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会社内で問題行動を起こす社員がいる場合、懲戒処分を検討することもあるでしょう。
懲戒処分とは、組織が秩序を維持するために科せられる制裁のことで、減給や懲戒解雇などが挙げられます。
ルールに沿って懲戒処分をおこなわないと、逆に会社側が労働者から不当解雇や減給として訴えられてしまいます。
こちらの記事では、主に企業側目線で懲戒処分をおこなう際に知っておきたいルールや懲戒処分をおこなう手順、懲戒処分の種類などについてご説明します。
最終的には企業の法務部門でしっかり検討したり、顧問弁護士などに相談したりしながら対応することが一番ですが、その前段階の情報収集としてお役立てください。
そもそも、なぜ企業が懲戒処分をおこなうのかというと、組織の秩序を守るためです。
たとえば遅刻や無断欠勤を繰り返す社員をそのままにしていると、他の社員にも悪影響を及ぼして、企業全体の士気を下げ社内の雰囲気が悪くなってしまいます。
労働者は企業と雇用契約を結んでおり、労働を提供することが義務付けられています。企業側は組織として円滑に機能するために就業規則等でルールを定めています。
このルールを守らなかった際に与える制裁が懲戒処分となり、企業の秩序を守るための秩序罰として法律上認められています。
しかし、経営者のさじ加減で懲戒処分をおこなうのではなく、しっかりと就業規則等に懲戒処分に関する内容を明記した上で、合理的な理由と社会的にも懲戒処分が相当だと判断される場合にのみ認められます。
(懲戒)
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
懲戒処分の具体的な処罰内容は、以下の7種類にわけられます。前者よりも後者のほうが、処罰が重くなります。
処罰の内容は次のとおりです。
懲戒処分での「戒告(かいこく)」とは、問題行動を取ってしまった従業員に対して注意をおこない、将来の改善を求めるものです。
「譴責(けんせき)」の場合には、始末書の提出が求められます。
始末書とは、問題行動を取ってしまった従業員が事実を明らかにして謝罪し、将来の改善を誓うことを書いた書類です。
「減給」は、一定期間、給料の一部の割合を減額する処分のことです。
減給するにあたって合理的な理由があり、一定の条件を満たしたうえでの措置をおこなう必要があります。
具体的な懲戒処分の手順については後述しますが、経営者の都合だけで簡単に減給はできません。
問題があった社員を一定期間、会社に出勤させない「出勤停止」処分も懲戒処分の1つです。
出勤停止中には給料の支給も停止されますので、きちんと事実確認等の手順を踏んだ上で出勤停止命令を出すようにしましょう。
似たものに「自宅待機」がありますが、こちらは懲戒処分ではなく、会社の都合で一時的に会社での業務を停止するものです。
例えば、機材トラブルや社内での疫病の流行など社内で仕事ができない場合に発令することがあります。自宅待機では給料の支払い義務が生じますので注意しましょう。
「降格」は、役職や職務上の資格を下げる処分のことです。
懲戒処分によって降格を命じることもできますが、降格された従業員は給与やキャリアなどに大きな影響が出てくるため、こちらもしっかりとした手順で降格処分を言い渡す必要があります。
また、降格は懲戒処分だけでなく、配置転換や能力不足を理由にした人事権行使でおこなう場合もあります。
いずれにしても正当な理由がないまま降格しても、対象従業員とトラブルになってしまいますので、事実確認をおこなった上で合理的な理由を持って降格を伝える必要があります。
「諭旨解雇(ゆしかいこ)」は、従業員に対して退職勧告をおこない、従業員自らに退職届を提出させた上で解雇する懲戒処分の方法です。
従業員が諭旨解雇に応じない場合は、下の懲戒解雇に進むことが一般的です。
解雇は従業員にとって最も重い処分になるため、犯罪行為や長期無断欠勤などの重大な就業規則違反に該当した場合のみになります。また、就業規則にあらかじめ解雇に関する内容を記述しておく必要があります。
つまり、企業側だけの主張では簡単に社員を解雇できないのです。
「懲戒解雇」は、懲戒処分の中でも最も重い処分で、会社から一方的に解雇を言い渡して労働契約を解除する方法で、解雇予告がないまま即時解雇することが可能です。
懲戒解雇の場合には退職金を支払わないことも多いのですが、退職金を支払わないためには就業規則等に退職金規定を設けておく必要があります。
最も重い懲戒処分であるため、事実確認と就業規則等の記載内容の確認などをおこなった上で慎重に進めましょう。
懲戒解雇をおこなう場合、労働者側と不当解雇問題が生じやすいので、顧問弁護士などの法律知識を持った専門家の助言を参考にしながら進めることが理想的です。
懲戒処分は戒告のように注意で終わるものから、減給・出勤停止のような給与に関わるもの、諭旨解雇・懲戒解雇のような従業員が立場を失うものまでさまざまです。
いずれの懲戒処分を下す場合でも、必ず合理的な理由が必要です。
問題行動の程度や件数などによっても懲戒処分の重さが変わりますが、具体的に社員のどのような行動に対して懲戒処分をおこなえるのか、一例を紹介します。あくまでも一例のため、参考程度にしてください。
なお、懲戒処分をおこなうためには、就業規則に懲戒処分に関する内容を記載している必要があります。以下で紹介する例はいずれも就業規則前提として、それぞれの行為について懲戒処分が科される旨が就業規則に明記されているものとします。
パワハラやセクハラなどのハラスメント行為が社内でおこなわれた場合、ハラスメント加害者を懲戒処分として扱える可能性があります。
程度や頻度にもよりますが、傷害事件や性犯罪などにも該当するような悪質なハラスメント行為は一発で懲戒解雇の対象になるケースも珍しくありません。
一方で、部下をからかったりカッとなって暴言を吐いたりするようなケースでは、まずはけん責で注意をおこない改善を求めます。それでも行為が続くようであれば、減給や出勤停止などの重い懲戒処分の検討が必要です。
無断欠勤や遅刻などが続く社員にも、懲戒処分が科せられる可能性があります。
無断欠勤をされて重要な業務に支障が出てしまった場合、その社員に対する信用が低下し、解雇等を考えることがあるでしょう。ただし、一度の無断欠勤だけでは懲戒解雇の合理的な理由にはならないことがほとんどです。
まずは、けん責や減給などの処分で対応し、それでも続くようであれば解雇も検討していきます。
なぜ無断欠勤が起きたのかの事実確認もおこない、改善を図っていくことは経営者の役目です。
社員が会社の売上金の一部を持ち帰ったり、架空の請求書を作成して費用の一部を自分のものにしたりした場合、業務上横領の犯罪行為に該当する可能性が出てきます。
横領した金額や頻度などにもよりますが、懲戒解雇も検討するべき重大な問題です。また、会社として該当社員を刑事告訴すべきかどうかも検討しましょう。
ただし与える処分が重い分、事実確認はしっかりおこなった上で今後どうしていくかを考えていく必要があります。
金額が少なく、被害額を弁償できるようであれば諭旨解雇などの処分にすることもありますが、横領が事実であれば重い処分を与えることになるでしょう。
顧客リストや取引先の情報、重要な企業内情報など、会社内には社内でしか知り得ないような機密情報が多くあります。
これらの機密情報を意図的に外部に流出させたり、不注意で紛失したりした場合には、懲戒処分の検討対象です。
処罰の種類は、漏洩した情報の重要度や対象社員が故意に流出させたのかなどによって異なります。
たとえば、社内の主力商品の技術情報をSNSで流出させ、自社に対して大きな損害を生じさせた場合には、一発で懲戒解雇も検討できる段階です。
一方、過失で取引先との契約書を紛失させてしまった場合などは、まずはけん責等の軽い懲戒処分から検討していきます。
情報の重要度や故意の有無、会社に対する損害などで懲戒処分の程度を決めていきます。
基本的に社員の不倫に関しては、企業が関与することはできません。不倫自体は犯罪行為ではなく、当事者同士の個人の問題になるからです。
ただし、社内の従業員同士で不倫をしていた場合、職場の秩序を乱す行為に該当することが合理的理由と認められ、懲戒処分の対象となる可能性があります。
社内不倫を理由に懲戒処分をするためには、不倫の事実を確認するだけでなく、他の社員や業務への影響なども加味して処分内容の検討が必要です。
懲戒処分をおこなうためには、決まりや手順があります。こちらの項目では、懲戒処分をおこなう際の注意点についてご説明します。
懲戒処分を下すためには、大前提として就業規則に懲戒処分に関する内容を記載しておく必要があります。その上で、懲戒処分をおこなうに値する合理的な理由が必要です。
懲戒処分をおこなう際には、就業規則等に明記しておく必要がありますが、就業規則に記載があったからといって、どんな理由でも懲戒処分して良いわけではありません。
労働契約法第15条では懲戒に関する記載がありますが、合理的な理由を欠き「社会通念上相当」とは認められない場合には、懲戒処分が無効になるとあります。
社会通念上相当とは、一般的に考えてその処分が正当で平等におこなわれているかどうかです。
たとえば、一度の遅刻で懲戒解雇を言い渡すことは、一般的に考えても重すぎる処分内容です。つまり問題行為の内容や頻度、会社に対する損害の有無などによって処分内容を検討する必要があるということです。
社員の問題行動が発覚したからといって、いきなり懲戒処分をおこなってよいわけではありません。社会的相当性を検討した上で処分内容を決める必要もありますし、そもそもその問題行為が事実かどうかも確認しなくてはなりません。
また、いくら社会的に問題ある行為だったとしても、就業規則に懲戒処分に関する内容が記載されていなければ、不当な処分になってしまう可能性があります。
それらを踏まえた上で、懲戒処分は主に次のような手順でおこなっていきます。
具体的な手順の内容については後述しますが、問題行動が発覚したからといっていきなり懲戒処分にはできないため、慎重な対応が必要です。
突発的な考えで、簡単に懲戒処分を下すことはできません。
よくドラマなどで「お前はクビだ!」などと、一方的に解雇を言い渡すようなシーンがありますが、そのように簡単に解雇できるものではないと理解しておきましょう。
懲戒処分や解雇をする場合には、次の項目でご説明するような正しい手順によって合理的な理由を持って処分を下す必要性があります。
最後に、懲戒処分を正しくおこなうための手順についてご説明します。基本的に、次のような手順を取っておく必要があります。
懲戒処分をおこなうには、就業規則に懲戒処分に関する内容を記載しておく必要があります。
10名以上の労働者を雇っている企業であれば、就業規則を作成しているはずですので、まずは自社の就業規則の内容と該当する処分内容を照らし合わせましょう。
企業の規模によっては、そもそも就業規則が用意されていない場合もありますので、就業規則を作っておくことが先です。厚生労働省の「モデル就業規則」を参考にしてください。
なお、就業規則に記載があったからといって、どのような内容でも懲戒処分できるとは限りません。社会的相当性と合理的な理由が必要です。
就業規則で懲戒処分について記載をして終わりではありません。
就業規則で取り決めた懲戒処分について従業員に周知し、必要に応じて説明の機会を設けましょう。
就業規則で懲戒処分の内容を確認した後は、実際に社員の問題行動が起きていたのか、具体的にどのような行為があったのかを確認する必要があります。
問題行為の内容にもよりますが、周囲の社員から聞き取り調査をおこなったり、出勤記録や入出金記録などの資料を参考にしたりします。
ただし、ハラスメントなどの被害者がいる問題であれば、社内で噂が広がることを恐れて被害者が事実を隠してしまうことも起こりえるため、調査にはプライバシー配慮が必要です。
また、横領等や悪質なパワハラ等の犯罪行為にも該当する内容は、聞き取り調査だけでなく、物的証拠も確保しておくことが望ましいです。
問題行為の事実が明るみに出た後も、直ちに懲戒処分を与えるのではなく、まずは該当社員の弁明の機会を設けます。
実際におこなったのかを確認し、実際にやったのであれば反省や理由などを聞きましょう。そのうえで懲戒処分をおこなうかどうか、処罰の種類をどうするか判断します。
一方で「やっていない」と反論する場合には、上記のように事実確認によって得られた情報や証拠を提示することで、事実を話してくれることがあります。
また、弁明に応じないなどして問題行為の疑いがある社員から話が聞けなくても、他の社員からの説明や物的証拠などから問題行為が事実だと判断できれば、懲戒処分をおこなえる場合があります。
該当行為の程度や反省・賠償の有無、処分の平等性をみて、社会的に相当といえる処罰を決定する必要があります。
具体的には、次のような事情を考慮して、処罰を検討していきます。
懲戒処分をおこなうことで減給や解雇などの法的効果が生じてきますので、懲戒処分の内容も該当社員に通知する必要があります。
通知もなしに一方的に処分を出すことはできませんので、懲戒処分通知書などを作成し、本人に手渡しする方法が一般的です。
場合によっては通知書を受け取らない社員が出てくることもありますが、その場合、内容証明郵便などの記録に残る形で書類を送り、該当社員が「そのような通知は知らない」と言い逃れされることを防いでおく必要があります。
この段階で反論してくる社員とは問題にもなりやすいので、一度顧問弁護士などに相談しながら対応を考えていくことが望ましいです。
再発防止策として、懲戒処分について社内公表も検討しましょう。
しかし、具体的な氏名や被害内容まで公表してしまうことで、該当社員の名誉毀損やハラスメント被害者のプライバシー侵害にもなる危険性があります。
必要最低限な部分だけを公表し、氏名や具体的な事象を伏せた上で再発防止に繋がる通知にとどめると良いでしょう。
懲戒処分とは、会社などの組織が秩序を維持するために科せられる制裁のことです。
懲戒処分をおこなうためには、まず就業規則に懲戒に関する内容の記載が必要です。その上で、社会的相当性と合理的な理由の有無を検討し、どの程度の処分にするかを検討していきます。
繰り返しますが、懲戒処分は簡単にできるものではありません。もし社員の問題行動が起こってしまった場合には、どのように対処していくかを慎重に検討していく必要があるでしょう。