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2024年のゴールデンウィーク後に話題を集めたのが、新卒社員の早期退職と、退職代行の利用です。
少子高齢化が急速に進行する中で、子育て自体の環境だけでなく、こどもが成長していった際の社会環境、とりわけ仕事というものは重要な要素となります。
若年層の雇用に関しては、若者雇用促進法という法律があり、近年改正も進んでいる分野で注目されています。
本記事では、若者雇用促進法とは何か、法律の概要や企業側が留意すべき実務上のポイントを中心に解説します。
若者雇用促進法とは、どのような法律でしょうか。
若者雇用促進法とは、「勤労青少年福祉法等」の一部を改正する形で制定された制度であり、正式名称は「青少年の雇用の促進等に関する法律」です。
若者雇用促進法制定の背景には、若者の離職率の増加や、少子高齢化に伴う労働力人口の減少があります。
若者雇用促進法は、若者が適切な職に就き、スキルアップの開発及び向上に関する措置を講ずることにより、若者が有する能力を有効に発揮できることを目的として制定されました。
「青少年」とは、若者雇用促進法では明確な定義がありませんが、青少年雇用対策基本指針(令和3年厚生労働省告示第114号)によれば、35歳未満の者とされています。※35歳以上45歳未満の場合も、個々の施策や事業の運用状況に応じて、青少年に含まれることも定められています。
若者雇用促進法には、職場情報の積極的な提供、特定の企業の新卒求人を受理しないこと、そしてユースエール認定制度という3つのポイントがあります。
1点目は、職場環境の積極的な提供です。
若者の早期退職を予防すべく、会社側が労働条件や就労実態等の職場情報を積極的に提供する仕組みが創設されました。
具体的には、新卒者の募集を行う企業に対し、下記の情報提供が努力義務ないし義務化されました。
近時、新卒者の早期退職が取り沙汰されますが、少子化が進み日本社会全体として人材不足が課題となっています。
その影響もあり、人事や採用担当者は母集団形成のため、入口となる採用選考の段階でネガティブな印象に繋がる情報をなるべく出したくないという考えもあるでしょう。
しかし、採用コストをかけるからこそ、正しく企業の魅力を伝えて就業環境に関する情報を可能な限り適切に提供し、双方のミスマッチを防ぐことが大切です。
ハローワークは、一定の法令に違反した企業に対し、新卒者の求人を受理しないことができます。
職業安定法は、これまで、原則としてハローワークは求人申込みを全て受理しなければならないとしてきました。
しかし、令和2年3月30日から改正職業安定法が施行され、一定の労働関係法令に違反する場合には、求人の申込みを受理しないことが可能となりました。
具体的には、下記の法令に違反する企業は、ハローワークにおいて求人が不受理とされる可能性があります。
こうした労働環境に関する法令違反は、就業意欲を害し、社会経験を積んでいく段階で意欲を害しないようにすることが目的です。
なお、どの法令に違反したかにより、不受理の期間が異なるため、注意が必要です。
ユースエール認定とは、若者の採用・育成に積極的で、若者の雇用管理の状況等が優良な中小企業に対し与えられる制度です。
ユースエール認定された企業は、様々な支援を受けることが可能となり、自社のアピールを十分にする機会が確保されることから、優秀な人材の確保・応募者数の増加を期待することができます。
青少年の雇用の促進等に関する法律
第15条 厚生労働大臣は、事業主(常時雇用する労働者の数が三百人以下のものに限る。)からの申請に基づき、当該事業主について、青少年の募集及び採用の方法の改善、職業能力の開発及び向上並びに職場への定着の促進に関する取組に関し、その実施状況が優良なものであることその他の厚生労働省令で定める基準に適合するものである旨の認定を行うことができる。
具体的には、自社の魅力を幅広くPRすることが可能となります。
認定マークもあることから、対外的に自社が優良企業であることをアピールでき、若者からの応募が増加したり、日本政策金融公庫から低利率(基準利率から-0.65%)で融資を受けたりすることが可能となることが期待できます。
このように、ユースエール認定を受けることは、企業にとって多くのメリットがあります。
ユースエール認定企業となるには、下記のように一定の認定基準を満たす必要があります。認定要件は全部で12要件存在し、その全てを満たした企業が認定されることから、かなり厳格に判断されることがわかります。
企業・事業主が、新卒者を含む若年層の人を採用するにあたり、注意すべきポイントはどのような点でしょうか。ここでは、5つ解説していきます。
1点目が労働条件の明示です。若者が適切な職に就き、安定的に働けるよう、採用の段階において企業側が注意すべきポイントが存在します。
労働条件の明示や、明示する条件の内容等、遵守すべきポイントはいくつか存在しますが、具体的には、下記のとおりです。
参考:「若者の募集・採用等に関する指針~ご対応いただきたい5つのポイントを紹介します~」|厚生労働省
内定取消しは解雇に該当しますが、解雇は使用者がいつでも自由に行えるものではありません。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められる場合に認められ、そのような事情がない場合における解雇は、権利濫用として無効となります(労働契約法16条)。
どのような場合に解雇が認められるか、今一度確認することが必要です。
就活生や、インターンシップ参加者に対するハラスメント対策を講じることは、事業主の義務とされています。
ハラスメントには複数種類がありますが、代表的なものとしては、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントが挙げられます。
このいずれのハラスメントに対しても、事業主は防止措置を講じなければなりません。
企業によるハラスメントが社会問題にもなっている今、いかなる場合にハラスメントに該当しどのような対策を講じるべきか、確認が必要です。
参考:「職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!」|厚生労働省
事業主は、応募者等に対し、「青少年雇用情報」の職場提供をする必要があります。
若者雇用促進法により、労働条件を的確に伝え、平均勤続年数や研修の有無及び内容といった就労実態等に関する職場情報を応募者等に提供することが義務付けられました。
事業主は、ハローワークに新卒向けの求人を申し込む場合、「青少年雇用情報シート」の全ての項目を可能な限りの記入必が必要です。
参考:「青少年雇用情報シートの書き方のポイント」|厚生労働省
在学中に就職先が決まらず卒業を迎えてしまった方に対し、厚生労働省は新卒枠の対象範囲を拡大するとの指針を定めました。
具体的には、既卒であっても、卒業後3年以内であれば就職活動において新卒として応募することができるよう企業側に努力義務を定めています。
一度就職にうまくいかなかった若者が社会からフェードアウトしてしまうような事態を防ぎ、社会での自立を促すことが目的とされます。
ここまで若者雇用促進法のポイントについて解説してきました。さらに、政策面では、若者の雇用を活性化させていくための様々政策があります。
最後に、若者の雇用促進のための政策について3つ紹介していきます。
厚生労働省は、「青少年の雇用の促進等に関する法律」に基づき、学校卒業見込者の採用枠について、下記の指針を定めました。
このような指針が定められたことにより、就業意思や能力があるにもかかわらず、社会情勢や個人的な事情により就職できなかった者が新卒枠で応募できるようになりました。
企業にとっては、優秀な人材を新卒枠で獲得できることから、新卒枠の拡大は、両者にとってメリットが大きいといえるでしょう。
また、厚生労働省は、「青少年の雇用の促進に関する法律」に基づき、学校卒業見込者の採用時期について、「通年採用や秋季採用の導入等を積極的に検討すること」との指針を定めました。
これまでの採用は、春季に一斉にスタートするというのが一般的でした。
しかし、このような採用時期の一律化は、留学で就職活動ができなかった者や、就職活動したものの就職先が見つからず卒業を迎えてしまった者に対して、一定期間失業状態を生み出すことに繋がりました。
通年採用や秋季採用の導入は、留学者や既卒者にとっては失業状態を経ることなく就職活動に励むことができる点があり、一方事業主側には、隠れた優秀な人材を確保する機会が増加する点でメリットあるといえます。
厚生労働省によれば、少子化により若者の数が減少している一方で、若年無業者(いわゆるニート)の数は減少していないとの実情があります。
こうした若者に対しては、地方自治体との協働により、地域若者サポートステーションでの就業支援が行われています。
地域若者サポートステーションでは、若者の職業自立のための相談窓口の設置や、合宿形式での集団的な職業訓練を通じたスキルアップなどの施策が実施されています。
参考:卒業後3年以内の既卒者は、「新卒枠」での応募受付を!|厚生労働省
本記事のポイントは、以下の3点です。
愛知県弁護士会所属。旭合同法律事務所に所属しながら、事業会社の法務部に出向。企業法務に関心があり、取り扱い分野は戦略・政策渉外、コーポレートガバナンス、内部統制、M&A、ファイナンス、AI、Web3.0、SaaS、人材プラットフォーム、航空・宇宙、データ法務、広告法務、エンタメ、消費者被害、相続、破産・再生など。学生時代は法律問題を取り上げるメディア運営会社にてインターンを経験し、現在もWEBメディアにて執筆活動を続ける。詳しいプロフィールはこちら:https://asahigodo.jp/lawyer-introduction/kawamura-masaki/