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サービス残業は、労働基準法違反を理由に違法なものと判断されています。
残業代未払い、違法な長時間残業などの実態が労働基準監督署に発覚すると、企業側が刑事罰を科されたり、社会的信用の低下などのペナルティが生じます。
ここで注意を要するのが、企業側が労働者にサービス残業を命じたときだけではなく、労働者側が自主的にサービス残業をしたケースも、労働基準法違反とみなされるという点です。
つまり、「社員が勝手にサービス残業をしたのだから、会社側がペナルティを受けるのはおかしい」という理屈は通じないということです。
本記事は、サービス残業の定義や具体例、従業員による自主的なサービス残業を防止する対策などについて分かりやすく解説します。
従業員による自主的なサービス残業への対策について考える前に、サービス残業の定義・内容を紹介します。
サービス残業とは、賃金不払い残業のことです。
具体的には、「就業時間後の残業や休日出勤などの所定外労働時間に対して、所定の賃金または割増賃金の全額または一部を支払うことなく労働させること」を意味します。
サービス残業に該当する事例は、以下のとおりです。
労働に対して賃金が支払われない状態は、すべてサービス残業に該当し労働基準法違反を理由に違法と扱われます。
従業員の労働に対し、賃金を支払わないサービス残業は違法です。ここでは、サービス残業が違法になる理由や罰則について解説します。
従業員が仕事をした場合、労働に対しては必ず賃金を支払わなければいけません。
特に、使用者が労働者に対して時間外労働・休日労働をさせたときには、従業員に対して割増賃金を支払う義務が課されています。(労働基準法第37条)
そのため、サービス残業は労働基準法第37条違反を理由に違法と扱われます。
なお、会社と従業員との間で「残業代は不支給とする」という合意が形成されていたとしても、サービス残業の違法性が阻却されることはありません。
サービス残業は、賃金不払い残業のことです。「賃金が支払われない労働」という状態を指します。
そのため、使用者が労働者に対してサービス残業を命令したときだけではなく、従業員側が自主的にサービス残業をしたケースも労働基準法第37条違反と扱われます。
会社側からすると、「従業員が自主的にサービス残業をしたのだから会社側が労働基準法違反のペナルティを課されるのはおかしい」と感じるのも当然です。
しかし、会社側には労働者に対して安全な職場環境を提供する義務が課されており、従業員が自分の判断でサービス残業をしないような制度を整えたり指導をしたりしなければいけません。
したがって、労働基準監督署にバレると、サービス残業が従業員の自主的なものであったとしても、会社側が労働基準法違反を理由にペナルティが課されるので、サービス残業を徹底的に排除するような企業努力は不可欠だと考えられます。
従業員がサービス残業を強いられていることを労働基準監督署に通報したり、労基署からの臨検監督の際にサービス残業の実態が発覚したりすると、企業に対して是正勧告が下されます。
そして、是正勧告が下されたにもかかわらず、サービス残業解消に向けた対策を講じなければ、会社側に以下のペナルティが課されます。
サービス残業が発生しているような事業所では、労働基準監督署によるチェックが入ったタイミングで長時間労働規制違反などの別の労働基準法違反が発覚するケースも少なくありません。
そのようなケースでは、罰則が更に上乗せされるリスクがあるので注意が必要です。
サービス残業の実態があると、企業側はさまざまなデメリットに晒されるこのは事実です。ここでは、サービス残業によって企業が晒されるリスクについて解説します。
サービス残業の実態が労働基準監督署に発覚して、是正勧告の内容にも従わなければ、企業側が罰則を受ける可能性があります。
サービス残業によって残業代などを支払っていなかった場合の罰則は「6ヶ月以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑」です。(労働基準法37条)
本来、従業員の残業に対しては適切な賃金が支払われなければいけません。
そのため、サービス残業について従業員が民事紛争に踏み出した場合、未払い賃金に遅延損害金を加えた金額の支払い義務が生じます。
さらに、裁判所がサービス残業の未払いの実態を悪質だと判断した時には、未払い賃金と同一額の付加金の支払いが命じられる危険性もあります。(労働基準法第114条)
悪質なサービス残業事案や、サービス残業が労働基準監督署に発覚したことをきっかけに他の労働基準法違反が発覚した事案では、企業名公表というペナルティが課される危険性があります。
また、サービス残業を強いられて不満を感じていた従業員がマスコミに告発したり、SNSでサービス残業について投稿をしたりすると、サービス残業の実態が世間に知られてしまいます。
企業に強くコンプライアンス遵守が求められるようになった現代において、サービス残業の実態がある企業のイメージダウンは避けられません。
たとえば、ブランド価値が下落して商品などが売れなくなったり、株価が下落したりします。
また、サービス残業実態があるようなブラック企業に就職・転職したいと考える求職者はいないので、優秀な人材確保も難しくなるでしょう。
サービス残業が常態化すると、従業員のモチベーションが低下することがあります。
たとえば、サービス残業が当たり前の企業風土や上司からの圧力に抗うことができない場合、心身にストレスを抱えながら仕事をしなければいけません。
「給料を貰えないのに仕事をするのは嫌だ」と感じると、仕事に対するモチベーションが低下するでしょう。
また、自主的にサービス残業をして成果を残している従業員が高い人事評価を受けると、「昇進・昇格・昇給するには、サービス残業までしなければいけないのか」「適切な人事評価制度が機能していない」など、前向きな気持ちで業務に向き合えなくなってしまいます。
企業の中でサービス残業が横行すると、従業員の離職率・求職率の割合が高まります。
まず、サービス残業は従業員にとって負担でしかありません。無給で働く時間が増えるほど従業員の心身の健康は損なわれ、「もうこの職場では働きたくない」とさえ感じるようになるでしょう。
その結果、退職者や求職者の割合は増加し、残された従業員はさらに厳しい就労環境に追い込まれます。
また、退職者や求職者の増加は企業にとっても喜ばしいことではありません。特に、近年では業種・業界問わず人材不足の課題を抱えており、新たな人材を採用するのは難しいのが実情です。離職率・休職率が高い企業は就職市場・転職市場で不人気なので、そもそも求人案件に応募する人が見当たらないでしょう。
仮に新たな人材の採用に至ったとしても、サービス残業が常態化せざるを得ないような厳しい業務をひとりで処理できるまでに教育・指導するのは簡単ではありません。
「人件費の節約になるので、バレないように従業員にサービス残業をさせた方がメリットが大きい」という考えは間違いです。
サービス残業は従業員側・企業側双方にとって中長期的なデメリットしか生み出しません。企業側は絶対にサービス残業を強制してはいけませんし、従業員による自主的なサービス残業も防止する体制を構築する必要があります。
サービス残業を防ぐためには、サービス残業を誘引しやすい環境について把握する必要があります。サービス残業が起こりやすい職場環境を紹介するので、自社の状況と照らし合わせてください。
勤怠打刻の仕組みが整っていないと、サービス残業が発生するリスクが高まります。
たとえば、従業員の勤怠をシステマティックに把握する環境が整備されていない場合や、出勤時・退勤時の適切なタイミングで勤怠打刻する習慣が普及していない場合が挙げられます。
従業員の勤務時間・残業時間を把握して取り締まるようなバックオフィス部門の仕組みが整っていないと、サービス残業が横行するリスクが生じます。
たとえば、人事部門・総務部門に労働基準法などのルールに詳しい人員がいない場合、紙ベースで勤怠管理をして就業時間・残業時間をすぐに把握できない場合などが挙げられます。
仕事を自宅に持ち帰ることができる環境では、サービス残業が発生する可能性が高いです。
たとえば、とても勤務時間中に終えることができないほどの業務量が従業員に割り当てられている場合、社内用PCや書類などを自宅に持ち帰ることが黙認されている場合、退社後のプライベートな時間でのサービス残業が発生し得るでしょう。
管理職などの上司や先輩社員がいつまでも残業していると、部下は定時で帰宅をしたり、上司よりも先に帰ったりしにくく感じてしまいがちです。
その一方で、会社側から長時間残業をしないように指示をされていると、必要な残業をしている場合でも、部下に「いつまでも残業をする上司」と思われてしまいます。
このような「残業することが正しい」「上司よりも先に帰宅してはいけない」という企業風土が醸成されている場合には、サービス残業が常態化するリスクがあると考えられます。
早朝出勤や休日出勤が頻発する企業は、サービス残業が発生している可能性があります。
というのも、早朝出勤や休日出勤が多いということは、従業員が通常の勤務時間内で処理できない仕事量を負担していることを意味するからです。
そもそも、残業時間には一定の上限が定められており、労働基準法で許容される範囲の時間外残業が発生すると企業側がペナルティを課されるのが実情です。
つまり、従業員は法律で許された時間内でしか働くことができないのに、その時間内では処理できない仕事量をこなさなければいけなくなってしまいます。
その結果、残業時間規制に違反せずに仕事を終わらせる必要に迫られて、サービス残業をせざるを得なくなってしまうでしょう。
特に、テレワーク・在宅勤務による就労を認めている企業は、サービス残業・隠れ残業が発生しないように注意をしなければいけません。
なぜなら、従業員の自宅での様子を24時間チェックするのは不可能だからです。勤務時間として設定されてる時間帯以外のタイミングで従業員が勝手に仕事をしていても、会社側がそれに気付くのは簡単ではありません。
出勤・出社が存在しないタイプの就労スタイルでは隠れ残業による労使紛争のリスクが高いと理解しておきましょう。
工数管理は、事業活動の効率化だけではなく、従業員の就労環境の快適性向上にも役立ちます。そのため、工数管理ができていない企業では、サービス残業の発生リスクが高まります。
そもそも、各タスクに要する労働時間・従業員数を適切かつ客観的な方法で管理しなければ、事業活動の効率性向上は望めません。
つまり、工数管理システムが充実していないということは、現場で働く従業員が極めて非効率的な就労を強いられている危険性が高いということです。
たとえば、指定された納期までに仕事を終えるには圧倒的に少ない人員しか割り当てられていなければ、各従業員の労働時間の増加は避けられません。
また、工数管理ができていない以上、過重労働の実態を会社側が把握することも困難であり、サービス残業の実態から抜け出せないでしょう。
会社側の指示でサービス残業をさせるのは厳禁です。
それと同時に、従業員による自主的なサービス残業を防止する責任も会社側は果たさなければいけません。
ここでは、従業員の自主的なサービス残業への対策について説明します。
どの企業でも簡単に導入できる対策のひとつが、徹底的な社内周知です。
たとえば、サービス残業禁止の旨や労働時間に関するルール、サービス残業のリスクなどについて、掲示物や社内メール、ミーティングなどの機会を活用する方法が考えられます。
その際には、労働時間管理の責任者を明確にして組織化して実施すると、効率的にサービス残業防止に向けた対策を進めることができるでしょう。
サービス残業を防止するには、従業員の労働時間や稼働状況を正確に管理する必要があります。
たとえば、クラウド式の勤怠管理システムを導入すれば、全従業員の勤怠状況を簡単に管理できるでしょう。また、定期的にタイムカードとPCログに齟齬がないかをチェックして、サービス残業をしていない従業員がいないかを洗い出すのも有効です。
近年、クライド系の勤怠管理システムサービスは充実してきているので、利便性や予算などを総合的に考慮して、バックオフィス部門に導入しやすいサービスを選定してください。
サービス残業を予防する手段として、ノー残業デー制度を導入するもの選択肢のひとつです。
残業をしない日を強制的に用意することで、本来の勤務時間内で仕事を切り上げる習慣が社内に広まるでしょう。
なお、ノー残業デーを導入する以上、ノー残業デー以外の日に業務負担のしわ寄せがいくことは避けなければいけません。「ノー残業デーは定時で終わる代わりに、ノー残業デー以外は長時間残業が常態化する」のでは意味がないからです。
そのため、大前提として、企業側としては「ノー残業デーを導入する基盤」を整える必要があると考えられます。
各部門の業務内容を整理する、適切な人員数を配置する、業務効率化を実現できるシステムを導入して従業員の業務負担を軽減するなど、企業側としてできることは実施してください。
サービス残業防止のためには、社内コミュニケーションの強化も欠かせません。
たとえば、上司と部下との間で業務の進捗状況や仕事量の不満を話しやすければ、サービス残業をする前に仕事などへの対策に踏み出せるはずです。
また、上司部下間のコミュニケーションが円滑なら、「残業をしている上司よりも先に帰宅すると人事評価が低くなるのではないか」「サービス残業で頑張る姿勢を見せた方がボーナス査定で高い評価をもらえるだろう」という勘違いも簡単に解消できるでしょう。
さいごに、サービス残業改善に向けて実施された諸施策の具体例について、企業規模ごとに紹介します。
自社で採用するサービス残業防止策を決定する際に役立ててください。
A社では、「出退勤時刻をIDカードで把握し、始業時刻・終業時刻は労働者本人がPC入力する」というルールで勤怠管理をしていました。
しかし、IDカードとPC記録に大幅な乖離が生じていたため、原因を究明したところ、労働時間の管理上、以下の問題点があることが発覚しました。
そこで、A社としては、全労働者を対象にアンケート形式で実態調査を実施して、以下の対策に踏み出しました。
これによって、従業員の勤怠記録の正確性が担保され、万が一残業申請できないときでも上司にバレずに相談できる環境が整備されました。
B社では、「始業時刻・終業時刻はICカードで把握する。時間外労働は労働者からの残業申請によって管理する」というルールを設けていました。また、総務部門が主導して、サービス残業禁止の社内周知も定期的に実施されていました。
しかし、各労働者が労働時間を適正に管理する重要性を意識できておらず、社内チェック体制も甘かったために、労働時間の適正管理ができていませんでした。
これらの問題点を改善して労働時間を適切に管理するため、B社が採用した対策は以下のとおりです。
サービス残業予防に向けて二重・三重の対策を用意しておけば、勤怠管理ミスが限りなくゼロに近付き、安全・安心な就労環境で仕事ができるようになるでしょう。
C社では、「始業時間・就業時間を労働者本人がパソコン入力する」「残業が必要なときには、パソコンで上司に残業申請をする」というルールで従業員の労働時間を管理する方針でした。
しかし、複数の支店でPCと残業申請の記録の間に相違があることが発覚したところ、以下のようなサービス残業の実態があることが明るみに出ました。
このように、全社的にサービス残業が常態化していたため、本社・支店だけではなく、グループ会社も対象として、労働者に対して未申請の残業時間について調査票が配布されて、労働時間の実態調査が実施されました。
そのうえで、未払いの割増賃金を支払うとともに、サービス残業防止に向けて以下の取り組みが採用されています。
組織の規模が大きくなるほど、サービス残業が発覚したときの改善対応の負担が重くなります。
特に、支店が複数存在するような企業では、本社側がどれだけサービス残業防止に向けた取り組みを実施しても、支店の独断で不正を働かれるリスクも少なくないので、本社の人員による直接管理や監督・指導が不可欠といえるでしょう。
参考:賃金不払残業(サービス残業)の解消のための取組事例集|厚生労働省
会社側がサービス残業を強要した場合だけではなく、従業員が自主的にサービス残業をした場合も、企業側がさまざまなペナルティを強いられます。
そのため、企業側としては、自主的なサービス残業が生じないような予防策を積極的に講じなければいけません。
どのようなサービス残業予防策を講じるかは企業規模や現在の労務管理状況などに照らし合わせて検討する必要があるので、適宜弁護士などの外部専門家の意見を参考にしてください。