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【弁護士解説】金融業界における法務とは?金融に関する法務の特色、種類、主な業務内容などを解説

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【弁護士解説】金融業界における法務とは?金融に関する法務の特色、種類、主な業務内容などを解説

金融業界は急速に進化し続けており、技術革新や規制の変更、国際化の進展に伴い、ますます複雑化しています。このような状況下で、金融に関する法務の専門知識とスキルが重要性を増しています。

金融法務は、企業の信用を守り、法的リスクを管理しながら、ビジネスの成長を支援する役割を果たします。

本記事では、金融法務の基本概念から具体的な業務内容、直面する課題までを詳しく解説します。

本記事のポイント

  • 金融業界の主なカテゴリー
  • 金融業界における法務の主要なポイント
  • 金融法務の具体的な種類とその業務内容
  • 金融業界の法務の現場で直面する課題

金融業界とは?5つのカテゴリに分けて解説

金融業界は、主に以下の5つの業界カテゴリで構成されています。

  1. 銀行・消費者金融業界
  2. 証券業界
  3. 保険業界
  4. 資産運用(アセットマネジメント)業界
  5. フィンテック(FinTech)業界

各カテゴリを詳細に解説し、金融業界について解説していきます。

銀行・消費者金融業界

銀行業務には個人及び法人向けの預金取引、融資、為替取引などがあります。消費者金融では、個人向けの融資などがあります。

法人向けの取引では、数億や数十億以上のお金が動く案件もあります。
融資(デットファイナンス)だけでなく、投資によるエクイティファイナンスもあり、戦略的な投融資判断を通じた事業です。

証券業界

証券業界には株式や債券の売買などの取引やその仲介、投資信託の運用などがあります。
また、IPOの支援を行う主幹事証券会社としての役割や、M&Aにおける助言を行うような事業もあります・

保険業界

保険業界には生命保険、医療保険、自動車等の損害保険、ペット保険、様々な少額短期保険があります。

資産運用(アセットマネジメント)業界

資産運用業務には、投資信託の運用や年金基金の管理があります。証券業界は特に株式や債券に特化したものですが、アセットマネジメントに関する事業では、不動産、インフラ、先物取引、純金など様々な資産が対象となります。

フィンテック(FinTech)業界

フィンテックは、金融とテクノロジーの融合によって生まれた新しい分野です。ブロックチェーン技術を利用した仮想通貨取引や、AI(人工知能)を活用した投資アドバイザリーサービスなどが含まれます。

金融業界における法務の特色

金融業界の法務には、どんなことが求められるのでしょうか?特色を解説していきます。

信頼性と透明性

金融機関は、顧客からの信頼を得るために、透明性のある運営を行う必要があります。これには、定期的な財務報告や情報開示が含まれます。

法務担当者は、これらの報告書類が適正に作成されるよう監督し、法的に問題がないことを確認します。

技術革新への対応

フィンテックの登場により、金融業界は急速に変化しています。新しい技術やサービスが次々と導入される中で、法務担当者はこれらに迅速に対応し、適切な法的枠組みを構築する必要があります。

グローバル化

金融業界のグローバル化に伴い、国際取引が増加しています。これに伴い、各国の異なる法規制への対応が求められます。

国際法務の専門知識を持つことは、国際取引を円滑に進めるために重要です。

法律事務所と企業で金融法務の扱いが異なる

法律事務所に所属する弁護士が対応する際の金融業界の法務への関わり方と、企業内の法務担当者が向き合う法務とは視点が異なります。差異を具体的に解説します。

法律事務所での金融法務サービス

法律事務所では、クライアントに対して幅広い法務サービスを提供します。横断的に、幅広い金融業界の法務における専門的な知見を提供します。

大手や中堅の法律事務所では、金融法務に特化したチームがある場合もあります。金融業界のカテゴリに応じて、クライアントのニーズに応じた専門的なアドバイスをおこなうようにチームとして対応します。

とりわけM&AやIPOのほか、ガバナンス水準を確保するための外部監査として対応する場合がありますが、それはこれらの業務が性質上1人の弁護士で対応することは困難であるためです。

金融業界の企業内法務部門の立場

企業内法務部門では、企業の日常業務全般に関する法務のサポートをおこないます。

外部の法律事務所とは異なり企業内の一部門というのポジションであるため、専門性が高くないような日常的な法務相談のほか、ガバナンス体制やコンプライアンス体制の監視を継続的におこなうことになります。

ただしいち企業に専属する立場から、金融業界など特定の業界に特化した法令への規制対応が求められます。そのためには、業界特有の知識や企業文化を深く理解することが必要です。

金融業界の法務で重要なポイント3つ

金融業界の法務で押さえるべきポイントは、以下の3つです。

  1. 規制当局対応
  2. テクニカルな法令
  3. リスクコンプライアンス

それぞれ解説していきます。

規制当局対応

1つ目が規制当局への対応です。当局は、財務省下の金融庁です。また、証券取引等監視委員会という外局もあります。

金融業界の法務では、規制官庁である金融庁や証券取引等監視委員会などの当局対応は極めて重要です。これらの機関は、金融機関の業務運営を監督し、法令遵守を徹底させる役割を担っています。

主なカテゴリーとしては、報告義務の遵守、監査対応、そして法令違反時の対応(危機管理対応)などがあります。

テクニカルな法令

2つ目は、法令が非常にテクニカルであることです。

金商法においては条文操作や下位にある政令・省令・ガイドライ等とのクロスリファレンスが求められ、正確に構造を理解することが困難とされます。

また、近年は決済サービスを中心にデジタル化が進んだことで、資金移動の多様化やブロックチェーン技術による暗号資産が普及し、資金決済法のアップデートが激しさを増しています。

金商法との関連性も高く、事業スキームやお金の動き、関係者の取引の構造を正確に把握したうえで、適用される法令と細かな規制メニューを理解することが求められます。

金融業界における法務は、こうしたテクニカルな法令と日々向き合うことが特徴的です。

リスクコンプライアンス

金融業界の法務では、リスク管理とコンプライアンスが重要な課題です。企業の信用を守るため、法令遵守とリスク評価を徹底する必要があります。

リスク管理

金融業界では、顧客の資産を管理・運用するため、高いリスク管理が求められます。

ここでいうリスクには、詳細な法令の違反によるコンプライアンスリスクのほか、政治や経済状況、サプライチェーンなどの変動制の高いリスクがあります。

また現在は取引がデジタル上で進められるため、顧客情報の保護や外部のサイバー攻撃に対するセキュリティを確保すること、またそのガバナンスリスクをマネジメントすることが求められます。

法務担当者は、こうしたリスクに対して適切なリスクの特定、評価、対応と実行のサイクルを構築して投資家保護のための仕組みを確保していくことが重要です。

コンプライアンス体制の構築と運用

金融業界特有の細かい法令に対するコンプライアンス体制を構築していくことも、法務担当者の重要な業務です。

法務担当者だけが対応できるようにするのではなく、全社的に各部署が一定の水準で自部門が所管する業務に関わる法令を理解し、個々の場面で対応できるようにする必要があります。

法務担当者は、全社的なコンプライアンス体制の構築と運用のために研修プログラムの策定・実施をおこない、従業員のコンプライアンスを高めることが重要とされます。

金融業界における法務の主な業務内容

金融業界の法務は、どのような業務をおこなうのでしょうか。ここでは主な業務を5つ紹介していきます。

契約書作成・リーガルチェック

金融業界の法務でも、契約書作成やリーガルチェックは基本的な業務です。

契約書の作成は、金融取引の基盤となる重要な業務です。法務担当者は、取引内容や規制に基づいて契約書を作成します。契約条件やリスク分担、解約条件などを詳細に定め、法的リスクを最小限に抑えます。

また多くの場合は取引は定型的なものとなるため、規約などの約款を通じて管理することになります。そこで、法令等の改正やトラブルの防止対応、法務相談で表れた課題をもとに規約の改定をおこなうなど、継続的な管理とアップデートをしていく必要があります。

リーガルチェックは、既存の契約書や取引内容を法的に確認するプロセスです。法務担当者は、契約内容が法令に準拠しているか、リスクが適切に管理されているかを確認し、必要な修正をおこないます。

開示書類・申請書類・届出書類の作成

金融業界では、金商法などによる規制上、各種書類の作成や提出が求められます。

開示書類は、金融機関の財務状況や業務運営の透明性を確保するために重要です。法務担当者は、開示書類の作成を監督し、適切な情報が提供されるようにします。

金融庁や証券取引等監視委員会への申請書類や届出書類の作成も、金融法務の重要な業務です。

法務担当者は必要な情報を収集し、申請手続きをスムーズに進めるためのサポートをおこないます。

情報セキュリティの対応

金融業界でも、DX化やネットバンキングの普及に伴い顧客情報をネット上・クラウド上でデータ管理することが一般化しています。

とくに資産関連の情報は、生活や事業の不可欠な基礎となる観点でセキュリティが極めて重要視されます。

そこで取引データを適切に保護するため、個人情報保護の仕組みの構築や、情報セキュリティ対策を徹底する必要があります。

個人情報保護に関しては、個人情報保護法に関する一般法令を遵守する必要があることはもちろん、金融業界の分野に特化したガイドラインも遵守する必要があります。

また、金融機関の種類や事業形態に応じて、遵守する法令ごとでの細則を正確に把握して対応する必要があります。

そして、金融機関は、情報セキュリティポリシーを策定し、従業員に遵守させる必要があります。

法務担当者は、ポリシーの策定や見直しを行い、内部監査や教育研修を通じてセキュリティ意識を高める役割があります。

参考:金融分野における個人情報保護に関するガイドライン|個人情報保護委員会

参考:金融分野における個人情報保護について|金融庁

事業(金融)スキーム検討

新しい金融商品やサービスのスキームにおいて、法令に違反しない適正な枠組みであるかどうかの検討をおこない、法令違反のリスクがある場合にはリスクを低減するための提案をすることも求められます。

特に、例えばブロックチェーンを活用したデジタル空間のトランザクションを基礎とする事業スキームでは、資金決済法や金商法、銀行法などの金融関連の横断的な法令の知識をもとに、規制内容や許認可の要否、要件をもとに実現可能性を判断することが求められます。

また新規事業に伴う契約書の作成も、法務担当者の重要な役割です。取引条件やリスク分担、解約条件などを詳細に定め、法的リスクを最小限に抑えます。

法務DD

法務デューデリジェンス(法務DD・法務調査)は、M&Aや投資案件などにおけるリスクを評価するために必要となる調査です。

法務DDは、買収対象企業の契約書・ガバナンスの運用状況・規制遵守状況・訴訟リスクなどを詳細に調査し、買収リスクを評価するプロセスです。

法務担当者は、企業の法的リスクを洗い出し、リスクの性質と内容に応じて、許容できるリスクなのか否かやリスクを防止できる手段の有無などを検討します。

そして、法務調査の結果をまとめたレポートを作成して提供します。法務担当者は、リスク評価や対応策を詳細に記載し、買収などの取引の実行判断を支援します。

金融業界における法務の分野

金融業界において、どのような法務の分野があるでしょうか。

銀行

銀行業界における法務では、銀行法、貸金業法、金融商品取引法などの法令遵守が求められます。また政令や省令、そしてガイドラインなどが枝分かれして数多くのものが存在します。金融庁による監督権限も強いことから、こうした法令に対する規制対応が重要です。

融資をおこなう際は融資契約を締結しますが、法務担当者は契約書の作成や内容確認、担保設定の手続きなどをおこないます。

また、デフォルト(債務不履行)時の対応策も検討します。具体的には、投融資の際の担保の設計、顧客情報の管理、不適正な取引が行われないようにする取引の監視、顧客へのDDなどにおいて、リスクマネジメントが重要となります。

資金調達の支援

資金調達は、キャピタルマーケット・プロジェクトファイナンス・アセットファイナンスなどがあります。

キャピタルマーケット

キャピタルマーケットは、公募増資や社債発行などを通じて資金を調達する手法です。

資金調達をおこなう際のアドバイスやコンサルティングをおこない、金融事業者自身が投融資をおこなう主体・取引当事者となることもあります。

キャピタルマーケットにおける法務担当者は、顧客の法務DDをおこなったり、信用調査、資産調査を通じた取引上のリスク判断をおこないます。

プロジェクトファイナンス

プロジェクトファイナンスは、大規模プロジェクトに対する資金調達手法です。

プロジェクトファイナンスにおける法務担当者は、複数の金融機関や投資家と連携し、契約書の作成やリスク分担の調整をおこないます。

他には、再生可能エネルギーやインフラプロジェクトでは環境規制や公共政策に関する対応が求められます。

アセットファイナンス

アセットファイナンスは、物的資産を担保にした資金調達手法です。

法人クライアントを中心とする取引で、大規模な資金を必要とするような航空会社や貿易会社などにおいて、航空機や船舶、不動産などが対象となります。

アセットファイナンスにおける法務担当者は、担保設定やリース契約の作成、リスク管理を担当します。

保険

保険業界の法務では、保険商品に関する規制対応や契約書作成が主な業務であり、重要な役割を持ちます。

保険契約も数多くの約款によって運用されることが通例ですが、それぞれの約款の適用に関し、個々の保険事案での支払判断や免責判断に関して、事業部からの相談に応じて法的な判断をおこなうことが求められます。

また保険商品の種類や特性に応じて、契約条件を詳細に定め、法的リスクを最小限に抑えることが求められます。

保険業界は、様々な保険商品の設計や運用において、金融庁による規制の監督下にあります。そのため法務担当者は、これらの規制を遵守し、適切な監査対応や報告書類等の作成をおこなうことが求められます。

保険においては、往々にして訴訟対応のほか、個人の顧客の相続等に関して法律事務所や裁判所などとの対応をおこなうこともあります。

流動化取引

資産の流動化に関する法務では、証券化やファクタリング、SPC(特別目的会社)設立のサポートをおこないます。

証券化

証券化は、特定の資産を元に証券を発行し、資金を調達する手法です。

法務担当者は、証券化に関する契約書の作成や規制対応をおこないます。特に、住宅ローンやクレジットカード債権の証券化が一般的です。

ファクタリング

ファクタリングは、債権譲渡のスキームを活用して債権の流動化をおこない、機動的な債権回収手段を提供しつつ、債務者への債権回収分との差額を収益とする形態の事業です。

スキームによっては、貸金業法に該当する可能性があるものや、弁護士法との関係で違法となるリスクがあるため、事業スキームの適法性を正確にチェックする必要があります。

また債権回収における回収可能性についてリスクを負うことになるため、事業のサステナビリティの観点から、信用調査や管理に関するリスク判断が求められます。

SPC(特別目的会社)設立

SPC(特別目的会社)の設立は、証券化やプロジェクトファイナンスにおいて重要な役割を果たします。

法務担当者は、SPCの設立や運営に関する法的サポートを提供します。

フィンテック

特に話題性があり、新しい課題が多い分野として、フィンテック業界が挙げられます。

資金移動や決済サービス

QRコード決済やポイント決済など、近年では様々な決済サービスがあります。

そうしたサービスを中心に、資金決済法をはじめとした規制対応や事業の適法性チェックをおこなうことが求められます。

ブロックチェーンと仮想通貨

ブロックチェーン技術は、仮想通貨やスマートコントラクトの基盤となっています。これらの技術に関連する法務では、規制対応や契約書作成が主な業務です。

特に、仮想通貨の取引所の設立や運営においては、暗号資産交換事業者としての該当性などカストディ規制に関する規制対応や金融庁の認可を取得するためのサポートが重要となります。

AIによる資産運用

AI(人工知能)や機械学習を利用したフィンテックサービスも増加しています。例えば、AIを利用した投資アドバイザリーサービスやリスク評価システムがあります。

これらのサービスに関する法務では、プライバシー保護やデータセキュリティに関する規制対応が求められます。

金融業界における法務のよくある課題

金融法務には、急速な技術革新や規制の変化、国際的な取引の増加など、さまざまな課題があります。以下に、代表的な課題とその対応策を紹介します。

技術革新への対応

フィンテックの登場により、金融業界は急速に変化しています。

新しい技術やサービスが次々と導入されるなかで、法務担当者はこれらに迅速に対応し、適切な法的枠組みを構築する必要があります。

法規制の変化

技術革新に伴い、法規制も頻繁に変更されます。法務担当者は、最新の法規制を常に把握し、企業の業務運営に反映させる必要があります。

また新しい技術や法規制の変化に対応するために、法務担当者自身の知識もアップデートする必要があります。

セミナーや研修、法務雑誌の購読などを通じて、最新の知識を習得することが重要です。

国際取引の増加

金融業界のグローバル化に伴い、国際取引が増加しています。これに伴い、各国の異なる法規制への対応が求められます。

国際取引を円滑に進めるためには、各国の法規制に関する知識が必要です。法務担当者は、国際法務の専門知識を持ち、企業の国際取引を支援します。

国際的な規制対応も重要な課題です。法務担当者は、各国の規制当局との関係を構築し、適切な対応策を講じます。

まとめ

最後に、本記事のポイントを3点にまとめます。

  1. 金融業界は、様々なカテゴリーがあるが、投資家や債権者保護の観点から規制や当局による監督に対応する必要があり、コンプライアンスが重要とされる。また国際化や取引形態の複雑化により、法令もテクニカルになっている。
  2. 金融業界の法務は、規制対応やコンプライアンスを中心としつつも、契約書作成やレビューの対応、M&AにおけるDDや事業開発の支援など、幅広く戦略的な法務も重要とされる。
  3. 技術革新や取引の国際化に伴い、金融業界における法務も既存の法令や商慣習が想定しないケースも出てきており、テクノロジーへの理解や社会情勢への理解も重要となる。
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川村将輝
この記事の執筆者
川村将輝

愛知県弁護士会所属。旭合同法律事務所に所属しながら、事業会社の法務部に出向。企業法務に関心があり、取り扱い分野は戦略・政策渉外、コーポレートガバナンス、内部統制、M&A、ファイナンス、AI、Web3.0、SaaS、人材プラットフォーム、航空・宇宙、データ法務、広告法務、エンタメ、消費者被害、相続、破産・再生など。学生時代は法律問題を取り上げるメディア運営会社にてインターンを経験し、現在もWEBメディアにて執筆活動を続ける。詳しいプロフィールはこちら:https://asahigodo.jp/lawyer-introduction/kawamura-masaki/