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2022年10月から、新たな育児休業制度「産後パパ育休」がスタートしました。
分割して取得でき、休業中の就業も可能なため、男性がより育休を取得しやすくなることが期待されます。
一方、同時に行われた法改正で、企業による「育休を取得しやすい雇用環境の整備」「制度の個別周知と意向確認」が義務となりました。
もちろん、通常の育休と同様に「育児休業給付の申請」「社会保険料の免除申請」なども行わなければなりません。
新たな制度に対応し、育休が取りやすい職場づくりを進めるには、まずは制度を正しく理解することが不可欠です。
本記事では、産後パパ育休の制度概要や、導入に伴い、企業がどのように対応したらよいのかを解説します。
産後パパ育休とは、主に男性の育児参加を促進するために、新しく生まれた育休制度で、正式名称を「出生時育児休業」といいます。
2022年4月に実施された育児・介護休業法改正によって創設され、同年10月から段階的に施行が開始されました。
出産した母親は産後育休を取得するため、基本的に対象は出生した子どもの父親です。
しかし、養子を養育する場合には母親も対象になります。
雇用形態は問われないため、正社員のみならず、パートやアルバイトとして働いている人でも取得できます。「勤続年数○○年以上」ないう条件も、特にありません。
産後パパ育休は、「産後8週間以内」に「4週間(28日)」を取得することが可能です。
最大の特徴として、休暇日数が合計28日以内であれば、2回に分けて取得できることが挙げられます。
通常の育児休業とは別途、出産直後に、より柔軟な育休取得が可能になりました。
産後パパ育休の申請期限は、休業開始の2週間前です。
ただし会社側が、法律で義務付けられた内容以上の取り組みを労使協定に基づいて行っている場合、申請期限を1ヵ月前と定めることもできます。
また、分割して取得する場合は、申請時にあらかじめ申請が必要です。
労使協定が締結されている場合に限り、労働者が合意した範囲で、産後パパ育休の休業期間中でも就業が可能です。
ただし、次のステップを踏む必要があります。
また、就業可能な日数・時間には、以下のような決まりがあります。
参考:育児・介護休業法 令和3年(2021年)改正内容の解説|厚生労働省
産後パパ育休には「取得のハードルが低い」「途中復帰がしやすい」「再取得が低い」といったメリットがあります。
産後パパ育休のスタートにより、今後は今まで以上に男性が育休を取得する流れは加速していくでしょう。
厚生労働省が実施した「令和4年度雇用均等基本調査」によると、産後パパ育休が導入される前の男性育休取得率は、令和3年度(令和3年10月1日現在)の調査が13.97%、令和4年度の調査(令和4年10月1日現在)が17.13%でした。
取得率は上昇傾向であるものの、「収入が減ること」「裁量の大きな業務を担っていること」「職場が育休取得に否定的なこと」「職場の雰囲気を悪くするのではないか不安」などが挙げられ、誰もが取得しやすい社会の実現には至っていません。
産後パパ育休は最大でも28日間と比較的短い期間であることから、通常の育休を取得する前に、おためし感覚で気軽に利用できます。
産後パパ育休により、男性がより育休を取得しやすく、安心して育児へ参加できるようになり、従業員の企業に対する満足度が上がるでしょう。
産後パパ育休の導入以前にも、通常の育休とは別に出産直後に夫が取得できる育休制度として、2022年9月30日に廃止された「パパ休暇」がありました。
しかしパパ休暇は、パパ育休とは異なり産後8週間で一度だけしか取得できず、休業中の就業もできませんでした。
つまり、休業の途中で1日でも職場復帰した場合、その時点で休業が終了してしまうルールだったのです。
新たに始まった産後パパ育休では、従業員は事前に申請しておくことで、休業を2回に分けて取得できます。
「取得→復帰→取得→復帰」のように、就業と休業を交互に繰り返せるため、出産直後でも育児と仕事を両立させやすいのが特徴です。
休業中の就業も可能となったため、収入の減少や業務への影響も軽減できます。
そのため、従業員の大切なライフイベントのタイミングでの退職を防げるでしょう。
両立支援等助成金は、仕事と育児の両立支援に取り組む企業に助成金を給付する制度です。
制度は「出生時両立支援コース」と「育児休業支援コース」の2種類があります。
出生時両立支援コースは、男性従業員が育児休業を取得しやすい雇用環境や業務体制の整備を行い、育児休業を取得した男性従業員が生じた中小企業事業主に支給されます。
第1種と第2種に分かれており、支援内容は以下のとおりです。
【第1種の要件】
※女性の育児休業取得率、男性の育児休業取得率、男女別の育児休業取得日数
【第2種の要件】
※第1種の申請年度に、育児休業対象の男性が5人未満かつ取得率70%以上の場合は、3年以内に2年連続70%以上となっていれば対象
支給額 | ||
---|---|---|
第1種 | 育児休業取得 | 20万円 |
代替要員加算 | 20万円(3名以上確保した場合、45万円) | |
育児休業に関する情報公表加算 | 2万円 | |
第2種 | 育児休業取得率上昇 |
・1年以内に30%以上上昇した場合:60万円 |
育児休業支援コースは、育児休業の取得や職場復帰のために、以下の取組を実施した事業主に支給される助成金です。
【育休取得時の要件】
【職場復帰時の要件】
【業務代替支援の要件】
育児休業取得者の業務を代替する従業員を確保し、かつ育児休業取得者を原職へ復職させた場合、事業主に支給されます。
【職場復帰後支援】
職場復帰後、育児と仕事の両立が難しい時期の従業員のために、支援制度を活用する中小企業事業主に支給されます。
①育児取得時 | 30万円 | ①➁各2回まで(無期雇用者・有期雇用者 各1名) |
---|---|---|
➁職場復帰時 | 30万円 | |
③業務代替支援 | ア:新規雇用(派遣含む)※50万円 イ:手当支給など※10万円 ※有期雇用者加算10万円 |
※ア、イあわせて、初回から5年以内で1年度10人まで |
④職場復帰後支援 |
制度導入30万円 |
※制度導入は1回のみ。制度利用は初回から3年以内に5回まで |
※情報公表加算 | 育児休業に関する情報公表加算(①~④いずれかへの加算2万円)※1回限り |
産後パパ育休制度のスタートとともに、企業の対応項目は増えました。
就業規則や老施協定を見直し、必要に応じて改定する必要も出てきます。
また、産後パパ育休は分割取得が可能なため、そのことについても知っておかなくてはなりません。
出生時育児休業給付金、社会保険料免除の手続きに関しても、あわせて確認しましょう。
法改正により、育休を取得しやすい雇用環境の整備が義務化されました。
具体的には、以下に挙げた措置のうち、いずれかを必ず実施しなければなりません。
また、従業員から本人または配偶者の妊娠・出産に関する申出を受けたら、会社側は以下の内容を個別に周知する必要があります。
以上の4点をしっかりと説明したうえで、休業を取得するかどうか、従業員の意向を確認しましょう。
この際、育休取得を控えるよう促してはなりません。
なお、個別周知及び意向確認は、面談(オンラインでも可)もしくは、書面でおこなうことが原則となっています。
ただし従業員が希望した場合は、FAXやメールを使用することも可能です。
いざ従業員から育休取得の申出があったとき、不備なく申請を行えるように対応フローを把握しておきましょう。
制度に対する理解を深めるのはもちろん、申請に際しての行動マニュアルを作成し、関係部署内で共有しておくと便利です。
必要な書類は何か、申請期限はいつまでかなど、重要な情報にいつでもアクセスできるようにして、いざというときに困らないようにしましょう。
また、実際の場面を想定してシミュレーションをおこなうことで、スムーズに申請を行えます。
産後パパ育休を分割して取得するには、従業員からの事前申出が必要です。
従業員から産後パパ育休の申出があったら、分割取得を希望するかどうか確認しましょう。
もし事前の申出がなく、休業開始以降に「分割したい」と言われた場合、会社はその申出を拒否することが可能です(拒否しなかった場合は、そのまま2回目の取得が認められます)。
産後パパ育休を取得した場合も、出生時育児休業給付金の給付対象となります。
以下の条件を満たした従業員については、会社側からハローワークへ給付金の申請手続きをしなければなりません。
「出産日※から数えて8週間後の翌日」から申請が可能で、「そこから2か月経過した日が属する月の末日」までが期限となります
(※出産予定日より前に子が生まれた場合は、出産予定日を基準とします)。
1月1日から8週間後の翌日、つまり2月26日から申請が可能です。
2月26日から2か月が経過した日は4月25日です。その月の末日、つまり4月30日が申請期限となります。
よって、2月26日〜4月30日の間に、出生時育児休業給付金の申請をおこなう必要があります。
出産予定日より早く子が生まれた場合、予定日を基準として計算します。
4月15日から8週間後の翌日、つまり6月10日から申請が可能です。
6月10日から2か月が経過した日は8月9日です。その月の末日、つまり8月30日が申請期限となります。
よって、6月10日から8月30日の間に、出生時育児休業給付金の申請をおこなう必要があります。
なお、申請には以下4種類の書類が必要になります。書類さえきちんと揃えれば、「e-Gov」での電子申請も可能です。
いつでもどこでも手続きができて便利なため、ぜひ活用しましょう。
産後パパ育休の休業期間中は、従業員・会社側両方について、健康保険及び厚生年金保険料の負担を免除されます。
免除を受けるには、期間中に会社から年金事務所へ「育児休業等取得者申出書」を提出する必要があります。
申請可能期間は「休業期間中」または「休業終了後の終了日から数えて1か月以内」です。
なおこちらの手続きも、郵送や窓口で申請する方法のほか、インターネットでの電子申請も行えます。
出産に向けて、従業員とそのパートナーはサポートを必要とするはずです。
そこで会社による充実したサポートがあると、従業員は安心して育児に取り組めるため、以下のような福利厚生の導入を検討してみましょう。
そのほか、休業後に職場へ復帰しやすいよう、休業中の様子をこまめに確認したり、業務の引き継ぎ準備を整えたりするとよいでしょう。
従業員のモチベーション向上に期待できるのと同時に、会社全体で育休取得者を支える文化が浸透し、育休を取りやすい雰囲気が職場に出来上がっていきます。
今回は、産後パパ育休の制度概要、導入に伴う企業の対応方法について解説しました。
出産直後に分割して取得できて就業も可能な短期間の育休制度が、産後パパ育休です。
また、「育休を取得しやすい雇用環境の整備」「制度の個別周知」これらが義務化されたことは大きな変更点でしょう。
休業期間中の就業が可能になった点も、企業側は頭に入れておく必要があります。
また、育児・介護休業法の改正により、「1歳までの育休分割」「有期雇用労働者の取得条件緩和」などの変更も実施されました。