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振込手数料をどちらが負担するかについて、法律上は、買い手側が負担するのが原則と定められています。インボイス制度が適用された現在でも、買い手側負担のルールに変更はありません。
ただし、実際の取引の場面では、当事者間の合意に基づいて、売り手側が振込手数料を負担するケースも多いです。
そのため、ビジネスシーンでは、振込手数料をどちらが負担するかについて交渉が難航したり、取引をした後の精算段階でトラブルが生じるリスクに晒されているといえるでしょう。
本記事では、振込手数料をどちらが負担するかに関するルールや、買い手側・売り手側が振込手数料を負担するときの経理上の処理方法などについて分かりやすく解説します。
振込手数料とは、銀行、信用金庫などの金融機関で資金を振り込む時に発生する諸経費で、金融機関に対して支払うべき金銭のことです。
一方の口座から他方の口座に振り込むことは「口座振込」、受取人の口座に現金を振り込むことは「現金振込」と呼ばれます。
金融機関によって振込手数料の金額、振込手数料が発生する時間帯・振込方法、振込手数料無料などのサービス内容は異なります。
そして、金銭のやり取りが発生するビジネスの場面では、商品の代金などを支払う際に発生する振込手数料を誰が負担するのかが問題になることが少なくありません。
まずは、振込手数料は、「お金を払う側」「お金を受け取る側」のどちらが負担するのかについて解説します。
振込手数料は、どちらが負担するかによって以下2種類に区別されます。
先方負担とは、取引上の「お金を受け取る側 = 請求書を発行する側」が振込手数料を負担する方法のことです。
たとえば、A社がB社から原材料を購入したケースでは、B社はA社から原材料購入代金を受け取ることができます。振込手数料の負担先について先方負担と定められているのなら、B社が振込手数料を負担しなければいけません。
そのため、A社は原材料購入代金を額面通り振り込み、B社は「原材料購入代金から振り込み手数料が差し引かれた金額」を受け取ります。
当方負担とは、取引における「お金を支払う側 = 請求書を受け取る側」が振込手数料を負担する方式のことです。
先ほどの例に沿って説明すると、原材料購入代金を支払う義務が課されているA社が振込手数料を支払わなければいけません。
その結果、A社は「原材料購入代金に振込手数料相当額を上乗せした金額」を振り込み、B社は原材料購入代金を額面通りに受け取ることになります。
振込手数料をどちらが負担するかについては、先方負担・当方負担の2種類の方法が存在します。
そして、振込手数料をどちらが負担するかについては、民法上、当方負担が原則とされています(民法第484条、民法第485条)。分かりやすく言い換えると、法律上は、「お金を支払う側 = 請求書を受け取る側 = 商品などの買い手・購入者」が振込手数料の負担をするということです。
民法第485条では、「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする」と明示されています。振込手数料は代金などを支払う時に発生する費用である以上、原則として債務者側(お金を支払う側)が負担しなければいけません。
たとえば、契約書などにおいて振込手数料の負担先に関する条項が明記されていない場合、民法の原則的なルールに則って、購入代金などに振込手数料相当額を加算した金額を支払わなければ、債務の本旨を履行したとは判断されないということです。
ただし、振込手数料などの弁済の費用の負担先について当事者間で別段の意思表示をした時や、債権者側が住所を移転するなどして弁済費用を増加させた時の増額分については、例外的に先方負担(債権者側 = お金を受け取る側 = 請求書を発行する側 = 商品などの売り手)とされます。
ビジネスの場面でも、振込手数料をどちらが負担にするかについては当方負担(買い手負担)が原則的な考え方です。
基本的には、物品などを購入して請求書を受け取る側が、本来支払うべき金額に振込手数料を上乗せして振り込み手続きをすることが多いでしょう。
ただし、当方負担が適用されるビジネスシーンは多いものの、当方負担が絶対的な考え方というわけではありません。
たとえば、業界ルールや慣例として先方負担が普及している場合や、取引当事者間で先行負担について合意形成に至った場合には、当方負担ルールではなく先行負担ルールで債権者側が振込手数料を負担することも可能です。
実際の取引の場面では、振込手数料をどちらが負担するかについて自社と取引相手との認識が擦り合わず、トラブルが生じるケースが少なくありません。
インボイス制度が導入されたからといって、振込手数料をどちらが負担するかに関するルールに変更があるわけではありません。
そのため、インボイス制度導入後も、振込手数料については原則として当方負担ルールが適用されるということです(民法第484条、民法第485条)。
そして、振込手数料を負担する買い手側の課税事業者は、振込手数料の中に含まれる消費税について税額控除を受けることができます。
ただし、商品などの取引が売主・買主間でおこなわれるのと異なり、振込手数料は買い手側が金融機関に対して支払うものです。
つまり、買主側が振込手数料の消費税について仕入税額控除の適用を受けるには、金融機関から適格請求書を発行してもらわなければいけないということです。
以上を踏まえると、インボイス制度が導入されたとしても振込手数料をどちらが負担するかのルールに変更は生じませんが、適格請求書の発行の関係で買い手側には経理処理上の負担が生じるといえるでしょう。
法律上、振込手数料は買い手側が負担するというのが原則です。
ただし、実際の取引の場面では、原則通り買い手側が振込手数料を負担することもあれば、当事者間の合意によって売り手側が振込手数料を負担することも少なくありません。
そこで、買い手側・売り手側それぞれが振込手数料を負担する時の適格請求書などの処理方法について解説します。
買い手側が振込手数料を負担する場合、売買などの取引については売り手側から適格請求書を、振込手数料については金融機関から適格請求書をそれぞれ発行してもらわなければいけません。
振込手数料の支払い方法は、ATM・金融機関の窓口・インターネットバンキングの3種類です。どの方法で支払うかによって、振込手数料に関する適格請求書の取扱いは異なります。
まず、ATMで支払いをして振込手数料が発生した場合、振込手数料に関する適格請求書の発行は不要です。
なぜなら、3万円未満の自動販売機や自動サービス機による商品の販売などについては「自販機特例」が適用されて、適格請求書の交付義務が免除されるからです。自販機特例が適用されるサービスには、金融機関のATMによる手数料を対価とする入出金サービス・振込サービスのほか、コインロッカー・コインランドリーによるサービス、自動販売機による飲食料品の販売などが含まれます。
なお、ATM操作時の振込手数料について適格請求書の発行は必要ありませんが、取引がおこなわれたことを示すために帳簿の保存は求められます。
次に、金融機関の窓口及びインターネットバンキングを使ったときに振込手数料が発生した場合、振込手数料に関する適格請求書を発行してもらう必要があります。金融機関で直接振込手続きをしたケースでは、必ず窓口で交付される適格請求書を受け取りましょう。
インターネットバンキングを利用したケースでは、電子データで適格請求書が発行されるので、電子データをダウンロードしたうえで保存してください。
実際の取引の場面では、振込手数料を売り手側が負担するケースも存在します。
買い手側が振込手数料を負担する場合には、金融機関側から振込手数料に関する適格請求書を発行してもらわなければいけませんが、売り手側が振込手数料を負担する場面では、金融機関側から振込手数料に関する適格請求書の交付は受けなくても良いです。
その代わりに、売り手側で振込手数料について経理上の処理をする必要があります。
振込手数料を売り手側で負担するときの1つ目の方法が、「売上値引き」です。
振込手数料を値引きと扱って、請求額から振込手数料分の差し引いた金額を請求します。2023年度以降のインボイス制度では、値引き金額が1万円未満なら適格変換請求書の交付が不要なので、実質的に振込手数料については課税売上のマイナスとして処理することができます。この場合、買い手側は、値引きされた金額を仕入額として経理処理をする必要があります。
2つ目の方法として、「売り手負担の振込手数料を買い手側が立て替え払いした」と扱う方法も考えられます。売り手側は、振込手数料を「支払手数料」として処理することができるようになります。このとき、買い手側は、金融機関から受け取った振込手数料に関する適格請求書と立替金精算書の2点を併せて、売り手側に送付しなければいけません。これは、売り手側が振込手数料に含まれる消費税額分の税額控除制度の適用を受けるようにするためです。
法律上、振込手数料をどちらが負担するかについては「買い手側負担」が原則とされています。
しかし、実際の取引の場面では、振込手数料をどちらが負担するかは自由に決定することができます。
そのため、「買い手側負担だと思っていたのに、いきなり売り手側である自社が振込手数料を負担すると言われて困惑した」「法律上買い手側負担が原則だからそのルールが適用されると思っていたのに、取引終了後に買い手側から手数料負担できない旨の連絡がきた」など、トラブルが生じることが少なくありません。
ですから、ビジネスの場面では、トラブルリスクを回避するために、以下のような方法で振込手数料に関する認識を事前に当事者間で共有しておくことが望ましいでしょう。
特に、振込手数料の負担を従来のルールから変更して相手方に求めるようなケースでは、より丁寧な交渉が必要です。
振込手数料の負担先が原因で取引自体が打ち切られる場面も多く存在するので、「振込手数料は少額だから」という理由で無碍に扱うべきではないでしょう。
振込手数料をどちらが負担するかについては、実際に取引をする前の段階で、その都度売り手側・買い手側で合意を形成しておく必要があります。
法律のルール、業界の慣例、従来の取引の経緯だけを前提に振込手数料の負担先を決めてしまうと、実際に精算をする場面になって、いきなり振込手数料の負担先について当事者間での認識に齟齬があったことが判明するリスクがあるからです。
振込手数料自体は少額ですが、膨大な数の取引を重ねると、振込手数料も高額になります。取引ごとに振込手数料の負担先について丁寧に交渉をしたうえで、円滑な経理処理を心がけましょう。