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企業が中途採用を行う場合、候補者の前職・現職の同僚などに対して、候補者の働きぶりなどを聴取するリファレンスチェックが行われることがあります。
リファレンスチェックは、中途採用を行う企業にとって、候補者の人となりをより詳しく知ることができる点で有用です。
しかし、リファレンスチェックのやり方次第では、個人情報保護法との関係で違法になってしまう場合があります。
そのため、企業がリファレンスチェックを行う際には、その方法について事前に法的なレビューを行うことが大切です。
この記事では、中途採用時のリファレンスチェックが違法と判断される場合など、リファレンスチェックに関連する法律上の注意点について解説します。
リファレンスチェックとは、企業が中途採用を検討する候補者について、面接などだけではわからない素性や性格などを把握するために行われる調査をいいます。
具体的にどのようなことが行われるのかについて見ていきましょう。
リファレンスチェックでは、前職や現職で実際に候補者と一緒に働いたことがある人に対して、職場での候補者の働きぶりなどに関するヒアリングを行います。
リファレンスチェックは従来、主に外資系企業の中途採用においてよく行われていました。
しかし、リファレンスチェックの有用性が注目されるようになるにつれて、日系企業でも最近はリファレンスチェックを実施する例が増えています。
リファレンスチェックは、候補者の実際の働きぶりを知ることが目的とされているので、質問事項も前職・現職での候補者の働きぶりへの印象に関するものが中心になります。
リファレンスチェックにおける質問事項の例としては、以下のようなものが挙げられます。
リファレンスチェックで実施される質問の項目については、事前にリファレンスチェック先へ送付されることも多く、その場合はある程度準備された回答が返ってくることになります。
リファレンスチェックのメリットとして考えられるものは、おおむね以下のとおりです。
中途採用の面接などでは、候補者の表向きの経歴を確認したり、口頭でのやり取りで候補者の人柄に関する印象を確かめたりすることはできます。
しかし、実際に候補者が働いているところを見て適性を判断できるわけではありません。
また悪く言えば「口達者で外面が良い」候補者の場合は、面接の際には良い印象を抱いても、実際に採用して見ると全く期待通りに働いてくれないというケースもあり得ます。
こうしたミスマッチを防ぐために、リファレンスチェックを実施することによって、企業は面接だけではわからない候補者の勤務実態や人柄を知ろうとするのです。
企業が中途採用を行う場合、採用基準はどうしても採用担当者に主観による部分が大きくなりがちです。
この点、リファレンスチェックを実施すると、自社以外で働く人から候補者に関する客観的な評価を聞くことができます。
このように、中途採用選考に関して第三者の意見を取り入れることができる点も、リファレンスチェックのメリットといえるでしょう。
中途採用の候補者が企業に対して提出する資料の中に記載されている経歴には、事実と反する記載が含まれているケースが稀に存在します。
たとえば前職で経験があると言っていた業務を全く経験したことがなかったり、そもそも前職の会社に在籍していた事実自体が存在しなかったりする場合が考えられます。
このような行為は言語道断ですが、企業が候補者の自己申告を信用してしまい、経歴詐称を見抜けないという場合も少なくありません。
リファレンスチェックを実施すれば、こうした経歴詐称は簡単に発覚しますので、企業にとってはより安心して候補者を採用できるようになるでしょう。
リファレンスチェックは、候補者に関する身辺調査のような様相を呈するので、法律との関係で問題があるのではないかという疑問が生じる方もいらっしゃるかと思います。
以下では、リファレンスチェックに関する法律上の注意点について解説します。
そもそもの前提として、リファレンスチェックを実施すること自体を禁止する法律は存在しません。
しかしながら以下で解説するように、リファレンスチェックの実施方法次第では、個人情報保護法などとの関係で違法の問題を生じる可能性があります。
そのためリファレンスチェックを実施する際には、実施方法について事前に弁護士のリーガルチェックを経るなどして、万全を期しておきましょう。
リファレンスチェックで得られた候補者に関する情報は、個人を識別する情報にあたるので、個人情報保護法上の「個人データ」(個人情報保護法2条1項)に該当し、個人情報保護法の適用を受けます。
(定義)
第二条 この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等(文書、図画若しくは電磁的記録(電磁的方式(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式をいう。次項第二号において同じ。)で作られる記録をいう。第十八条第二項において同じ。)に記載され、若しくは記録され、又は音声、動作その他の方法を用いて表された一切の事項(個人識別符号を除く。)をいう。以下同じ。)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)
引用元:個人情報保護法2条
具体的には後で詳しく解説しますが、個人情報保護法には、個人データの取り扱いに関するさまざまなルールが定められています。
リファレンスチェックを実施して候補者に関する個人情報を取得する場合は、こうした個人情報保護法上の規制に違反しないように注意が必要です。
個人データを本人の同意なく第三者に提供することは、原則として違法とされています(個人情報保護法23条1項)。
(第三者提供の制限)
第二十三条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。
引用元:個人情報保護法23条
この規制は、リファレンスチェックを実施する側ではなく、質問を受ける前職の企業などが遵守する必要があるものです。
しかしリファレンスチェックを実施する企業の側から見ると、前職がコンプライアンスのきちんとした会社であれば、本人の同意がない限りリファレンスチェックに応じてくれないということになります。
中途採用において、候補者に対して内定を出した後にリファレンスチェックを実施するという場合は注意が必要です。
なぜなら、リファレンスチェックの内容が芳しくないからといって、安易に内定を取り消すと違法となる可能性があるからです。
判例上、候補者に対して内定を出した時点で、始期及び解約権を留保されたものではあるものの雇用契約は成立していると解されています。そのため、内定を出した後に内定取り消しをする行為は、法律上は「解雇」と同様のものとして扱われます。
労働契約法16条には「解雇権濫用法理」が定められており、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない解雇は無効です。
したがって、リファレンスチェックの結果を理由として内定取り消しを行うことは、法律上常に認められるわけではないことに注意しましょう。
企業がリファレンスチェックを実施する場合、実施方法が関係法令に抵触しないよう、以下の各点に留意した対策を打っておくことが必要です。
個人データの第三者提供の制限規定(法23条1項)との関係で、候補者本人の同意がなければ、前職の企業などは基本的にリファレンスチェックに応じてくれません。
したがって、リファレンスチェックを実施しようとする企業の側で、候補者から個人データの第三者提供に関する同意を取得する必要があります。
リファレンスチェックを実施した結果取得した、候補者に関する個人データについては、個人情報保護法の規定に従って取り扱うことが必要です。
個人情報保護法上、個人データの取り扱いに関して、個人情報取扱事業者には以下の内容などが義務付けられています。
個人データを適切に取り扱うためには、個人情報保護法を遵守した個人データの取扱いが可能となるような社内体制の整備が不可欠です。そのため、人事部・情報管理部などの関係各部署が連携して、適切な体制整備を進める必要があるでしょう。
解雇権濫用法理は、会社側にとって、解雇に関する非常に厳しい制約を課すルールです。そのため、リファレンスチェックの結果を理由として、内定取り消しをするのは非常にハードルが高いといえます。
したがって可能であれば、リファレンスチェックの結果が出るまで正式な内定を出すことを留保し、問題ないことを確認してから内定を出すのが良いでしょう。
中途採用にエントリーしている候補者(労働者)側としては、企業がリファレンスチェックを実施しようとする場合には、実施についての同意を求められることになります。
採用プロセスにおいて企業が必要と考えている以上、リファレンスチェックに同意しないという選択肢はなかなかとりづらいかもしれません。
しかし同意をする場合であっても、予期せぬ広範囲にリファレンスチェックが実施されてしまったりすることがないように、以下の各点を確認しておきましょう。
リファレンスチェックは、個人データの第三者提供について同意を与えた範囲でしか行われません。
したがって候補者(労働者)の側としては、リファレンスチェックが行われる旧勤務先の範囲やリファレンスチェックの内容などについての明示を求め、その内容をよく確認すべきです。万が一、リファレンスチェックが行われると困る旧勤務先がある場合には、リファレンスチェックへの同意を部分的に拒絶することも考えられます。
ただし、同意を拒絶した理由について企業から訝しまれ、採用選考にとってマイナスに働いてしまう可能性があることには注意しましょう。
リファレンスチェックの結果は、候補者(労働者)にとっては保護されるべき個人データに該当します。そのため、個人データが採用元の会社できちんと取り扱われるのかどうかについても、念のため確認しておきましょう。
経営基盤やコンプライアンスがしっかりしている企業であれば、社内規程としてプライバシーポリシーを作成しているのが通常ですので、まずはその内容を確認しましょう。
さらにリファレンスチェックに関する同意を求める書面の中にも、個人データの取り扱いに関する記述があるはずですので、その内容も確認すべきです。
もしこれらの個人データの取扱方針を読んで、情報管理がきちんとしていない会社であると感じた場合、そもそもその会社に就職しない方が良いかもしれません。
リファレンスチェックは、面接などからだけではわからない候補者の働きぶりなどを調査することにより、中途採用選考の参考とする手法です。
リファレンスチェックで得られた候補者に関する情報は、個人情報保護法の規制を受ける「個人データ」に該当します。
そのため、リファレンスチェック実施時には候補者の同意を取得する必要があります。
また、得られた結果は「個人データ」として、個人情報保護法の規定に従って適切に取り扱うことが必要です。
リファレンスチェックには、個人情報保護法や労働法に関するさまざまな論点が関係していますので、もし不安な点があれば弁護士にご相談ください。
法務・経理・財務・人事・労務をはじめとした管理部門のコンサルタント。不動産営業・管理事務等を経験したのち、バックオフィス専門のアドバイザーとして参画。