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36協定とは?上限規制、作成プロセスや実務上の留意点などを分かりやすく解説

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36協定とは?上限規制、作成プロセスや実務上の留意点などを分かりやすく解説

過労死事件などを背景に、2019年、2020年頃から残業規制の強化が図られました。

2024年も、昨今「物流の2024年問題」などが取り沙汰されていたように、トラックドライバーの残業時間の上限規制強化が始まりました。

残業規制は、いわゆる労働基準法36条にいう、いわゆる36(さぶろく)協定がベースとなっています。

本記事では、働き方改革関連法のメインストリームともいうべき36協定に関し、残業規制の基礎から、改正の経緯、2024年の改正点を踏まえた実務上の対応ポイントまで、わかりやすく解説します。

【本記事のポイント】

  • 36協定で定める内容(限度時間、延長時間)と上限規制
  • 36協定の締結する際の当事者と選定方法
  • 36協定を定める際のガイドライン及びその8つの内容について

BEET

36協定とは

使用者は、法定労働時間を超える業務を従業員に行わせる場合に、労働組合あるいは労働者の中から過半数を代表する者との間で、書面により協定を結んだ上、労働基準監督署(以下「労基署」と表記)に届け出ることにより、時間外労働を行わせることができます。

この協定を、労働基準法(以下「法」と表記)36条に定められることになぞらえて、「36協定」といいます


労働基準法第36条第1項

使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
 

引用:労働基準法

労働者保護の観点から、残業について、行政の把握しうる監督下に置き、残業の上限規制やその運用を適切にコントロールする趣旨です。

労働基準法において36協定を含む労働時間の考え方

そもそも、労働基準法上、労働時間をどのように定義づけているのでしょうか。残業・時間外労働の基本的な考え方を理解するために重要です。

労働時間及び休日に関する基本的な考え方

労働時間には、所定労働時間と法定労働時間があります。労働契約書・雇用契約書でもこの2つの言葉が出てきます。

所定労働時間は、会社が定めた労働時間、個別の契約上の労働時間ということになります。これに対して法定労働時間は、法律上定められた労働時間(1日8時間、1週間40時間)をいいます。


第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

引用:労働基準法

通俗的には所定労働時間を超えて労働することが「残業」と捉えられたりしますが、法律上の残業、すなわち「時間外労働」は法定労働時間を超える労働をいいます。

また、休日も、同じような違いが当てはまります。

会社が定める所定休日と、法律上定められる法定休日がありますが、法的にはあくまで休日労働は法定休日に労働することを休日労働といいます。

法定休日は、1週間に1日以上とされているため、その曜日が土日でなくても問題ありません。

第三十五条 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。

引用:労働基準法

したがって、時間外労働は法定労働時間を超える部分が当てはまり、休日労働は法定休日における労働をいいます。両者は重なり合う部分がありますが、時間外労働と休日労働は別々のものとして理解しておきましょう。

36協定の位置づけ

36協定は、前で述べたように、法定労働時間や法定休日に関わらず、使用者が必要に応じて労働者に稼働させる場合に予め定めて労基署に届け出る協定です。

そのため、時間外労働及び休日労働の両者と関わる概念です。

36協定で定める内容

36協定では、どのような内容が定められるのでしょうか。

36協定の項目

36協定に定めるべき内容は、法36条2項に定められています。

労働基準法第36条2項
 ② 前項の協定においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 この条の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させることができることとされる労働者の範囲
二 対象期間(この条の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる期間をいい、一年間に限るものとする。第四号及び第六項第三号において同じ。)
三 労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる場合
四 対象期間における一日、一箇月及び一年のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間又は労働させることができる休日の日数
五 労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするために必要な事項として厚生労働省令で定める事項

引用:労働基準法

端的に整理すると、次の5つです。

つまり、法律上は、残業や休日労働をさせる従業員はどのような部署の従業員か、残業をさせる期間、残業をさせるケース、一日単位から年単位まで延長できる労働時間、協定の有効期間や限度時間を越えて就業させるケースなどを予め定めさせ、その範囲において時間外労働を運用すべきことを規定しています。

36協定の上限

法36条は、まず、定性的な基準として「労働時間を延長して労働させることができる時間は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内」と定め、部署のセクションごとでの業務量や時間外労働の動向などを考慮して、通常予見される程度としています。

その上で、限度時間が設定されており、1か月単位で45時間、1年単位で360時間以内という定量的な基準が枠として定められています。

労働基準法第36条
 ② 前項の協定においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一から三 略
四 対象期間における一日、一箇月及び一年のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間又は労働させることができる休日の日数
五 略
③ 前項第四号の労働時間を延長して労働させることができる時間は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限る。
④ 前項の限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。

引用:労働基準法

また、一定の業務類型においては長時間労働が特に健康上有害性を帯びるおそれがあるもののほか、一般的な最大値として、法36条第6項が次のような上限を定めています。

一般的な最大値に関しては、1か月あたりの残業時間の最大値として100時間未満であることが定められています。

⑥ 使用者は、第一項の協定で定めるところによつて労働時間を延長して労働させ、又は休日において労働させる場合であつても、次の各号に掲げる時間について、当該各号に定める要件を満たすものとしなければならない。
一 坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務について、一日について労働時間を延長して労働させた時間 二時間を超えないこと。
二 一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間 百時間未満であること。
三 対象期間の初日から一箇月ごとに区分した各期間に当該各期間の直前の一箇月、二箇月、三箇月、四箇月及び五箇月の期間を加えたそれぞれの期間における労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間の一箇月当たりの平均時間 八十時間を超えないこと。

引用:労働基準法

36協定で定めることができる特別条項

想定を超えて、繫忙期や社内の人員体制の過渡的な変化に応じる必要があることもあります。そうした、臨時で一時的な業務増加に対応するためのやむを得ない時間外労働に関しても、カバーしています。

その場合、次のようなルールが定められています。

労働基準法第36条第5項
⑤ 第一項の協定においては、第二項各号に掲げるもののほか、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第三項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間(第二項第四号に関して協定した時間を含め百時間未満の範囲内に限る。)並びに一年について労働時間を延長して労働させることができる時間(同号に関して協定した時間を含め七百二十時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができる。この場合において、第一項の協定に、併せて第二項第二号の対象期間において労働時間を延長して労働させる時間が一箇月について四十五時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間)を超えることができる月数(一年について六箇月以内に限る。)を定めなければならない。

引用:労働基準法

元々基本値として36協定上設定した時間外労働の時間を含め、月単位では通算して100時間未満の範囲で夜間や休日労働の時間を定めることができ、1年単位では通算して720時間未満で時間外労働を行わせる時間を定めることができます。

ただし、この場合は、1か月単位で45時間を超えることができる月数を定める必要があり、1年の中で6か月以内である必要があります(連続した月でなくても、断続して6か月以内である必要があります)。

なお、この特別条項を定めた場合であっても、法36条第6項にある絶対的な上限数値などを超えることはできません。

ここまでのまとめ

残業時間の上限規制について、ここまでの内容をまとめると、次の通りとなります。

ⓐ単位ごとの残業時間の上限数値 1日あたり 1か月あたり 1年あたり
ⓑⓐの数値を超えて延長できる労働時間 ・当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内
・限度時間を超えない時間
ⓒ限度時間(原則)   45時間 360時間

ⓓⓒの延長時間(例外)
※前提条件:部署単位で、通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い、臨時的に第三項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合

  ⓒを含めて100時間未満
※45時間を超えることができる月数を定める必要あり。1年で6か月(6回)以内
720時間未満
ⓔ各種の最大値規制 ・坑内労働など健康上特に有害な業務として厚労省令で定められるもの・・・2時間を超えない
・1か月間の残業や休日労働は100時間未満
・当月の直近1か月から5か月までにおける、1か月あたりの平均の時間外労働が80時間以内であること

働き方改革による36協定の改正内容

現在の法令は、2019年における働き方改革による改正以降のものです。
法令改正がなされた経緯は、どのような点にあったのでしょうか。

改正前と後の比

2019年以前の労働基準法では、現在のように最大値の規制などの枠がなく、特別条項として定めていれば際限なく時間外労働の時間を設定することができてしまうことになっていました。

(※罰則の規定もなかったことから、常軌を逸したような、200時間を超えるような残業時間であったとしても、使用者側へのリスクがほとんどない状態であり、結果労働者が搾取されてしまうような内容でした。)

そこで、ザル法のような残業規制を見直し、残業の時間数について上限を設け、かつその上限を単位となる期間ごとに設定するとともに、罰則の設定により実効性確保を強化することになりました。

出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|時間外労働の上限規制 わかりやすい解説

2024年4月1日から変わる点とは?

冒頭でふれた2024年問題に関する点は、2019年の改正時点では経過措置として猶予されていた次の4つの類型に関するものです。

とりわけ、トラックドライバーを中心とした「自動車運転の業務」に関して、物流の2024年問題として話題となっていました。

  • 建設事業
  • 自動車運転の業務
  • 医師
  • 鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業

2024年4月1日以前は、上記のうち、特に建設事業、自動車運転の業務、そして医師業務に関しては残業上限規制の適用が5年間猶予されていたことから、年6か月までであれば際限なく残業をさせることができるような状況でした。

こうした類型の業務は、深夜や休日をまたいだ業務も想定されるためです。

しかし、2024年4月1日以降は、それぞれ上限規制が適用されていく形となります。

自動車運転の業務に関して言えば、特別条項付きの36協定の場合でも、年間の時間外労働の上限が960時間と設定されます。

一方で、時間外労働及び休日労働の合計で月100時間未満、2~6か月平均で80時間以内の上限は適用されないほか、時間外労働が月45時間を超えることができる回数:年6か月という規制も適用されないこととされています。

36協定を締結するまでの流れ

36協定を作成して締結するまで、どのようなフローで進める必要があるのでしょうか。

36協定の様式

36協定には、次のような様式があります。

出典:時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)(一般条項)|厚生労働省

記入例や留意事項もあることから、その内容に沿って記載していく必要がありますが、社労士や弁護士などの専門家のアドバイスを受けながら作成していくのがおすすめです。

事業のフェーズによっては、記載が難しい部分もあります。

例えば、業務の種類の欄などは、留意事項として、業務の区分を細分化し、どの業務に係る労働者についてどの基準を適用するのかが明確になるようにする必要があります(記載心得1)。

そのため、組織図が明確に固まっていないようなシード期のスタートアップ企業などでは、事業内の組織図や業務分掌を明確にした上で作成していくことが重要です。

また、このことから、36協定を作成するタイミングも、従業員の規模、業務内容と事業のフェーズなどを踏まえて作成することがポイントになります。

後ほど、さらに詳しく解説していきます。

また、特別条項の場合には、一般条項の部分に加えて次の様式があります。

出典:時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)(特別条項)|厚生労働省

その他、トラックドライバーなど自動車運転に関する業務のほか、一定の業務に関しては特に様式が指定されていることから、業種によって注意が必要です。

36協定は誰と締結するのか

36協定を締結する相手方は、2パターンあります。

1つは、労働者の過半数で組織される労働組合がある場合、労働組合との間で締結します。もう1つは、労働組合がない場合、労働者の過半数を代表する者との間で締結します。

後者については、代表者の具体的な決定方法は、特に方式が指定されているわけではなく、投票や挙手といった形でもよいとされています。

あくまで、無効原因となるような点に十分に注意して行うことで足ります。

  • 前で述べたような管理監督者にあたる人や機密の事務を取り扱うポジション(秘書)の人は対象外にする→法令上除かれている
  • 使用者の意向が介在しないようにする
  • 36協定の労働者代表を選出する趣旨であることを明示して選出する

また、使用者は、労働者の代表者が協定締結に関する事務を円滑に遂行することができるように必要な配慮を行う必要があります。

具体的には、事務機器やチャットによる情報連携、事務スペースの確保が挙げられます。

36協定を締結するまでの手順

36協定の原案作成から実際のドラフト、そして締結、届出までのフローを整理すると次のとおりです。

36協定の作成においては、厚生労働省が提供する支援ツールの利用がおすすめです。

特に、創業間もないフェーズの企業では、バックオフィスが整っていない場合、手っ取り早く36協定を整える際には、こうしたツールの活用が有効といえるでしょう。

参考:スタートアップ労働条件 事業者のための労務管理・安全衛生管理診断サイト|厚生労働省

また、36協定の届出は電子申請も認められているので、それも活用し、効率化することもできます。

出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|時間外労働の上限規制 わかりやすい解説

36協定を作成する際に留意すべきポイント8つ

実際に36協定を作成する際には、どのような点に留意すべきでしょうか。

厚生労働省は、この36協定を定める際のガイドラインを提示しています(労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針(厚生労働省告示第三百二十三号))。

当該指針の中で定められる8つのポイントを解説していきます。

時間外・休日労働の定めを必要最小限にとどめること

第二条 ・・・労働時間の延長及び休日の労働は必要最小限にとどめられるべきであり、また、労働時間の延長は原則として同条第三項の限度時間(第五条、第八条及び第九条において「限度時間」という。)を超えないものとされていることから、時間外・休日労働協定をする使用者及び当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者(以下「労使当事者」という)は、これらに十分留意した上で時間外・休日労働協定をするように努めなければならない。

引用:厚生労働省告示第三百二十三号

時間外・休日労働は、あくまでそれが通常とされるべきものではなく、業種・業態によってやむを得ず認められるものです。

ハードワーク、長時間勤務が事業の成長、経済の成長を支える絶対的な基準というわけではありません。プライベートの時間も充実させることができるからこそ、仕事に対しての集中力や生産性とのバランスも図られます。

働く人の心身の健康が維持され、その中で継続的に安定して就業できる環境を整備するために、残業時間を管理していくことが重要です。その意味で、時間外・休日労働は、必要最小限にすべきとされています。

なお、これは使用者の義務であると同時に、36協定を結ぶ労働組合や労働者代表者に課せられるものでもあります。そのため、36協定の労働者代表になる従業員に対して、この点をインプットする必要があります。

安全配慮義務を負うこと、長時間労働と過労死との関連性

第三条 使用者は、時間外・休日労働協定において定めた労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間の範囲内で労働させた場合であっても、労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)第五条の規定に基づく安全配慮義務を負うことに留意しなければならない。

引用:厚生労働省告示第三百二十三号

使用者は、労働者に対して、労働契約法上、社会生活上の密接な関係性に由来して、就業環境について物的・人的な体制などの安全配慮義務を負います。

労働契約法
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

引用:労働契約法

36協定は、法律が枠組みを定めることにより際限なく長時間残業が横行することを規制していますが、あくまでその基準が安全配慮義務として負う範囲を定めるわけではありません。

法律論にかかわらず、長時間労働は、長期化・継続化することで、心身への悪影響を及ぼすものであり、36協定で定めた範囲内の労働であっても、不調の原因となったり、事故や病気の引き金となりえます。

そのため、36協定の定めにかかわらず、長時間労働が労働者に及ぼす負の影響に対して十分に留意して、過労による心身へのストレスを緩和・軽減するよう工夫していく義務があるのです。

業務区分の細分化

第四条 労使当事者は、時間外・休日労働協定において労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる業務の種類について定めるに当たっては、業務の区分を細分化することにより当該業務の範囲を明確にしなければならない。

引用:厚生労働省告示第三百二十三号

先ほど触れたとおり、36協定を定めて時間外・休日労働をさせるには、どの業務でどの程度の限度時間を設けるのか、特別条項を設けることにより延長できる労働時間を定めるのか、範囲を明確にする必要があります。

残業時間設定の合理性や、期間設定の妥当性、特別条項を設定する必要性などを予め検討させるためです。36協定は、あくまで届出であることから労基署による認定判断が介在するものではありませんが、事業者側が内容を明確に把握して残業管理について自律を促す狙いがあります。

なお、ポイントとして、この指針に関しては、「使用者」ではなく、「労使当事者」と定められていることから、労働者代表者側においてもしっかりと認識しておく必要があります

特別条項を定める場合の注意点

第五条 労使当事者は、時間外・休日労働協定において限度時間を超えて労働させることができる場合を定めるに当たっては、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合をできる限り具体的に定めなければならず、「業務の都合上必要な場合」、「業務上やむを得ない場合」など恒常的な長時間労働を招くおそれがあるものを定めることは認められないことに留意しなければならない。
 2 労使当事者は、時間外・休日労働協定において次に掲げる時間を定めるに当たっては、労働時間の延長は原則として限度時間を超えないものとされていることに十分留意し、当該時間を限度時間にできる限り近づけるように努めなければならない。
一 法第三十六条第五項に規定する一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間
二 法第三十六条第五項に規定する一年について労働時間を延長して労働させることができる時間
3 労使当事者は、時間外・休日労働協定において限度時間を超えて労働時間を延長して労働させることができる時間に係る割増賃金の率を定めるに当たっては、当該割増賃金の率を、法第三十六条第一項の規定により延長した労働時間の労働について法第三十七条第一項の政令で定める率を超える率とするように努めなければならない。

引用:厚生労働省告示第三百二十三号

原則の部分(月45時間・年360時間)である限度時間を超えて延長時間を定める場合には、臨時的な特別の事情という例外事情が必要です。

そして、36協定を作成する際には、事業場・部署ごとで「通常予見することができない業務量の大幅な増加等」よって臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合について、具体的に定めます。

どの程度具体化することができるかは、事業のフェーズや組織・人員の規模、業務フローの整備状況などによって異なりますが、事業内容と業務分掌との兼ね合いで個別に言語化できる程度であることが望ましいでしょう。

また、視点としては、恒常的な長時間労働が発生しないようにするという点に置くことが重要です。

加えて、できる限り、1か月の中での時間外・休日労働時間、1年間における時間外労働時間の限度時間に可能な限り近づけ、低く設定するように工夫しましょう。つまり、なるべく制限的に設定していくことが要求されるのです。

さらに、時間外労働の設定は、対価である給与との相関において妥当性が判断される側面があります。そのため、限度時間を超えた時間外労働に関しては、25%を超える割増賃金率としておく必要もあります。

有期雇用・短期労働者の時間外労働の目安

第六条 労使当事者は、期間の定めのある労働契約で労働する労働者その他の一箇月に満たない期間において労働する労働者について、時間外・休日労働協定において労働時間を延長して労働させることができる時間を定めるに当たっては、別表の上欄に掲げる期間の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる目安時間を超えないものとするように努めなければならない。

引用:厚生労働省告示第三百二十三号

パートタイマーやアルバイトなどの有期雇用・短期雇用の労働者の場合については、次のとおり目安時間が設定されていることから、この数字の範囲内で残業時間を設定するようにしておくとよいでしょう。

日数 計算方法 目安時間
1日を超えて1週間未満 15時間×(日数÷7) 15時間以内
1週間を超えて2週間未満 27時間×(日数÷14) 27時間以内
2週間を超えて4週間未満 43時間×(日数÷28) 43時間以内
(27時間を下回れば、その時間以内)

休日労働に関する点

第七条 労使当事者は、時間外・休日労働協定において休日の労働を定めるに当たっては労働させることができる休日の日数をできる限り少なくし、及び休日に労働させる時間をできる限り短くするように努めなければならない。

引用:厚生労働省告示第三百二十三号

休日は、労働者がプライベートの時間に費やすものとして必要です。そのため、休日労働に関しては、特に従業員の心身への影響が高いものであると考えられます。

自由に時間を調整したりすることができる経営者や個人事業主とは異なり、一定の時間を労務の提供として費やす分、労働者が休日の時間を枠として確保されていることは、労働者が時間を搾取されないための防御線であるといえます。

健康及び福祉を確保するための措置について

第八条 労使当事者は、限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置について、次に掲げるもののうちから協定することが望ましいことに留意しなければならない。
一 労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること。
二 法第三十七条第四項に規定する時刻の間において労働させる回数を一箇月について一定回数以内とすること。
三 終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること。
四 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること。
五 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること。
六 年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること。
七 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること。
八 労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること。
九 必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、又は労働者に産業医等による保健指導を受けさせること。

引用:厚生労働省告示第三百二十三号

残業に関する時間的制約だけでは、残業そのものに存在する労働者の心身への影響を軽減することはできません。先ほど述べたように、定量的な基準だけでは労働者の心身の健康を確保するための労働時間の水準を網羅できているとは限らないからです。

そのため、残業の上限規制のほかにも、労働者の心身の健康を担保するための仕組みを確保する必要があります。

指針では、36協定の中で定めることが望ましい事項として9つの例を挙げています。

すべての実施が要求されるものではありませんが、上記のもののなかから複数を組み合わせて定め、労務フローとして定めておくことが重要です。

労務管理のクラウドサービスも増えており、深夜労働の回数制限や休暇取得の手続の簡易化などを組み込む仕組みが充実していることから、そうしたサービスの活用も有効であるといえるでしょう。

限度時間の適用除外が認められる事業や業務の場合

第九条 法第三十六条第十一項に規定する業務に係る時間外・休日労働協定については、第五条、六条及び前条の規定は適用しない。
2 前項の時間外・休日労働協定をする労使当事者は、労働時間を延長して労働させることができる時間を定めるに当たっては、限度時間を勘案することが望ましいことに留意しなければならない。
3 第一項の時間外・休日労働協定をする労使当事者は、一箇月について四十五時間又は一年について三百六十時間(法第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあっては、一箇月について四十二時間又は一年について三百二十時間)を超えて労働時間を延長して労働させることができることとする場合においては、当該時間外・休日労働協定において当該時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置を定めるように努めなければならず、当該措置については、前条各号に掲げるもののうちから定めることが望ましいことに留意しなければならない

引用:厚生労働省告示第三百二十三号

法令上、限度時間が適用除外とされている業務があります。例えば、新技術や新商品の研究開発に関する業務が挙げられます。

こうした業務であっても、一般的な業務の場合に定められる限度時間を目安として、そこに合わせていくことが望ましいことを踏まえて、時間外労働を運用していく必要があります

特に、月45時間・年360時間を超える労働を行わせる場合には、7つ目のポイントである健康・福祉に関する措置について36協定で定めておくようにする必要があります。

36協定に関する罰則

36協定に違反するとどのような罰則が適用されるのでしょうか。ここでは3つのケースについて解説していきます。

36協定を締結せずに時間外労働を行った場合など

まず、36協定を締結せずに時間外労働をさせた場合についてです。これは、法定労働時間規制に違反するものとして、法32条に違反します。この場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。

なお、36協定で定めた時間を超えた時間外労働を行った場合も、協定で定められたものではない労働であることから、法定労働時間の範囲を超える以上、同様に、法32条違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金なります。

36協定の届出をしていなかった場合

単に36協定の届出をしていなかったという場合でも、36協定の締結は、届出をするところまでがセットであることから、上記と同様に法32条違反となり、罰則の対象となります。

上限規制に違反した場合

36協定で定める時間数についても上限が設けられています。そのため、次のように、上限規制に違反する場合は、法36条6項違反となります。

  • 時間外労働+休日労働が月100時間以上
  • 時間外労働+休日労働の2~6か月の平均のいずれかが80時間を超えた

この場合、同様に、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金となります。

上記のような刑事罰対象となるため、36協定に関する規制には十分に注意して対応するようにしましょう。

36協定に違反した場合の事例

実際に36協定に違反したケースについて、3つご紹介していきます。

36協定の期限切れによる違法残業

この事例は、東京都府中市にある食品加工業を営む会社において、36協定の有効期限が切れていたにもかかわらず、15人の労働者に対して週40時間を超える時間外労働を行わせていたという事案です。

令和5年9月11日から17日の1週間において、最大39時間の時間外労働をさせていたものですが、1週間という短期間であっても、違法なものとして摘発されます。

うっかりのミスが事業の運営に致命傷を与えかねないことから、36協定の有効期限には十分に注意する必要があります。

参考:36協定が期限切れ 15人違法残業させ送検 立川労基署|労働新聞

特別条項の適用6カ月超え送検

この事例は、36協定で定めていた限度時間を超える時間外労働を、年間6か月を超えて行わせていたとして、法32条違反で送検された事案です。

この会社では、特別条項付きの36協定を締結していたところ、1か月の時間外労働の限度時間を超えての労働時間の回数を年6回と定めていましたが、令和4年の下半期において労働者4名に6回を超えて時間外労働を行わせていたとされます。

そして、特に数年前から同様に違反行為があり、複数年行政指導が行われていたにもかかわらず改善がなされなかった点が考慮されたとされます。

参考:特別条項の適用6カ月超え送検 呉労基署|労働新聞

36協定の締結・届出をせずに時間外労働をさせた事案で書類送検

この事案は、函館の路線バス会社で、36協定を締結・届出せずに労働者8人を時間外労働させていたというものです。

36協定の締結や届出を行わなかった場合は、その状態で時間外労働をさせただけで直ちに違法になってしまいます。締結や届出の失念がないよう、確実に行う必要があります。

参考:「函館バス」と社長らを"労基法違反"で書類送検…労働者8人に違法な時間外労働を行なわせた疑い 函館労働基準監督署|Yahooニュース

実務上のワンポイントアドバイス

最後に、36協定に関し、残業時間の上限規制に対する実務上の対応に関してワンポイントアドバイスをご紹介していきます。

先ほどご紹介した違反事例にもあるように、36協定を定めて届出を行い、協定を運用していたとしても、従業員の規模が大きくなり数百人単位の人員を抱えていると、すべての社員に網羅的に残業管理することが難しくなってきます。

意図せずに残業の上限規制を超えてしまうリスクは、いわゆるサー残(サービス残業)といった言葉もあるように、極めて身近な問題であると言えます。

そのため、労務時間の適正な把握と管理徹底が重要です。具体的な措置として以下の点などを認識して、実践しておくことをおすすめします。

【始業・終業時刻の確認と記録】
・現認できる方法による確認と記録
・リモートワークなどに伴い、タイムカードやICカードだけでなく、パソコンのログなど【使用時間の客観的な記録や確認】
【自己申告による確認・記録の場合の留意点】

・対象となる労働者に対する教育と研修
・入退場記録やパソコン使用記録などの実態把握と調査の実施
・自己申告した労働時間とのずれがある場合における確認の徹底
・労務管理クラウドの導入と、自動記録との整合性の確認
【労働時間等設定改善委員会の活用】

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川村将輝
この記事の執筆者
川村将輝

愛知県弁護士会所属。旭合同法律事務所に所属しながら、事業会社の法務部に出向。企業法務に関心があり、取り扱い分野は戦略・政策渉外、コーポレートガバナンス、内部統制、M&A、ファイナンス、AI、Web3.0、SaaS、人材プラットフォーム、航空・宇宙、データ法務、広告法務、エンタメ、消費者被害、相続、破産・再生など。学生時代は法律問題を取り上げるメディア運営会社にてインターンを経験し、現在もWEBメディアにて執筆活動を続ける。詳しいプロフィールはこちら:https://asahigodo.jp/lawyer-introduction/kawamura-masaki/