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採用活動のよくある悩みとして、応募者と企業間のミスマッチによる内定辞退や早期離職があります。原因として、公正な評価をするために欠かせない「採用基準」が自社に合っていない、あるいは担当者間で共有できていない可能性が考えられます。
本記事では、採用基準の目的や設定するメリット、設定方法や注意点などをまとめて紹介します。採用活動の効率化を課題とする企業や人事部の方は、ぜひ参考にしてみてください。
採用基準とは、自社にとって必要かつ最適な人材を採用するための指標です。まずは、採用基準を設ける目的とカテゴリーを紹介します。
採用基準を設ける目的は、公平な評価をするためです。
面接官や人事・役員など、複数人が関わる採用活動において、基準がないまま選考を進めると、人によって評価に差が生じます。
しかし、採用基準が明確になっていれば、担当者が変わったり増えたりしても、客観的に選考の判断ができるでしょう。
採用基準は、おもに以下3つのカテゴリーで構成されています。企業規模や事業の状況によって求める要素が変わってきます。
採用基準のひとつは、応募者がすでに持っている知識やスキルなど、第三者が見てわかるような能力です。
これまでの業務経験や実績、仕事に取り組む姿勢について質問すれば、募集業務に適した能力を持っているのか確認できます。
これまでの経験や環境によって形成された性格や人柄、生まれつきの性質や才能も採用基準における重要なポイントです。
落ち込んだときの切り替え方や喜びを感じる瞬間など、仕事・プライベート両方に関する質問をして人物像を確認します。
また、職場でのコミュニケーションの取り方や部下とのかかわり方なども確認しておくと、企業のカラーに合っているかも判断可能です。
価値観とは、仕事をするうえで大切にしており、譲れないこだわりや信条です。価値観に基づいて相性を確かめれば、入社後のミスマッチ防止につながります。
たとえば、ワークライフバランスを大切にしたい人は、福利厚生が充実している会社であれば働きやすくなります。仕事での目標ややりがい、仕事を通じてどう成長していきたいのかを聞けば、自社の経営理念や社風、制度との相性がわかるでしょう。
採用基準を設ければ、公平な評価ができる以外にも以下4つのメリットが得られます。
能力やスキルが高い人材を採用しても、本人の性格・価値観が社風と合っていなければ、内定辞退や早期離職につながるかもしれません。
採用基準があれば、仕事内容と企業文化のどちらにも適した人材を確保できるようになるでしょう。
採用基準がないと、人事と現場の求める人材にギャップが生じます。
その結果、活躍できるポテンシャルをもつ人材が不採用になるなどのミスマッチにつながります。現場の意見を取り入れつつ、募集ポジションごとに採用基準を設けましょう。
採用基準を設定するプロセスにおいて、各部署へのヒアリングや競合他社の分析をおこないます。すると、今まで気づかなかった自社の強みが明らかになり、応募者へのアピールにつながるでしょう。
また、企業として取り組むべき課題を可視化できるのもメリットです。
採用計画とは、採用人数や時期を含む以下6つの項目を策定したものです。
なかでも、ターゲットを絞ったり、ペルソナを設定したりするときに採用基準が役立ちます。また、採用計画を立てるなかで、採用基準の課題に気づくパターンもあります。
採用計画と採用基準を手順に沿ってきちんと策定すれば、採用活動で良い結果が得られるでしょう。
採用基準のカテゴリーは共通ですが、具体的な項目は募集対象によって変える必要があります。
では、新卒採用と中途採用それぞれで重視すべき基準を紹介します。
新卒採用では、社会人経験がなく知識やスキルが形成されていない学生が対象なので、人物像や価値観を重視するのが大切です。
そして、自社との親和性やポテンシャルの高さを見極めましょう。新卒採用で設けるべき項目は、以下のとおりです。
主体性とは、上司からの指示を待つのではなく、自ら業務に取り組む姿勢を指します。主体的に行動できる人は、日々の変化にも臨機応変に対応できる力があると判断できます。
また、自分で考える力もあるため、課題を発見したりリスクを回避したりできる人といえるでしょう。
コミュニケーション能力とは、情報共有や意思疎通をスムーズにおこなう能力です。具体的には、以下5つの能力をバランスよく持つ人を指します。
知的好奇心とは、物事に興味をもち深く知りたいという欲求を指します。知的好奇心がある人は、新しい業務に対するチャレンジ精神も高い傾向があります。
また、自分で調べたり新しい方法を試したりという主体性の高さも期待できるでしょう。
協調性とは、立場や意見の異なるメンバーと協力し、同じ目標に向かって取り組む力です。チーム制で業務を進める場合、周囲を気遣いながら人間関係を築いていけるメンバーが求められます。
協調性が高い人は、職場全体の風通しを良くするだけでなく、意見交換を活発にして新たなアイデアを生み出すことにも貢献できるでしょう。
チャレンジ精神とは、失敗を恐れず目の前の課題に向き合おうとする姿勢です。
はじめての社会人経験では、自分ひとりでは解決できない数多くの課題にぶつかります。そのようなとき、解決方法を調べたり上司に相談したりして、積極的に知識やスキルを吸収しようとする姿勢が求められます。
チャレンジ精神がある人は、成果を出すために試行錯誤する力があるうえに、失敗や挫折を経験しても次につなげるために学び続けられると判断できるでしょう。
誠実さとは、与えられた役割や業務に対して真摯に取り組む姿勢です。誠実な人は責任感が強い傾向にあり、法令や会社のルールをきちんと守ります。そのため、社員やクライアントは安心して仕事を任せられるでしょう。
ストレス耐性とは、心理的な負荷に耐え、困難な状況でも冷静に対応できる力です。
企業で働くと、トラブル対応や新たなプロジェクトへの挑戦など、少なからずストレスがかかります。たとえ能力やスキルが高い人でも、ストレス耐性が低いと体調を崩しやすくなったり早期離職につながったりする可能性があります。
これまで挫折や失敗をどう乗り越えてきたのか質問すれば、ストレス耐性があるのか見極められるでしょう。
価値観とは、能力や資質だけでなく、自社の経営理念やビジョンに共感してくれるかも重要なポイントです。仕事をする目的ややりがい、達成したい目標も確認しましょう。
中途採用では、前職での経験による知識やスキルを持っている人が対象となるため、即戦力となるのかを重視するのが一般的です。
中途採用の場合は、新卒採用の項目に加えて以下3つも考慮しましょう。
まずは、実務経験やスキルが十分にあり、入社後すぐに活躍できそうかを見極めます。募集職種によって求められる専門知識やスキルが異なるので、具体的な条件を設定する必要があります。
なお、特定の資格を有していたり実務経験が豊富だったりしても、必ずしも即戦力になるとは限りません。前職のプロジェクトや仕事内容を確認するのはもちろん、募集職種の社員に採用活動へ参加してもらうのも有効です。
もっとキャリアアップがしたい、資格やスキルを生かせる仕事がしたいなど、退職理由は人それぞれです。もし仕事内容や労働条件への不満や、将来性への不安が理由であれば、自社への転職によって解決できるのか見極める必要があります。
そこを怠ってしまうと、再度同じ理由で短期離職されてしまう可能性が考えられるでしょう。
社会人基礎力とは、職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な力です。3つの能力および12の能力要素から構成されており、2006年に経済産業省が提唱しました。
具体的な項目は、以下のとおりです。
採用基準は、以下6つの手順に沿って作成しましょう。
採用基準を設定しても、競合他社よりも高すぎたり低すぎたりすると採用活動はうまくいきません。
まずは、採用市場全体や各職種における有効求人倍率をチェックしましょう。また、競合他社の求人情報を確認して、採用基準の目安を把握するのも有効です。
どんな人材を求めているのか把握するため、経営陣や各部署のマネージャー、現場の社員にヒアリングします。この時点で、業務上必要な資格やスキルを明確にしましょう。
ただし仕事がうまく回らない原因は、人員不足ではなく非効率な管理体制にあるケースもあるため、現場の実態調査も並行しておこなうのが大切です。
ヒアリングを通して採用活動の目的を明らかにし、現場や経営層を含めた会社全体で共有できると良いでしょう。
コンピテンシーとは、優秀な従業員に共通する行動や思考を指します。
会社に大きく貢献している社員の特性をもとにコンピテンシーモデルを作成すれば、部署や役職ごとに求める条件が明確になります。
コンピテンシーモデルの作成方法は、優秀な社員へのヒアリングです。成果自体ではなく「なぜその行動をしたのか」という思考部分に着目すると、条件や人物像の作成につながります。
ヒアリングのおもな内容は以下のとおりで、行動特性や考え方を明らかにします。
なおコンピテンシーモデルは、採用担当者だけでなく現場や経営層とも意見交換をして完成させると良いでしょう。
ヒアリング内容やコンピテンシーモデルをもとに、自社で活躍できる人物像を明確にします。性格や人柄はもちろん、経験やスキル、仕事に対する価値観もなるべく具体的に設定しましょう。
求める人材の特徴がはっきりしたら、いよいよ採用基準の作成に移ります。項目数は多すぎるとかえって選考しにくくなるため、20〜30個程度にすると良いでしょう。
項目のカテゴリーは、以下の2つです。
数値や形として見える定量的な項目と、能力や価値観といった数値で表しにくい定性的な項目の2種類です。とくに定性的な項目は、評価のぶれが生じやすくなります。
そのため、ヒアリング内容やコンピテンシーモデルをもとに、なるべく具体的に項目へ落とし込み、面接官が共通認識を持てるようにしましょう。
採用基準を設定し、書類選考や面接など選考段階ごとに反映させたあとは、関係部署や社員との合意形成をおこないましょう。採用人数が多くなる新卒採用の場合は、経営層や幹部クラスの社員に確認してもらいます。
一方で、専門知識やスキルが求められる中途採用の場合は、配属先の管理職に確認してもらうことで求める人材のミスマッチ防止につながるでしょう。
採用基準を決める際は、以下3点に気をつけましょう。
厚生労働省は、公正な採用活動をおこなうにあたって以下2点を尊重するように指示しています。
参考:「採用選考時の基本的な考え方・公正な採用選考の基本」|厚生労働省
採用基準を細かく設定した結果、意図せず憲法・法律違反にならないよう注意しましょう。
また、書類選考や面接で聞いてはいけない事項は、以下のとおりです。
協調性がある人・コミュニケーション能力が高い人など、求める条件をそのまま採用基準にすると判断に迷います。なるべく具体性を持たせて、解釈が一致するよう工夫しましょう。定性的な項目は、客観的な評価がしにくいため工夫が必要です。
例えば、表を用いた採用基準の作成方法として、ルーブリック評価を活用するのも有効です。
ルーブリックとは、企業の人材教育でも用いられる評価方法で以下4つの要素で構成された表を使用します。
評価尺度では、数字やアルファベットを用いた3〜5段階評価で設定します。また、評価基準は面接官が判断しやすいよう、具体的かつ誰もが分かりやすい言葉で表現するのがポイントです。
面接官によって感じ方や判断は異なるため、評価基準をきちんと設定しても正しく評価ができるとは限りません。
予定よりも採用人数が多すぎる・少なすぎる場合、ミスマッチが生じている可能性があります。そのため、評価基準の作成時だけでなく、定期的なすり合わせの機会を設けるのも大切です。
ただし、採用基準を共有するだけではあまり効果がありません。まずは、実際の採用活動データをもとに採用・不採用だった人材の特徴や違いをまとめ、採用基準に沿って公正に評価できていることを確かめましょう。
面接官1人ひとりにデータを見てもらえば、採用基準に沿って評価する重要性を伝えられます。
採用活動はおもに書類選考や適性検査、そして面接の3段階でおこなわれます。それぞれの選考段階における、採用基準の活用ポイントを説明します。
まずは、履歴書や職務経歴書にもとづいて書類選考をおこないます。
書類選考の目的は応募意欲の高い人材を選定することです。また、面接時の参考資料としても活用します。
一般的には数値化しやすい経験やスキル、経歴や志望動機の記載内容をもとに判断しますが、文章の書き方からも意欲の高さや誠実さは伝わります。
採用基準として見るべきポイントは、以下のとおりです。
書類選考を通過する人材が極端に少ない場合は、採用基準を厳しく設定しすぎている可能性があります。入社後のポテンシャルを加味したうえで評価しましょう。
まずは、必須条件を満たす人を選び、望ましい条件を持つ人から順に評価する方法もおすすめです。
適性検査とは、応募者の能力や性格を数値化し、自社の仕事に適しているのかを判断するために実施するテストです。
知的能力を測る能力検査と、行動特性や性格を測る性格検査の2種類に分けられます。
適性検査は、実施するタイミングによって目的が異なります。面接前の場合は、応募者をさらに絞り込んだり、資質や価値観など定性的な部分を明らかにして面接時の参考資料として活用したりするためにおこないます。
一方で、面接後の場合は、入社後の配属先を決定するためのデータとして活用するためにおこないます。
なお適性検査は約30種類あり、それぞれ用途や測定内容が異なります。なかには企業側が採用基準を設定できるものもあるため、採用目的に合わせて選ぶと良いでしょう。
採用基準として見るべきポイントは、以下のとおりです。
ただし、適性検査の成績が良いからといって高く評価するのはおすすめしません。あくまでも、最低限必要な条件を満たしているのかを数値化して確認し、短時間で応募者を絞り込むための方法として活用しましょう。
面接は書類選考や適性検査では判断できない、人柄やポテンシャルを見るために実施します。
話の内容だけでなく受け答えの仕方や姿勢を見て、自社の求める人材かを総合的に判断します。数値化できない項目は客観的な判断が難しくなるため、採用基準をもとに評価シートを作成しておくのがおすすめです。
面接評価シートとは、スキルや人柄といった評価項目・採用基準を一覧にしたものです。作成時は、以下4つのポイントをおさえましょう。
先述したとおり、新卒採用と中途採用では重視するポイントが異なるため、面接評価シートは分けて作成します。
また、面接しながらシートをチェックするため、評価項目が多すぎると面接に集中できない恐れがあります。とくに重要な項目をピックアップしたり、優先順位をつけたりするなどの工夫が必要です。
そしてアルファベットや数字を用いた評価レベルを設定する際、各段階の特徴や共通点はなるべく具体的に記載しましょう。
すでに採用基準を設定している企業でも、以下3つのケースに当てはまる場合は見直しが必要です。
それぞれ原因や対処法とともに紹介します。
応募数が増えない場合、採用基準を厳しく設定しすぎている可能性があります。求める条件が多くなるほど、応募人数は少なくなります。
採用基準はあくまで「入社時点で持っていてほしい資質やスキル」なので、入社後の実務経験を通して得られる経験やスキルと混合しないよう注意しましょう。
自社の採用基準が相当なものとなっているか、採用市場のリサーチをしたうえで比較しましょう。
応募者数が十分であっても、選考通過者が極端に少ないケースもあります。
原因としては、採用基準が厳しすぎる・評価項目が多すぎる場合が考えられます。採用基準の見直しはもちろん、求める人物像に沿って各項目の優先順位をきちんとつけるのがポイントです。
また、必須・歓迎条件など項目をカテゴリー分けしてみるのも有効です。
採用後の内定辞退や早期離職が多くなるのは、企業と応募者間でのミスマッチが起きているからです。
その原因としては、現場と人事の意見が一致していない可能性が考えられます。
現場の求める経験やスキルを持たない人は入社後に働きづらさを感じ、結果として離職率が高くなります。現場と人事部との意見交換を改めて実施して、採用基準を見直す必要があるでしょう。
採用基準の概要やメリット、設定方法をまとめて紹介しました。
採用基準とは、自社にとって必要かつ最適な人材を採用するための指標です。経験やスキル、人柄や価値観といった項目から具体的な条件に落とし込めば、ミスマッチ防止や採用計画の効率化が期待できます。
採用基準を作成する際は、採用市場のリサーチや現場へのヒアリングなど、手順に沿っておこないましょう。また、抽象的な内容にしない・採用に関係のない項目を設定しないなどの注意が必要です。
応募者が増えなかったり離職率が高くなったりするのは、採用基準の内容や活用方法に原因があるかもしれません。これまでの採用活動を振り返り、採用基準の再設定や活用方法の見直しを検討してみてはいかがでしょうか。