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日本における税金や社会保険料の軽減を目的とした扶養制度は、親族や家族を経済的に支援するための重要な仕組みです。この制度により、扶養人数に応じて税金や保険料が削減されます。
本記事では、扶養制度の目的や加入条件などを詳しく説明します。
扶養とは、自分の収入だけでは生活するのが難しい状態の人を、親族が経済的に援助をする制度です。扶養する人を扶養者、扶養される人を扶養家族や扶養親族、被扶養者と呼びます。
はじめに、扶養の目的と定義、扶養対象の親族などを解説します。
扶養の目的は、個人の経済的負担を社会全体で支えることです。
経済的に困窮する親族を支え、家族の繋がりを強化し、国の支援ネットワークを維持します。心身の疾病や失業、老若などの理由で経済的に自立できない人を支える制度です。
また、扶養には「社会保険」における扶養と「税制」における扶養の2種類があります。
社会保険上の扶養は、扶養親族分の社会保険料を負担することなく、保険の給付を受けられます。被扶養者の保険料負担を軽減することが目的です。
税制上の扶養は、所得税や住民税の控除が関連しており、一定の金額が税金から控除されます。扶養する側も扶養される側も、税負担が軽減される仕組みです。
扶養家族とは、納税者が経済的に支援している家族全体を指し、配偶者や子ども、両親などが該当します。
一方、扶養親族とは、税制上の扶養において使われる用語で、納税者の配偶者以外の親族または都道府県知事から養育を委託された児童や、市町村長から養護を委託された老人を指します。
社会保険上の扶養を被扶養者と呼び、主に被保険者により生計を維持されている人を指します。扶養親族と被扶養者の違いは、以下のとおりです。
扶養親族と被扶養者の主な違い | |
---|---|
親族の範囲 | 扶養家族:6親等内の血族と3親等内の姻族で、「戸籍上の親族である」ことが必要。同居は問わない |
被扶養者:直系尊属、配偶者、子、孫及び兄弟姉妹(同居・別居問わず)、被保険者の3親等内の親族(同居のみ)が対象。続柄によっては同居が要件となる | |
年間の範囲 | 扶養家族:その年の1月1日から12月31日の実際に受け取った年間収入 |
被扶養者:今後1年間の見込み収入 | |
収入の範囲 | 扶養家族:扶養親族の判定における「収入」には、非課税のものは含まれない。 不動産の売却益などの一時的なものであっても、「収入」に含まれます。 |
被扶養者:被扶養者の判断における「収入」は、課税・非課税や、給付目的を問わず、継続して得られるすべてのものを指す。通勤手当、遺族年金、出産手当金、雇用保険の各種給付なども含まれる。 一方、不動産の売却益などの「今後継続する見込みのない一時的な収入」は含まれない。 |
これまで、外国に移住している家族において、扶養親族で合計所得金額が48万円以下なおかつ16歳以上の場合は、扶養控除の対象でした。
しかし法改正により令和5年1月以降は、年齢が30歳以上70歳未満の扶養親族においても、扶養控除対象の適用に要件が追加となりました。
以下が、扶養控除対象に該当する条件です。
以上の条件に加えて、扶養控除を受けるには以下の提出書類も必要です。
非居住者である親族の年齢区分 | 扶養控除申告書の 必要書類 |
年末調整時の必要書類 | |
---|---|---|---|
16歳以上30歳未満 | 親族関係書類 | 送金関係書類 | |
30歳以上70歳未満 | ①留学 | 親族関係書類および留学ビザ等書類 | 送金関係書類 |
➁障害者 | 親族関係書類 | 送金関係書類 | |
③38万円以上の送金を受け取っている者 | 親族関係書類 | 38万円送金関係書類 | |
(①~③以外の者) | 扶養控除の対象外 | ||
70歳以上 | 親族関係書類 | 送金関係書類 |
参考:「令和5年1月以後に非居住者である親族について扶養控除等の適用を受ける方へ」|国税庁
続いて、社会保険上と税制上の扶養の加入状況を、データを基に解説します。
政府統計の総合窓口(e-Stat)が発表した「健康保険・船員保険被保険者実態調査」によると、2022年度の被扶養者の数は以下のとおりです。
被保険者数 | 被扶養者数 | 扶養率 | |
---|---|---|---|
全国健康保険協会管掌健康保険 | 25,487,570人 | 14,953,492人 | 58.7% |
組合管掌健康保険 | 166,182人 | 115,917人 | 69.8% |
船員保険 | 58,086人 | 54,891人 | 94.5% |
全国健康保険協会管掌健康保険における過去のデータを比較すると、平均の扶養率は約64%で、2022年は例年よりは低い扶養率でした。
被保険者数 | 被扶養者数 | 扶養率 | |
---|---|---|---|
2022年 | 25,487,570人 | 14,953,492人 | 58.7% |
2021年 | 25,143,626人 | 15,232,468人 | 60.6% |
2020年 | 24,866,020人 | 15,411,020人 | 62.0% |
2019年 | 24,739,099人 | 15,614,828人 | 63.1% |
2018年 | 23,650,078人 | 15,564,424人 | 65.8% |
2017年 | 23,062,885人 | 15,555,948人 | 67.5% |
2016年 | 22,119,954人 | 15,482,002人 | 70.0% |
国税庁が発表した「令和4年分 民間給与実態統計調査」によると、1年を通じて勤務した給与所得者5,078万人のうち、年末調整を行った者は4,697万人(92.5%)でした。
このうち、配偶者控除または扶養控除の適用を受けた者は 1,276 万人(27.2%)で、扶養人員のある者1人当たりの平均扶養人員は 1.42 人となっています。
詳しい結果は、以下のとおりです。
区分 | 令和4年分 | |
---|---|---|
給与所得者数 | 46,968,000人 | |
うち扶養人員のある者 | 12,764,000人 | |
扶養人員 | 配偶者数 | 8,405,000人 |
扶養親族数 | 9,773,000人 | |
計 | 18,178,000人 | |
一人当たりの平均扶養人員 | 1.42人 |
社会保険上と税制上の扶養は、控除内容や条件が異なります。ここからは、双方の違いを解説します。
社会保険上の扶養とは、会社員や公務員として勤める被保険者が家族や親族を経済的に支援する制度です。
被扶養者は、保険料を支払うことなく、健康保険や年金の給付が受けられます。
被扶養者が受けられる給付に一部制限があり、被保険者と違いがあるのは覚えておくと良いでしょう。具体的には、けがや病気の際に本人や家族の生活費を保障するための制度である傷病手当金は受けられません。
また、年金に関しては、配偶者のみが第3号被保険者として扱われ、国民年金のみの加入となります。
税制上の扶養とは、所得税や住民税に対する控除を受けられる制度です。
所得税法上の控除対象扶養親族がいる納税者は、所得から扶養控除額が差し引かれます。
控除によって課税の対象になる所得が減れば、その分納税者が納める税金の税額が少なくなり、負担が軽減します。扶養控除は年1回、扶養者が年末調整や確定申告で申告可能です。
ここでは、社会保険における扶養の条件と手続きを解説します。
健康保険の加入者は、被保険者として基準を満たす家族や親族を扶養にできます。被扶養者の認定基準は、主に被保険者の収入によって生計が維持されていることです。
具体的には、以下の条件が挙げられます。
直系尊属、配偶者、子、孫及び兄弟姉妹に関しては、別居していても対象です。
しかし、被保険者の3親等内の親族であれば、同居が必要となるので注意しましょう。
被扶養者の収入基準は、以下のとおりです。
年間収入が130万円未満で、なおかつ被保険者の年間収入の半分未満が条件です。月額108,333円を超え続けると、扶養から外れる可能性があります。
年間収入が180万円未満で、なおかつ被保険者の年間収入の半分未満が条件です。月額150,000円を超えてしまうと、扶養から外れる可能性があります。
年間収入が180万円未満で、なおかつ被保険者の年間収入の半分未満が条件です。月額150,000円を超えてしまうと、扶養から外れる可能性があります。
収入計算には、給与収入以外に年金収入や事業収入、各種手当が含まれるので注意しましょう。今後継続する見込みのない一時的な収入は含まれません。
被扶養者の加入手続きは、扶養者が加入している健康保険組合や年金事務所に対して、書類を提出する必要があります。
社会保険は会社が従業員に代わって手続きをするため、必要項目を記入したのちに被扶養者分の提出書類を会社へ提出しましょう。
【提出が必要な書類】
ここからは、税制における扶養の条件と手続きを解説します。
税制上における被扶養者の対象となる扶養親族は、以下のとおりです。
配偶者の場合は、配偶者控除と配偶者特別控除が対象となります。
扶養がいる場合に受けられる控除は、以下のとおりです。
年齢が16歳以上の扶養親族に対して、一人当たり38万円の控除が適用されます。
19歳以上23歳未満で学生の扶養親族には、一人当たり63万円の控除が適用されます。
70歳以上の扶養親族に対しては、同居の場合一人当たり58万円の控除が適用されます。同居していない場合は48万円の控除が適用されます。
扶養控除は、年末調整または確定申告で申請可能です。
申請方法は、給与所得者の場合と個人事業主の場合など、ケースごとに異なります。
給与の支払を受ける人は、扶養控除等の控除を受ける為に「給与所得者の扶養控除等の(異動)申告書」を使用して申請します。
申告書は、その年の最初に給与の支払を受ける日の前日までに提出しなければなりません。
中途就職の場合は、就職後最初の給与の支払を受ける日の前日までに提出が必要です。
異動の場合は、異動の日後、最初に給与の支払を受ける日の前日までに異動の内容を記載した申告書を提出します。
確定申告の際に、扶養している家族の氏名や生年月日、マイナンバーを記載して税務署に提出します。
扶養に入るメリットは、税負担の軽減や社会保険の適用を受けられることが挙げられます。ここからは、詳しいメリットを解説します。
家族や親族を扶養に入れた場合、扶養者は所得税や住民税の控除を受けられます。
ただし、扶養している家族が配偶者であれば、扶養控除ではなく配偶者控除や配偶者特別控除となり条件が異なるので注意しましょう。
扶養者の税負担が減るだけではなく、納税者もその人数に応じて所得から一定額が控除され、納税額が減少します。
社会保険上の扶養になると、被扶養者は自分で保険料を払って公的医療保険に入る必要がありません。被扶養者がいても被保険者の払う保険料は同じになるため、被扶養者の手取り収入が増える効果があります。
そして、配偶者の場合は、健康保険に加えて国民年金の支払いがないです。
配偶者を扶養に入れた場合でも、被保険者の厚生年金保険料が増えることはないため、扶養する方も扶養される側も支払う金額が抑えられるメリットがあります。
扶養手当は、企業が家族を扶養している従業員に対して、福利厚生として支給する手当です。
扶養手当は、企業が任意で設定する手当であって、義務ではありません。そのため、手当の金額や支援条件は企業によって異なるので確認が必要です。
メリットがある一方、所得や働き方に制限が生じたり、受けとれる年金が減ったりとデメリットもあります。
最後に、扶養に入るデメリットを紹介します。
扶養の条件で解説した通り、扶養に入るためには給与収入を103万円以下に抑えなければなりません。
所得の条件を超えてしまうと、扶養から外れてしまうケースもあり、税金や社会保険料が発生する可能性があります。
税金や社会保険料がかかってしまう所得のラインは、以下のとおりです。
扶養される側 | 扶養する側 | |||
---|---|---|---|---|
住民税 | 所得税 | 社会保険 | 控除の有無 | |
100万円未満 | なし | なし | なし | 控除適用 |
100万円 | あり | なし | なし | 控除適用 |
103万円 | あり | あり | なし | 特別控除適用 |
106万円 | あり | あり | あり | 特別控除適用 |
130万円 | あり | あり | あり | 特別控除適用 |
150万円 | あり | あり | あり | 特別控除減る |
201万円 | あり | あり | あり | 特別控除なくなる |
扶養の条件に所得制限があるため、働き方や収入に制限が生じてしまいます。
一定ラインを超えると、自ら社会保険に加入する必要が出てくるので注意して働かなければなりません。
そのため、扶養内で働くために、労働時間を調整するケースが多くあります。短時間勤務の場合は、フルタイムの方に比べて、キャリアアップの機会が制限されてしまう可能性もあります。
やりたい仕事があっても、働く時間を増やしにくくなるため、ワークライフバランスを考えて扶養を選択すると良いでしょう。
扶養してもらえる人がいる場合、勤務先の社会保険に入らず、扶養に入る選択肢があります。税負担は受けられますが、厚生年金に入らないこととなり、将来受け取れる年金が減ってしまいます。
国民年金のみだと、満額でも月6.6万円程度になるので老後の生活資金に不安が残るでしょう。
扶養家族制度を利用することで、税金の軽減や社会保険料の節約など、様々な経済的メリットを得ることが可能です。
例えば、親を扶養家族として登録することにより、税金を削減できるほか、配偶者がアルバイト等で収入を得た場合にも、その税金が軽減される可能性があります。
しかし、扶養家族としてのメリットを受けるためには、年収に一定の制限が設けられており、これが収入を増やしたい場合の障壁となることがあります。
また、税制上の扶養家族と社会保険上の扶養家族では、対象となる親族の条件が異なるため注意が必要です。
扶養家族制度を利用するかどうかを検討している方、または家族を扶養家族にするべきか迷っている方は、制度の詳細な条件や仕組みを事前にしっかりと確認し、慎重に決断することをお勧めします。
このような決断は、個々の家庭の経済状況や将来計画に大きく影響するため、十分な情報収集と検討が重要です。