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リスキリングとは?企業の生き残りをかけた人材戦略・導入メリットや注意点

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リスキリングとは?企業の生き残りをかけた人材戦略・導入メリットや注意点

リスキリング(英:Reskilling)とは、社内の人材に新しいスキルを習得してもらう取り組みのことです。2019年には世界的大企業のひとつであるAmazonは、従業員10万人を対象に7億ドルを投じたリスキリング計画を発表しました

Amazon will invest over $1.2 billion to provide upskilling training programs for employees.

The American workforce is changing – there’s a greater need for technical skills in the workplace than ever before, and a huge opportunity for people with the right skills to move into better paying jobs. As a leading U.S. employer, we have an important role to play in providing Amazonians access to the education and training they need to grow their careers.
引用元:https://www.aboutamazon.com/news/workplace/upskilling-2025

また日立製作所がグループ企業の従業員16万人を対象にDX基礎教育を実施するなど、日本でもリスキリングに取り組む企業が増えています。(参照:https://www.works-i.com/research/works-report/item/reskillingtext2021.pdf

とはいえ、リスキリングという言葉を聞いたことがあっても、具体的に何をすればよいのか分からないという企業は多いことでしょう。またリスキリングを実施するとどんなメリットを得られるのか、反対に実施しないとどうなるのかなどが分からず、リスキリングの導入を躊躇している企業も少なくないはずです。

そこでこの記事では、リスキリングの定義や注目されている背景などに触れながら、導入するメリットを解説します。あわせて、実際に導入する際の具体的なステップや注意点も確認しましょう。

リスキリングとは

近年、「リスキリング」という言葉がメディア等で取り上げられる機会が増えました。言葉の意味はもちろん、自社で導入するべきか気になっている企業や管理部門の担当者は多いことでしょう。一方で、IT企業やデジタル人材など特定の業界・職種にしか関わりのないことだとして、他人事だと考えている方もいるかもしれません。まずは、リスキリングとは何かについて、定義や注目されている背景を確認しましょう。

リスキリングの定義

リスキリングとは、社内の人材を対象に、今後の業務で必要になるスキルや技術を習得してもらうことをいいます。企業が技術革新やビジネスモデルの変化に対応して市場で生き残るために行う、人材戦略のひとつです。

経済産業省が公表した資料によれば、リスキリングとは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されています。
参考:リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―

リスキリングの対象はデジタル領域のスキルに限定されません。しかし、近年ではデジタル化が進み、テレワークやオンラインでのやり取りなど働き方が大きく変化しています。そのためリスキリングは、特にデジタル化にともない生まれる新しい業務を遂行するためのスキル習得を指すケースが多くなっています。

リスキリングが注目されている背景

リスキリングは欧米などでは以前から知られている概念ですが、日本では2020年頃になってから注目度が高まっています。リスキリングが注目される大きなきっかけのひとつとなったのが、2020年1月に開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)です。

ここで「2030年までに世界で10億人をリスキリングする」ことが宣言されたことで、日本でもリスキリングが大きく注目を集めるようになりました。

また、2022年10月3日に行われた岸田首相の所信表明演説では「個人のリスキリングの支援に5年で1兆円を投じる」と表明しました。リスキリングは今や国をあげた取り組みとして認知されています。

リスキリングを進めないとどうなるのか

リスキリングは、変化の激しい時代の中で企業と従業員が生き残るために重要な取り組みです。国内市場は成熟・停滞しているため、新たな製品・サービスやビジネスモデルを創出できない企業は淘汰されていきます。企業が成長を続け、競争力を維持するための人材戦略においては、新しい業務に対応できる人材の育成が重要です。

また、従来の定型業務しかできず、価値を提供し続けられない従業員は不活性人材となり、居場所を失うでしょう。一般にデジタルに弱いとされるミドル・シニア層はもちろん、コロナ渦による働き方の変化に対応できない・社内異動等で新しい仕事になじめない若手層も例外ではありません。

さらに、リスキリングというと従来から社員教育に注力してきた大企業だけの取り組みだと思われがちですが、そうではありません。新型コロナウイルス感染拡大の影響で業態の転換や新規事業の立ち上げを余儀なくされている中小企業でも必要な取り組みです。

リスキリングとの違い|リカレント教育・OJT・アンラーニング

リスキリングと似た言葉に「リカレント教育」や「OJT」、「アンラーニング」があります。それぞれの言葉との違いを解説します。

リカレント教育との違い

リカレント教育とは、社会人がビジネスに必要な新たなスキルを習得することをいいます。業務に必要な新しいスキルを学ぶという点ではリスキリングと共通していますが、リスキリングが現在の業務と並行しながら学ぶのに対し、リカレント教育では業務とは離れて学ぶという違いがあります。

一般的にリカレント教育は社会人がいったん仕事を辞め、社会人大学などの教育機関で学び直すことを指します。また、リスキリングではこれまでに積み上げた職務経験とは関係のない、まったく新しい分野でのスキル習得を指します。一方、リカレント教育はこれまでの職務経験を基礎として、その延長線上にあるスキルを学びます。

OJTとの違い

OJT(On the Job Training)は、今の職場にある既存業務を遂行するための職場内訓練のことです。日本企業では伝統的に、新入社員や他業界からの中途採用者を育成するため、部署での仕事を通じて業務に必要なスキルを習得させてきました。

OJTは既存業務を前提とした訓練です。今ある部署の中で、今ある仕事を覚えてスキルを習得していきます。これに対し、リスキリングは今ない仕事や今できる人がいない仕事のスキルを習得するという違いがあります。

アンラーニングとの違い

アンラーニング(英:unlearning)は日本語で「学習棄却」と呼ばれる概念です。既存の仕事のうち、有効性が失われたものを捨て、代わりに新しいスキルや知識を得ることを指します

すさまじいスピードで技術革新が進む現代では、ビジネス環境の変化に対応するために従来の価値観にもとづいた知識やスキルでは対応できないケースが多々あります。

そのため、古い価値観や知識を捨てて一度まっさらな状態にしたうえで、新しいスキルや知識の習得を目指すのがアンラーニングです。

一方、リスキリングは新しい業務に適応するためのスキルを習得する取り組みを指します。再教育や学び直しといった意味も含むため、アンラーニングのように従来の価値観を捨てることが主軸になっているわけではありません。

リスキリングとDXの関係

リスキリング=DXの推進ではありませんが、リスキリングとDXは深い関係にあります。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術の活用により製品・サービス・ビジネスモデル・企業風土を変革し、新たな価値を生み出して競争上の優位性を確立することをいいます。

DXの推進が各企業の大きな課題となっている中で、リスキリングはDXを推進するための人材戦略として注目を集めています。

DXの課題のひとつは人材確保

企業がDXを推進するうえで大きな課題となっているのがDX人材の確保です。全社的にDXを進めるためには、デジタル技術やデータ活用に詳しく、社内業務や業務プロセスへの活用方法を検討できる人材が欠かせません。

たとえばデータサイエンティストやAIエンジニアといった希少性の高い職種がこれに該当するでしょう。こうした人材を確保するには、まずは外部から採用する方法が考えられます。しかし少子高齢化が進む日本では現役世代の人材不足が深刻化しています。とくにデジタルに造詣の深い人材はどの業界でも必要とされており、外部から獲得するにはハードルが高いのが現実でしょう。

また、そのような人材は企業間での取り合いとなっているため、確保するには膨大なコストもかかります。

DX人材の育成にリスキリングが求められている

そこで企業が進めているのはDX人材の育成です。リスキリングを通じて既存の従業員に新しいスキルを習得させることで、DX人材として育てる取り組みが進められています。DXにおいては、特にデジタル技術や知識を学び直すことで、競争上の優位性を確保する狙いがあります。

外部から採用するのに比べて採用コストや教育コストがかからず、自社に精通した人材をDX人材として育てることができます。

社内でリスキリングを取り入れるメリット

ここからは、企業がリスキリングを導入するメリットを解説します。

業務効率化を図れる

まず考えられる大きなメリットは業務効率化です。リスキリングによってDXに必要なスキルが身につけば業務効率化につながります。これにより定型業務の負担を大幅に減らせれば、企業の成長に欠かせないコア業務に注力できるようにもなり、生産性も高まるでしょう。

たとえば、これまで手作業で行っていた業務をデジタル化することで社内のリソースに余裕が生まれれば、付加価値の高い業務へ専念できます。

イノベーションの創出につながる

リスキリングでは従業員が新しいスキルを習得し、視野が広がるため、社内に新しいアイデアが生まれやすくなります。新たな製品・サービスやビジネスモデルを思いつくなど、イノベーションの創出につながります。

従業員のモチベーション向上と離職率の低下

既存業務を淡々とこなすだけでは、従業員のモチベーションを維持することは難しいでしょう。モチベーションの低下は離職につながりやすく、貴重な人材をみすみす失うことになりかねません。

しかしリスキリングを通じて従業員に学びの機会を与えれば、モチベーションの向上につながります。スキルアップによって実現できることが増えると、従業員はキャリアの選択肢が増えてさらなる向上心を持てる可能性もあります。

また、リスキリングによって業務効率化が実現し、労働時間が減れば、残業時間が削減できます。ワークライフバランスを維持できれば従業員満足度が向上し、離職率の低下につながります。

社内に詳しい人材に新たなスキルを習得してもらえる

リスキリングは社内の人材に対する再教育です。社内業務に詳しい人材を対象に取り組んでもらえば、習得したスキルをどのように応用するべきかをイメージしやすく、スキルの習得もスムーズです。外部の人材では社内の業務プロセスを詳細に把握することは難しいため、社内人材を育成するリスキリングでこそ得られるメリットでしょう。

不足するDX人材を採用で確保するのは難しいですが、リスキリングなら採用コストや教育の手間もかかりません。

リスキリングを取り入れる際の注意点

さまざまなメリットがあるリスキリングですが、社内に浸透・定着させるのは容易ではありません。リスキリングを導入する際には以下の点に注意しながら、慎重に進めていきましょう。

社内にリスキリングの重要性を周知させる必要がある

リスキリングを進めるには社内の協力体制が必要です。管理部門など一部の部署だけが重要性を認識していても意味がありません。リスキリングは少なからず従業員の負担になる取り組みなので、社内にリスキリングの重要性を周知させなければ、抵抗する人が出てくるでしょう。

そのような状態で進めても成果が出にくい、効果が限定的になるなどリスキリング本来のメリットを享受できません。

そのためリスキリングを主導する立場としては、経営陣や従業員に対してリスキリングの意味や効果をしっかり説明し、取り組みに対する理解を促すことが大切です。とくに企業側のメリットだけでなく、従業員にとってどんなメリットがあるのかを伝えることがポイントになるでしょう。

それにより、従業員が自らのキャリアに興味を持ち、自発的に取り組む意識を醸成することができます。

リスキリングはIT人材のみを対象とした取り組みではない

リスキリングはDXとの関係が深いため、エンジニアやプログラマーなどのIT人材のみを対象とした取り組みだと誤解されがちです。しかしリスキリングは企業の価値向上やイノベーションに必要な全社的な取り組みなので、対象は特定の職種に限られません。

たとえば、経営企画部や人事部などの管理部門が経営陣の指示の下でリスキリングを始めるケースはよくあります。

本人の自発性を引き出すような仕組みが必要

リスキリングは企業が主導する取り組みではあるものの、従業員本人の自発性がなければ始まりません。「学ばせる」という姿勢では従業員のモチベーションは維持できず、思うような効果も得られないでしょう。そのため従業員の自発性を引き出すような仕組みが必要です。

従業員のモチベーション管理をすることで、社内にリスキリングを浸透させられるでしょう。たとえば対象者にはインセンティブを用意する、仲間を集めて取り組んでもらう、対象者を選定するときは挙手制にするなどが挙げられます。また、学習プログラムを提供するときは、従業員一人ひとりのキャリアの希望を踏まえた内容にすると効果的です。

リスキリングによって希望のキャリア形成に近づいている実感が持てればモチベーションを高く維持したまま取り組んでくれます。

自社の課題に合ったリスキリングを行う

リスキリングを実施する際は、自社の課題に合ったコンテンツやプログラムを選ぶことが大切です。たとえ優良なコンテンツを利用したとしても、自社の課題に合ったものでなければ期待した効果は得られないからです。そのためには、リスキリングを実施する前に、まずは自社の課題を洗い出す作業が必要でしょう。

リスキリングの進め方

最後に、リスキリングの具体的な進め方を解説します。

スキルの可視化

まずは自社のスキルを可視化(データベース化)し、従業員の現状を把握します。従業員一人ひとりがどんなスキルを持っているのか、どの業務にどんなスキルが必要なのかを整理する作業です。

今社内にあるスキルだけでなく、今後必要になるスキルの可視化も行います。その際に重要なのは、自社の人材戦略を実現するために必要となるスキルであることです。事業内容や業績などのデータを参考に、どんなスキルを習得するべきかを決めるとよいでしょう。

対象者・組織の選定

次に、リスキリングの対象となる従業員と組織(部署)を決定します。社内の従業員全員を対象にするのか、特定の人材や部署から始めたほうがよいのかは企業によって異なるでしょう。ただし一般論としては、最初は対象者を絞って必要なところにだけ実施するスモールスタートがおすすめです。リスキリングをするにはプログラムやコンテンツの準備、関連機器の導入などコストがかかるため、スモールスタートのほうが失敗のリスクを抑えられます。

少しずつ対象範囲を広げていきながら、全体的なスキルの底上げを図るとスムーズでしょう。

プログラムとコンテンツの準備

リスキリングで用いるプログラムとコンテンツを準備します。たとえばオンライン講座やeラーニング、社会人大学、紙のテキストなど適切なプログラム・コンテンツは企業によって異なるでしょう。重要なのは従業員が効率よくスキルを得られそうなものを準備することです。

人事など管理部門でのコンテンツ作成が難しい場合には、必ずしも自社で作成する必要はありません。IT企業であればまだしも、そうでないのに自社での作成にこだわると、時間や労力を浪費してしまう可能性があります。専門のサービスなど社外リソースも活用しつつ、予算との兼ね合いも考慮しながら、自社に合ったプログラムを選びましょう。外部サービスを利用することで質の高いプログラムの用意や人的コストの削減につながる可能性があります。

リスキリングの実施

ここまでの準備ができたら、いよいよリスキリングの実施です。定められた時間に実施するのか、従業員が好きな時間に実施するのか、実施時間は企業によって異なります。従業員の希望を聞いたうえでスケジュールを決めるのがよいでしょう。

ただし、基本的には就業時間内での実施を心がけましょう。就業時間外に実施すると従業員の負担が大きく、不満やモチベーション低下につながりかねません。できるだけ従業員の負担が少ない状態で取り組んでもらうことが大切です。

リスキリングを実施した後は、従業員にプログラムの内容についてフィードバックをしてもらいましょう。実際に利用した従業員のフィードバックをもとに内容の改善を図り、定期的に見直していくことで、より自社にマッチしたプログラムを作成できます。また、リスキリングの実施が定着した後も、継続して取り組んでいきましょう。

現場で実践する

リスキリングはそれ自体が目的ではありません。リスキリングで得たスキルを現場で活かすことが大切です。実践的な訓練を繰り返すことで、新たに得たスキルが磨かれていきます。実践する際に重要なのは、リスキリングを主導する部署と実践する現場との連携です。リスキリングを主導する部署は現場へ丸投げせず、定期的な聴き取りやフィードバックの機会を設けるようにし、協力して取り組みましょう。従業員の負担が過大にならないよう、まずは簡単な業務からはじめ、徐々に難易度の高い業務で実践していくなどの工夫も必要です。

まとめ

リスキリングとは新しい職業や業務に就くために、または今の業務で必要なスキルの大幅な変化に適応するために、新しいスキルを習得する取り組みのことです。イノベーションの創出や離職率の低下などさまざまなメリットがありますが、やり方を間違えると従業員の過度な負担になりかねません。目的や自社の課題を明確にしたうえで従業員の理解を得たうえで進めることが大切です。

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BackOfficeDB編集部
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BackOfficeDB編集部
こんにちは。BackOfficeDB編集部です。 私たちは、管理部門に関する情報発信を専門にしています。 業務効率化や、各職種のキャリアプラン、スキルアップなど、管理部門の様々なお悩みにお答えします。