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不正競争防止法は、企業経営における重要な資源である営業秘密・機密情報、ノウハウ、ブランドイメージなどの保護を通じて、公正・適正な競争環境を確保する法律です。
近年は、情報社会、デジタル社会の進展により、改正も頻繁になされています。
企業経営の現場では、重要な法務マターとして、不正競争防止法に関する知見が求められます。その際には、不正競争防止法だけでなく、隣接する法令との関係性も理解することも重要です。
本記事では、弁護士が不正競争防止法に関し、基本的なポイントを中心に、不正競争行為に該当する行為類型、実務上の注意点などを解説していきます。
【本記事のポイント】
そもそも不正競争防止法は、どのような法律なのでしょうか。目的やルール、法律の全体像と他の関連法令との関係や位置づけについて、解説していきます。
不正競争防止法は、①個々の事業者の営業上の利益の保護、すなわち経営資源の保護と、②事業者同士の競争環境をフェアにする2つの目的があります。加えて、①や②に関して、③国際的な経済秩序との足並みを揃えて約束(条約)の実施を確保する目的があります。
個々の事業者が独自に持つ経営資源、とりわけ冒頭で触れたような営業秘密、ノウハウ、ブランドイメージなどの無形的なものは、目に見えない形で流用されると、ビジネスが成り立たなくなるおそれがあります。
そうしたフェアでない競争が蔓延すると、価値のあるサービスの成長が阻まれてしまいます。
不正競争防止法は、企業の無形的資源の保護として一種の知的財産保護の側面とともに、経済秩序をマクロな視点で捉えたときの競争法としての側面があります。
もともとは、明治時代の1911年に、ドイツにおける不正競争防止法の改正の動きから法案制定が検討されたことが発端とされています。
しかし、当時は、営業秘密やノウハウなどについて明確な権利性までは認識されていませんでした。
また、民法上権利侵害性を観念することができないこととの兼ね合いから、昭和時代に入るまでは見送られてきました。
その後、日本国内での産業が急速に発展し、外国企業の進出も増えていたところ、国内の商品の摸倣が増加したことなどから、そうした行為を防止する機運が高まりました。また、パリ条約の批准・加入の必要性が議論されました。
そうした背景から、1934年に、工業所有権の保護に関するバリ条約の批准にあたり、不正競争防止法が制定されました。
このように、不正競争防止法は、模倣品やコピー品などの流入や、グローバルスタンダードに照準を合わせていく背景から制定されました。その後、営業秘密の保護、デジタルコンテンツ、ブランドイメージなど、保護すべき対象が拡がり、現在に至っています。
参考:経済産業省 知的財産政策室|『不正競争防止法の概要』 8ページ
法律全体の構造は、次の表のとおりです。
引用:経済産業省『不正競争防止法の概要』(12ページより引用)
主なポイントは、不正競争の定義(不正競争防止法第2条)です。不正競争は、表のとおり10類型あります。
営業秘密の侵害、限定提供データの不正取得等、そして技術的制限手段の効果を妨げる措置等の提供の3つは、複数のパターンがあります。
その他詳細は、後述します。
本記事で詳細は割愛しますが、先ほど触れた国際ルールに基づくものとしては、国旗や紋章の不正使用行為、国連などの国際機関のマークのような標章の不正使用、そして外国の公務員等への贈賄行為は禁止行為です。これらの行為は、犯罪として刑事的措置のみが定められています。
その他、不正競争防止法の目的から、例えば刑事手続では営業秘密保護への配慮から、営業秘密の秘匿(内容の言い換え(不正競争防止法第23条第4項)など)や、公判期日外での尋問(同法第26条)といった特例などが定められています。
まず、前記のとおり、不正競争防止法の沿革から民法との関係性があります。現在の整理としては、民法が一般法で、不正競争防止法が特別法の関係にあるとされています。
すなわち、不正競争による営業上の利益の侵害を受けた被害者は、不正競争防止法によって保護が定められ、不正競争行為によって損害を与えた場合、同法第4条に基づく損害賠償請求権を有します。
また、不正競争防止法は、民法にはない法的手段として、差止請求権(不正競争防止法第3条)を定め、より被害者の救済を高めています。
また、不正競争防止法の無形的な経営資源保護という知的財産に関する法令との共通項から、知的財産法(著作権法、特許法、意匠法、商標法など)と比較したときに、他の知的財産法では主に権利性の定義や権利付与に関するルールの形で定められている一方で、不正競争防止法は一定の行為を防止するルールとして設計されています。
つまり、不正競争防止法は、著作権、特許(権)、意匠権、商標権など権利として名づけられ、あるいは公的に権利を付与されるのではなく、不正競争行為に対する賠償責任や刑事責任を定めることで一般的に予防を図っているものといえます。
刑法や刑事訴訟法との関係では、無形的な財産である特質から、不正競争防止法は、刑法や刑事訴訟法ではカバーできない部分のルールを補完して営業秘密等の保護を図っています。
例えば、占有状態(占有を観念できる状態)を前提とする窃盗罪や横領罪、被害者による財産の処分行為を前提とする詐欺罪は、営業秘密やノウハウなどの流出・流用をすべてカバーできる構成要件ではありません。
また、通常の刑事訴訟手続を前提にすると、不正競争防止法違反に関する公判では、証拠調べで、尋問などで営業秘密等に言及することを避けられず、これが露呈してしまうことになりかねません。それでは本末転倒であることから、特別のルールを設計する必要があるのです。
次に、不正競争行為の10個の類型について、詳しく解説していきます。
他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
周知表示混同惹起行為は、商品名やデザインの特徴的な表示について、顧客や社会一般に周知されているような文言や記号、イラストなど態様を問わず、同様のもの(パクリ)や似せたような商品を譲渡したりする行為で、商品や営業と混同させるおそれがある行為のことをいいます。
ポイントとしては、大きく3つあります。
「表示」の内容は、商標であったり、商品の形状に表れるものも含まれます。一方で、単に用途を説明するような内容は表示に含まれないものとされます。
商品の買い手となる顧客や取引先を指します。多段階のサプライチェーンにおけるTo Bのビジネスの場合でも、そのプロセスにいる卸売業者なども含むものとされています。また、どこまで「広く認識」されている必要があるかについては、全国的でなくてもある一定の地域で足りるとされています。
「混同」は、競合他社の関係にあるなど同じ商品や営業を行う者同士であることを前提に、営業主体について混同を生じさせるという意味合いがあります。加えて、広義の混同として、競争関係になくても緊密な関係や同一の商品に関わる事業を営むグループにあるのではないかと誤信させてしまう場合という意味も含まれます。
自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為
これは、他人が商品や営業の表示として使用しているものと同じものや似たものを、自分の商品やサービスの表示として使用したり、あるいは表示を使用した商品やサービスを流通させる行為をいいます。
著名表示冒用行為のポイントは、「著名性とは何か」という点です。
これは、周知性の程度問題ですが、先ほどと周知表示混同惹起とは異なり、全国的に知られていることを要するとされています。また、誰からみて著名かという点で、ある一定の商品の顧客層だけでなく、誰しもが「この名前といえば・・・」と認識するような世間一般に知れ渡っていることが必要です。
例えば、ルイヴィトンのデザインなど、それを実際に購買する富裕層でなくても、見ただけで誰もが「ルイヴィトン」だと認識されるような周知性が必要とされます。
こうした著名表示冒用行為は、元の商品やサービスと混同することはなくても、ブランド力にフリーライドするものであり、元の商品のブランドイメージを損なうことになりかねないため、不正競争行為として定められています。
直近では、任天堂のゲームで著名なキャラクター「マリオ」の服とほぼ同じものを着用したなどのマリカー事件はニュースでも取り沙汰されました。マリカー事件では、コスチュームとして着用した被告に対して、使用の差止や損害賠償が命じられました(知財高判令和2年1月29日)。
他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
これは、商品の形態・デザインを真似した商品(いわゆるコピー商品)の流通や取引を行う行為をいいます。
ポイントは2点あります。
不正競争防止法で保護される「商品の形態」は、「商品の内部及び外部の形状、形状に結合した模様、色彩、光沢、質感」をいいます(不正競争防止法第2条第4項)。そして、これは商品を手にする顧客が通常の使い方に従って使用した際に認識することができる程度のものであることが必要とされます。
こうした「商品の形態」に対して摸倣が行われた場合、当該商品について意匠法上登録などをしていなくても、摸倣行為が不正競争防止法によって禁止される結果として商品のデザインが保護されます。
また、不正競争防止法上保護される「商品の形態」は、①外観上認識可能であるかどうかという点や、②材質や形状が労力や資金を要する程度に独創性があるかどうかという点もポイントです。
一方で、物品あるいは建築物の形状、模様、色彩やそれらの結合、画像として認識されるものは「意匠」として意匠法上保護されます(意匠法第2条第1項)。意匠は、特に視覚的に認識されるものに限られます。そして、意匠に関して保護を受けるには、特許庁による審査を経た登録が必要です。
「摸倣」の意義は、「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」をいいます(不正競争防止法第2条第5項)。
前半の依拠性に関しては、著作権法上も同じような理論的な概念がありますが、客観的にみて商品の形態にオリジナリティをみてとれるようなポイントがどの程度あるかが重要です。
そして、後半の実質的な同一性に関しては、「形態に改変があった場合」に「改変の着想の範囲、改変の内容・程度、改変による形態的な効果などを総合的に判断」するものとされます(前掲『不正競争防止法の概要』21ページ)。
端的には、営業秘密を窃取や詐欺など不正手段により営業秘密を取得して、自ら使用したり、第三者に開示して利用される行為のことを指します。
侵害行為には、大きく7つの類型(次の表の①から⑦)があります。
権原がない:取得等をする根拠がない者による行為 |
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①取得等をした本人が窃盗や詐欺などによる取得ないし使用・開示(4号類型) 取得等をした本人からさらに情報を得た第三者(転得者)が ②不正に取得された経緯を知っていたか、重過失により知らずに取得した営業秘密を使用・開示する行為(5号類型) ③不正に取得された経緯を、営業秘密の取得後知ったか、重過失により知らなかったが、権原の範囲外で使用・開示する行為(6号類型) |
権原がある:取得等する根拠がある者による行為 |
④取得等する根拠がある者本人が、不正の利益を得る目的Or営業秘密の保有者に損害を洗える目的で、営業秘密を使用・開示する行為(7号類型) 権原者から、さらに情報を得た第三者(転得者)が ⑤不正に取得された経緯を知っていたか、重過失により知らずに取得した営業秘密を使用・開示する行為(8号類型) ⑥不正に取得された経緯を、営業秘密の取得後知ったか、重過失により知らなかったが、権原の範囲外で使用・開示する行為(9号類型) ⑦それぞれの営業秘密の不正使用行為によって、不正使用者が開発等して生じた物を譲渡したり取引することも不正競争行為に含まれる(10号類型) |
営業秘密の侵害行為に関して、ポイントは2つあります。
「営業秘密」は、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」をいいます(不正競争防止法第2条第6項)。
分解すれば、①秘密管理性、②有用性、③非公知性の3要件があるとされています。
特に①の秘密管理性に関して、どこまでのセキュリティ水準や管理態様であれば、営業秘密として保護されるかという点が重要です。これには、経産省が定める営業秘密管理指針が具体的な基準を定めています。
概要としては、営業秘密を保有する企業等の事業者における秘密管理意思が従業員などに対して示されており、かつ従業員側がその意思を認識できる状態が確保される必要があるということです。
企業においては、秘密情報の該当性やその管理方法について言語化して周知している体制がとられていることが必要であり、かつ基本的にはそれで充分とされます。
なお、情報の性質も、「技術上の情報」か「営業上の情報」に限定されているものです。不正競争防止法上では、次のように定められています。
技術上の情報としては、例えばラーメン店では、特に創業者数名しか知らないようなスープの製造方法などは、該当するといえます。また、営業上の情報の例としては、顧客リストや新規事業計画の計画書などが含まれます。
前記の表で整理したものは、民事の場合の不正競争行為に関するものです。一方で、不正競争防止法上、営業秘密は、別途刑事責任の対象としても別途行為類型を定めています(同法第21条第1項、同条第3項)。
カテゴリーは概ね同様ではありますが、刑事の場合は罪刑法定主義、法令の明確性の観点から、文言の書きぶりが具体的になっています。
これは、端的には企業などが事業において独自に収集し管理している情報を集積したデータのうち、特定の者に提供されるデータを、不正に取得して自ら使用したり第三者に使用させたりする行為をいいます。
営業秘密の侵害行為と同様に、限定提供データの不正取得等に関する行為類型も、細かく分けると次の表にある①から⑥の6つの類型に分けられます。
先ほど述べた営業秘密の侵害行為の類型と概ね同じような構造の棲み分け(第一次取得者と転得者の善意・悪意)です。
データへのアクセス権限のない者による行為 |
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①不正アクセスなどによって取得して自ら使用し、あるいは第三者に開示する行為(11号類型) ①の開示により取得した者のうち ②不正な取得経緯を知って使用・開示する行為(12号類型) ③不正な取得経緯を知らなかったが、事後的に知った上で、取得時における使用範囲を逸脱して開示する行為(13号類型) |
データへのアクセス権限のある者による行為 |
④不正な利益取得やデータ保有者への加害を目的として、任務違背して自ら使用したり、第三者に開示する行為(14号類型) ④から取得した者のうち ⑤不正な取得経緯を知って使用・開示する行為(15号類型) ⑥不正な取得経緯を知らなかったが、事後的に知った上で、取得時における使用範囲を逸脱して開示する行為(16号類型) |
ここでのポイントは2つです。
限定提供データは、次のように定義され、業として特定の者に提供されること、情報量の蓄積、そして電磁的方法により管理されることの3つが要件とされます(不正競争防止法第2条第7項)。
この法律において「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。次項において同じ。)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(営業秘密を除く。)をいう。
特に情報量の蓄積についてどの程度「相当量蓄積」していれば限定提供データとして保護されるかに関して、データの性質に応じて相対的に判断されます。
その際には、単一の情報としてではなく蓄積した集合体となることによる付加価値や利活用の可能性、取引価格、修習や解析における労力・コストといった要素によって決まります。
データ全体としてではなくても、そのうち一部についてデータとして利活用できる価値が客観的に認められる限り、限定提供データとして保護されます。
情報の質的な要件として、技術上又は営業上の情報であることが挙げられます。そのほか、限定提供データに関する考え方は、限定提供データに関する指針が重要です。
営業秘密の侵害行為の場合と異なる点として、適用除外があります。
1つは、営業秘密の侵害行為との区別から、営業秘密に該当する場合が除外されます。また、オープンソース化されているデータと同一の場合が適用除外とされます。
これは、映像や音楽、ゲームなどのコンテンツに関してコピーや改変による海賊版などを防止するためコンテンツ保有者がセキュリティをかけているものに対して無効化して、そのコンテンツの視聴や記録、プログラムの実行をできるようにして利用する(第三者にサービスとして譲渡するなども含む)行為をいいます。
例えば、マイクロソフト社のライセンス認証システムの認証を回避して、製品を利用できるプログラムを、インターネット上を通じて販売したケースで、この技術的制限手段無効化措置の提供に該当するとして損害賠償が認められました(大阪地判平成28年12月26日)。
こうした行為は、デジタル化によって様々なコンテンツがハードウェア・ソフトウェアを問わず情報媒体を通じて流通して取引される現代において、事業者が自らの権利を保護するためにインターフェースとして設計した情報媒体にかけた認証が破られると、コピー商品や海賊版が出回るなどして、結果コンテンツ保有者のコンテンツの価値が希釈されたり、商品のUIが損なわれたり、利益が奪われてしまうことから、不正競争行為とされます。
※技術的制限手段の定義は、不正競争防止法第2条第8項を参照。
不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為
ドメイン名の不正取得等は、商号や、商標など商品やサービスを表示する名称や、インターネット上でHPやサイトを識別するために利用されるドメイン名(第2条第10項)を図利加害目的で、取得・保有・使用する行為をいいます。
これは、商品やサービス、それらに関する広告などに、品質や産地、製品の内容などについて誤認させるような表示をする行為をいいます。
分析のポイントとしては、条文の構成上、その表示がどこに(商品自体なのか、広告なのか、取引に用いる書類:注文書や見積書などなのか)、何について(原産地、品質、内容、用途など)、誤認させるような表示なのかどうかという点が挙げられます。
そして、問題となっているのが、表示行為自体なのか、表示した商品を譲渡したり引き渡したり、サービスを提供する行為までを含んでいるかどうかもポイントとなります。
「誤認させるような表示」かどうかは、ケースバイケースになりますが、表示を目にして商品やサービスの利用や取引にかかる顧客や取引先からみて、社会通念上誤解を表示させるものであるかどうかによって判断されます。
なお、誤認惹起行為は、誤認させるような「虚偽の表示」をした場合には、特に刑事責任も定められているため注意が必要です(不正競争防止法第21条第2項第5号)。
競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為
信用毀損行為は、刑法上も信用毀損罪(刑法233条)で犯罪の1つとして定められていますが、不正競争防止法上は、特に「競争関係にある」者に関して「営業上の信用」を害するような虚偽の告知や流布行為をいいます。
そして、刑法上での信用毀損罪や業務妨害罪によることとの棲み分けとして、不正競争防止法上は、信用毀損行為について民事責任のみが定められています。
「競争関係」に関しては、その需要者である顧客・潜在顧客や取引先を共通にする可能性があることで足りるものとされています。
また、「他人」性に関しては、行為の中で名称自体が明示されていなくても、告知の内容や業界内において認識されている情報から客観的にみて、当該他人が誰を指すかが理解できれば足りると解されています。
これはパリ条約の同盟国に関する規定で、同盟国間において商標に関する権利を有している者の代理人が、正当な理由なくその商標等を使用する行為をいいます。
不正競争行為について詳細に解説してきましたが、ここでは法務として実務上ポイントとなる点を3つ解説していきます。
まず、営業秘密の管理については、秘密管理性の要件にあるように、法的な保護を受けるためにどのように営業秘密を管理しておくかがポイントになります。
社内の情報セキュリティ、リスクマネジメントとして、情報漏えいの起点を社内と社外の2つに分けつつ分析していくことが必要です。
社外の観点からは、社内の情報管理システムに対する外部攻撃への対策を講じておくことが重要です。基本は、PCや社用の携帯電話などのハードウェアのセキュリティのほか、情報ストレージとなるクラウドサーバーのセキュリティ、そしてオフィスのセキュリティをそれぞれ備えておくことが重要です。
PCやクラウド、サーバーは、セキュリティ用のソフトウェアや機能、ライセンスのスペックが一般的に利用される企業のセキュリティ水準に沿っていることを確認することが考えられます。
もっとも、外部による攻撃による営業秘密の漏えいは、むしろ稀なケースです。重要なことは、社員や退職者による漏えい防止の仕組みを整備していくことにあります。
その際は、個人情報保護法における安全管理措置のような視点で整理し、例えば組織的な安全管理措置としては、就業規則や情報セキュリティ規程において営業秘密の定義や、想定される漏えいのシチュエーションの周知とそれに対する防止策を定めているかどうかがポイントです。
そして、情報の管理について、社内研修を通じて定期的に社員へのインプットを行うことが考えられます。特に、ケースとして認識しておくことが理解度を高めるポイントとなるため、社内で情報セキュリティのヒヤリハット事例を蓄積し、それをもとに社員に対し注意点を具体的な行動基準ベースで周知していくことが重要となります。
また、業務委託契約などを活用する企業においては、契約の中で、NDAを確実に締結しておくことが重要です。特に秘密情報の範囲、利用目的の明確な限定と目的外利用の禁止、開示範囲の限定、契約終了時の破棄・返還の措置の定めがポイントとなります。
限定提供データの不正取得等に関する不正競争行為の規律で、1つ法務的に注意すべきポイントがあります。それが、限定提供データの不正使用行為によって生じた物の取扱いについてです。
営業秘密の侵害行為のケースでは営業秘密の不正取得等により使用して開発した商品の譲渡等が禁止されていますが(不正競争防止法第2条第1項第10号)、限定提供データの不正取得等においては定められておらず、限定提供データ等の不正取得等によって生じた物の譲渡などの行為は不正競争行為にあたらない点です。
例えば、顧客の購買商品のデータとして限定提供データを不正取得した者が、その保有するChatGPTなどAIプログラムにインプットとして分析させて得た結果をもとに利用するなどする行為は、不正競争行為にあたりません。
そのため、限定提供データに関しては、ビッグデータとして利活用していく際に、仮にデータが不正取得されていた場合でも、取得後の行為に関しては侵害行為とならず差止請求などをすることができないため、注意が必要です。
誤認惹起表示に関して、法務において実務上意識すべきポイントとしては、景品表示法における表示規制との棲み分けです。
細かいポイントは割愛しますが、考え方の起点となるポイントは、不正競争防止法と景品表示法との間で法の趣旨・目的が異なる点です。
景品表示法は一般消費者の観点からみて、消費者側の利益保護の観点から商品やサービスの購買判断において誤認などを与えるかどうかが表示規制の趣旨です。
一方で、不正競争防止法は、需要者・取引者の視点がポイントとなる点は共通ですが、その結果営業上の利益が害される事業者を保護することが表示規制の趣旨とされます。
この違いに着目して、両者の法の表示規制を理解することがポイントです。
不正競争防止法では、様々な適用除外が定められており、上記で解説した不正競争行為の類型によって適用除外となる規定が定められています。ここでは、代表例を3つお話していきます。
周知表示混同惹起行為などの不正競争行為の適用除外とされるものですが、「普通」名称は、サービスの固有性や特定性に影響を及ぼさないような性質の名称や表示です。
例えば、弁当、アメリカンコーヒー、ベッド、フラペチーノなど、商品固有の名称というよりは単に商品の質的な区別を行うための名称にすぎないような場合です。
周知表示混同惹起行為や著名表示冒用行為などにおける適用除外ですが、周知性や著名性の前から使用している場合は、適用除外とされます。
先使用が周知性や著名性がいつから認められるかという点の立証は、特に周知性においては困難な場合も少なくないと考えられます。著名表示の場合、サービスの普及度合いなどが客観的に明らかな場合もあるため、時点の特定がしやすい側面もあるでしょう。
コピー商品や営業秘密、限定提供データに関しては善意者(不正な取得経緯を知らないで取得した者)の保護が定められています。
取引や情報利用の安全を確保するために、不正競争行為の適用除外とされています。
最後に、不正競争防止法違反による制裁に関して、民事上の措置と刑事上の措置について、簡単に解説していきます。
民事上、不正競争行為に対する制裁としては、差止請求権(同法第3条)、損害賠償請求権(同法第4条)、そして信用回復措置(第14条)の主に3つが定められています。
また、損害賠償に関しては、損害の推定規定が設けられています(同法第5条)。技術上の秘密の取得においては、特に使用行為の立証の困難さから、同じ商品の販売などの事実により不正使用を推定する規定が定められています(同法第5条の2)
刑事罰に関しては、主に懲役刑や罰金刑が定められています。
例えば、営業秘密の侵害行為などに関しては、10年以下の懲役か2000万円以下の罰金、あるいはその両方が科せられます。
不正競争防止法は、企業の経営資源を保護することと、公正な競争環境を確保することの2つを目的としています。
その中で、営業秘密の侵害行為を中心に、様々な競争環境の阻害行為や経営資源の不正な利用行為が不正競争行為として定められています。
いずれも、保護の要件においては一定の要件があるため、事業者はその内容を理解し、事業者としての企業努力も含めて経営資源の逸出を防止していく必要があるでしょう。
愛知県弁護士会所属。旭合同法律事務所に所属しながら、事業会社の法務部に出向。企業法務に関心があり、取り扱い分野は戦略・政策渉外、コーポレートガバナンス、内部統制、M&A、ファイナンス、AI、Web3.0、SaaS、人材プラットフォーム、航空・宇宙、データ法務、広告法務、エンタメ、消費者被害、相続、破産・再生など。学生時代は法律問題を取り上げるメディア運営会社にてインターンを経験し、現在もWEBメディアにて執筆活動を続ける。詳しいプロフィールはこちら:https://asahigodo.jp/lawyer-introduction/kawamura-masaki/