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社外取締役は、「取締役」として会社経営の役割を持ちながら、「社外」から経営における意思決定や業務執行に関する監督をおこなう立場の人物です。
社外取締役を採用する場合には、その名の通り「社外」の客観的な立場にある人物を採用する必要があり、具体的には次のいずれの条件にも該当している必要があります。
十五 社外取締役 株式会社の取締役であって、次に掲げる要件のいずれにも該当するものをいう。
イ 当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役(株式会社の第三百六十三条第一項各号に掲げる取締役及び当該株式会社の業務を執行したその他の取締役をいう。以下同じ。)若しくは執行役又は支配人その他の使用人(以下「業務執行取締役等」という。)でなく、かつ、その就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等であったことがないこと。
ロ その就任の前十年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)又は監査役であったことがある者(業務執行取締役等であったことがあるものを除く。)にあっては、当該取締役、会計参与又は監査役への就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等であったことがないこと。
ハ 当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと。
ニ 当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役等でないこと。
ホ 当該株式会社の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は二親等内の親族でないこと。
引用元:会社法|e-Gov法令検索
社外取締役の採用にはさまざまな方法があり、次のような採用方法が主流です。
本記事では社外取締役の採用が必要な理由や、採用方法・採用すべき人材の特徴などを解説します。
採用には時間とコストがかかります。ミスマッチな人材を選任してしまうと、報酬が無駄になってしまいます。
採用に失敗しないように、本記事を参考にしてみてください。
委員会設置会社と一部の上場企業には、会社法で社外取締役の設置が義務付けられています。
令和元年12月4日に会社法の一部が改正され、社外取締役の設置義務化に関する内容ができました。
(社外取締役の設置義務)
第三百二十七条の二 監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは、社外取締役を置かなければならない。
引用元:会社法|e-Gov法令検索
上場企業の場合は、証券取引所の上場規則によって社外取締役の設置が義務付けられます。
例えば東京証券取引所(東証)の有価証券上場規程施行規則では、第436条の2、第437条の2で独立役員および社外取締役を確保すべき旨が規定されています。また、コーポレートガバナンス・コードでも独立社外取締役の選任が要請されています。
(独立役員の確保に関する取扱い)
第436条の2
規程第436条の2第2項に規定する独立役員の確保については、次の各号に定めるところによる。
(1) 上場内国会社は、独立役員に関して記載した当取引所所定の「独立役員届出書」を当取引所に提出するものとする。
(2) 上場内国会社は、前号に規定する「独立役員届出書」を当取引所が公衆の縦覧に供することに同意するものとする。
2 上場内国会社は、前項に規定する「独立役員届出書」の内容に変更が生じる場合には、原則として、変更が生じる日の2週間前までに変更内容を反映した「独立役員届出書」を当取引所に提出するものとする。この場合において、当該上場内国会社は、当該変更内容を反映した「独立役員届出書」を当取引所が公衆の縦覧に供することに同意するものとする。
追加〔平成21年12月30日〕、一部改正〔令和4年4月4日〕
(社外取締役の確保)
第437条の2
上場内国会社は、社外取締役(会社法第2条第15号に規定する社外取締役をいう。)を1名以上確保しなければならない。
追加〔令和3年3月1日〕、一部改正〔令和4年4月4日〕
会社法や証券取引所の上場規則によって社外取締役の設置が義務付けられている企業では、基準を満たす形で社外取締役を設置しなければなりません。
委員会設置会社や上場企業ではなくても、会社のリスク軽減やコーポレートガバナンス強化の目的で、社外取締役を採用する企業が増えています。
社外取締役の設置義務がなくても、社外取締役を採用する理由は何なのでしょうか。
社外取締役を採用する目的として、次の3つが代表的です。
それぞれ解説していきます。
外部の人材を取締役として設置することで、社内および経営陣の監視強化につなげることができます。
外部の人材である社外取締役は経営陣との癒着が生じにくく、経営陣に対する監視にも非常に大きな効果をもちます。
これにより不祥事等のリスクを低減することができ、安定的な経営が実現します。
外部から社外取締役を採用することは、それ自体が対外的に経営の透明性をアピールすることにつながります。
社外取締役の採用により健全な経営を推し進めようとするメッセージが伝われば、株主やその他のステークホルダーからの信頼を獲得できるでしょう。
社外取締役は、社内の環境下では育ちにくい専門性や経験を有している場合があります。
元経営者や弁護士・会計士などの有資格者を社外取締役に迎え入れるケースが多いのは、社外の人材特有の専門性や経験を求めた結果です。
自社に足りない知識やスキルをもつ社外取締役を選任することで、経営陣のスキルバランスが改善され、経営判断の質の向上が期待できます。
社外取締役は、会社法が定める条件のほかに、自社独自の採用基準をもとに選任します。
当たり前ですが、社外取締役に求めるスキルや経験は採用する企業によって違います。
どのような社外取締役が必要かを判断するためには、近年取締役会で取り入れられることが増えてきたスキルマトリックスを活用するとわかりやすいでしょう。
スキルマトリックスとは、役員のスキルや専門性を可視化して一覧にしたもので、次のように表にして作成します。
既存の役員で不足しているスキルや強化したいスキルを、社外取締役で補います。
上記の表は、あくまでも一例です。自社で求めるスキルに当てはめて作成しましょう。
SOMPOホールディングスや伊藤忠商事株式会社など、コーポレートサイトにてスキルマトリックスを公開する企業が増えています。参考にしてみましょう。
経済産業省の社外取締役実態調査によると、社外取締役のバックグラウンドとして以下の職種・業種が多くみられました。
これらの経歴を持つ人材が、社外取締役に向いている理由や強みを説明します。
社外取締役の経歴として最も多いのは、経営経験者です。経済産業省によると、社外取締役の約半数が経営経験者でした。
経営を経験した人であれば、企業を拡大する手順や経営における注意点などを実際の経験をもとにアドバイスできます。経営に必要なスキルを満遍なく持っている人が多いでしょう。
経営者同士での話も合いやすいため、人柄的にも好まれます。
法律のプロである弁護士は、社外取締役に適任です。
近年のコンプライアンス意識の高まりから、社内で弁護士を採用している企業も増えていますが、社外取締役に弁護士を採用することで経営陣が法務やリスクマネジメントに強くなれます。
企業内弁護士(インハウスローヤー)と違って、外部の弁護士であるために客観的な判断ができることも魅力です。
会計や税務のプロである、公認会計士や税理士が社外取締役として採用されることもあります。
公認会計士は会社の決算を監査する分野での知識に優れており、税理士は財務資料を作成する上で活躍します。
社外取締役に公認会計士や税理士を採用することで、投資家からの信頼を得やすくなります。
金融機関で働いた経験がある人物が、社外取締役として採用されることがあります。
金融機関出身の社外取締役は、資金調達や資産運用の分野から経営を安定・向上させていきたいときに力になってくれる存在です。
また金融機関のネットワークを活用して、コネクションを構築する橋渡し役になります。
資金調達をスムーズにしたいと考えている企業は、金融機関出身者を社外取締役として採用することを検討しましょう。
社外取締役の候補を一般的な採用活動で集めることは困難です。社外取締役を採用する4つの方法を紹介します。
社外取締役の候補者を、投融資にコネクションを持っているベンチャーキャピタルや証券会社が紹介してくれるケースがあります。
取引があるベンチャーキャピタルや証券会社なら、自社の風土や経営状況にあわせて人材を紹介してくれるでしょう。
弁護士業界とも深い関わりがあるため、弁護士の社外取締役候補を紹介してくれることもあります。
担当者と連絡をとる際に、社外取締役の採用について相談してみましょう。
弁護士会では、社外役員候補者名簿を作成しています。
東京弁護士会や神奈川県弁護士会など、各地域の弁護士会が個別に発行しています。日弁連のサイトに、各弁護士会の名簿一覧が掲載されています。
社外役員を希望し、一定の弁護士会登録年数や研修受講などの要件を満たした弁護士が、社外役員候補者名簿に掲載されます。
名簿に記載されている内容は、基本的な項目と自由記述のコメント欄があります。コメント欄には、社外役員の経験やMBA、留学経験などの経歴が記載されています。
社外取締役の候補を選ぶ際に、コメント欄を役立てることができます。
参考:社外役員をお探しの企業の方へ~女性弁護士の候補者名簿ご案内|日本弁護士連合会
ハイクラス向け転職エージェントで社外取締役を採用する方法もあります。
一般求職者向けの転職支援サービスでは適任者にリーチしづらいですが、ハイクラス向けや社外取締役に特化したサービスであれば候補者探しに役立ちます。
また弁護士や会計士にバックグラウンドを絞って候補者を探す場合、弁護士向け・会計士向けなどの職種特化型転職エージェントもおすすめです。
社外取締役に求める経歴やスキルをもとに、利用するサービスを選定しましょう。
社外取締役の適任者を探している企業と、社外取締役希望者をマッチングするサービスも登場しています。
マッチングサービスには常時希望者が登録しており、データベースのなかから条件に合った候補者に絞ってアプローチできます。
たとえば、社外取締役や非常勤監査役のマッチングサービス「ExE(エグゼ)」は、弁護士・会計士などの資格や報酬、対応言語などの条件で検索できます。
社外取締役の選任希望フォームを送ると、担当者がついて、詳細条件をヒアリングしたうえで候補者を紹介してくれます。
ExE公式サイト:https://exe-pro.jp/
社外取締役の採用における失敗パターンと、その回避方法などを解説します。
社外取締役には、単に優秀で多様な経歴をもつ人材が就任するわけではありません。
既存の経営陣では補えない分野に強く、自社のビジネスにおいて実力を発揮できる人材でなければいけません。
どれだけ優秀な人でも自社が求めるスキルをもたない社外取締役では、無駄な報酬を支払うことになります。
社外取締役を兼任することは禁止されていません。
兼任自体は問題ありませんが、競合する企業で兼任する場合はどちらかが損害を被る可能性があります。取引に関する損害を防ぐために、会社法第三百五十六条で競合取引が制限されています。
専門分野やスキルだけをみて候補者を探すと、選考中に競合他社の社外取締役であることが判明するかもしれません。
社外取締役を選ぶ際には、他での活動や経歴もしっかり調査しましょう。兼務予定の企業がある場合には、その企業について調査しましょう。
社外取締役は、本業があったり、兼任していたりすることもあります。
他での活動が忙しくスケジュールに余裕がない人を採用してしまうと、本来の役割を果たせない場合があります。
自社について知ったり事業に関わる調査をしたりする時間を十分にとれずに、上辺だけのアドバイスしかできない可能性があります。
自分で会社を経営していたり兼任している人は、それだけ優秀で人気が高いため、役割を果たしていなくても報酬だけが高くなってしまうこともあります。
経歴やスキルでは劣っていても、自社の活動に時間を割いてしっかりとサポートしてくれる人を採用した方が、社外取締役を採用する意味があるでしょう。
採用した社外取締役に健康上の問題があれば、取締役会を欠席することになったり、業務全体に影響がでるでしょう。
社外取締役の候補者には経験を積んできた人物が選ばれるため、年齢も40〜50代以降になることが多いでしょう。
年齢が上がるにつれて健康的なリスクも上がりやすくなるため、注意が必要です。
社外取締役を採用・選任する流れを紹介します。
まず社内役員の業務とスキルを洗い出し、何ができて何が不足しているかを明確にしましょう。社外取締役には、その不足部分を補える人材が適任です。
場合によっては、社内役員だけで事足りることがあります。本当に社外取締役が必要なのか、改めて確認しましょう。
スキルの過不足を確認する際には、スキルマトリックスが役に立ちます。視覚的にみえる形で整理することで、認識漏れをなくしことができるでしょう。
不足スキルを補える社外取締役とはどんな人物なのか、具体的に条件を設定しましょう。
たとえば社内に法務スキルがある人物が少ないのであれば、法律に強い弁護士を社外取締役として採用します。
社外取締役に求める条件が決まると、採用方法もおのずと決まってきます。弁護士を採用するなら、弁護士会の名簿や弁護士特化のエージェントを利用します。
会社の現状だけでなく、今後の展開を考えて必要なスキルを検討することも大切です。たとえばIT分野への進出を目指しているのであれば、IT業界での経営経験者を候補にします。
先を見据えることで、長く活躍してもらえる社外取締役を採用することができるでしょう。
社外取締役を採用するにあたって、社外取締役に支払う報酬を決めておかなくてはなりません。
経済産業省の調査によると、社外取締役の報酬額は600万~800万円未満が相場です。次いで400万~600万円未満、200万~400万円未満が多い結果でした。
上場企業や時価総額が1,000億円以上の企業など、大企業ほど報酬が高くなる傾向にあります。また、取締役会議長や委員長を務めていると報酬が高いようです。
社内にいることが少なくても、ほぼ社員1名分の報酬を支払うことになります。適任者を選び、報酬分の選任メリットを得られるようにしましょう。
証券会社の紹介やマッチングサイトなどの採用手段を活用し、社外取締役の候補をピックアップしていきましょう。
はじめから1つの採用法に絞らず、複数の採用ルートを利用することをおすすめします。採用ルートから限定してしまうと、候補者が集まらない可能性があります。
社外取締役の候補者がある程度集まったら、その中から適任者を絞っていきます。スキル・経験の有無や他の社外取締役の兼任の有無などを事前に調べ、理想の社外取締役像に近い候補者を選んでいきましょう。
社外取締役候補者と面談し、求める経験やスキルにミスマッチがないかを確認しましょう。
さらに、社内役員との相性やコミュニケーション能力など、対面でしか分からない定性面を評価します。取締役会に参加するなど経営に深く関わる人物のため、経営陣との相性やコミュニケーション能力は重要です。
経歴・スキルも人格も問題ないことが確認出来たら、最終決定に進みます。
社外取締役の選任は通常の取締役を選任する際と同様に、株主総会での決議によって選任し、委任契約を当該候補者と結びます。
(選任)
第三百二十九条 役員(取締役、会計参与及び監査役をいう。以下この節、第三百七十一条第四項及び第三百九十四条第三項において同じ。)及び会計監査人は、株主総会の決議によって選任する。
(株式会社と役員等との関係)
第三百三十条 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
引用元:会社法|e-Gov法令検索
取締役の選任には登記が必要ですが、取締役就任の登記だけでよい場合と、取締役就任の登記と社外取締役である旨の登記が必要な場合の2パターンがあります。
後者の社外取締役就任の登記が必要なのは、以下のケースのみです。
登記手続きに関しては、原則として株主総会で決議を行った日の翌日から2週間以内に、関連書類を管轄法務局に提出しなければなりません。
社外取締役は一部の企業で設置が義務化されているほか、健全な経営をおこなうために必要な存在です。
社外取締役を採用する際は、社内の役員に不足しているスキルをもち、専門性が高いバックグラウンドの人物を採用しましょう。
社外役員のマッチングサービス「ExE」などを利用すると、自社にマッチした人材を効率的に探すことができます。採用に失敗しないよう、候補者選びは慎重におこないましょう。