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就職や転職の際、オンボーディングという言葉がよく聞かれるようになってきました。
オンボーディングは企業の人材育成施策の一つで、新卒や中途入社の社員を職場に早く定着させて、早期離職を防ぐ効果が見込まれています。
この記事では、オンボーディングの概要やオンボーディング導入により得られるメリット、各プロセスでの注意ポイントについて解説します。
オンボーディングの語源は、船や飛行機に乗るを意味する"on-board"が由来で、ここから派生して、参加するという意味ができました。
ビジネス界隈では、オンボーディングを新入社員が環境に順応するよう促進する取り組みのことを指しています。
具体的には、新たなメンバーが新環境で十分に能力を発揮できるよう、アプローチやサポートする教育プログラム全般を指します。
会社全体で3ヶ月から半年、長い例では1年ほど継続的に実施することが多いようです。
新メンバーには、複数の指導担当者が付き、他部署と連携しながら企業組織に馴染むよう促し、業務知識・企業文化・組織構造など広範囲にわたり教育します。
OJTとは、仕事の実践的な教育を意味する"On the Job Training"を語源とした、個別に行う実践的な職場内訓練のことです。
新人に対して、部署内の上司・先輩が付いて実務を通して指導する教育であり、オンボーディングのように会社全体が連携し、広範囲を総合的に指導するものとは異なります。
OJTは実践的に業務知識を学べ、新人がスムーズに実務に入れるメリットがある一方で、指導役の能力や素質が結果を大きく左右します。
特に、新人と指導役の相性が悪いと相互理解が困難になり、教育効果を期待できません。
オンボーディングでは、まずはチームメンバーとのミーティングや社内ルールの説明で企業組織になじませるところから始めます。
研修には数多くの種類がありますが、役割からオンボーディングと比較されるのは新人研修です。
新人研修は主に人事部門が担当し、社会人としての基礎的なスキル習得を目的としています。
こうした学習機会を業務時間外に設け、短期間で集中的に教育します。
一方でオンボーディングでは、業務知識やスキルの習得も行いながら企業文化や経営方針など、組織全体を理解しつつ新しい環境に適応を促すのが目的です。
つまり、一般的な新人研修よりもオンボーディングは規模が大きく、スキル習得と環境へ定着させるための取組みと言えます。
オンボーディングには、以下の2つの大きな目的があります。
労働人口の減少により人材確保が困難となっている昨今、転職者の増加と人手不足の深刻化が進んでおり、これらの目的を達成することは企業にとって重要な課題です。
新入社員の職場への早い順応はすなわち、戦力に加わるという意味です。戦力化が早ければ、それだけ業務効率が向上します。
これまでも、多くの企業でOJTや社員研修が行われてきましたが、現場で学ぶOJTでは現場負担が大きく、社員研修では期間が短い点がデメリットでした。
一方オンボーディングは、実際の業務に入る前に社内の雰囲気と人間関係に馴染むことができ、業務マニュアルや社内規則を理解する期間が十分設けられるため、現場の負担なく、より早い順応を見込めます。
企業の抱える問題として、新入社員の早期退職率・転職率の高さが指摘されており、2023年の厚生労働省のデータでは、新入社員の入社3年以内の離職率が3割以上であることが発表されています。
早期退職の原因はさまざまですが、主に以下のようなものが挙げられます。
これらに対する防止対策として、新入社員が孤立して悩みを一人で抱え込む状態を避けることが重要です。
オンボーディングによって、円滑な人間関係と困りごとを相談しやすい環境を醸成し、チーム全体で問題解決に取り組む体制を構築できます。
これにより、新入社員の信頼感が増して企業への帰属意識が生まれます。
参考:新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します|厚生労働省
オンボーディングの主な目的は上述した通りですが、他にも実施するメリットがいくつもあります。
ここでは、このうち特に大きな3つを解説します。
以上の3点で改善効果が見込めます。
通常、社員を採用するためには、求人広告費・面接、採用後にも研修・教育費などの人件費がかかります。
年度 | 一人当たりの採用コスト | |
---|---|---|
新卒採用コスト平均 | 中途採用コスト平均 | |
2018年度 | 71.5万円 | 83.0万円 |
2019年度 | 93.6万円 | 103.3万円 |
上記でわかるように、年々コストは傾向です。
早期離職された場合、人員補填のために追加採用コストがかかるため、オンボーディングによる社員定着は全体的なコスト削減につながります。
オンボーディングによって、組織に早く馴染んでもらうことで新入社員の生産性向上が見込めます。
ただし、そのためにはチーム内での情報共有が重要となり、業務マニュアル・就業規則の理解や顧客情報や業務指導を企業全体で行う必要があります。
また新入社員が孤立しないよう、社内の雰囲気作りや人間関係にも注意が必要です。
エンゲージメントとは、社員の企業への信頼感や貢献意識を指します。社員が企業に対して愛着を持ち、業績向上へ勤める意欲とも言えるでしょう。
この効果は新入社員だけではなく既存社員にもおよぶため、従業員全体が相互に影響し、企業経営にプラスに働きます。
また、社員のエンゲージメントが高いと人材が流出しづらくなります。
エンゲージメントが低く、報酬待遇だけがインセンティブになっている場合、優秀な人材も条件次第で容易に引き抜かれてしまいます。
一方、企業への貢献意識が高い場合は、簡単に離職しないことが期待できます。
オンボーディングの内容は多岐に渡り、実施期間も中長期に渡ります。
導入プロセスにはPDCAによる改善サイクルを取り入れ、その際の目標設定やサポート体制も社員一人ひとりに合わせた専用の体制が必要です。
PDCAとは業務品質を改善するため、以下の4プロセスを繰り返す手法です。
プランを実行するたびに内容を振り返り、改善策を講じてさらにプランと実行精度を向上させていきます。
オンボーディング導入では、PDCAにより業務効率の改善を目指します。
人材育成では入社前・入社語で取り組むプランが異なり、PDCAを行いアップデートしていく必要があるでしょう。
【入社前PDCAの例】
P:採用計画
採用人数と期間、採用手段、採用対象の人物像となる採用ペルソナを設定
D:採用活動
計画媒体から求人募集をかける、書類選考と面接、合否の通知、内定辞退の防止
C:採用活動の振り返り
採用成果を確認、目標が達成できなかった原因・良い結果の理由も共有
A:採用課題の改善
採用計画が達成できない原因へ対策を考え、次回へ向けた改善を図る
【入社後PDCAの例】
P:育成計画プラン
オンボーディングのプラン作成
D:プラン実施
研修・OJT・サポートの実行
C:計画の振り返り
1on1ミーティング評価、悪かった結果だけではなく、良かった要因も確認
A:対策・改善
新入社員・関係者の意見からフィードバック
オンボーディングでは、具体的な目標設定が必須です。
配属部署でどのような人材が望まれているかを明確にし、ゴール像を設定します。
同時に、ゴールを達成するための教育期間を決め、期間を細分化しいつまでにどの段階まで到達すべきか、詳細なルートを想定します。
目標設定後は、プランの作成です。
オンボーディングでは、入社1年程度を目安に全体プランを組み、課題や短期目標に合わせて1〜3ヶ月から半年など詳細に期間を区切ります。
具体的には、実務前研修・説明会・OJT・ランチミーティングなどの実施時期を設定し、担当人員を決め、資料の準備を行います。
作成したプランに従い、新入社員教育を進めていきます。
オンボーディングを実施すると、対象社員からの質疑応答や、プランに対応できない不適合も発生します。
その際には、プランの見直しや改善点を取り入れ、適切な対応が必要です。
プラン実施の進捗具合を記録しておき、対象社員の特性や傾向の理解に努めましょう。
プランを実施し終えて、内容を振り返る段階です。
目標達成はできたか、どのくらいの時間がかかったか、など進捗具合の記録を参照し、適切なプラン内容だったか確認します。
ここで注意するのは、対象社員への成績の優劣評価ではなく、育成プランが適切かを判断する点です。
振り返りから改善すべき点をフィードバックし、またPDCAサイクルを繰り返すことで、オンボーディングを最適化していきます。
オンボーディングで実施するプランには、有効に機能させるポイントがあります。
スモールステップ法には、新入社員が課題をクリアする難易度を下げる効果があります。
また、当事者だけが努力しても周囲の協力が薄いと、オンボーディングは効果がありません。
スモールステップ法とは、目標を細分化して達成過程を小さく区切って目指す方法です。
最初から大きな目標を設定し、途中で挫折する事態が起こりやすいため、長期的な目標達成に適しています。
目標段階を細分化することでそれぞれの難易度を下げると、課題に対して失敗が減り、目標を達成しやすくなります。
また、小さな成功体験を積み重ねることで自信が得られ、モチベーションが低下せずに課題へ挑戦し続けられるでしょう。
作業を細分化することで具体性が上がり、作業の効率化・生産性向上効果のほか、自身の得意・苦手な分野の理解がしやすくなります。
企業と社員の意識のズレは、離職率を上げます。
コミュニケーションが不足していると、社員の意識が分からず、企業と社員の意識のズレは解消されません。
そのため、企業内に下記のような複数のコミュニケーション機会を設け、人間関係のサポート体制を整備するのが有効です。
オンボーディングは、新入社員の所属部署と担当上司だけで行うものではありません。
企業全体が関与し、社内ルールの明確化と情報共有を行い、人事部門やほかの部署とも連携しながら進める取組みです。
教材・マニュアル・社内ツール・アンケートの資料を統一し、得られる情報や対応に格差が生じないように環境を整備しましょう。
また、教育担当者向けに事前の指導研修を実施するなど、教育環境や人員の充実が重要です。
オンボーディング施策では、新入社員の入社から90日間の対応が定着率に大きく影響すると考えられています。
この間に入社前イメージと入社後のギャップを感じ、相談相手がおらず社内で孤立してしまうと離職する可能性が増大します。
オンボーディング施策は、時期によって内容が変わり、大別すると「入社前」「入社後」「継続的」に行う3パターンに分けられます。
これら3段階のオンボーディング施策により、社員のエンゲージメント向上を目指します。
企業のオンボーディングは社員の入社前の、受け入れ体制構築から始まります。
まずは、採用ターゲットを明確化し、求人ペルソナを設定します。
そして、書類選考と面接後に内定者へ採用通知を送った後から内定者との交流を行います。
これは、企業と内定者のコミュニケーションを図って信頼関係を築き、内定辞退を防ぐのが目的です。
入社後に行うオンボーディングは、主に新入社員の不安や疑問を取り除き、職場環境へ早くなじめるように促すのが主な目的です。
すぐに部署に配属し実務に就かせることはせず、まず企業のルールや雰囲気、仕事内容と業界への理解を促す時間を設けます。
こうした過程で、目標達成に向けて担当者がサポートします。これらの目標達成に向けて導入される仕組みが、スモールステップ法やPDCAサイクルです。
また、同期の社員同士で横のつながりを持てるコミュニティを設置し、仲間意識と連帯感の醸成も行います。
相談しやすい安心感と企業への帰属意識により、定着率の向上が見込めるでしょう。
長期的視点では、継続的に行うオンボーディング施策が必要です。
PDCAサイクルによる改善のほかに、以下のような取り組みが行われています。
【1on1ミーティング】
【メンター制度】
オンボーディングの活用により、新入社員の受け入れと育成に成功し、業績向上を実現している企業が続々と現れています。
参考になる事例として、「株式会社アカツキ」「LAPRAS株式会社」「株式会社メルカリ」の3社をピックアップしました。
ゲーム・コミック事業で年々成長を遂げている、株式会社アカツキの事例です。
「八月のシンデレラナイン」「ドラゴンボールZ ドッカンバトル」などの開発を手がけたことで知られています。
特にゲーム事業部では、プロジェクトと職能を網目のように組み合わせた「マトリクス型」の組織体制を構築するとともに、人材育成にも注力してきました。
一方で浮き彫りとなっていたのが、即戦力として迎えた中途採用社員の能力を、うまく引き出すことができていない問題です。
特に、期待値の設定、社内文化への適合といった観点で明確な課題があり、入社前と入社後で、双方に認識の違いが生じることがありました。
そこで、従来のオンボーディング施策を一度見直し、改革を実施しました。
参考:オンボーディングに「奇策」なし。仕組みとハートを両立させる、アカツキの取り組み | SELECK [セレック]
2016年に創業したLAPRAS株式会社は、AIなどの最先端技術を活用したサービスで社会課題にアプローチしています。
主に、ITエンジニア向けのポートフォリオ作成サービスや、企業向けのスカウトサービスなどを提供しています。
中途採用で入社したメンバーが多いLAPRASでは、フルリモートワークが基本の勤務スタイルです。
社内文化や働き方が前職と大きく異なることも多いため、誰もがすぐに適応できるとは限りません。
そこで、入社前後に手厚いオンボーディング施策を実施することで、新たな環境へのアジャストをサポートしています。
参考:【新入社員研修】オンボーディングって3ヶ月間も何やるの?|LAPRAS BACKBONE
株式会社メルカリは、日本最大のフリーマーケットアプリをサービス運営している会社です。
メルカリでは職歴も含めたダイバーシティ&インクルージョンを考えており、国籍・性別・多種多様な職歴を持つ人材の活用のため、オンボーディングを導入しました。
参考:“会えない”入社初日〜現在にかけて、私が感動したオンボーディング体験について #メルカリな日々 | mercan (メルカン)
現在日本では、労働人口の減少が急速に進んでいます。
「求人募集を出しても人が集まらない」「せっかく採用したのに早期離職してしまう」など、これまでの方法では人材確保が困難となるのは確実です。
オンボーディングは、新入社員の抱える人間関係の悩みまで踏み込み、人材を企業全体で支えて育てる取り組みです。
すでに導入している企業では人材育成の問題点を解消し、チームとして活用する枠組みを整え始めています。
オンボーディングを導入することで、人材を企業へ定着させ、能力を発揮しやすい環境を整備し、チーム全体の力を底上げしましょう。