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うつ病を含む精神疾患を患う患者数(外来)は、2017年に389.1万人だったのに対し、2020年には586.1万人となっており、3年で200万人近く増えています。
現代は、社員の心身の健康を保つサポートをすることが安定経営につながると言っても過言ではないでしょう。
社員のうつ病を予防したり、ケアしたりするためには、うつ病の性質を理解して事前に対策を練る必要があります。
本記事では、社員がうつ病を発症した際の対応方法を解説します。
うつ病は発症した一社員だけでなく、周囲の社員や企業の評価にも影響を与えるため、早めの準備と対処を心がけましょう。
うつ病のときにみられる社員の行動として、以下が一例として挙げられます。
それぞれ詳しく解説します。
うつ病になった社員は、集中力や意欲が著しく低下するため、通常では起こらないような小さなミスが増えます。
書類の記入ミスや計算ミス、締め切りの遅れなどが目立つようになる他、以前は得意だった業務でも突然パフォーマンスが低下することも少なくありません。
このような変化は、うつ病の初期症状として現れることが多いため、注意が必要です。
遅刻や早退、欠勤が増加することも、うつ病の重要な兆候の1つです。
うつ病による睡眠障害や意欲の低下によって出勤時間に動けなくなり、遅刻や当日欠勤、連続欠勤が増えていきます。
うつ病が重症化すると、無断遅刻や無断欠勤も増加するため、このような状況が続いている社員がいる場合は注意しなければなりません。
うつ病によって自己管理能力・判断能力が低下すると、服装が乱れたり、化粧をしなくなったりするため、服装がだらしなくなります。
また、周囲に気を配れなくなるため、デスクの整理ができなくなったり、掃除しなくなったりするなどの変化もみられます。
そのため、このような状態が長期間続く場合は、注意が必要です。
うつ病の社員は、同僚とのコミュニケーションを避ける傾向があります。
会議での発言が減ったり、昼食を1人で取るようになったりする他、職場の飲み会や社内イベントへの参加を断るようになることも多いです。
このような社交性の低下は、うつ病による対人関係への不安や、エネルギー低下が原因の可能性があります。
社員のうつ病が発覚した場合の基本的な対応は次の4つです。
それぞれ詳しく解説します。
社員本人によるセルフケアがうつ病に対応していく重要な1歩となります。
セルフケアを実施していくために、企業が実施すべき教育研修・情報提供は次のとおりです。
こうした対処はメンバーを中心に実施されがちですが、管理職がうつ病を患うケースも多いため、セルフケアの対象者に含めておく必要があります。
うつ病の対策・ケアにおいて、ラインによるケアは日常的に実行しやすいため、重要な役割をもちます。ここでいうラインは、上司や管理職を指します。
管理職が部下の些細な変化に気づければ、早期発見・早期対応が可能となります。
そのため、定期的な面談や部下からの相談などを通じて、社員の状態を把握し、必要であれば業務量や内容の調整、勤務時間の柔軟化などを実施します。
また職場環境を改善したり、職場復帰を支援したりすることも、ラインによるケアとして取り組むべき内容です。
なお的確なラインによるケアを実現するためには、管理職のメンタルヘルスに関する知識も深めておく必要があります。
産業医や保健師、カウンセラーなど、専門スタッフの関与が非常に重要です。
事業場内産業保健スタッフの関与により、予防的アプローチも含めた包括的なケアを提供できるようになります。
具体的なケア内容は次のとおりです。
外部の専門機関や医療機関との連携も重要な要素です。
事業場外資源によるケアを充実させることにより、うつ病ケアのネットワーク形成および、社内では提供が難しい専門的なサポートを受けられる体制を構築できます。
また、リワークプログラムなど職場復帰に向けた専門的なプログラムの利用により、職場復帰支援の強化も可能です。
社員のうつ病の予防とケアの具体的なステップは次のとおりです。
それぞれ詳しく解説します。
うつ病ケアを推進するには、教育研修・情報提供が欠かせません。
社員全体がうつ病に関する正しい知識を持つことで、自分や周囲の変化に気づきやすくなり、早期発見・早期対応につながるからです。
ただし、すべての社員に同じ内容で教育研修・情報提供しても意味がありません。一般社員と管理職ではやるべきことが異なるからです。
効果的なうつ病の予防・ケアを推進していくためには、各職務に応じた教育研修・情報提供を実施していく必要があります。
また教育研修担当者を育成して、教育研修・情報提供の充実を図ることも重要です。
労働時間や作業環境、人間関係など、社員の心の健康に影響与える要因はさまざまです。
うつ病を予防するには、これらの要因をできるだけ取り除き、ストレスの少ない健全な職場環境をつくっていく必要があります。
ストレスの少ない健全な職場環境をつくるためには、定期的なストレスチェックや匿名のアンケート調査などを実施して、職場の問題点を把握し、改善を図っていくことが大切です。
誰もうつ病を発症しないことが一番良いですが、予防や対策をおこなっても完全に防げるものではありません。
社員がうつ病を患った場合には、早期発見と適切な対応が重要です。
これらを迅速に実施する体制を整備するために押さえておくべきポイントは次の3つです。
うつ病で休職していた社員が、円滑に職場復帰して就業を継続するためには、慎重かつ計画的な支援が必要です。
支援の流れは具体的に次のとおりです。
衛生委員会などで調査・審議
調査・審議結果をもとに段階的な職場復帰支援プログラムの策定
支援プログラム実施に向けた体制整備
参考:厚生労働省-職場における心の健康づくり
ただし、プログラムを策定し、体制を整備しているだけでは意味がありません。
プログラムを正しく機能させるためには、ただ支援を実施するだけでなく、社内全体に協力を求めて、復帰者を温かく迎え入れる雰囲気づくりが大切です。
うつ病で休職した社員が職場復帰を希望する場合、以下のような流れでの支援することができます。
それぞれ詳しく解説します。
主治医による診断書が社員から提出されたら、管理監督者は人事労務管理者に診断書と診断書が提出された旨を連絡します。
休業期間中に社員が安心して療養に専念できるように、次の事項を伝えておくとよいです。
なお予想される療養期間がわかれば、復帰時期の目途が立てやすくなります。そのため、可能であれば診断書に予想される療養期間を明記してもらうことをおすすめします。
主治医から職場復帰可能との診断が出されたら、復帰可能と判断された診断書の提出を求めます。
その際、就業上の配慮事項や今後の通院治療の必要性などについても、診断書に記載してもらっておくとよいです。
なお、主治医からの意見を収集する際は、必ず社員の同意を得たうえで必要な情報・意見のみを収集しなければなりません。
主治医の判断だけで即座に復職を決定してはいけません。日常生活における症状の回復程度だけで、職場復帰できると判断されてしまうケースが少ないからです。
職場復帰可否は、主治医の判断をはじめさまざまな観点から評価したうえで、総合的な判断をしていく必要があります。
そのため、職場復帰可否判断を下す際は、さまざまな情報を収集しなければなりません。
収集すべき情報は具体的に次のとおりです。
情報を収集・評価したあと、事業場内産業保健スタッフが中心となって職場復帰可否を判断します。
職場復帰可能と判断されたら、具体的な復帰支援プランを作成します。
職場復帰プランを作成する際は、以下の項目について検討しなければなりません。
社員が復帰したあとの経過観察やフォローアップをおこなわない場合、再発や症状の悪化を招きかねません。
社員が完全な健康と安心を得るまでサポートしきるために、あらかじめ計画を立てることが重要です。
職場復帰の計画が立ったら、職場に復帰できるかどうかの最終判断をしていきます。
職場復帰の最終決定で押さえておくべき項目は次の4つです。
労働者の状態の最終確認 | 疾患の再燃・再発有無等についての最終的な確認 |
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就業上の配慮等に関する意見書の作成 | 産業医による「職場復帰に関する意見書」などを作成 |
事業者による最終的な職場復帰の決定 | 事業者は最終的な職場復帰の決定を行い、就業上の配慮の内容についても併せて労働者に対して通知 |
その他 | 職場復帰についての事業場の対応や就業上の配慮の内容等が、労働者を通じて主治医に的確に伝える |
職場復帰後も継続的な支援が重要です。
定期的にフォローアップを実施しながら、長期的な視点で支援を続けることが、完全な職場復帰につながるからです。
具体的な支援内容としては、勤務状況や業務遂行能力の評価、職場復帰支援プランの実施状況の確認、治療状況の確認、職場環境の改善などが挙げられます。
また、職場復帰支援プランを適宜評価し、問題が生じている場合は改善していくことも重要です。
社員のうつ病ケアが企業にとって重要な理由として、次の3つが挙げられます。
それぞれ詳しくみていきましょう。
社員のうつ病ケアは、個人の健康回復だけでなく、企業の生産性向上にも大きく寄与します。
うつ病によるパフォーマンスの低下は、組織全体の生産性を低下させる大きな要因となります。またうつ病による休職・離職は人材の流出を招くため、業務の停滞や知識・スキルの喪失にもつながりかねません。
そのため、うつ病ケアによる社員の心身の健康維持は、長期的な企業の成長と生産性向上に不可欠な要素です。
社員のうつ病ケアは、離職防止に大きな効果があります。
適切なサポートがない場合、うつ病は長期化・重症化し、最終的に退職せざるを得ない状況に追い込まれることがあります。社員のうつ病ケアが充実すれば、早期発見・早期対応と適切なケアができるため、職場復帰の可能性が高まります。
また、うつ病からの回復と職場復帰を支援する姿勢は、他の社員にも安心感を与え、会社への信頼と帰属意識を高めるため、全体的な離職率の低下にもつなげられます。
社員のうつ病ケアへの取り組みは、会社の評判に大きな影響を与えます。
うつ病による休職や過労自殺などにより、裁判沙汰になる事例は少なくありません。裁判沙汰になると、うつ病対策が不十分なブラック企業のレッテルを貼られるリスクがあります。
SNSの普及により、現在は企業の評判は瞬く間に広まるため、一度悪評がついてしまうと企業の存続を左右する事態へと発展しかねません。
したがって、うつ病ケアは単なる福利厚生ではなく、企業の評判を左右する重要な経営戦略の1つといえるでしょう。
うつ病のケアや復職支援について解説しました。
うつ病の患者数が増加している昨今、うつ病は一個人の問題ではなく、企業が経営を続けるうえで対策すべき項目のひとつとなっています。
事前にうつ病に対する知識をつけて、対策を講じておくことが大切です。予防はもちろん、発症した際の迅速な対応や復職支援は、生産性の向上や離職防止、さらに会社の評判にも影響します。
ぜひ本記事を参考に、うつ病について学んでみてください。
IT企業にて新卒から人事部に配属されて、現在まで5年間働いています。
現役人事ならではの視点で、人事に関する情報を記事にしていきたいと思います。