度を要すことから受給までに1年ほどかかるため、利用する際は注意が必要です。
キャリアアップ助成金は、申請時点でミスや誤りが発覚しても、さかのぼって修正できません。
過去に多くの不正受給があった経緯から、キャリアアップ助成金の審査は非常に厳しくなっています。
ミスがあると受給できないリスクが高まるため、不安がある場合は社会保険労務士といった専門家に相談するなどしてミスのないように努めなければなりません。
キャリアアップ助成金を不正受給した場合、罰則の対象です。
具体的な罰則としては、以下が挙げられます。
申請に対して代理人を利用している際、代理人が不正を黙認し関与している場合は申請代理も連帯責任を負わなければなりません。
また、真実とは異なる申告で助成金を受給した場合、故意に虚偽申告していなくても不正受給とみなされるため注意が必要です。
不正受給から5年間は、助成金の受給ができません。
そのため、過去に不正受給している場合、キャリアアップ助成金が支給されないリスクが高いため、注意が必要です。
令和6年度におけるキャリアアップ助成金の改正点は、次の4つです。
それぞれ詳しく解説します。
支給対象期間が6ヶ月から12ヶ月に拡充されたことで、助成金額が以下のように見直されました。
現行 | 拡充 | |
---|---|---|
中小企業 | 57万円 | 40万円 |
大企業 | 42万7,500万円 | 30万円 |
引用:キャリアアップ助成金「正社員化コース」を拡充しました!2023年11月29日以降における変更点のご案内|厚生労働省
キャリアアップ助成金の対象となる有期雇用労働者の雇用期間は、現行6ヶ月以上3年以内ですが、拡充後は上限が撤廃されて6ヶ月以上となります。
ただし、有期雇用期間が通算5年を超えている場合、助成額は「無期→正規」の転換と同額です。
正社員化制度を導入する事業者の支援を目的に、新たに「正社員転換制度の規定に関する加算措置」が設立されました。
1事業所あたりの加算額(1事業者あたり1回のみ)は、20万円(大企業の場合は15万円)です。
正社員転換制度を導入していても「無期→正規」への転換制度を新規に規定した場合も加算措置の対象となります。
多様な正社員制度規定に関する、加算措置の助成金額が拡充されました。
現行では9万5,000円(大企業では7万1,250円)ですが、拡充後は40万円(大企業の場合は30万円)となります。
また、「無期→多様な正社員」への転換制度を新規に規定した場合も加算措置の対象となります。
キャリアアップ助成金とは、有期雇用労働者のキャリアアップの推進を目的とした制度です。
「自社のブランドイメージを向上できる」「人材確保につなげられる」といったメリットがあります。
「受給までに時間がかかる」などのデメリットがある他、真実とは異なる申告で助成金を受給した場合、故意で虚偽申告していなくても不正受給とみなされるリスクがあります。
そのため、キャリアアップ助成金を活用する際は、押さえておくべき要件を押さえたうえでしっかりと準備することが大切です。