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2024年の金融商品取引法等改正の内容を解説!四半期報告書の廃止、ソーシャルレンディング等に関する規定、デジタル原則による公衆縦覧など

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2024年の金融商品取引法等改正の内容を解説!四半期報告書の廃止、ソーシャルレンディング等に関する規定、デジタル原則による公衆縦覧など

2024年4月1日、金融商品取引法の改正が施行されます。

開示制度の見直しデジタル社会推進に向けた利便性向上に関する改正点最善利益義務が改正点として挙げられます。

この記事では、4月1日施行の金融商品取引法改正の概要、実務上で対応が必要となるポイントを解説します。

【ポイントまとめ】

  • 四半期報告制度の廃止と、それに伴う上場規程上の四半期決算短信の運用、そして半期報告書提出の義務付け
  • ソーシャルレンディングや、セキュリティトークン等として発行される不動産特定共同事業契約上の権利に関する規定の追加
  • 金融商品取引法そのものではないものの、金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律において最善利益義務の明文化

BEET

金融商品取引法等改正の内容一覧

今回の金融商品取引法(以下「金商法」と表記)の改正点は、開示制度の見直し、デジタル社会に向けた顧客の利便性向上や保護、顧客本位の業務運営といった3つの柱があります。

項目 改正前 改正後
開示制度について

四半期報告制度
(金商法24条の4の7)

  • 四半期決算短信及び半期報告制度
  • 公衆縦覧期間の延長
デジタル社会に向けた顧客の利便性向上や保護について 新設
  • ソーシャルレンディング等に関する規定
  • トークン化された不動産特定共同事業契約に係る権利に関する規定
  • インターネット上における情報公表義務
  • インサイダー取引を行った者などに対する課徴金納付命令の審判手続をデジタル化する規定
顧客本位の業務運営 新設
  • 最善利益義務
  • 実質的説明義務

開示制度の見直しについて

開示制度の見直しに関しては、四半期報告制度の廃止から、四半期決算短信及び半期報告制度の抱き合わせの設計への移行という形になりました。

四半期報告制度の廃止

これまで、上場会社を筆頭に一定の会社は、内閣総理大臣に対し、四半期ごとにおける報告書の提出が義務付けられていました。これを四半期報告書といいます。

【金融商品取引法】

第二十四条の四の七(四半期報告書の提出)

第二十四条第一項の規定による有価証券報告書を提出しなければならない会社(第二十三条の三第四項の規定により当該有価証券報告書を提出した会社を含む。次項において同じ。)のうち、第二十四条第一項第一号に掲げる有価証券の発行者である会社その他の政令で定めるもの(以下この項及び次項において「上場会社等」という。)は、その事業年度が三月を超える場合は、内閣府令で定めるところにより、当該事業年度の期間を三月ごとに区分した各期間(政令で定める期間を除く。以下同じ。)ごとに、当該会社の属する企業集団の経理の状況その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める事項(以下この項において「四半期報告書記載事項」という。)を記載した報告書(以下「四半期報告書」という。)を、当該各期間経過後四十五日以内の政令で定める期間内(やむを得ない理由により当該期間内に提出できないと認められる場合には、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ内閣総理大臣の承認を受けた期間内)に、内閣総理大臣に提出しなければならない。

 

この場合において、上場会社等のうち内閣府令で定める事業を行う会社は、四半期報告書記載事項のほか、当該会社の経理の状況その他の公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定める事項を記載した四半期報告書を、当該各期間経過後六十日以内の政令で定める期間内(やむを得ない理由により当該期間内に提出できないと認められる場合には、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ内閣総理大臣の承認を受けた期間内)に、内閣総理大臣に提出しなければならない。

引用:金融商品取引法|四半期報告書の提出

四半期報告書には、内閣府令(企業内容等の開示に関する内閣府令第17条の15第1項)に従い、経営状況に関する財務情報株式や新株予約権に関する状況経理の状況(財務諸表)などを提出することが定められています。

参考:第四号の三様式 

加えて、上場会社は上場する各金融商品取引所の上場規程による自主規制もあります。それが、四半期決算短信です。

すなわち、上場会社はグループ会社における連結決算を含め、四半期累計期間の中で決算の内容が定まった場合に、直ちにその内容を開示する必要があります。

【有価証券上場規程】

決算短信等 第404条
上場会社は、事業年度若しくは四半期累計期間又は連結会計年度若しくは四半期連結累計期間に係る決算の内容が定まった場合は、直ちにその内容を開示しなければならない。

四半期決算短信における開示事項も、作成要領が定まっていますが(東京証券取引所|決算短信・四半期決算短信作成要領等 2022年4月)、その内容は四半期における経営数値財務情報株式に係る変動などが挙げられます。

これらは、金商法上の四半期報告制度において求められる開示内容とほとんど重複しています。そして、いずれも株主・投資家に対して開示されるものです。

そのため、ハードローとソフトローとで二重の開示制度が存在する状態でしたが、一本化が議論されていました。

半期報告制度の義務付け

上場会社、その他前期の四半期報告書を提出する必要がある会社以外の会社は、半期ごとに、四半期報告書とほぼ同様の半期報告書を提出することが義務付けられます。

参考:

企業内容等の開示に関する内閣府令|半期報告書の記載内容等

第五号様式

社会的には、国際競争力強化の観点から、企業の評価ポイントをグローバルスタンダードに照準を合わせていく必要が生じました。

そこで、サステナビリティやコーポレートガバナンスに対する重要性が高まり、令和4年1月31日における内閣府令の改正により、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の記載欄が設けられました

参考:記述情報の開示に関する原則(別添)―サステナビリティ情報の開示について|金融庁

その結果、ガバナンス、持続可能な経営の上での経営戦略面、人的資本、リスク管理などの項目など非財務情報の開示が必要とされることになりました。

このように、従前の四半期報告制度と上場規程上の四半期決算短信における開示業務の効率化とともに、記載項目の拡大に伴う形で、半期報告制度が義務化されました。

参考:第二十四条の五 半期報告書及び臨時報告書の提出|金融商品取引法

四半期決算短信と半期報告書の関係

四半期決算短信は、あくまで証券取引所における自主規制であることから、今回の四半期報告制度の廃止によって影響は受けません

また、開示制度の後退になるという指摘も踏まえ、上場会社においては四半期決算短信は、引き続き存続するとされます。

そのため、金商法上要求される半期報告書と、上場規程上の四半期決算短信とは抱き合わせの形になります。

デジタル社会推進に向けた顧客の利便性向上や保護について

次に、デジタル社会の進展に伴い、デジタルベースの社会における顧客の利便性向上や保護の観点に基づく改正ポイントです。

ソーシャルレンディングに関する規定整備及び出資者保護

ソーシャルレンディングは、いわゆるインターネット空間を利用したデットファイナンスで、広い意味でのクラウドファンディングの一類型とされます。

投資家・出資者が、融資型クラウドファンディングを行うファンド業者に出資を行い、ファンド事業者が企業側への貸付・融資を行います。

これに対し、企業側はファンド事業者に返済し、ファンド事業者から出資者に対して償還や配当を行います。

ソーシャルレンディング

出典:金融商品取引法等の一部を改正する法律案説明資料 5頁 2023年3月|金融庁

上記のような、融資型クラウドファンディングのスキームは

  1. ファンド事業者と借り手企業
  2. ファンド事業者と出資者

の2つの関係を区別して、整理する必要があります。

⓵に関して、ファンド事業者は、特定の借り手に対して融資判断をして貸付けを実行することから、貸金業法上登録を行う必要があります。

貸金業法 第二条(定義)

この法律において「貸金業」とは、金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は当該方法によつてする金銭の授受の媒介を含む。以下これらを総称して単に「貸付け」という。)で業として行うものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。

 

一から五 略
2項から23項 略

引用:貸金業法|定義

その上で、②が2つの議論に分解されます。

(a)元の出資者による資金拠出・出資行為が貸金業法上の「金銭の貸付け」に該当するか否か

(b)ファンド事業者が行う出資募集などが金商法上どのように整理されるのか
 

まず、(a)の論点について、ある事業者が行ったグレーゾーン解消制度による金融庁の回答において明らかにされました。

すなわち、出資者の資金拠出行為については、上記貸金業法第2条第1項柱書に定める「金銭の貸付け」に該当しないとの見解が示されました。

照会のあった具体的事実について、照会書に記載された借り手が法人である融資型クラウドファンディングの投資家の行為については、貸金業法第2条第1項に規定する金銭の貸付けには該当せず、当該投資家は、同項に規定する貸金業者に該当しないものと考える。

引用:金融庁における法令適用事前確認手続 平成31年3月18日

前提として、特定の借り手に対し必要な資金供給が行われ、貸付の実行判断を行っている場合に、金銭の貸付け行為に該当するものとされます。

上記見解判断において対象とされた事業スキームは、いわゆる融資型クラウドファンディングであり、法的には商法535条に定められる匿名組合契約に基づくものとして位置づけられます。

その上で、構成員である出資者の個々が借り手との接触が遮断され匿名化されており、貸付業務への執行に関与しない場合には、特定の借り手に対する資金提供の実態があるとはいえず、結果貸付けの実行判断に関与しないため、金銭の貸付け行為に該当しないものとされました。

(b)について、ソーシャルレンディングは、いわゆる集団投資スキーム(金商法2条2項5号参照)の一類型としてみなし、有価証券の1つにあたり、第二種金融商品取引業にあたるものと整理されます(金商法 法第28条2項1号、2条8項7号)。

そのため、ソーシャルレンディングのファンド事業者として事業を行うためには、第二種金融商品取引業の登録が必要です。

一方で、ソーシャルレンディングは、あくまで株式その他の有価証券に対する投資を行うようなものではないことから、投資運用業(金商法28条4項)には該当せず、金融商品取引業のうち投資運用業を前提とする運用報告などを行う必要はないものとされます(金商法42条の7第1項、35条の15柱書かっこ書き参照)。

そこで、集団投資スキームの中で投資判断における情報提供が必要であり、出資者保護の観点から、ソーシャルレンディングにおける出資者への情報提供として、出資対象事業の状況に関する透明化を担保する措置が義務付けられました。

具体的には、ソーシャルレンディングを「出資対象事業(当該権利を有する者が、出資又は拠出をした金銭その他の財産を充てて行う事業をいう。第四十条の三の三において同じ。)が、主として金銭の貸付けを行う事業であるものその他の政令で定めるもの」として法定し、出資者の権利を貸付事業等権利として行う事業としました。(改正金商法29条の2第1項第10号

そして、内閣府令の定めに従い、貸付事業等権利に関し出資対象事業の状況に係る情報を出資者に提供することが、契約その他の法律行為において確保されていない場合には、ソーシャルレンディングにおける取引の媒介や募集などを行うことができない旨が定められました(改正金商法40条の3の3)。

また、上記のような情報提供が確保されていないことを知りながら募集等を行う行為自体も禁止とされました(改正金商法40条の3の4)。

トークン化された不動産特定事業共同契約に関する規制

現行法上、いわゆる集団投資スキームの中で、みなし有価証券としての扱いを受けない類型として、不動産特定事業共同契約における権利が挙げられます(金商法第2条2項8号ハ)。

不動産特定事業共同契約は、構成員が出資を行い、出資金を一部の者に委ねて不動産取引を営み、その取引上得られた収益を分配すること等を目的とするもので、不動産投資の方法として位置づけられます(不動産特定共同事業法第2条第3項)。

例えば、空き店舗を取得しリノベーションをして新たな賃貸事業を営むケース、空き地を取得して新築工事を行って売却するようなケースなどが挙げられます。複数人の投資家を募り、不動産の運用益を分配する投資スキームとして活用されます。

参考:小規模不動産特定共同事業パンフレット|国土交通省

不動産特定共同事業

引用:金融商品取引法等の一部を改正する法律案説明資料 5頁 2023年3月|金融庁

不動産特定事業共同契約における権利は、不動産特定共同事業法におけるルールにともなって、金商法における、みなし有価証券の適用除外とされます。

一方で、最近では不動産特定共同事業においてブロックチェーン技術を活用し、トークンを発行してPtoPのビジネスモデルを構築するケースが見られます。

具体的には、不動産クラウドファンディングのスキームの中で、出資者が有する持分に関して譲渡可能な電子記録移転権利の枠組みのトークン(セキュリティトークン)を発行し、トークンとしての取引対象にするといったものです。

参考:不動産のLIFULLがブロックチェーン活用へ、金商法に抵触しない先進的な取り組み

改正金商法では、こうしたトークン化された不動産特定共同事業契約に基づく権利について、有価証券の性質を有する他のトークンの場合と同様に、みなし有価証券の適用除外の例外として、みなし有価証券として扱うものとして定めました。

金融商品取引法 第2条第2項第5号(イ及びロ 略)

 

イ及びロ 略
ハ 保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第一項に規定する保険業を行う者が保険者となる保険契約、農業協同組合法(昭和二十二年法律第百三十二号)第十条第一項第十号に規定する事業を行う同法第四条に規定する組合と締結した共済契約、消費生活協同組合法(昭和二十三年法律第二百号)第十条第二項に規定する共済事業を行う同法第四条に規定する組合と締結した共済契約、水産業協同組合法(昭和二十三年法律第二百四十二号)第十一条第一項第十二号、第九十三条第一項第六号の二若しくは第百条の二第一項第一号に規定する事業を行う同法第二条に規定する組合と締結した共済契約、中小企業等協同組合法(昭和二十四年法律第百八十一号)第九条の二第七項に規定する共済事業を行う同法第三条に規定する組合と締結した共済契約又は不動産特定共同事業法(平成六年法律第七十七号)第二条第三項に規定する不動産特定共同事業契約(同条第九項に規定する特例事業者と締結したもの及び当該不動産特定共同事業契約に基づく権利が電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示されるものを除く。)に基づく権利(イ及びロに掲げる権利を除く。)

 

ニ 略

インターネット上での情報掲示

書面掲示に関するデジタル化の流れとして、金融商品取引業者等のウェブサイト上において営業所に掲示する標識と同内容の情報公表を義務付ける内容が定められました。

金融商品取引法

第三十六条の二 金融商品取引業者等は、営業所又は事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、内閣府令で定める様式の標識を掲示しなければならない。


2 金融商品取引業者等は、内閣府令で定めるところにより、商号、名称又は氏名その他内閣府令で定める事項を電気通信回線に接続して行う自動公衆送信(公衆によつて直接受信されることを目的として公衆からの求めに応じ自動的に送信を行うことをいい、放送又は有線放送に該当するものを除く。第六十六条の八第二項において同じ。)により公衆の閲覧に供しなければならない。ただし、その事業の規模が著しく小さい場合その他の内閣府令で定める場合(その者が第二十九条の四の二第八項に規定する第一種少額電子募集取扱業者又は第二十九条の四の三第二項に規定する第二種少額電子募集取扱業者である場合を除く。)は、この限りでない。


3 略

最善利益義務等について

金商法そのものの改正点ではないものの、金融商品取引業を行う事業者には、金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律において、「顧客等の最善の利益を勘案しつつ、顧客等に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない」旨の最善利益義務が定められました(金商法2条1項及び同条2項2号参照)。

これは、業務を行う実務担当者たる従業員、役員及び使用人が負うものと定められ、コンプライアンス上重要な規範になるといえます。

※「当該業務を行う者」と定められることから、正社員に限られず業務に従事する者すべてに課されるものであると解されます。

適用日

最後に、各改正点について、それぞれ施行日を確認していきましょう。

開示制度関係

四半期報告書の廃止に関する改正点は、2024年(令和6)年4月1日から施行されます(附則(令和五年一一月二九日法律第七九号)第1条第3号)。

もっとも、4月1日より前に開始した四半期に関しては、なお従前の例により提出することとなります(同第2条第1項)。

デジタル化に関する点

ソーシャルレンディングやトークン化された不動産特定事業協同契約などに関する改正点は、現時点で施行日は定まっていません。

まとめ

2024年(令和6年)4月1日に施行される金融商品取引法等の改正案によって、企業開示制度やデジタル金融システムに関する制度の見直しがおこなわれました。

業務での対応が必要な場面もでてくると思うので、担当者は実際に施行された際に、改めて確認しておきましょう。

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川村将輝
この記事の執筆者
川村将輝

愛知県弁護士会所属。旭合同法律事務所に所属しながら、事業会社の法務部に出向。企業法務に関心があり、取り扱い分野は戦略・政策渉外、コーポレートガバナンス、内部統制、M&A、ファイナンス、AI、Web3.0、SaaS、人材プラットフォーム、航空・宇宙、データ法務、広告法務、エンタメ、消費者被害、相続、破産・再生など。学生時代は法律問題を取り上げるメディア運営会社にてインターンを経験し、現在もWEBメディアにて執筆活動を続ける。詳しいプロフィールはこちら:https://asahigodo.jp/lawyer-introduction/kawamura-masaki/