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法務とコンプライアンスの違いとは?考え方、業務内容、役割、組織づくりから人材の資質まで詳しく解説

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法務とコンプライアンスの違いとは?考え方、業務内容、役割、組織づくりから人材の資質まで詳しく解説

現代の企業経営において、法務とコンプライアンスは重要な役割を果たしています。

しかし、多くの企業においては、その違いが明確に理解されていないことが少なくありません。

社内の組織体制上の名称はさておき、社内の機能や役割分担をみたときに、法務とコンプライアンスが一体化していたり、法務組織内で両者の区別が言語化されないまま、目的なく役割が存在することもあるでしょう。

あるいは、法務人材、法務人材を目指す人にとっても、実は明確に違いを言語化できないのではないでしょうか。

【本記事のポイント】

  • 法務とコンプライアンスの違いを理解する
  • 法務とコンプライアンスの共通点を認識する
  • それぞれの部門を区別する理由とそのメリット・デメリットを知る
  • 法務・コンプライアンスの人材に求められる資質やスキルを把握する

本記事では、法務とコンプライアンスの違いや共通点を明らかにし、それぞれの部門に求められる人材の資質やスキルについて解説します。

BEET

法務とコンプライアンスの違い3つ

法務とコンプライアンスの違いは、様々な切り口から考えていくことができます。

本記事では、業務内容や役割、部門内のカルチャー、業務において関わるステークホルダーの3つの観点から解説していきます。

業務内容・役割

法務は、企業の法律問題に対応し、契約書の作成・チェック、法的リスクの管理、訴訟対応などの業務を行います。

法務部門は、企業が法的に正しく運営されるための基盤を支える存在であり、法的なアドバイスを提供することで経営判断をサポートする役割があります。

例えば、新規事業の立ち上げやM&Aの際には、法務部門が法的リスクを評価し、適切な対応策を提案します。日常的な社内の各部署からの相談対応においても、法的な知見の提供を求められる場合に的確に回答を行い、事業部が行う施策の実行の根拠づけを行います。

一方、コンプライアンスは、法令遵守を中心とした企業の倫理的行動を確保し、企業が社会的責任を果たすための仕組みを整備します。

具体的には、コンプライアンスプログラムの策定と実施、内部通報制度の運用、社員教育の実施などが含まれます。コンプライアンス部門は、企業が法令や規制を遵守し、社会的信頼を維持するための活動を行います。

部門内のカルチャー

法務部門には、法的知識と論理的思考を重視する文化が根付いています

経営管理及び企画、事業プロセスの運用、サービスの開発など様々な場面において、法的な知見を活用して実行するプロジェクトを積極的に検知して推進していく組織風土が重要です。

その際には、法律の解釈や適用において正確さと厳密さを求められ、かつアウトプットに対して社員から信頼を得ていくことが部門として重要なポイントになります。

このため、法務部門は、ディテールに対する強い注意力と分析力を持つことが求められます。

一方、コンプライアンス部門は、法令遵守と企業の倫理を強調し、社内全体に広めることを目的としています。

自らプレイヤーとして社内のオペレーションや戦略を提示したり、実行していく法務のカルチャーに対して、コンプライアンスは他の社員を巻き込んで全員がルールや社会で受容されるあるべき行動を啓発していくカルチャーがあります。

そこで、コンプライアンス部門では、企業文化の形成や従業員の意識向上に力を入れ、教育的なアプローチを取ることが多いです。したがって、コンプライアンス部門は、コミュニケーション能力と教育力を重視する文化が根付いています。

関わるステークホルダー

法務部門は、主に経営陣や取引先、顧問弁護士、行政や規制当局などの外部機関と連携します。

法務の専門家は、経営陣と協力して法的リスクを評価し、契約交渉や訴訟対応など、企業の法的問題に対処する場面が想定されます。

例えば、取引先との契約交渉において、法務部門が法的な観点からアドバイスを提供し、契約内容の妥当性を確保します。

コンプライアンス部門は、社内で内部統制や実効的なガバナンス体制が運用されているかをモニタリングしていきます。

そのために、コンプライアンスを担う社員は、従業員に対して法令遵守や企業倫理の重要性を教育し、内部通報制度の運用を通じて企業運営の透明性を高めていく動き方が想定されます。また、外部の監査機関と連携して、企業のコンプライアンス状況を評価し、改善策を提案します。

  法務 コンプライアンス
業務内容・役割 契約書の作成・チェック、法的リスクの管理、訴訟対応などの業務を行い、法的なアドバイスを提供することで経営判断をサポートする役割がある コンプライアンスプログラムの策定と実施、内部通報制度の運用、社員教育の実施などの業務があり、企業が法令や規制を遵守し、社会的信頼を維持するための施策を行う役割がある
部門内のカルチャー 経営管理及び企画、事業プロセスの運用、サービスの開発など様々な場面において、法的な知見を活用して実行するプロジェクトを積極的に検知して推進していく組織風土が重要 他の社員を巻き込んで全員がルールや社会で受容されるあるべき行動を啓発していくカルチャーがあり、コミュニケーション能力と教育力が重視される
関わるステークホルダー 主に経営陣や取引先、顧問弁護士、行政や規制当局などの外部機関 経営陣や従業員、外部の監査機関など
※ただし規制当局と関わるケースも考えられるため、法務との共通点も多いと考えられる

法務とコンプライアンスの共通点

ここまでは、法務とコンプライアンスの違いに着目して解説してきましたが、両者には共通点もあります。

法務とコンプライアンスの共通点は、いずれも企業のリスク管理を担い、企業が健全に運営されるための基盤を支える役割を果たしている点です。

両者は、法的リスクを未然に防ぐことと、企業の信頼性を高めることを目的とし、企業価値の大きな要素となります。法務とコンプライアンスは、互いに補完し合い、企業全体のリスクマネジメントを強化するために連携することが重要です。

例えば、新しい法令や規制が導入された場合、法務部門がその法的解釈を行い、コンプライアンス部門がその遵守を確保するための社内ルールや教育プログラムを整備します。

このように、法務とコンプライアンスは、企業の法令遵守と倫理的行動を支えるために協働する必要があります。

法務とコンプライアンスをなぜ区別するのか

法務とコンプライアンスは、共通点と相違点がそれぞれありますが、そもそもなぜ区別して捉える必要があるのでしょうか。

主に3つの側面が考えられます。

  • 事業・経営戦略の側面
  • 組織づくりの側面
  • ナレッジの専門性

事業・経営戦略の側面

法務とコンプライアンスを区別することで、専門的な知識とスキルを持つ人材がそれぞれの領域で最適なパフォーマンスを発揮できるようになります

事業戦略においても、法務が法的リスクを管理し、コンプライアンスが倫理的なリスクを管理することで、バランスの取れたリスクマネジメントが可能になります。

例えば、新規事業の展開において、法務部門が法的リスクを評価し、契約書の作成や法的助言を行います。

一方、コンプライアンス部門は、新規事業が法令遵守と企業倫理に基づいて運営されるように、従業員への教育や内部監査を実施します。このように、法務とコンプライアンスを区別することで、それぞれの専門分野において最適な対応が可能となります。

組織づくりの側面

組織全体にわたる法令遵守と倫理の浸透を図るためには、法務とコンプライアンスを分けることが有効です。それぞれの部門が独自の役割を果たすことで、専門性を発揮しやすくなります。

法務部門は、法的リスクの管理と法的助言を専門とし、コンプライアンス部門は、企業倫理の推進と法令遵守の確保を専門とします。

例えば、企業の内部通報制度を運用する際には、コンプライアンス部門が中心となり、従業員に対して通報制度の利用方法や重要性を教育します。一方、法務部門は、通報内容の法的評価や、必要に応じて外部の弁護士と連携して法的対応を行います。

このように、法務とコンプライアンスを区別することで、それぞれの専門性に基づいた効果的な対応が可能となります。

ナレッジの専門性

法務とコンプライアンスは、それぞれ異なる専門知識を必要とします。

法務は法的知識に精通し、コンプライアンスは倫理規範や企業文化に関する知識が求められます。このため、専門分野を明確にすることで、より深い知識とスキルの蓄積が可能となります。

例えば、新しい法令が施行された場合、法務部門はその法的解釈と適用について深く理解し、企業の法的リスクを管理します。

一方、コンプライアンス部門は、その法令が企業の倫理や文化にどのように影響を与えるかを評価し、従業員への教育や社内ルールの改定を行います。

このように、法務とコンプライアンスを区別することで、専門知識を最大限に活用することができます。

法務とコンプライアンスを区別するメリット・デメリット

上記のように、法務とコンプライアンスを区別していく理由がありますが、区別して法務組織を構築していくことはメリット・デメリット両方があります。

メリット

メリットとしては、次の3点が考えられます。

専門性の向上

法務とコンプライアンスがそれぞれの専門分野に特化することで、深い知識と高度なスキルが蓄積されていきます。これにより、法的リスクの管理やそれに対する実対応と社内への仕組み化という役割にそれぞれ「選択と集中」がなされ、より効果的になります。

リスクマネジメントの強化

法務とコンプライアンスがそれぞれのリスクを管理することで、包括的なリスクマネジメントが可能となります。

法務は、事業環境全体を把握しつつ対外的にリスクマネジメントをしていくことが求められます。一方、コンプライアンスにおいては、内部統制やガバナンス確保のため、社内への仕組み化に際して障害となるリスク管理に注力する必要があります。

重複を避けつつ、リスク管理体制を多角的に整備することにより、企業全体のリスクに対する対応力が向上します。

効率的な業務運営

専門性に基づく分業により、業務の生産性向上が期待できます。

すでに述べたように、法務とコンプライアンスには専門性の内容や性質が異なる側面があります。それぞれの役割を明確に分担して集中していくことにより、業務の重複や無駄を避けることができます。

部門として区別しなくても、例えば法務の人材要件とコンプライアンスの人材要件を区別しておけば、同一部署内で異なるスキルセットを持つ人材を採用することで、生産性の高い業務運営が可能になるでしょう。

デメリット

デメリットとしては、次の3点が考えられます。

個々の案件に対するオーナーシップが分散する

違いが区別できる一方で、現実に発生する法務やコンプライアンスの対応案件で、違いが区別しにくいような案件の遭遇した場合に、どちらが案件対応を主導するのか、責任の所在などで部門間の意見の衝突が発生するおそれがあります。

こうした場合、案件のマイルストーンごとにオーナーがどちらかを区分けして対応することも考えられますが、1つの案件の中で主導するチームが分散すると、他の部署としては、連携する際に困惑を感じることも考えられます。

オーナーを明確にすることが困難な場合は、別途タイアップでプロジェクトチームを立ち上げて一元化するなど、案件の内容に応じた工夫も重要です。

ナレッジが一元化されない

法務とコンプライアンスが似た業務を行う場合、情報が偏ったり、中長期的には案件対応のナレッジが一元化されないことが考えられます。

法務とコンプライアンスは、違いがありつつも連動して初めて機能していきます。例えば、法令遵守に関する教育や内部監査など、両部門で行われる業務が重複することがあります。

その際に、部門が区別されると、他部署との連携や情報共有がどちらかに偏るおそれがあります。そうならないように、情報のアクセスや管理は、一元的に行うことができるようにするなど、工夫が必要です。

コストの増加

専門部門を設置することで、組織運営にかかるコストが増加する可能性があります。

法務とコンプライアンスそれぞれを分けて組織化すると、その分必要となる法務人材にかかる人件費や、部署の運営のために必要な社内ツールなどが増加することが考えられます。また業務のオペレーションもそれに合わせて2軸を前提に設計する必要も生じてきます。

そのため、スタートアップ企業やベンチャー企業、その他中小企業の場合には、最小限の法務組織で運営する場合には不向きといえるでしょう。

法務・コンプライアンスの人材に求められる資質やスキル5つ

これまで解説してきた内容から、法務とコンプライアンスの共通点と相違点を整理してきました。

最後に、法務やコンプライアンスを担う人材として必要な資質やスキルのポイントを、コミュニケーション能力、文書作成能力、情報収集能力、発信力(プレゼン力)、交渉力の5つ解説していきます。

コミュニケーション能力

法務・コンプライアンスの担当者は、複雑な法的問題や倫理規範について、分かりやすく説明し、関係者と効果的にコミュニケーションを取る能力が求められます。

例えば、法的なリスクやコンプライアンスの重要性を経営陣や従業員に理解させるためには、明確で説得力のあるコミュニケーションが必要です。

新しい法令が施行される際、法務部門の担当者はその改正の要点、概要を経営陣に説明し、改正による事業環境への影響の有無や範囲、そしてそれを前提とした適切な対応策を提案します。

さらに、コンプライアンス部門の担当者は従業員に対して規制の重要性と遵守方法についての研修を実施し、全社的な理解を促します。事業を動かす現場が理解する必要がある項目を周知し、法令遵守を担保することが求められます。

法務とコンプライアンスいずれの観点からも、専門的な内容をかみ砕いて、経営陣や従業員が理解できる言葉や方法で説明していく能力が求められます。その際には、経営陣と従業員が事業において普段直面しているレイヤーを正確に把握し、インプットする必要がある情報量や提供の仕方を区別して伝えることがポイントです。

そうした意図や背景を把握して説明することも、重要なコミュニケーション能力です。

文書作成能力

契約書や法的文書の作成、コンプライアンスに関するガイドラインや報告書の作成など、正確で明確な文書作成能力が重要です。

法務・コンプライアンスの担当者は、複雑な法的文書を理解しやすい形式で作成する能力が求められます。

例えば、契約交渉において、法務部門の担当者は契約書を作成し、法的リスクを最小限に抑えるための条項を吟味し、法的なワードや文の構造を示す必要があります。また、コンプライアンスの観点からは、契約した後のことも含めて取引先とのやり取りにおける対応の在り方や契約上発生したトラブル事象における対応をガイドラインとして文書化するなどして、従業員と共有することが考えられます。

こうした業務や役割を果たしていく上で、正確な文書作成能力が求められます。また、コミュニケーション能力でも記載したように、読み手の理解度や、理解する必要がある情報量、事業の戦略や意図をもとに言語化する能力が求められます。

情報収集能力

最新の法令や規制、業界動向を把握するための情報収集能力が必要です。

法務・コンプライアンスの担当者は、常に最新の情報をキャッチアップし、それを業務に反映させる必要があります。

例えば、新しい法令や規制が施行される際には、その内容を迅速に把握し、企業の対応策を提案することが求められます。

国際的な取引を行う企業において、法務部門の担当者は各国の法令や規制の変更を常にチェックし、必要な対応策を企業に提案します。

また、利用規約などサービスの基本的なルール水準を、市場環境を踏まえて変更することも考えられますが、そうした場合に他社の規約例の情報を収集していくことがあります。さらに、コンプライアンス部門の担当者は、各国の倫理規範や文化に関する情報を収集し、従業員に適切な行動指針を提供します。

こうした場面で、素早く正確に情報にアプローチしていく、また情報のソースや性質を吟味して取捨選別していく能力が必要です。

発信力

法務・コンプライアンスの重要性を全社に広めるための発信力が求められます。これには、従業員への教育や啓発活動を効果的に行うためのプレゼンテーション能力も含まれます。

例えば、社内研修やセミナーを通じて、法令遵守や企業倫理の重要性を伝える際には、わかりやすく説得力のある発信が求められます。

新しいコンプライアンスプログラムを導入する際、コンプライアンス部門の担当者は社内セミナーを開催し、全従業員に対してプログラムの目的と具体的な内容を説明します。法務部門の担当者も参加し、法的背景やリスクについて詳しく解説します。

交渉力

取引先や顧問弁護士、社内の他部門との交渉において、効果的に自社の立場を主張し、最適な結果を導くための交渉力が重要です。

例えば、契約交渉や法的問題の解決において、相手方との合意を得るための戦略的な交渉が求められます。

重要な契約交渉の際、法務部門の担当者は取引先と法的リスクについて議論し、自社に有利な条件を引き出すための交渉を行います。一方、コンプライアンス部門の担当者は、取引先がコンプライアンス規定を遵守するための具体的な取り決めを交渉し、契約書に反映させます。

まとめ

法務とコンプライアンスの違いや共通点、そしてそれぞれの部門に求められる人材の資質やスキルについて理解することは、企業の健全な運営にとって重要です。法務部門の採用を検討する際には、これらのポイントを考慮し、最適な人材を見つけることが成功の鍵となります。

また、求職者にとっても、自分のスキルや資質が法務・コンプライアンスのどの部分にフィットするかを理解することが、キャリアの成功に繋がるでしょう。

法務とコンプライアンスは、それぞれの専門性を持ちながら、企業のリスク管理と倫理的行動を支えるために車の両輪として相互に連動して事業の基盤となります。両者を適切に区別しつつ連携させることで、企業の健全な運営と社会的信頼の維持が可能となります。

BEET

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川村将輝
この記事の執筆者
川村将輝

愛知県弁護士会所属。旭合同法律事務所に所属しながら、事業会社の法務部に出向。企業法務に関心があり、取り扱い分野は戦略・政策渉外、コーポレートガバナンス、内部統制、M&A、ファイナンス、AI、Web3.0、SaaS、人材プラットフォーム、航空・宇宙、データ法務、広告法務、エンタメ、消費者被害、相続、破産・再生など。学生時代は法律問題を取り上げるメディア運営会社にてインターンを経験し、現在もWEBメディアにて執筆活動を続ける。詳しいプロフィールはこちら:https://asahigodo.jp/lawyer-introduction/kawamura-masaki/