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取引先と契約を結び、報酬や契約金など何らかの形で金銭を支払っている場合、税務署に支払調書を提出しなければなりません。
この記事では、支払調書とはどのような書類なのか、いつ提出すべきか、その作成方法や提出までの流れについて解説します。
支払調書とは、税務署へ提出する法定調書の一つです。
法定調書は、一定の条件に当てはまる場合、税務署への提出が義務とされている書類です。
所得税法や租税特別措置法、相続税法などの法令により定められています。
法定調書には63種類がありますが、そのうち支払調書は35種類です。
会社・個人事業主が、ほかの法人・個人に対して報酬または料金を支払った場合、その額を税務署へ正確に申告する必要があります。
報酬または料金とは、業務委託契約に基づく仕事の対価のほか、税理士や弁護士への依頼料などです。
税務署は支払調書の提出を受け、源泉徴収や確定申告が正しく行われているか、申告内容と書類をもとに把握します。
基本的な提出期限は、支払が確定した日の翌年1月31日までとなります(一部例外あり)。
【例】
例1)2023年12月31日に支払が確定した場合:2024年1月31日までに提出
例2)2024年1月1日に支払が確定した場合:2025年1月31日までに提出
ほとんどの支払調書は、この提出期限で対応できるものの、中には「翌月15日」や「1カ月以内」となっているものもあります。
国税庁のHPで63種すべての提出期限を確認できるので、一度目を通しておきましょう。
公式サイト:法定調書の種類及び提出期限|国税庁
税務署だけでなく、支払の受取人にも支払調書を交付する場合があります。(義務ではなく任意)
その場合は、確定申告が始まる2月中までに送るのがおすすめです。
支払調書の種類は全部で35種となっており、代表的なのは以下の4つです。
上記4種の支払調書の提出について、条件や手続きになる対象などをまとめました。
種別/範囲 | 条件 | 支払金額 | 手続き対象 | 備考 |
---|---|---|---|---|
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書 | 源泉徴収対象の報酬・料金等を支払った場合 |
年5万円以上 ※外交員や集金人に対する報酬・料金等は50万円以上 |
報酬・料金等を支払った者 | 法人に支払われ、源泉徴収の対象とならない金額も計算に含める |
不動産使用料等の支払調書 | 不動産や借地権などを借りて、対価を支払った場合 |
年15万円以上 ※貸主が法人の場合、家賃や賃借料は含まれない |
法人または個人の不動産業者 | 個人の不動産業者で、建物の賃貸借・仲介等を主な事業とする場合は提出不要 |
不動産等の譲受けの対価の支払調書 | 不動産や借地権などを譲受け、対価を支払った場合 | 年100万円以上 | 法人または個人の不動産業者 | 個人の不動産業者で、建物の賃貸借・仲介等を主な事業とする場合は提出不要 |
不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書 | 不動産や借地権などの売買や、仲介等に伴う料金を支払った場合 | 年15万円以上 | 法人または個人の不動産業者 | 個人の不動産業者で、建物の賃貸借・仲介等を主な事業とする場合は提出不要 |
参考:報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書(同合計表)|国税庁
不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書(同合計表)|国税庁
支払調書と源泉徴収票の違いは、以下のとおりです。
決定的な違いは、雇用契約を結んでいるかどうかです。
源泉徴収票の発行対象となるのは、事業者と雇用契約を締結した上で働いている従業員です。
給与ではなく、報酬として金銭が支払われる業務委託などの契約形態では、源泉徴収票の代わりに支払調書を発行することになります。
通常、支払調書を作成する際は、源泉徴収の対象となる報酬等のみを考慮します。
しかし、報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書では、支払われる金銭が源泉徴収の対象外でも、支払を受ける者が法人である場合は、支払調書を提出する必要があります。
例えば、国税庁が示した例では、源泉徴収の対象とはなりませんが、所得税法の報酬に該当するため、支払調書の提出が必要となります。
【照会要旨】
A社は、B社に対して測量費用を支払いましたが、支払先が法人であることから源泉徴収はしていません。
この場合でも、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出は必要ですか。
【回答要旨】
照会の報酬は、所得税法第204条第1項第2号の報酬等に該当しますので、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出を要することとなります。
「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」は、居住者又は内国法人に対し、国内において所得税法第204条第1項各号に掲げる報酬、料金、契約金又は賞金の支払をする場合に提出する必要があります(所得税法第225条第1項第3号)。
一方、内国法人に対する支払で源泉徴収の対象となるものは、所得税法第174条各号に掲げるものに限られており(所得税法第212条第3項)、支払調書の提出範囲とは異なります。
したがって、当該支払が所得税法第204条第1項各号に掲げる報酬等に該当する場合には、源泉徴収の要否に関係なく、支払調書の提出が必要となります(ただし、一定の提出範囲に該当するものを除きます。)。
支払調書の提出義務が生じる条件は、上記の表で示したとおりです。
国税庁では、報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書を、具体的にどのような場合で提出しなければならないか、5つの例を提示しています。
やや特殊なケースも含まれますが、例として参考にしましょう。
(1)外交員、集金人、電力量計の検針人およびプロボクサー等の報酬・料金、バー、キャバレー等のホステス等の報酬・料金、広告宣伝のための賞金については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50万円を超えるもの
(2)馬主に支払う競馬の賞金については、同一人に対するその年中の1回の支払賞金額が75万円を超えるものの支払を受けた者に係るその年中のすべての支払金額
(3)プロ野球の選手などに支払う報酬、契約金については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50,000円を超えるもの
(4)弁護士や税理士等に対する報酬、作家や画家に対する原稿料や画料、講演料等については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50,000円を超えるもの
(5)社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50万円を超えるもの
引用:No.7431 「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲と提出枚数等|国税庁
支払調書の書き方について見ていきましょう。
支払調書の作成方法としては、大きく分けて以下の3つがあります。
なかでも、国税庁が配信している国税電子申告・納税システム「e-Taxソフト」では、支払調書の作成や提出までを簡単に行えます。
作成に便利なフォーマットを利用でき、提出もスムーズにできるためおすすめです。
引用:令和〇年分 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書|国税庁
支払調書の記載項目について、次のとおりになります。
まずは、報酬や料金を受け取る側の情報が必要です。
氏名・住所(または所在地)・法人番号を記載します。また平成30年より、支払を受ける者の個人番号(マイナンバー)記載が実質的に義務となりました。
ただし事務負担を考慮し、税務署ではマイナンバーが必ずしも記載されていなくても、支払調書を受理しています。
その代わりに、記載していない理由を問われたり、再提出を求められたりすることがあるため、できれば支払先からマイナンバーを教えてもらうのがよいでしょう。
区分には、支払った契約金・地代・印税などの区分を記載しましょう。
なお、不動産等の譲受けの対価の支払調書では、区分ではなく物件の種類となっています。この場合は、土地・建物・借地権のように記載しましょう。
細目とは、支払に関するより詳細な情報のことです。
何について金銭を支払ったか、何回かけて支払ったかなどを記載します。
支払ったのが印税ならば書籍名、講演会の報酬ならばその講演名などを記載することになります。
不動産等の譲受けの対価の支払調書で記載する事項は、土地の地目や建物の構造、用途などです。
また、不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書では、細目の代わりに物件の所在地を記載する必要があります。
支払金額の箇所には、支払が確定した日付とあわせて、その年中に支払うべき報酬や料金の額を正確に記載しましょう。
具体的には、「1月から12月までの報酬等合計額-支払調書作成時点での未払合計額」が支払金額となります。
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書では、源泉徴収税額欄への記載も必要です。
ここでは、1年間に源泉徴収すべき所得税、および復興特別所得税を合計して記載します。
摘要とは、支払の内容をわかりやすくするために記載する、補足のようなものです。
支払調書の摘要欄は、必ずしも記入しなければならないものではなく、必要な場合にのみ記入する形となります。
以下のようなケースでは、個別に必要事項の記載が求められます。
支払者の情報も確実に記載しましょう。
記載が必要なのは、氏名(名称)・所在地・電話番号・法人番号(またはマイナンバー)です。
No.7431 「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲と提出枚数等|国税庁
必要事項の記入が済んだら、支払調書を提出することになります。
手続きはやや煩雑なため、面倒に感じるかもしれませんが確実にこなしましょう。
ここからは、支払調書の提出方法を3つのステップに分けて解説します。
支払調書を提出するには、まずは年末調整が必要です。
近年は給与計算ソフトの機能により、自動で年末調整の計算を行えるようになりました。
手動で計算する場合は、源泉徴収簿をもとに、科税給与所得金額、年調所得金額、年調年税額を割り出します。
年末調整が完了したら、次に法定調書を用意します。
支払調書のほかに提出が必要な法定調書は、法定調書合計表、源泉徴収票、給与支払報告書の3種類になります。
これらの提出期限は、年末調整を実施した翌年の1月31日です。
必要な書類がすべて揃ったら、税務署へ提出しましょう。
調書の提出方法には、大きく分けて「書面」「電子データ」「e-Tax」の3種類があります。
これらの法定調書は、書面つまり紙で提出するのが原則となります。
ただし2021年1月1日以降は、提出書類が100枚以上の場合、紙での申請ではなく電子申請を行うことが義務となりました。
電子申請では、電子データかe-Taxのどちらかの方法を選ぶことになります。
CDやDVDなどの光ディスクにデータを書き込み、提出することも可能です。
管理が大変な大量の書類データを、1枚のディスクにまとめられるため、便利な提出方法と言えます。
使用できる光ディスクの種類は、国税庁のホームページで確認できます。
e-Taxは、法定調書の作成・提出が可能な国税庁公式の国税電子申告・納税システムです。
Webブラウザ版とソフト版があり、ソフト版ではすべての法定調書を作成、提出できます。
支払調書の提出後、内容に誤りを見つけたときは、正しい内容が記された支払調書を改めて提出しなければなりません。
まずは、誤りのある支払調書の写しを用意し、右上に赤字で無効と書きます。
次に、無効分の支払金額等が記された合計表を作成し、提出区分を「4(無効)」とします。
そして正しい内容の支払調書を作成したら、右上に訂正分と赤書きが必要です。
合計表も正しく作成したら、提出区分は「3(訂正)」とします。
なお、e-Taxで提出の場合は、書面と同様の手順で訂正ができますが、光ディスクで提出の場合、すべてのデータを再提出する必要はありません。
誤りのある箇所のみ、無効分と訂正分を作成して提出すれば問題ないです。
ここまで、支払調書の概要や、作成から提出までの大まかな流れについて解説してきました。
最後に、支払調書を作成・提出するときに注意すべきポイントを解説します。
前述のように、支払調書には支払者のみならず、支払を受ける者のマイナンバーを記載する必要があります。
マイナンバーは、番号法で定められた特定個人情報にあたり、特に重要なプライバシーとして位置づけられているため、慎重に取り扱わなければなりません。
マイナンバーの適切な取り扱い方については、個人情報保護委員会が公開しているガイドラインが参考になります。
公式サイト:特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編) |個人情報保護委員会
関連法が事業者用にわかりやすく解説されているため、個人情報にまつわるトラブルが起きる前に、一度目を通しておくことがおすすめです。
なお、支払を受ける本人へ交付する支払調書には、マイナンバーを記載してはならないことに注意しましょう。
理由は、特定個人情報の提供制限(番号法第19条)に触れるおそれがあるためです。
支払調書の提出は、法律で定められた義務です。
裏を返せば、義務を果たさなかった場合は罰則が科されることになるとも言えます。
罰則について規定しているのは、所得税法第242条です。
同条1および5では、期限内に支払調書を提出しなかった場合、または虚偽の内容で申請を行った場合、1年以下の懲役もしくは罰金50万円を科すとしています。
参考:所得税法 第六編 罰則
今回は、支払調書の作成と提出について解説しました。
原則、提出期限は翌年1月31日までです。支払調書の提出は義務であるため、余裕をもって準備して、確実に期限に間に合わせましょう。
揃えなければならない書類が多くなりがちなため、事務負担は大きくかかってしまいますが、報酬や契約金を支払っている以上、必ず通らなければならない道です。
便利なe-Taxなどを活用して、一つひとつ手続きを進めましょう。