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退職証明書とは、従業員が退職したことを証明する書類です。
退職証明書の発行は人事労務の業務の一つですが、頻繁に行う業務ではないため、急に従業員から発行を依頼されて戸惑ってしまう人事労務の担当者もいるかもしれません。
本記事では、退職証明書に記載する内容や記入例、発行する際の注意点を詳しく解説します。
退職証明書とは、従業員が退職した際に渡す書類の一つで、従業員から希望があった場合にのみ発行の対応が必要です。
労働基準法第22条の規定により、従業員が希望したら発行する義務があり、違反すると30万円以下の罰金となります。
退職時には、退職証明書以外にも従業員に渡すものや自治体に提出する書類などが多数あり、混乱する方もいるかもしれません。
ここでは、従業員が退職した際に必要な書類について、おさらいを兼ねて解説します。
参考:労働基準法
雇用保険被保険者証は、雇用保険に加入していることを証明する書類です。
従業員が雇用保険に加入できる条件(被保険者)で初めて就業する際、雇用保険被保険者資格取得届を会社からハローワークに提出して発行されます。
保管は原則として本人ですが、会社で保管している場合があり、退職時に従業員へ返却します。
離職票は、退職者の失業給付の受給手続きに必要な書類です。
離職証明書を会社からハローワークに提出して離職票が発行され、会社が受け取って従業員に渡します。
しかし、退職者の転職先が決まっていて、失業給付が必要ない場合の発行は不要です。
健康保険資格喪失証明書は、社会保険の資格を失ったことを証明する書類であり、国民年金に加入する際に必要な書類です。
従業員から健康保険証を回収し、被保険者資格喪失届とともに会社から年金事務所に提出して発行されます。
発行されたら会社が受け取って、従業員に渡します。
1年間の給与収入や納付した所得税額、控除額が記載された書類です。
退職した全ての従業員に、会社から発行します。
所得税法第226条第1項の規定により、退職日から一か月以内に会社から退職者と税務署に発行する義務があります。
参考:所得税法
退職証明書は、従業員が退職したという事実を証明する書類です。
退職者から希望があった場合にのみ発行します。離職票の代わりになったり、転職先の会社で退職証明に使われたりします。
公文書ではありませんが、労働基準法第22条第1項の規定で発行は義務です。
※参考:労働基準法
離職票や離職証明書との違いは、提出先や用途が異なる点です。
退職証明書、離職票、離職証明書の違いを、以下にまとめました。
退職証明書 | 離職票 | 離職証明書 | |
---|---|---|---|
発行元 | 会社 | ハローワーク | 会社 |
提出先 | 退職者 | 会社から取退職者へ | ハローワーク |
用途 | 従業員が退職したという事実を証明する書類 | 退職者の失業給付の手続きに必要な書類 | 離職票を発行するために必要な書類 |
公文書であるか | 私文書 | 公文書 | 公文書 |
発行のタイミング | 従業員から依頼された場合 | 会社から離職証明書を受け取った場合 | 従業員から離職票を希望された場合 |
主な記載項目 | ・退職年月日 ・使用期間 ・業務の種類 ・役職 ・離職以前の賃金 ・退職の事由 など |
・被保険者番号 ・資格取得年月日 ・離職年月日 ・事業所名略称 ・口座番号 ・離職理由 など |
・被保険者番号 ・離職年月日 ・事業所名 ・離職理由 ・離職の日以前の賃金支払状況 など |
根拠法 | 労働基準法第22条第1項 | 雇用保険法第76条3項 | 雇用保険法施行規則7条 |
在籍証明書や解雇理由証明書との違いは、必要とされる場面が異なる点です。
退職証明書、解雇理由証明書、在籍証明書の違いは、以下になります。
退職証明書 | 解雇理由証明書 | 在籍証明書 | |
---|---|---|---|
発行元 | 会社 | 会社 | 会社 |
対象者 | 退職日以降に、退職者から請求依頼 | 解雇予告から解雇日の間に、従業員から請求依頼 | 在職中に、従業員から請求依頼 |
用途 | 従業員が退職したという事実を証明する書類 | 従業員の解雇した理由を証明する書類 | 従業員が在籍していることを証明する書類 |
使い道 | 離職票の代用や転職先に提出する退職証明の資料 | 正確な解雇の理由を書面に残しつつ知るため | 保育園や保育所の申し込み、住宅ローンや賃貸住宅を借りる際の信用情報 |
主な記載項目 | ・退職年月日 ・使用期間 ・業務の種類 ・役職 ・離職以前の賃金 ・退職の事由など |
・解雇理由 | ・会社名 ・雇用形態 ・役職 ・業務の種類 ・勤務日数や労働時間 ・月収や年収など |
根拠法 | 労働基準法第22条第1項 | 労働基準法第22条第2項 | なし |
発行する義務の有無 | 依頼があった場合は発行する義務がある | 依頼があった場合は発行する義務がある | 発行する義務はないが、依頼に応じて作成が必要 |
ここまで、退職証明書に関する基礎知識をおさらいしましたが、渡された従業員はどのような場面で退職証明書が必要になるのでしょうか。
国民健康保険や国民年金の加入は離職票で手続きできますが、先に失業保険の手続きで離職票をハローワークに提出してしまい、手元にない方もいるかもしれません。
そんな場合は、退職証明書で離職票の代用が可能です。
退職証明書は会社が作成するため、遅くても1週間以内の発行ができます。
一方離職票は、会社がハローワークに申請してから発行されるので、2週間ほどかかります。
すぐに手続きを済ませたい方は、退職証明書を発行して手続きを済ませましょう。
失業保険の手続きは、離職票の提出をするのが一般的ですが、自治体によっては退職証明書での代用が可能です。
離職票の再発行は2週間ほど時間がかかってしまい、失業保険の手続きが遅いと失業保険の受給開始も遅くなってしまいます。
できるだけ早く手続きをして、すぐ失業保険を受給したいという方は、発行が早い退職証明書で代用しましょう。
しかし、代用できるかどうかは自治体によって異なるので、最寄りのハローワークでご確認ください。
また、仮の手続きなので最終的には、離職票の提出が求められます。
転職先の企業が転職者の職歴や退職理由を確認するために、提出を求めてくることもあります。
履歴書や職務経歴書でも確認できますが、転職者が自由に記入できるため、虚偽の可能性も考えられるためです。
しかし、元の勤務先が発行する退職証明書であれば、転職者の業務内容や退職理由などが正確に記載されているため、情報の信頼性は十分です。
そのため、転職者の履歴書や職務経歴書の事実確認に、退職証明書が必要な場合もあります。
人事労務の業務の一つなので、退職証明書の作成方法を知ることは不可欠です。
ここでは、退職証明書に記載する項目や退職証明書の記入例を紹介します。
退職証明書に記載する項目は、書類情報や基本情報、退職事由、会社情報の4つです。
書類名(退職証明書)、発行日などです。
退職者の氏名、退職年月日、使用期間、業務の種類、その事業における地位、離職以前の賃金などです。
例えば、業務の種類は事務職や技術職などで、その事業における地位は一般職や主任、課長などの肩書きや役職を記載します。
使用期間や業務の種類、その事業における地位、離職以前の賃金の項目は、従業員が希望したものだけを記入します。
例えば、自己都合退職、当社の都合、定年退職、労働契約期間満了による退職、移籍出向による退職、解雇などです。
従業員が希望した際に記入します。
事業所名、所在地、事業主などです。
退職証明書の様式は、厚生労働省のホームページからダウンロードすることが可能です。
記載内容は、下記の通りです。
公式サイト:退職証明書|厚生労働省
従業員の退職証明書を発行する際は、注意が必要です。
なぜなら、退職証明書の発行が遅れたり退職証明書と離職票との記載内容に矛盾があったりすると、退職した従業員に迷惑がかかるからです。
そこで、人事労務の担当者が注意すべきポイントを5つ紹介します。
従業員の退職後2年間は、退職証明書の発行や再発行に応じる義務があります。
なぜなら、労働基準法第115条(時効)の規定により、退職後2年間は退職証明書の請求権があるからです。
しかし、従業員が退職して2年が経過すると、時効によって請求権が消滅します。
※参考:労働基準法
労働基準法第22条の規定で、退職証明書の発行は義務です。
もし違反した場合は、労働基準法第120条の罰則によって30万円以下の罰金が科せられます。
また、特別な理由なく発行が遅延したり、発行した内容に虚偽があったりした場合も違法です。
※参考:労働基準法
退職証明書に記載する「使用期間」「業務の種類」「その事業における地位」「離職以前の賃金」「退職の事由」の5つの項目は、退職者が希望する項目のみを記載します。
なぜなら、労働基準法第22条3項で「労働者の請求しない事項を記入してはならない」と定められているからです。
罰則も設けられており、違反したら30万円以下の罰金です。
※参考:労働基準法
退職証明書と離職票の記載内容は、「離職以前の賃金」や「退職の事由」で重なる部分があり、どちらの項目も事実に基づいて記載したら同じになるはずです。
もし記載内容が異なっていたら、会社と退職者間でトラブルになる可能性があります。
なぜなら、退職者の失業保険の受給額や受給開始のタイミングに影響を与えてしまうからです。
特に退職の事由は、双方で見解の相違が発生しやすく、注意が必要です。
退職証明書のコピーを保管することで、発行した事実や記載内容の確認が可能です。
また、退職者から再発行の依頼があった際に、一から作る手間がなくなるため、効率的に発行できます。
再発行の際は同じ記載である必要があるため、コピーの保管は大切です。
退職証明書の発行以外にも、従業員が退職する際の手続きは複数あります。
下記のとおり、退職前や退職後のタイミングだったり、書類の提出先が異なったりなど複雑です。
基本的には退職届の受理から、退職手続きが始まります。
しかし、従業員が退職届を提出せずとも退職の意思を表明すれば、2週間後に退職が可能です。
これは民法第627条で規定されており、就業規則より優先されるため、会社は拒否できません。
しかし、後々のトラブル回避のために、従業員に退職届の提出を求めることは必要でしょう。
※参考:民法
退職後の回収は難航する可能性があるため、退職日までに回収しましょう。
回収するものは、社員証や名刺をはじめ、健康保険証や仕事に関するデータです。
特に仕事に関するデータは、社外秘や守秘義務に関わるため注意が必要です。
社会保険資格喪失の手続きをします。
喪失日から5日以内に、年金事務所へ健康保険証と厚生年金被保険者資格喪失届の提出が必要です。
提出後、健康保険資格喪失証明書が発行されるので、退職者に渡します。
※参考:従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き|日本年金機構
雇用保険の喪失手続きが必要です。
退職日の翌々日から10日以内に、雇用保険被保険者資格喪失届と離職証明書、賃金台帳、労働者名簿、出勤簿などの資料をハローワークに提出します。
提出後に離職票が発行されるので、退職者に渡します。
しかし、退職者の転職先が決まっていて失業給付を受けない場合は、離職票は必要ないので離職証明書の提出は不要です。
所得税の手続きは源泉徴収票の発行です。
所得税法第226条の規定により、退職後1ヵ月以内に発行し、退職者に渡す義務があります。罰則があるため、注意が必要です。
※参考:所得税法
退職する従業員が給与天引きで住民税を特別徴収で納税していた場合、会社側での手続きが必要です。
退職日の翌月10日までに、給与所得異動届書を従業員が移住する市区町村に提出します。
転職先が決まっている場合には、別徴収一括にチェックをつけます。
一方で退職時に転職先が決まっていない場合には、普通徴収にチェックをつけます。普通徴収の場合は、自宅に納付書が届いて自分で支払う必要があることを伝えましょう。
雇用保険被保険者証を会社が保管していた場合は、退職者に返却します。
雇用保険の被保険者番号は引き継がれるため、退職した従業員の転職先で必要です。
退職証明書の発行は必須か、そしてそこに記載する内容について解説しました。
退職者から依頼があった場合、退職証明書の発行は義務です。労働基準法第22条第1項で規定されており、違反すると30万円以下の罰金が科せられます。
また、退職者から希望されていない項目の記載も禁止ですので注意が必要です。
退職者とトラブルにならないよう、退職の手続きについて念入りに確認を取った方がよいかもしれません。