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インターネットの発展やグローバル化にともない、あらゆる情報が瞬く間に広がり、世界中の人々とつながることができる時代になりました。
同時に職業や性別、人種などのさまざまな面で差別や偏見、摩擦などが生じています。こうした中で、多くの企業が取り組みを強化しているのがポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)です。
ポリコレは「言論統制につながる」「逆差別になる」「やりすぎ」などの否定的な意見も多数ありますが、企業が取り組むことのメリットも存在します。
この記事では、ポリコレの意味や歴史を紹介するとともに、企業が取り組むべき理由や課題、事例などについて解説します。
ポリコレとは、ポリティカル・コレクトネス(political correctness)の略称です。英語の頭文字をとってPCと呼ばれることもあります。
以下では、ポリコレの意味や歴史、重視されるようになった背景について解説します。
ポリコレは直訳すると「政治的な正しさ」「政治的妥当性」などという意味です。
日本で使われているポリコレは、差別や偏見を助長しないように言葉や表現を選んだり、配慮したりして中立的な表現をすることを意味します。
たとえば障がいがある方や少数民族などに対して不快感や軽視を与えないように、敬意を表す言葉を使ったりその人たちの立場や感情を尊重したりします。
ポリコレという言葉がいつどこで誕生したのかは明らかではありませんが、その歴史は古いと言われています。
19世紀にはアメリカで奴隷制度廃止運動や女性参政権運動などの社会運動が起こっていました。これらの運動では、人種や性別などの属性によって差別されることに反対し、平等な権利や尊厳を主張しました。
20世紀に入ると、人権宣言や国際人権規約などの国際的な文書が作られ、人間の基本的な権利や自由が保障されるようになりました。
こうした歴史を振り返ると、少なくとも100年以上前からポリコレの考え方は生まれていたことになります。
近年になってポリコレが改めて重視されるようになった背景としては、グローバル化やインターネットの発展が挙げられます。グローバル化によって世界中の人々が交流したり、協力したりする機会が増えました。
しかし同時に、文化や価値観の違いから生じる摩擦や衝突も起こりました。
インターネットの発展によって、あらゆる情報や意見が瞬時に広まり、共有されるようになりました。
一方で、誹謗中傷やヘイトスピーチなどの問題も深刻化しました。これらの現象は、人々に対話や理解の必要性を感じさせるとともに、言葉や表現の影響力を認識させるようになったのです。
昨今、多くの企業がポリコレ対策に取り組んでいます。企業はポリコレの取り組みを通じてどのようなメリットを得られるのか、また課題についても解説します。
D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)とは、多様性を認めて尊重し、それぞれの個性や能力を活かす経営のことです。
D&I経営を推進することで、企業は従業員のモチベーションやパフォーマンスを高め、イノベーションや競争力の向上にもつながります。
D&I経営を実現するためには、ポリコレにもとづいたコミュニケーションや教育が必要です。
たとえば性別・人種・国籍・宗教・年齢などに関する不適切な発言は避けるべきですし、障害やLGBTQ+などのマイノリティに対する配慮やサポートも必要です。
ポリコレ対策は、D&I経営の基礎となるものです。
ポリコレ対策は企業のビジネスチャンスを拡大する効果もあります。
グローバル化やデジタル化の進展により、企業は多様な顧客やパートナーと関わる機会が増えています。その際にポリコレに沿った言動ができるかどうかは、信頼関係の構築や契約成立に大きく影響します。
また、ポリコレに配慮した商品やサービスを提供することで、新たな市場やニーズに応えることもできます。
たとえば女性や子供向けの商品では、性別役割分担やステレオタイプを強化しないように注意することが重要です。外国人向けの商品では、文化的な背景や習慣を理解して尊重することが欠かせません。
こうした点に配慮することで企業はビジネスチャンスを拡大させることが可能です。
ポリコレ対策は社会的な要請に応えるとともに、リスクを回避する効果もあります。
現代社会では、企業は単に利益を追求するだけでなく、社会的責任(CSR)を果たすことが求められています。その一環として、ポリコレに関する法律や規制、ガイドラインなどが整備されています。
たとえば男女雇用機会均等法や障害者差別解消法などは、ポリコレに関係する重要な法律です。
企業は、これらの法律や規制を遵守する必要があります。
ポリコレに反する言動をした場合、訴訟や賠償などの法的なリスクだけでなく評判やブランドイメージの低下、顧客や従業員の離反などのビジネス的なリスクも発生します。
ポリコレ対策は、社会的な要請とリスクヘッジに寄与します。
上記のようにポリコレ対策には多くのメリットがありますが、一方で、ポリコレに対する否定的な意見も存在します。
たとえば「ポリコレは表現の自由を侵害するものである」「ポリコレは特定の人々を優遇し、逆差別を生む」などの意見です。
こうした意見には一定の根拠があります。
表現の自由については、たとえば作品や芸術などで行き過ぎた配慮が求められることで、作品や芸術の本来の価値や創造性が失われるという懸念があります。
逆差別については、たとえば特定の人種の人に賞を与えることで、それ以外の人種の人のチャンスが失われるなどのおそれがあります。
ポリコレに対する否定的な意見は、企業がポリコレ対策に取り組むうえで課題となり得るものです。
具体的にどんなケースでポリコレの問題が発生するのかをイメージするために、代表的な事例を紹介します。
職業に関するポリコレの事例としては、特定の職業に対して否定的なイメージやステレオタイプを持たないようにすることが挙げられます。
たとえば「秘書」や「受付嬢」という言葉は女性しかできない仕事という偏見を生むことがあるため、「アシスタント」や「レセプショニスト」という言葉に変えることがあります。
人種に関するポリコレの事例としては、特定の人種や民族に対して差別的な言葉や表現を使わないようにすることが挙げられます。
たとえば「黒人」や「白人」という言葉は肌の色で人種を分けることになり、人種差別を助長することがあるため、「アフリカ系アメリカ人」や「ヨーロッパ系アメリカ人」などの言葉に変えることがあります。
性別や性別指向・性自認に関するポリコレの事例としては、特定の性別や性別指向・性自認に対して偏見や差別を持たないようにすることが挙げられます。
たとえば教育の現場では性別によって「○○君」「○○さん」と呼んでいたのを、性別にかかわらず「○○さん」で統一するようになっています。学校や職場の制服も男性はズボン、女性はスカートなどと分けずに、選択制にするケースも増えてきています。
ポリコレ対策に取り組もうと思っても、具体的にどのように取り組むべきかイメージができないケースもあるでしょう。
ポリコレ対策に決まった方法はありませんが、たとえば以下のような取り組みが考えられます。
休暇制度や服務規程は、従業員のライフスタイルやニーズに合わせて柔軟に対応する必要があります。
たとえば育児や介護などの理由で休暇を取得する場合、男女や正社員・非正社員などの区別なく同じ条件で取得できるようにすることが重要です。
また、性別や宗教などによって服装や髪型などに制限をかけないことも、ポリコレ対策の一環となります。
ハラスメント対策は従業員の人権を守り、職場の安全性や快適性を高めるために不可欠です。
ハラスメントは性別や年齢、障害や病気などに関連して発生する場合が多く、被害者だけでなく第三者にも悪影響を及ぼします。
企業はハラスメントの定義や禁止事項、相談窓口や処理手順などを明確にし、従業員に周知徹底することが必要です。
また、ハラスメントが発生した場合は迅速かつ適切に対処し、再発防止に努めることが求められます。
求人の表現や採用基準は企業の姿勢や価値観を反映するものです。ポリコレ対策としては、求人の表現や採用基準において、性別・年齢・人種・国籍などに関する不必要な条件や差別的な言葉を避けることが重要です。
また、能力や適性に応じて公平に評価し、多様な人材を受け入れることも大切です。
企業のSNSで何らかの投稿する際は、企業のイメージや信頼性に影響を与える可能性があることを理解し、投稿前のチェック体制を強化しましょう。
投稿する内容が事実にもとづいているか、誤解を招く表現や誤情報が含まれていないか、他者の権利やプライバシーを侵害していないかなどを確認することが必要です。
また担当者としてSNSで投稿する際には、自分の立場や役割を明確にし、個人的な意見と企業の公式見解とを区別することも重要です。
ポリコレに対しては否定的な意見とともに、誤解や偏見も生じています。
誤解や偏見を解消するには企業や個人が以下のような意識を持って対応することが必要です。
ポリコレに対する誤解や偏見が生まれることの理由のひとつは、ポリコレの意味や背景、目的を十分に理解していないことが挙げられます。
ポリコレは単に表現を変えるだけではなく、社会的な不平等や不正義に対して意識的になり、それを改善しようとする姿勢を意味します。
そのためには、歴史や社会学、人権やジェンダーなどさまざまな分野の情報や知識を積極的に学ぶ必要があります。
自分の意見や感情を表現する際に、相手の立場や感受性を考慮しないことで、無意識の差別や偏見を生みます。
自分が何気なく使っている言葉やジョークが相手にとっては傷つくものだったり、不快だったりする可能性があります。
また、自分が正しいと思っていることが相手の立場から見ればそうでない場合もあるでしょう。
誤解や偏見を生まないためには、自分の意見や感情を表現する前に、一度相手の立場や感受性を想像してみましょう。
そして、相手に対して敬意を持ち、配慮のある言葉遣いや態度で伝えることが大切です。
誤解や偏見を解消するためには、自分だけでなく他者の意見も聞くことが重要です。
しかし、他者の意見を聞く際には、知らず知らずのうちに自分の価値観や常識に固執することや、批判的になることがあります。そのような場合は、オープンマインドを持つことが必要です。
オープンマインドとは、自分の考え方以外にも正しいものがあると認めたり、自分の考え方が間違っている可能性があると受け入れたりすることです。
オープンマインドを持つことで、他者の意見や感情を理解しようとする姿勢が生まれます。
ポリコレに関する議論では、しばしば感情的になったり、相手を攻撃したりすることがあります。
そのような場合は対話や協力が妨げられてしまうため、建設的なコミュニケーションを心がけましょう。
自分の意見や感情を正直に伝えるとともに、相手の意見や感情を尊重し、共通の目標や解決策を探ることが大切です。
ポリコレはあらゆる差別や偏見を助長しないように表現に配慮して中立的な立場を保つことです。
企業はポリコレ対策に取り組むことでD&I経営の促進やビジネスチャンスの拡大、社会的な信頼の獲得などのメリットを享受できます。
差別や偏見を解消するための対策としては、ポリコレの制度の変更やSNSのチェック体制強化などが挙げられます。
ポリコレの意味や背景を理解し、自社に合った対策を考えましょう。