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中小企業庁の2021年6月1日時点のデータによれば、中小企業は日本の全企業数のうち99.7%を占めています。
中小企業は日本経済の基盤であり、雇用や地域活性化おいても重要な役割を果たしています。
そんな中小企業に対して、経営課題の診断や解決策の提案などをおこなうのが中小企業診断士です。
本記事では、中小企業診断士の仕事内容や役割などを解説したうえで、中小企業診断士になるメリット・デメリット、資格試験の概要や資格取得後のキャリアパスなどを紹介します。
※参考:中小企業・小規模事業者の数(2021年6月時点)の集計結果を公表します|中小企業庁
中小企業診断士は、中小企業の経営に関する専門知識と実務経験をもち、中小企業の経営課題を診断し、解決策を提案する専門家です。
経済産業大臣が登録している、国家資格でもあります。
中小企業は大企業に比べて経営資源が限られており、市場環境の変化に対応することが困難な場合もあります。
そこで中小企業診断士が、中小企業の経営課題を的確に把握して、最適な解決策を提案し、中小企業の経営力向上や競争力強化に貢献します。
※参考:中小企業診断士とは|中小企業庁
中小企業診断士の仕事は、中小企業の経営者や関係者に対して、経営課題の発見や解決のためのアドバイスや支援です。
また、金融機関から融資を受ける際に必要な経営改善計画書や、産業廃棄物許可申請に必要な経営診断書など、専門性の高い書類作成もおこないます。
ほかにも、自身の知識を活かしてセミナーを開催する、商工会議所や県協会が実施する中小企業向けの窓口経営相談に参加するなど、中小企業診断士の仕事内容は多岐にわたります。
※参考:中小企業診断士とは|中小企業庁
厚生労働省が運営している職業情報提供サイトのjob tagによると、中小企業診断士の年収平均は、780.9万円という結果でした。
国税庁の民間給与実態調査で、給与所得者の平均給与は458万円(令和4年分)なので、中小企業診断士の年収は一般的な会社員と比べて高い水準にあるといえます。
年収水準が高めなのは、難関の国家資格であることや、会社員経験を経て取得する人も多く資格保有者の年齢がある程度高いことなどが影響していると考えられます。
実際に年齢別の年収データでは、50歳〜54歳の年収が1086.19万円となっています。
中小企業診断士は独立している人だけでなく会社員として働いている人も多く、独立か会社員かという違いもあるでしょう。
※参考
中小企業診断士 - 職業詳細 | job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))
中小企業診断士になるメリットはさまざま考えられますが、まずは社会的な意義や価値の高い仕事に従事できることが挙げられます。
日本経済の基盤である中小企業の成長や発展を支援する仕事は、社会への貢献度が高く、やりがいも感じやすいでしょう。
中小企業は多数あるため、自分の専門分野や興味に応じて業界や分野の中小企業を支援できます。
また、中小企業診断士はただ資格があればよいという仕事ではなく、中小企業の多様なニーズに応えるために幅広い知識やスキルが必要です。
そのため、中小企業診断士資格の試験や自己学習、人との出会いなどを通じて自分の能力を高めることができます。
高めた能力は独立だけでなく、会社員として活躍するために活かすことが可能です。
そのほか、資格取得によって現職で評価されて資格手当がつく、仕事の幅が広がり売上が上がるなど、年収アップにつながる可能性があることもメリットです。
デメリットとして挙げられるのは、中小企業診断士資格の勉強や幅広い知識やスキルを得るための努力が必要なことです。
資格の難易度は非常に高く、現職と並行して勉強時間を確保するのは並大抵の努力では足りません。
資格取得後にも、常に最新の経営や事業に関する知識や情報をキャッチアップしなければならないため、継続学習が必要です。
また、独立した場合は自分で仕事を獲得しなければならないことも多く、営業力やコミュニケーション力も求められます。
経営に関する知識が豊富でも、営業力やコミュニケーションの面で不安がある場合には独立が難しい可能性があります。
中小企業診断士の資格があっても、順当にキャリアを築けるわけではない点に注意が必要です。
中小企業診断士として活躍できる分野として、「経営企画・戦略立案」「経営全般」「販売・マーケティング」「財務」「事業継承・M&A」などが挙げられます。
中小企業診断士の本業は経営コンサルティングなので、経営企画・戦略立案や経営全般のニーズは高いでしょう。
一方、販売・マーケティングや財務など一定の専門知識が必要な分野においても中小企業診断士が活躍しています。
この場合、中小企業診断士のほかに、会社員としての実務経験や他士業の資格なども活かしていると考えられます。
事業継承・M&Aについては、経営者の高齢化が進み事業継承やM&Aに関して悩みや疑問を抱えているケースが多いため、今後の需要が期待できる分野です。
資格取得後には、さまざまなキャリアパスを展開できます。
以下では、一般的なキャリアパスの選択肢を解説します。
現在働いている企業で、中小企業診断士の資格や知識を活かして働くことも一つの手段です。
職場環境に満足しているため、独立や転職などは考えていないものの、スキルアップやキャリアアップのために取得するというケースは珍しくありません。
企業内で働く場合、自社の経営改善や事業拡大に役立てることができます。
たとえば、業務プロセスの改善やDXの推進、取引先中小企業への下請指導やリテールサポートなどの業務で知識を活かせます。
経営コンサルティング会社では、幅広い業界や企業の課題に対して、専門的な知識や経験を活かして提案や支援をおこなっています。
中小企業診断士の本業と重なる部分が大きいため、知識や経験を活かしやすく、中小企業診断士資格が評価の対象にあることもあります。
多様なクライアントと接することで人脈や視野が広がり、スキルアップにもつながるでしょう。
しかし、長時間労働や出張などの負担も大きい場合があるため、資格取得後のキャリアとして考える場合には適性を判断する必要があります。
会計事務所や税理士事務所では、会計・税務サービスの提供だけでなく、中小企業の経営コンサルティングもおこなうことが多々あります。
こうした事務所は、中小企業の経営者と近い距離でアドバイスや支援を提供することが多く、事業継承やM&Aなど秘匿性の高い相談を受ける機会も少なくありません。
そのため、会計事務所や税理士事務所で働くことは、中小企業診断士としての経験やスキルを活かしやすいキャリアです。
財務諸表の作成や税務申告なども、経営コンサルとあわせて実施できるため、中小企業からの信頼や依頼を獲得しやすくなるでしょう。
自分で事務所を開いて、独立開業することも可能です。
独立開業の場合、自分の得意分野や興味のある業界特化してサービスを提供することもできます。
また、働く時間や場所などを自由に選べるのも魅力です。
ただし、独立開業するには自分で取引先を探したり、契約したりしなければならず、高い営業力が求められます。
また、収入の不安定さや経営に関するリスクを自分ひとりで負うデメリットもあります。
中小企業診断士は企業に対する経営アドバイスをおこなう仕事なので、経験や信頼性が重視されます。
そのため、社会人経験が豊富な50代以上の人も多く活躍しており、セカンドキャリアへの活用を視野に資格を取得するというケースも少なくありません。
たとえば、早期退職制度に募集するタイミングで取得する、役職定年のタイミングで退職して中小企業診断士のキャリアをスタートさせる人などがいます。
人生100年時代といわれる中で、セカンドキャリアの選択肢として中小企業診断士が注目されています。
ここからは、中小企業診断士資格試験の概要や難易度、勉強方法のポイントなどについて解説します。
中小企業診断士として登録するためには、一般社団法人 中小企業診断協会が実施する、第一次試験の合格が必要です。
例年、8月上旬に2日間にわたって試験が実施されます。受験資格はとくにありません。
経営やコンサルに関する基本的な知識を問う試験で、7科目の筆記試験(多肢選択式)が実施されます。
第一次試験合格のあとは、同協会が実施する第二次試験に合格する必要があります。
こちらは、中小企業診断士になるのに必要な応用能力があるかを判定する試験で、筆記試験および口述試験が実施されます。
筆記試験に合格した人だけが、口述試験を受けることができます。
例年の実施時期は筆記が10月下旬、口述が12月中旬です。
第二次試験に合格したあとは、15日以上の実務補習または診断実務に従事します。
もしくは、中小企業基盤整備機構または登録養成機関が実施する養成課程を修了することでも登録可能です。
中小企業診断士の合格率は、第一次試験が20%~30%前後、第二次試験が18%~20%前後で推移しています。試験全体の合格率は4%〜6%です。
令和4年は第一次試験が28.9%、第二次試験は18.7%、試験全体の合格率は5.4%でした。
そして、最終合格率は4%~6%という極めて低い数字となっており、その難易度の高さがうかがえます。
合格するのに必要な勉強時間は約1,000時間といわれており、1年間だけ集中して勉強する場合でも毎日3時間近くの勉強が必要な計算です。
※参考:一般社団法人 中小企業診断協会|中小企業診断士試験 申込者数・合格率等の推移
独学で合格する人もいますが、独学での合格可能性はかなり低いです。
1回の受験で1,000時間の勉強が必要な中で、重要論点とそれ以外の区別がつけにくい独学は非効率といわざるをえません。
場合によっては、受験までの期間が長引く可能性があります。
そのため、最短で資格を取得するなら、資格の学校やオンライン講座の利用がおすすめです。
第一次試験および第二次試験の筆記試験の合格基準は、総得点の60%以上かつすべての科目で40点以上です。
各科目で合格ラインをクリアするためには、過去問が重要になります。
出題頻度が高い過去問で、点数を確実にとっていくことが合格への近道です。
1科目でも40%点未満があるといくら総得点が高くても不合格になるため、万遍なく知識の底上げをするよう意識しましょう。
会社員として働きながら試験合格を目指す場合は、いかに勉強時間を確保するのかも重要なポイントとなります。
平日は通勤時間や待ち時間などのスキマ時間を活用する、週末はある程度まとまった勉強時間を確保するなど、自分にあった時間確保の方法を早い段階で確立させましょう。
中小企業診断士の課題や不安の声、AIの代替可能性やキャリアを広げる有効な方法を解説します。
弁護士や司法書士、公認会計士などの国家資格には、各法律においてその職業にしかできない独占業務が定められています。
一方、中小企業診断士は国家資格ではあるものの、独占業務がありません。
このことを「取得する意味がないのでは?」「ほかの士業と比べて仕事の安定性に欠けるのでは?」など、不安視する声があります。
たしかに、独占業務があれば企業は仕事内容をイメージしやすいため、仕事の依頼にも直結しやすいでしょう。
しかし、中小企業診断士は独占業務がないからこそ、自分の知識やスキルを活かして幅広いフィールドで活躍することが可能です。
資格を取得したからといって、必ずしも収入が上がるわけではありません。
中小企業診断士資格が収入に直結するかどうかは、資格手当の有無や資格取得者への評価制度といった勤務先の決まりや、独立後の営業力などによって大きく異なります。
すぐに独立を考えていない場合は、副業として収入を増やす方法もあります。
たとえば、会社員をしながら週末だけコンサルティングをする、専門知識をブログや動画で発信するなどの方法です。
多くの仕事がAIに代替されると予想されていますが、中小企業診断士はAIに代替されにくい仕事です。
これは、中小企業診断士の主要業務が経営コンサルティングであり、定型業務とは一線を画す業務だからです。
AIは、客観的な情報やデータを示すことが得意なので、経営コンサルティングのサポートはできます。
しかし、クライアントの真のニーズを理解し、信頼関係を築くことはできません。
これらは、経営者や従業員などとのコミュニケーションを通じて得られるものであり、AIには代替できない人間的な能力が必要です。
したがって、中小企業診断士はAIが発展・普及する世の中でも、将来性のある仕事といえるでしょう。
中小企業診断士は、中小企業の経営課題を診断・発見し、解決策を提案する仕事です。
国家資格として認められており、難易度は高いですが社会的意義の高く、やりがいも大きい仕事です。
会社員のスキルアップやセカンドキャリアとしても注目されているため、興味がある方はチャレンジしてみてはいかがでしょうか。