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「経理職の仕事がなくなるのではないか?」
「DX化によって、従来の経理スキルが無駄になるのではないか?」
という不安や懸念を抱いている方は少なくないでしょう。
昨今、業種や業界、部門問わずDX化が求められており、経理業務も例外なくDX化の波が押し寄せています。
もちろん、経理のDX化によって、従来の経理業務・担当が影響を受けるのは間違いありません。しかし同時に、経理部門のDX化によって、業務効率化という大きなメリットが生じるのも事実です。
そこで今回は、経理職で働く方や経理部門の管理職としてDX化を検討している方のために、経理のDX化によって生じるメリットや失敗しないフローなどをわかりやすく解説します。
そもそもDX(Digital Transformation/デジタルトランスフォーメーション)とは、ビッグデータやAI・IoTなどのデータ・デジタル技術の活用によって業務プロセスの改善・業務効率化・ビジネスモデルの変革を達成し、企業の競争力を高めることです。
業務レベルでデジタル技術などを導入すれば、現場の従業員の作業の仕方や上層部の管理方法に至るまで、企業全体に影響が生じます。
その結果、業務プロセスなどが改善されるだけではなく、組織構造や企業文化、社内の雰囲気までより良い形にブラッシュアップされます。
なお、DX化と似た概念としてIT化が挙げられますが、両者は目的に違いがあります。
IT化の目的は、IT技術の導入によって社内業務の効率化やコスト削減・品質向上を達成することです。
これに対して、DXはデジタル技術を幅広い範囲に導入してビジネス全体を変革して新たな価値を創造する点に重きが置かれています。
この意味で、DX化はIT化を包括する概念であり、IT化をより発展させたものとして位置付けることができるでしょう。
そして、経理においてのDX化は、業務効率化や法律への対応、幅広い働き方に対応可能な環境を構築させることを目的としています。
バックオフィスである経理部門で、DX化が求められる理由・背景をご紹介します。
既に2015年段階で、約17万人のIT人材が不足していました。
また、Windows XP以降のサポートが2014年以降順次終了しているので、システム全体の見直しをしなければ、ブラックボックス状態になるかもしれません。
その結果、DX化を進めなければ、2025年に以下の問題が露見することが予測されます。
このように、旧来のシステム状況を維持したままでは、2025年段階のデジタル競争社会についていけなくなるので、可能な限り早いタイミングでのDX化が求められます。
電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)は、国税関係帳簿(仕訳帳・総勘定元帳など)や国税関係書類(貸借対照表・損益計算書など)を電子データで保存する際の要件や保存義務の対象範囲について定めた法律のことです。
電子帳簿保存法は順次改正が繰り返されており、電子計算機処理システムなどを導入することによって、煩雑だったペーパー処理主体の経理業務のDX化が制度的に後押しされています。
ペーパーレス化やクラウド会計システムを導入しなければ、社内の会計処理・納税処理が滞るだけではなく、経理のDX化に対応できる人材を確保するのも難しくなってしまいます。
インボイスとは、売り手が買い手に対して正確な適用税率・消費税額などを伝える適格請求書のことです。インボイス制度は、令和5年10月1日から導入されています。
売り手である登録事業者の場合、買い手である課税事業者からの請求に基づいて、インボイスを交付しなければいけません。
また、買い手側が仕入税額控除の適用を受けるためには、売り手である登録事業者から交付を受けたインボイスの保存等をする必要があります。
インボイス制度の導入によって、従来の経理業務に加えて、インボイスの発行に関する手続きやインボイスの受け取り後の処理負担が増加します。
インボイス制度を従来の紙ベースで対応すると、経理部門の業務が回らなくなるので、データ処理や電子インボイスへ対応するシステム構築は不可避の課題といえるでしょう。
実際に、経理をDX化したことによる効果を実例でご紹介します。
有限会社山藤運輸では、売上・入金・請求をExcelや手書き伝票で管理していたため、煩雑な手作業で経理業務が非効率的という課題がありました。
請求書は印鑑を使用しており、社内でペーパーレス化も進んでいなく、さらに、過去の売上実績データ等は一切デジタル化されていなかったため、今後の営業目標を設定する際などにも、過去データの確認作業に時間を要していました。
そこで、有限会社山藤運輸は、販売管理システム「SMILE V 販売ベーシック」を導入します。これによって、経理部門が抱えていた課題を以下のように克服するに至りました。
参考:「IT導⼊補助⾦」を活⽤した業務効率化の取組事例|中小企業庁
株式会社キュリカは、2018年設立の大手人材派遣会社からスピンアウトした、従業員数20人程度のベンチャー企業です。
設立当初は、親会社ベースの基幹システムを利用していましたが、上場のタイミングで自社独自のITツールを導入する必要に迫られていました。
その一方で、設立から間もない時期のベンチャー企業なので財源に余裕がなく、ツール導入に高額の資金を投入することができなかったのが実情です。
このようなニーズのなか、株式会社キュリカは「マネーフォワードクラウド会計Plus」を導入し、以下のような形で経理部門に成果を生み出しました。
参考:「IT導⼊補助⾦」を活⽤した業務効率化の取組事例|中小企業庁
株式会社宝寿園では、テレビショッピング・雑誌通販・自社通販サイトを通じて自然健康食品を手がけています。
宝寿園では、約5万件分の販売管理業務を自社システムで処理していました。そのため、限界データ容量の増加に伴ってシステム動作が遅延し、各処理や電話対応に悪影響が生じていました。
また、売上データなどの経理業務は全て手書き、伝票・エクセルは手入力で対応していたので、経理処理が遅れるうえに、データ反映にも1ヶ月~2ヶ月の時間を要する状況でした。
このような状況を克服するために、株式会社宝寿園では「PCA商魂DX with SQL Fulluse & 伝助」を導入し、経理業務のDX化によって以下のメリットを獲得しました。
参考:「IT導⼊補助⾦」を活⽤した業務効率化の取組事例|中小企業庁
経理部門のDX化は、従業員側・企業側の双方にとってメリットをもたらすものです。
ここでは、経理のDX化を推進する4つのメリットについて解説します。
経理部門のDX化を進めることで、企業側はバックオフィス部門のコストを削減できます。
例えば、デジタル技術の導入によってペーパーレス化を推進すれば、紙の領収書や資料、マニュアル等を全て電子化されるので、文書作成・保存・情報共有に要するコスト(紙代、プリントアウト代、郵送代、紙の資料等を保存するためのスペースの賃料代、什器のレンタル代など)を削減できます。
また、テレワークを導入すれば従業員の在宅勤務が可能になるので、オフィス規模を縮小して賃料を抑えることができるようになります。
特に、テレワークをするには、ウェブ会議ツールやチャットツール、各種クラウドサービスを導入する必要があるため、従業員の業務効率性が向上し、テレワーク導入以前と比べて仕事上のさまざまな無駄が減るでしょう。
さらに、企業の規模や経営状況次第では、経理部門自体をアウトソーシングするのも選択肢のひとつです。
経理部門を維持する負担がなくなれば、人件費などの固定費を全面的にカットできるでしょう。
このように、経理部門のDX化にはさまざまな手法があり、何を採用しても一定のコスト削減に繋がります。
経理のDX化は、政府主導の働き方改革への対応としても効果的です。
働き方改革とは、就労する人それぞれがより良い将来の展望を抱けるように、それぞれの人が抱える事情に応じて多様な働き方を選択できる社会を目指す改革のことです。
近年、少子高齢化に伴って生産年齢人口が減少し、企業側は人材確保が難しくなっています。また、「育児や介護と仕事を両立したい」など、従業員側のニーズも多様化しているのが実情です。
このような社会情勢や社会的要請に対応するため、働き方改革によって構造的な変革が目指されています。
経理のDX化を実現すれば、経理部門で働く従業員の業務効率性は向上し、働きやすい就労環境が手に入ります。
その結果、個々の従業員のニーズも叶えやすくなるので、経理のDX化は働き方改革の趣旨に合致しているといえるでしょう。
ペーパーレス化とは、業務上発生する紙媒体を電子化してデータとして、活用・保存する体制を進めることです。
経理のDX化を推進すれば、領収書などの書類が全てデータ化されて、紙資源の節約に繋がります。
そして、ペーパーレス化は環境保護に資するものなので、近年のSDGsの流れにも合致するでしょう。
経理部門では、膨大な作業を限られた人員で処理する必要がありますが、全てを手作業で進めると、入力・計算などのプロセスでヒューマンエラーが発生する危険性が生じます。
これに対して、経理のDX化を推進すれば、クラウドサービスや自動計算ツールに大部分の作業を委ねることができるので、煩雑な集計・複雑な分析を正確・精緻・スピーディーに実施可能です。
そして、ヒューマンエラーの防止は、業務効率性の向上だけではなく、経理部門で働く従業員の負担量を節減し、更なるスキルアップのチャンスも提供してくれるでしょう。
DX化は、業務構造や組織体制に大きな変革を与えるものです。
丁寧に体制変更を進めなければ、従来業務に支障が生じたり、現場で働く従業員の不信感を招いたりしかねません。
ここでは、経理部門のDX化を進める際の流れやフローについて解説します。
まずは、経理部門の現状を洗い出す作業が必要です。
現状の問題点や非効率的なポイントが分からなければ、経理部門にどのようなシステムを導入するか判別できないからです。
現場で働く経理部員の意見なども上手に聴取しながら、経理部門が抱える問題点をピックアップしましょう。
経理部門のDX化を進めるには、紙媒体ベースの業務を根本から見直さなければいけません。
また、電子帳簿保存法が順次改正されているので、今後の税務処理に対応するためにも電子化・データ化は必須の課題です。
そのため、今後効率的に経理のDX化を推進するためには、社内全体で脱ハンコ化・ペーパーレス化を浸透させる必要があります。
社内広報やメールなどで周知するだけではなく、ある程度トップダウンの方式で従業員にペーパーレス化への対応を求めましょう。
経理のDX化を進める時には、社内フローのなかで自動化できる業務を洗い出してください。
どの業務に対してDX化を進めるかによって、導入するべきシステムや商品・サービスが異なるからです。
業務の自動化によって手作業が減り、ヒューマンエラーや改ざんリスクを予防できます。
また、手作業の負担が減る分、従業員が他の業務経験を積む機会に恵まれるので、スキルアップのチャンスもつくれるでしょう。
経理のDX化は、社内業務だけではなく社外業務も対象です。
例えば、リモート会議などを実現できれば、わざわざ取引先まで訪問するコストを削減できるでしょう。
経理のDX化を進める際には、システム導入などの設備投資について、一定のコスト負担を強いられます。
そして、企業の経営状況次第では、一度に完璧なDX化が難しいこともあるでしょう。
どのような手順でDX化を進めるかなど、計画的なプランを設定するためには、経営状況の可視化も不可欠です。
企業経営の負担にならない範囲で、経理DX化を順次進めてください。
経理のDX化には、下記のようなツールの活用が有効的です。
クラウド会計ソフトとは、インストール型の会計ソフトではなく、インターネット環境さえ整っていれば場所・端末を問わずに利用できる会計システムのことです。
従来型のインストール式の会計ソフトは、税制度や法改正に変更があったタイミングで、その都度端末にインストールしたソフトをアップデートしなければいけません。
しかしクラウド会計ソフトは、サービス提供側が自動でアップデート処理を済ませてくれるので、ユーザー側は一切の負担なくスムーズに法改正等に対応することができます。
また、自動仕訳や入力データの自動集計などの機能性も充実していたり、他の経理業務サービスとの連携も可能だったりするので、経理業務の負担を大幅に軽減可能でしょう。
さらに、クラウド会計ソフトの大半は月額制・年額制で料金プランが設定されているので、ランニングコストを抑えることもできます。
長期的にクラウド会計ソフトを利用し続けると、結果的にインストール型会計ソフトよりも高額の費用が発生しかねませんが、初期費用を抑えられるという点ではメリットが大きいです。
経費精算システムとは、経費精算をする際に必要な申請書の作成、承認、その後の仕訳や会計ソフトにデータを登録するまでの業務効率化を目指すシステムのことです。
経理精算は、全従業員が経理部門に持ち込む業務なので、手作業で対応するのは相当の労力を要します。
これをシステムで代替できるので、経理部門の業務負担量は大幅に軽減されるでしょう。
電子請求書発行システムとは、請求書を自動でPDFファイルなどに電子データ化するクラウド請求書発行システムのことです。
紙ベースの請求書を電子化すれば、作成・管理・郵送などのコストを削減できます。また、データ化によって人為的なミスや改ざんリスクも回避可能です。
債権管理システムとは、取引をめぐる債権情報・入金情報などを一元的に管理して、債権の有無・内容・履行状況を効率的に把握するためのシステムのことです。
債権債務情報を手作業で転記したり、銀行データとの突き合わせを目視で確認していると、経理業務が属人化してノウハウの承継や人材教育が困難になりかねません。
システムで統一的に入出金情報を管理すれば、データが社内で共有されるので横領などの危険性が排除されますし、常に適切なキャッシュフローを確認できるでしょう。
電子契約システムとは、PDF形式の電子ファイルで契約書を作成し、それに電子署名やタイムスタンプを付与することで、契約手続きを完結させるDX化システムのことです。
従来の紙媒体方式とは異なり、契約書を書面化する必要はありませんし、印紙税が不要になるというメリットを得られます。
また、電子契約手続の電子化だけではなく、電子契約をめぐる社内稟議、契約内容の管理などもシステム上で処理できるので、経理業務の負担やミスも減らせるでしょう。
チャットツールとは、各種デバイスを使用してリアルタイムで情報交換するコミュニケーションツールのことです。
メールのような1対1形式の連絡方式とは違って、形式的で必要な連絡だけでなく、気軽に質問や連絡等のコミュニケーションがとりやすいでしょう。
また、複数人での同時会話や音声式のやり取りをできるサービスもあります。
チャットツールを活用すれば、情報の共有スピードやり取りの履歴を後から検索可能な機能もあるので、正確性を向上させることが可能です。
また、経理部門全体の統一感・連帯感を生み出すこともできるでしょう。
DX化は国が後押しする施策なので、さまざまな補助金制度が用意されています。
ここでは、経理のDX化に役立つ補助金制度を紹介します。
IT導入補助金制度は、中小企業や小規模事業者等の労働生産性を向上するために、業務効率化やDX化を目的とする、ITツールの導入を支援する補助金制度のことです。
通常枠・インボイス枠(インボイス対応類型)・インボイス枠(電子取引類型)・セキュリティ対策推進枠・複数社連携IT導入枠の5種類に分類されており、どの枠を利用するかによって補助対象額が異なります。
なお、IT導入補助金の対象になるITツールは、事前に事務局の審査をクリアしたものに限られます。
IT導入補助金の利用を検討している場合には、事前に公募要綱をご確認ください。
小規模事業者持続化補助金制度は、小規模事業者等の持続的な経営計画に基づいた販路開拓・業務効率化をサポートするための補助金制度のことです。
補助金の助成可否や助成額を知るには、商工会議所での審査手続きを経る必要があります。
商工会議所に連絡をすれば、相談員が要件や手続きの流れについて回答してくれるので、商工会議所に確認しましょう。
「DX化によって、企業の経理部門の仕事がなくなるのではないか」「経理職に従事しても、キャリアアップに限界があるのではないか」などの不安を抱く方も少なくはないでしょう。
確かに、AI化やDX化によって、従来手作業で処理していた業務の多くがツールによって代替されます。その意味では、経理部門はDX化によって一定の影響を受けるのは間違いありません。
その一方で、経理部門がDX化・AI化しても、人の手を欠かせない業務があるのも事実です。
例えば、イレギュラーな事象に対するオペレーションや、最終的な確認作業、財務的判断などが挙げられます。
そのため、経理部門のDX化が推進されたからといって、経理職に将来がないわけではありません。むしろ、DX化の先にある経理業務にフォーカスしたスキルを習得すれば、経理職でも目覚ましいキャリアアップを目指せます。
高度な会計知識、財務的分析力、M&Aに関するスキル、ITリテラシー関連スキル、簿記、税理士資格などが役立つでしょう。
経理部門におけるDX化は、避けて通れない課題です。
企業側としては、今後の競争社会で遅れをとらないためにも、速やかに自社の状況に適したITツールなどを選定する必要があります。
DX化に役立つサービスは豊富に展開されているので、経理部門の従業員とコミュニケーションを図りながら現状の問題点を洗い出しましょう。