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「健康診断は必ず実施しなければならないのか?」
「健康診断に必須項目はあるのか?」
「健康診断の費用は会社負担なのか?」
など、健康診断の実施や費用について悩む担当者はいることでしょう。
事業者には、従業員に対する健康診断の実施義務が課されています。
実施義務に違反して従業員に対して健康診断を実施しなければ、事業者に対して50万円以下の罰金刑が下されるだけではなく、報道などによって社会的評価が下がりかねません。
本記事では、事業者に課された健康診断実施義務の内容を詳しく解説していきます。義務化されている項目や対象をよく確認し、ペナルティを受けないように十分注意しましょう。
健康診断にかかる費用の事業者負担と従業員負担の範囲についても説明するので、本記事を参考にして精算フロー整備や社内アナウンスを徹底しましょう。
(健康診断)
第六十六条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。
引用元:労働安全衛生法|e-Gov法令
事業者には、労働者に対して健康診断を実施する義務が課せられています。この義務に違反して労働者に健康診断を受けさせなかった場合、50万円以下の罰金刑となります(労働安全衛生法第66条第1項~第4項,第120条第1号)。
そもそも、事業者には、従業員に対する安全配慮義務が課されています。例えば、業務を遂行するにあたって安全・安心な環境を整備することや、労働基準法違反の就労実態が生じないように配慮することなどが求められています。
この安全配慮義務の一環として、従業員の健康問題を早期発見をするために健康診断の実施が義務付けられています。
なお、労働者側は事業者によって実施される健康診断を必ず受けなければいけません(労働安全衛生法第66条5項)。
健康診断は、一般健康診断と特殊健康診断に区分され、それぞれ細かく実施するべき健康診断の項目が定められています。
人事労務の担当者は、健康診断実施義務の内容・範囲について把握しておく必要があります。
一般健康診断とは、事業主が労働者に対して実施することが労働安全衛生法及び同規則によって義務付けられている健康診断のことです。
一般健康診断には、以下5つが含まれます。
事業者は、常時使用する労働者を雇用する時は、当該労働者に対して、以下の事項に関する医師による健康診断を実施しなければいけません(労働安全衛生規則第43条)。
ただし、雇入れ時健康診断には例外があります。
前回の健康診断から3ヶ月を経過しない人を雇用する場合は、その人が健康診断の結果を証明する書面を提出できれば、健康診断を実施する必要はありません。
事業者は、常時使用する労働者に対して、1年以内ごとに1回、定期的に医師による健康診断を実施しなければいけません(労働安全衛生規則第44条第1項)。
ただし医師が定期健康診断の必要がないと判断した場合、以下の項目については該当項目の定期健康診断を省略できます。
特定業務に常時従事する労働者を雇用する事業者は、当該業務へ配置替えする際、及び、6ヶ月に1回の頻度で、定期的に以下の項目について医師による健康診断を実施しなければいけません(労働安全衛生規則第45条第1項)。
なお、特定業務従事者健康診断の実施義務が課されるのは、以下の業務に従業員を従事させる事業者に限られます(労働安全衛生規則第13条第1項第3号)。
労働者を日本国外の地域に6ヶ月以上派遣しようとする場合、及び、日本国外の地域に6ヶ月以上派遣した労働者を日本国内における業務に就かせようとする場合、事業者は以下の項目について医師による健康診断を実施する必要があります(労働安全衛生規則第45条の2第1項、第2項)。
事業に附属する食堂や炊事場における給食の業務に従事する労働者を雇い入れる場合や、当該業務へ配置替えする場合、伝染病保有菌者を発見する目的で、検便による細菌学的検査を実施しなければいけません(労働安全衛生規則第47条)。
特殊健康診断とは、労働安全対策上とくに有害リスクが高い業務に従事する従業員を対象に特別に実施される健康診断のことです。
特殊健康診断には、以下の健康診断が含まれます。
キシレンや二硫化炭素など、受診者が関係する有機溶剤の種類ごとに検査項目が設定されている健康診断のこと。
鉛を取り扱う業務に従事する労働者を対象に、暴露や健康状態を把握するために実施される健康診断のこと。
エチレンイミンや塩化ビニルなど、特定の化学物質を取り扱う労働者を対象に実施される法定健康診断のこと。
粉塵作業に従事する従業員を採用する場合や、常時粉塵作業に従事する従業員や過去に粉塵作業に関連する業務に従事した経験がある従業員を雇用している場合を対象に実施される健康診断のこと。
放射線業務に従事し、かつ、放射線量が一定以上ある管理区域に立ち入る従業員を対象に実施される健康診断のこと。
四アルキル鉛を取り扱う業務に常時従事している従業員を対象に実施される健康診断のこと。
石綿の粉塵を発散する場所で就労している従業員や、過去に当該業務歴のある従業員を対象に実施される健康診断のこと。
高圧業務や潜水業務に従事する従業員を対象に実施される健康診断のこと。
紫外線・赤外線、騒音など、労働安全衛生法の適用を受けることはないものの、行政からの通達によって指導勧奨された結果、実施するのが望ましい健康診断のこと。
健康診断は従業員の健康維持を目的として実施されるため、基本的には全従業員が受診すべきと言えます。
健康診断を受ける義務がある従業員は、正社員のほか、一部の契約社員・パート・アルバイトと、労働性がある役員も含まれます。
以下で詳細に解説します。
正社員として雇用している全ての労働者が、健康診断実施義務の対象に含まれます。
正社員のなかでも業務時間や業務内容は個人で異なりますが、どのような就労条件で雇用していても正社員であれば必ず健康診断を実施します。
健康診断の実施義務の対象になるのは労働者です(労働安全衛生法第2条第2号)。
健康診断の実施義務の対象になる労働者とは、事業または事業所に使用されて賃金を支払われる者を意味します(労働基準法第9条)。
つまり会社の役員が健康診断の対象になるか否かは、当該役員に労働者性があるか否かで判断されるということです。
例えば代表取締役社長は労働者を雇用する立場にあるため、健康診断の実施対象である労働者には含まれません。
一方で社長を補佐して業務の管理・監督をおこなう常務取締役や、現場監督をおこなう工場長・支店長のような労働者性の強い業務に従事する人物については、健康診断の実施義務対象になると考えられます。
ただし健康診断は全従業員の健康を維持する目的で実施されることを踏まえると、基本的には役員も漏れなく健康診断を受けるべきと言えるでしょう。
契約社員・パート・アルバイトが健康診断の実施義務の対象に含まれるかどうかは、当該従業員が常時使用する労働者に該当するか否かで判断されます。
常時使用する労働者とは、以下2つの要件を満たした者を指します。
なお契約社員・パート・アルバイトの1週間の労働時間が、同じ業務をおこなう一般社員の1週間の所定労働時間数の約1/2以上である場合は、一般健康診断の実施が望ましいとされています。
参考:
労働安全衛生法|e-Gov法令
労働基準法|e-Gov法令
健康診断の実施義務に違反した場合のペナルティについて解説します。
事業者側が健康診断の実施を試みて従業員側が拒否した場合でも、ペナルティはあるのでしょうか?従業員が受診を拒否した場合の、ペナルティや対応方法についても解説します。
事業者が労働者に健康診断を受けさせなかった場合の法定刑は50万円以下の罰金刑です(労働安全衛生法第66条、労働安全衛生法第120条第1号)。
また事業者は、健康診断に関して知り得た労働者の情報や秘密を外部に漏洩することが禁止されています(労働安全衛生法第105条)。
この外部漏洩禁止ルールに違反して健康診断に関する労働者の秘密を漏らした時には、6ヶ月以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑が課されます(労働安全衛生法第119条第1号)。
また事業者が健康診断の実施義務に違反すると、労働基準監督署への調査に対応する負担を強いられることもあるでしょう。さらに他に深刻な労働基準法違反事由が発覚すると、企業名が公表されて社会的な制裁が下されかねません。
以上を踏まえると、「たかが健康診断」と安易に捉えることは非常にハイリスクです。労働安全衛生法をよく理解して、正確に健康診断を実施しましょう。
従業員が健康診断の受診を拒否した場合でも、事業者側に罰金等のペナルティが科されます。
そのため、事業者側としては健康診断を拒否する従業員への対策が求められます。具体的な施策として、以下の対応が挙げられます。
上記はあくまでも一例です。
健康診断を拒絶することを理由に懲戒処分を下す際は、違法行為とならないように注意が必要です。
健康診断の受診拒否を理由に懲戒処分を検討する場合は、事前に弁護士など専門家の意見を仰ぐことをおすすめします。手続きを誤ると、むしろ不利益を被る可能性があります。
健康診断に拒否反応を示す従業員が現れた場合には、慎重に対応しましょう。
最後に、健康診断の費用負担に関するポイントを解説します。
事業者側に実施義務が課されている健康診断の項目については、事業者がその費用を全額負担しなければいけません。
健康診断を実施する医療機関を選定する際は、各医療機関に対して見積もりをとりましょう。
健康診断の実施前に支払いを済ませるケースが多いですが、従業員が立て替えた健康診断の費用を事業者の負担範囲文だけ後で支給する場合もあります。
健康診断を福利厚生のひとつとして扱うこともあります。健康診断にかかる費用を福利厚生費として処理する場合は、以下の要件を満たさなければなりません。
事業者に実施義務が課されている健康診断以外のオプションや再検査の費用については、従業員側負担です。
例えば、健康診断のついでに人間ドックを受診する場合には、人間ドック分の費用は従業員が負担します。
ただし事業者の独自判断によって、健康診断のオプション費用を会社負担にすることは可能です。最近では、福利厚生の充実をアピールポイントにして人材を確保するため、健康診断のオプション費用を福利厚生に含めることがあります。
事業活動に支障にならない範囲で健康診断のサポート体制を充実させることによって、多様な人材確保を実現しやすくなるでしょう。
健康診断は一部実施義務がありますが、経営を継続する以上は従業員の心身の安全を守ることが大切なため、事業者は積極的に健康診断をおこなうべきでしょう。
健康診断の実施が義務付けられている項目や対象をよく理解して、運用していきましょう。違反するとペナルティが課されるため、注意が必要です。
実施方法に不安なある場合は、人事労務に詳しい人材を雇ったり専門家に相談しましょう。
IT企業にて新卒から人事部に配属されて、現在まで5年間働いています。
現役人事ならではの視点で、人事に関する情報を記事にしていきたいと思います。
法務部・経理財務をはじめとした管理部門のコンサルタント。不動産営業・管理事務等を経験したのち、バックオフィス専門のアドバイザーとして参画。