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2024年11月1日から、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法。以下「フリーランス保護新法」といいます。)が施行されました。
2023年4月28日に可決成立した法律で、終身雇用が後退し人材の流動化、副業・複業の考え方、個人事業主・フリーランスという働き方が社会的に浸透した背景から、業務委託契約を軸とする人の就業環境を適正化する背景から定められました。
上記のような社会的な背景から、大企業・中小企業、ベンチャー企業、スタートアップ企業を問わずフリーランス保護新法の影響は大きく、各事業者において対応を終え、あるいはこれから対応を整備していく企業もあるでしょう。
また、フリーランスという形態の働き方も、今後多様化していくことも想定され、フリーランス保護新法も随時アップデートされていくと考えられます。
そのため、フリーランス保護新法への対応は、中長期的なスパンで捉えていく必要があります。
本記事では、フリーランス保護新法の概要、法律の内容を理解するためのポイント、法律の具体的な内容、実務上の体制整備や運用の見直しの際の留意点などを弁護士が詳しく解説します。
まず、フリーランス保護新法の背景と概要について説明していきます。
2020年5月、内閣官房が公表したフリーランス実態調査によると、本業及び副業としての働き方のいずれも含むフリーランスの人数は462万人と算出されました
参考:内閣官房日本経済再生総合事務局『フリーランス実態調査』令和2年5月 25ページ
そして、同年7月に、政府が「成長戦略実行計画」を閣議決定し、その際にフリーランス保護に関するルール整備として、実効性のあるガイドラインの策定、立法の検討などを行っていく方針が固められました。
その後、大手クラウドソーシング会社「ランサーズ」による2021年から2022年にかけての調査によると、フリーランス人口はおよそ2020年の3倍を超える1577万人とされました。
参考:ランサーズ株式会社『新・フリーランス実態調査2021-2022年版』6ページ
こうしたフリーランスの急速な拡大の中で、2021年3月に、ガイドラインとして「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を策定しました。
よりフリーランスとしての働き方が普及し、企業や団体に依存せず個人のスキルや経験をサービスとして提供する実態が定着する中で、フリーランスの働き方の実態に合わせて、就業環境の整備、取引の適正化を図る必要性が高まりました。
特に、フリーランスは個人として企業を相手に取引する場面が多く、その場合に交渉力や情報収集力、取引の規模感が極めて小さいため特定の事業者への依存関係が強くなり、取引上の地位として優位に立ちにくい側面があります。
また、マンパワーで事業を運営するため、育児や介護などのライフイベントとの兼ね合いで、労務的な配慮を要する部分も出てきます
そこで、フリーランス保護新法は、こうした取引上の格差、就業環境において配慮すべき点などに着目し、フリーランスと取引をする事業者が遵守すべきルールとして法制化されたのです。
フリーランス保護新法は、すでに述べたように、フリーランスと、フリーランスに業務・仕事を発注する事業者との間の取引の適正化とともに、適切な就業環境を整備することを内容としています。
また、法律の実効性を担保するため、違反した場合における助言や指導、立入検査、勧告や命令、罰則などの措置を設けています。
加えて、フリーランスによる相談を受け付け、違反を検知するために、相談対応の窓口の設置などについて国の措置が義務付けられています。
フリーランス保護新法は、基本的には、一定の組織を持つ個人や法人と、個人事業主との間における業務委託に係る取引において適用される法律です。
そのため、フリーランスとの取引であっても、それが労働契約に基づく場合や、対消費者の取引の場合には適用されません。
フリーランス保護新法を理解するには、適用対象事業者や取引の定義、契約期間等によるルールの違い、下請法との違いを理解しておくのが有効です。
まず、フリーランス保護新法でいう「フリーランス」の定義の把握が重要です。
同法においては「特定受託事業者」と称され、業務委託の相手方である事業者であって、従業員を使用しない個人事業主をいいます(法第2条第1項)。
また、個人のみならず法人格を有する場合も含まれ、一人の代表者以外に役員や従業員がいない、一人社長も特定受託事業者です。
※特定受託事業者である個人及び特定受託事業者である法人の代表者を、特定受託業務従事者といいます(第2条第2項)。
そして、業務委託事業者は、特定受託事業者に業務委託をする事業者をいいます(法第2条第5項)。
個人又は二人以上の役員がいる法人で従業員を使用する場合、特定業務委託事業者にあたります(法第2条第6項)。
フリーランスに業務を依頼する場合業務委託形式で依頼し、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託する取引が対象です(法第2条第3項)。
業務委託の内容としては、製造(加工を含む。)委託や情報成果物作成委託、役務提供委託です。
※情報成果物作成委託は、次のとおり、エンジニア職などプログラミング系の業務のほか、映像や音声の編集、イラスト・デザイナー業、ライター業などが挙げられます(法第2条第4項第1号から第3号)。
※「役務の提供」について、下請法においては委託事業者以外の他者に提供する役務について適用されますが、フリーランス保護新法においては、その場合のみならず委託事業者自身が自己の事業の運営など自ら用いる役務にも含みます。つまり、自社内で業務委託社員を採用して、社内の業務に従事させる場合もフリーランス保護新法の適用範囲に含まれることに注意が必要です。
フリーランス保護新法においては、業務委託事業者及び特定業務委託事業者に対し特定受託事業者との取引において様々な義務、禁止行為などが定められていますが、どこまでの内容が適用されるかどうかについて違いがあります。
※特定受託事業者側による差異はありません。
1つは業務委託事業者か、特定業務委託事業者かによる違いです。
業務委託事業者は、従業員の使用の有無などに関わらず、特定受託事業者と業務委託に係る取引をする場合に、①書面等による取引条件の明示が義務付けられます(法第3条。以下「3条通知」といいます。)。
特定業務委託事業者の場合は、この3条通知の義務付けのみならず、様々な規律が及びます。それは、②一定の期日までの報酬支払、③特定受託事業者の募集における募集情報の的確な表示、そして④ハラスメント対策のための体制整備です。
また、特定業務委託事業者と特定受託事業者との取引において、契約期間が一定の期間以上となる場合には、上記の次のような規律が適用されます。
1か月以上の契約期間の場合には、⑤給付の受領拒否、報酬の減額など特定受託事業者にとって不利益となるような様々な行為の禁止が定められます。
6か月以上の契約期間となる場合は、さらに⑥育児介護等との業務の両立に係る申出に対する配慮義務、及び⑦中途解除の場合の事前予告とともに、特定受託事業者による求めがあった場合における解除理由の開示義務があります。
図式化して整理すると、下記のとおりです。
【フリーランス保護新法において特定受託事業者との取引において適用されるルール】
参考:前掲内閣官房新しい資本主知実現本部事務局ほか『特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)【令和6年11月1日施行】説明資料』6頁をもとに筆者作成
上記①から⑦の各内容については、後述します。
フリーランス保護新法との関係で密接に関わる法令が、下請代金支払遅延等防止法、いわゆる下請法ないしは独占禁止法に関する法令です。
※下請法に関しては、直近でも運用基準についての改正があり、フリーランス保護新法の改正に関する運用と合わせて確認しておきましょう。
下請法等との関係については、令和6年5月31日付けで、法令間の解釈適用の明確化のために、公正取引委員会が適用関係に関する考え方を示しています。
端的には、フリーランス保護新法が適用される場面では、フリーランス保護新法が優先適用となり、重ねて下請法や独占禁止法が適用されることはないものとされます。
もっとも、下請法に関しては、フリーランス保護新法と下請法の両方に違反する事業者が、下請法のみに違反する行為を行っている場合、全体として下請法を適用すべきものと公正取引委員会が判断したケースでは、フリーランス保護新法及び下請法の両方に違反する行為について下請法第7条に基づき勧告を行うことがある旨を定めています。
例えば、ある事業者が特定受託事業者の育児介護等との両立に対する配慮(フリーランス保護新法第13条)に関して違反するとともに、報酬の減額を行う禁止行為を行っていた場合、後者については下請法とも共通する禁止行為にあたりますが、全体として下請法第7条に基づく勧告の対象として扱われる場合があることを意味します。
参考:公正取引委員会『特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律と独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方』令和6年5月31日
次に、フリーランス保護新法の具体的な内容として理解すべき7つのポイントを解説します。
既に述べた通り、特定受託事業者との取引全般において適用されるのが、3条通知です。
委託事業者側の規模感などを問わず適用される点において、影響範囲が大きい項目といえます。
取引条件の明示としては、次のとおり最大9項目を明示する必要があります(法第3条第1項、同法施行規則(公正取引委員会規則)第1条)。
上記の明示事項のうち、いくつか注意すべきポイントをピックアップして解説します。※契約書において注意すべきポイントについては、別途詳しく後述します。
⑤について、給付や成果物、役務提供先、履行場所についての明示は、特定が不可能な場合であれば必ずしも場所の明示を要するものではありません。
例えば、情報成果物委託で電子メール等による提供の場合には、提出先となる電子メールアドレスを明示すれば内容は足ります(明示の方法についても、特に限定はなく、契約書内やメールやチャットなどでの通知でも足りると考えられます。)。
⑦の報酬金額については、金額を明示することが困難なやむを得ない事情がある場合にはその算定方法を記載することで補えます。
例えば、想定稼働時間などが案件数などによって業務委託料が変動する場合に、時間単価を明示しつつ、稼働時間の実績に応じて報酬が算定される旨を定めておくことによって明示することで内容は足ります。
また、消費税については、内税か外税かについても記載が必要です。
特に内税の場合には、特定受託事業者側の負担となるため、明確に記載する必要があります。
これは、インボイス対応との関係で、特定受託事業者が登録事業者であるか、未登録事業者(=免税事業者)であるかにもよると考えられますが、インボイス登録の有無により取扱いを変える場合には注意が必要です。
なお、明示すべき事項は、取引の都度明示することが原則ですが、定型的な取引の場合、継続的一定の業務を委託する場合には、共通事項を予め書面か電磁的方法で提供すれば都度明示することは不要とされています。
また、3条通知の項目のうち内容を定められないことについて正当な理由がある場合には、明示することを要しません(法第3条第1項)。
「正当な理由」は、業務委託の内容・性質上、業務委託をした時点で内容を決定できないことが客観的に認められる項目である場合であることをいいます。
そのため、「定めることは可能だが定めないでおく」といった場合は認められないため、注意が必要です。
内容を定めた後は、書面か電磁的記録により直ちに明示する必要があります。
電磁的記録は、電子メールやチャットでも可能で、客観的に明確に記録されるものであれば問題ないです。
特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対して、発注した物品や役務を、受領あるいは提供を受けた日から起算して60日以内のできる限り短い期間で報酬の支払期日を定めて、支払う義務があります(法第4条第1項)。
この60日ルールは、検収があるかどうか、契約書で支払期日を定めていない場合でも遵守する必要があります。
※給付等の受領日から60日を経過した日を支払期日に定めた場合でも、60日経過日の前日が支払期日とみなされます(同条第2項)。
出典:前掲内閣官房新しい資本主知実現本部事務局ほか『特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)【令和6年11月1日施行】説明資料』10頁
支払期日の起算点について、物品の受け渡しがある場合には基本的に「目的物を自己の占有下に置いた日」とされます。
また、検収をする場合であっても、検収が終わった時点ではないことに注意が必要です。
また、役務提供委託の場合、物品の受領という概念がないため、個々の役務の提供を受けた日が起算点となるのが原則です。
もっとも、役務の提供において複数の段階に分かれて完結する場合など一定の日数を要する場合には、一連の役務の提供が終わった日が起算点とされます。
「できる限り」の意味合いについて具体的な基準は示されていませんが、取引の内容や慣行、業種業態における取引の実態や相場として合理的に設定されていれば、基本的に問題ないものと考えられます。
趣旨としては、60日ルールが「60日以内であればいつでもよい(今まで30日以内に支払っていたのを60日に伸長してよい)」といった意味合いではありません。
参考:内閣官房|特定受託事業者に係る取引の適正か等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)Q&A 28頁(問48)
特定業務委託事業者が、広告等により特定受託事業者の募集をする場合には、情報の内容が虚偽や誤解を与える表示でなく、正確かつ最新に保つことが義務付けられます(法第12条)。
ここでいう「広告」などには、新聞や雑誌に掲載される広告、配布文書、FAX、電子メールなどのメルマガ、ホームページ、クラウドソーシングサービスのプラットフォームなどが広く含まれます。
募集情報の内容としては、業務内容、業務に従事する場所や時間帯、契約期間、報酬、契約の解除や不更新、募集者に関する情報が挙げられます(フリーランス保護新法施行令第2条)。
具体的には、次のようなケースが違反の例とされます
特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対して次に掲げる7つの行為が禁止されます。
上記①から③、及び⑦は、特定受託事業者の帰責事由がない場合であることが前提です。また、④、⑥及び⑦については質的な限定として行為の不当性が要件とされています。
禁止行為に関して、いくつかポイントピックアップして解説します。
給付の受領拒否(①)に関して、役務提供委託の場合には、基本的には適用されません。
ただし、キャンセルに関しての費用を負担させた場合、別途不当な給付内容の変更にあたるものとして問題となりうるため注意が必要です。
報酬の減額(②)については、下請法に関する違反事例でも当局により注視されやすいため、注意が必要です。協賛金や手数料、システム利用料、銀行の振込手数料など、名目を問わず報酬から控除するような行為がこれに該当します。
もっとも、特定業務委託事業者側が特定受託事業者に対するサービスとして提供する内容であって、それが特定受託事業者との契約・合意に基づいて定義された上で、それが報酬分との相殺などの形で控除される場合などは報酬の減額には当たらないものと考えられます。
また、契約内容の変更として、個々の場合に特定受託事業者との合意に基づいて減額変更をすることは、定まった報酬に対して減額するわけではなく、契約内容の変更であることから、禁止行為には該当しないと考えられます。
※変更に際して、変更に応じない場合に不利益な取り扱いを行うことを示したり、一方的な変更を強行すると、報酬の減額にあたり、あるいは独占禁止法上別途優越的地位の濫用などに該当する可能性があるため、注意が必要です。
買いたたき(④)については、対価の決定方法、差別的であるかなど対価の具体的な内容、類似の他事業者の取引での報酬相場など「通常支払われる対価」と当該契約で定められた対価との乖離の状況、給付等に必要な原材料や経費などの価格動向といった要素から総合的に判断されます。
不当な経済上の利益提供の要請(⑥)については、特に、要請する経済的利益が特定受託事業者からみて直接の利益とならないような場合、あるいは特定受託事業者との利益との関係が不明確なまま提供させる場合に問題となります。
特定受託事業者への労働者的な保護として、ハラスメント対策が定められています。
具体的には、ⓐハラスメントに関する特定受託事業者からの相談に応じることや適切に対応するための体制整備など必要な措置を講じること、及びⓑⓐに係る相談をしたことや事実関係の説明などを理由とする契約の解除などの不利益な取り扱い禁止が定められています(法第14条第1項、第2項)。
また、ハラスメントについては、セクハラ、マタハラ、及びパワハラの3類型が定められています(法第14条第1項各号)。
特定受託事業者が育児介護等との両立のため、業務量の調整など申出に応じて、特定業務委託事業者について配慮の義務ないし努力義務が定められています(法第13条)。
契約期間が6か月以上に及ぶ場合には義務、6か月未満の場合でも努力義務が定められています。
契約期間が6か月以上に及ぶ場合は、契約の更新によって6か月以上となる場合を含むものとされます。
特定業務委託事業者は、特定受託事業者との契約において、特に6か月以上の契約期間である場合に中途解除や不更新の定めを置く場合には、30日前までの事前予告が義務付けられます(法第16条第1項)。
また、解除は不更新の理由について開示を求められた場合には、その理由を特定受託事業者に対して開示する必要があります(同条第2項)。
注意点としては、特定受託事業者との契約が基本契約と個別契約により構成される契約の場合に、単一の基本契約により6か月以上の期間、個別契約に基づく業務委託を行う場合に、基本契約と個別の業務委託いずれも、それぞれ中途解除において予告が必要とされます。
また、契約期間が1か月の契約が5回以上更新されるなどして、6か月以上となった場合、6か月以上となった部分以降について、中途解除における解除の予告が必要です。
出典:前掲内閣官房新しい資本主知実現本部事務局ほか『特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)【令和6年11月1日施行】説明資料』16頁
ここまでフリーランス保護新法の内容について解説してきましたが、企業側として行うべき実務上の対応ポイントについて、3点ほど解説します。
まず、契約書のひな形を見直していく必要があります。
3条通知として明示するべき事項は、基本的に契約書の中で明記していくことで足ります。開発業務やクリエイティブ業務などで仕様書などを添付することが現実的でない場合には、別途の様式で明示する形でもよいでしょう。
それでも、可能な限り契約書と紐づけるなどして管理を行うと、取引管理・契約管理としても効率的に行うことができます。
情報成果物作成委託の場合、データの内容やプログラムの内容など、内容が一見して検収可能かどうか明らかでない場合、中身を確認して一定の水準に達していることを確認した時点で給付を受領とする旨を合意していれば、自己の支配下に置いた日を支払期日の起算日とはされません。
この点に留意して、開発業務の委託においては契約書に明記することがポイントです。
役務提供委託の場合、提供する役務の内容によっては、一定の期間で複数発生した役務を合計してまとめて支払うことが一般的です。
このような場合には、次の3つの要件を満たす必要があります。
【支払いサイトの合意】
【報酬の金額や算定方式の明記】
【役務の内容が連続するもので、同種であること】
ハラスメント対策や育児介護等に関する配慮や対応に関する事項なども、継続的な業務委託契約のひな形において、期間などによるひな形の区別を問わず明記しておくことがよいです。
なお、契約書に明記する場合には、体制や対応方針の詳細な内容までを記載する必要はなく、詳細については社内のホームページにリンクを設置してそれを契約書内で引用する方法や、別途社内資料などを用意してそれを相談対応マニュアルとして配布するといった方法でもよいでしょう。
中途解除の事前予告についても、1か月を超える契約期間を含むケースでは、基本的に明記をしておくとよいです。複数のひな形を用意して使い分けるなど管理をする手間を省くことができます。
また、基本契約と個別契約の構成で取引を行う場合にも、両者を区別しつつ、それぞれで事前予告に関する定めを記載しておき、事前予告について顧客の担当者とのすり合わせをした上で業務フローにしておけば漏れなく対応できるでしょう。
ハラスメント対策については、まず社内において特定受託事業者との取引、業務を所管する部署を中心としつつ、全社的にハラスメントの防止が必要であることの周知や社内研修を行うことが重要です。
特に、ハラスメント行為を行った者に対して、厳正な対処を行う旨、企業としてしっかりとスタンスを示すこともポイントです。
また、特定受託事業者からの相談を受け付ける体制と、相談を受けた場合の体制について、社内の法務や労務部門との連携について確認しておくことが求められます。
そして、ハラスメントを検知した場合に、事実関係の確認や調査を行うフローのほか、ハラスメントの当事者に対する配慮なども事案に応じた対応が必要です。
特定受託事業者の育児介護の両立への配慮に関しては、申し出を受ける窓口の設置と申出内容をヒアリング、把握する部署との連携が必要です。
申出を受けた部署は、対応について判断をする部署へのエスカレーションなど業務フローを整えておく必要があります。
その上で、判断の結果、対応を行う場合はその内容について特定受託事業者に対して通知する必要があります。
一方で、やむを得ない事情により対応できないと判断する場合にはその旨と、理由を丁寧に説明していくことが必要です。
申出自体を阻害するような対応や、申出によって契約を解除することを黙示でも示すことは法令違反に該当することに留意が必要です。
募集内容や条件が変わる場合、その内容を都度アップデートしておく必要があります。
クラウドソーシングサービスであれば、膨大な量の求人案件を扱う可能性がありますが、募集内容についてのアップデートの管理について、Web上のシステムの制御やクライアント企業への確認を定期的に行うことにより、管理することがポイントです。
選考中で一時クローズにしている状況である場合を除き、基本的にこのような表示も、最新性が保たれていない表示として違反となるリスクが高いため、検知した場合には順次削除していく必要があるでしょう。
最後に、フリーランス保護新法に対する実務上の対応に関して、特に留意すべきケースやポイントについていくつか解説します。
発注元の事業者がいて、当該事業者から受託した業務を特定受託事業者に再委託する場合には、いくつか留意すべきポイントがあります。
この後述べる再委託型の場合における支払期日のルールに関する例外の適用を受けるには、3条通知において次の事項を記載しておく必要があります(フリーランス保護新法に関する公取委規則第3条第2項、第6条)。
再委託型の場合には、3条通知で上記3点の事項を明示した場合、通常の60日ルールではなく、元委託事業者との間で定めた支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間を支払期日として設定することができます。
これにより、下請先である特定受託事業者による給付や役務の提供が先行するようなケースでも、その給付等の受領日から60日ではなく、あくまで元委託事業者からの支払期日を基準として30日以内のできる限り短い期間であれば、法令違反となりません。
※ただ、元委託事業者から実際に支払われた期日ではなく、あくまで契約書上などで定めた期日が基準となる点に留意が必要です。
法第14条に定められるハラスメント防止は、再委託型の場合、特定業務委託事業者の役職員だけでなく、「特定受託業務従事者に対して当該業務委託に関して行われる」言動が対象となります。
すなわち、元委託事業者による特定受託事業者に対するハラスメント行為についても、フリーランス保護新法における射程範囲となります。
特定業務委託事業者としては、元委託事業者との契約書でも、ハラスメントの防止や、元委託事業者における社内周知を定めたり、ハラスメントが起きた場合の対応についてヒアリングなどの対応義務を定めておくことがよいでしょう。
スキーム上は、下請法もダイレクトに関わるポイントであるため、フリーランス保護新法だけでなく下請法の内容にも配慮しつつ、またすでに述べたような両者の適用関係についても留意する必要があります。
フリーランス保護新法は、新しく制定されて施行される法律であるため、2024年11月1日の施行以前の契約において遡及して適用されるものではありません。
もっとも、施行日以後も、施行日前から継続している契約に関しては、更新のタイミングなど適当な時機に契約書の巻き直しを図るなど順次対応していくことが必要となるでしょう。
フリーランス保護新法では、契約期間によって適用される規律が異なる場合があります。
詳細は割愛しますが、基本的には次の表のように整理して理解しておくとよいでしょう。
参考:公正取引委員会・厚生労働省『特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方』令和6年5月31日 26頁以下
フリーランス保護新法について、様々の内容を解説してきました。
本記事のポイントは、以下3点です。
フリーランス保護新法の対応状況は、企業の評判にも関わることです。そのため、自社の対応状況について見直しの実施をおすすめします。
愛知県弁護士会所属。旭合同法律事務所に所属しながら、事業会社の法務部に出向。企業法務に関心があり、取り扱い分野は戦略・政策渉外、コーポレートガバナンス、内部統制、M&A、ファイナンス、AI、Web3.0、SaaS、人材プラットフォーム、航空・宇宙、データ法務、広告法務、エンタメ、消費者被害、相続、破産・再生など。学生時代は法律問題を取り上げるメディア運営会社にてインターンを経験し、現在もWEBメディアにて執筆活動を続ける。詳しいプロフィールはこちら:https://asahigodo.jp/lawyer-introduction/kawamura-masaki/