関連サービス
1890年からの長い歴史を持つ「記者クラブ」をご存じでしょうか。
記者クラブとは、各都道府県にある公的機関に設置された組織です。報道機関を取りまとめる組織とも言えるでしょう。
記者クラブには、各メディアから派遣された記者が在籍し、日々の情報収集・取材を行います。
もし記者クラブにとって有益とされる情報を持っていれば、プレスリリースの配布を依頼したり、記者会見を開いたりすることも可能です。
この記事では、記者クラブの概要と活用のメリット、活用時のポイントを一挙解説します。
記者クラブは、いくつかの報道機関から派遣されたジャーナリストによって構成される取材・報道のための任意組織です。
記者クラブに所属するジャーナリストには、取材・報道の許可が得られるほか、会見や発表の場に出席できる権利が与えられます。
現在の記者クラブは800ほどあり、各省庁や政党、行政機関や業界団体企業など、取材先ごとに分類され、公的機関に求められる情報開示義務と説明責任を追及し、正しい情報を集めて国民に伝える重要な役割を果たします。
参考:日本記者クラブ JapanNationalPressClub (JNPC)
記者クラブの原型は、1890年の第1回帝国議会の開会直前に誕生した「議会出入記者団」です。
議会が打ち出した取材拒否に対し、議会への取材許可と傍聴券交付を求めたのが始まりで、その後1930年代には「記者倶楽部」として各官庁や政党へと規模が拡大し、現在の記者クラブと同じ仕組みが確立しました。
しかし太平洋戦争開始後は、国の方針に合わせた新聞づくりが強要され、記者クラブは報道の権威を失っていきました。
そこから戦後再び報道・取材の自由を取り戻し、公的機関の情報にアクセスできる拠点となります。
情報開示に消極的な公的機関に対して、記者クラブは長い歴史のなかでアプローチを続けてきました。
現在は、外国人記者の加入を増やし、国を超えた情報共有へと取り組んでいます。
記者クラブには、設置先によって以下4種類が存在します。
記者クラブによって、取材内容や加盟メディアが異なります。
国会や内閣府の各省庁内に設置されているのが「官公庁関連の記者クラブ」です。
記者クラブの例を5つピックアップして紹介します。
総務省記者クラブは、総務省内にある記者クラブです。
大手メディアを中心に、情報通信やネット関係、放送や郵政、地方自治など幅広いジャンルの取材を行います。
厚生労働省記者会、労政記者クラブのどちらも、厚生労働省に設置された記者クラブです。
厚生労働省記者会には、全国紙やテレビ局、労政記者クラブは、業界専門紙が加盟しています。
国土交通記者会、国土交通省交通運輸記者会どちらも、国土交通省に設置された記者クラブです。
国土交通記者会には、全国紙や地方紙、テレビ局や通信社、国土交通省交通運輸記者会には、運輸や旅行、観光や物流の専門メディアが所属しています。
公共政策関係の取材や会見、観光や旅行関係の調査も行います。
東京都庁記者クラブは、東京都庁第1庁舎の6階にある記者クラブです。
都政に関連する情報収集や会見を行います。なお東京都だけでなく、各都道府県の県庁ごとに県政記者クラブが置かれています。
警視庁七社会、警視庁記者クラブは、警視庁にある記者クラブです。
警視庁七社会は歴史が古く、大手新聞社や通信社が計6社加盟し、警視庁記者クラブは新聞社やテレビ局を含む計6社が加盟しています。
政党本部や国会内に設置されリサーチを行うのが「政党関連の記者クラブ」です。以下2つが、例として挙げられます。
平河クラブは、自民党本部に設置された記者クラブです。
主に自民党や公明党への取材を担当しています。
野党クラブは、国会議事堂内の衆議院内にある記者クラブです。
主に野党の立憲民主党や日本共産党への取材を担当しています。
続いては民間企業や団体が運営する「業界・経済団体の記者クラブ」です。代表例として3つ紹介します。
兜倶楽部は、東京証券取引所に設置された記者クラブです。
上場企業や証券会社、運用会社がプレスリリースの投げ込み先として活用します。
そのほか決算発表や、株価に影響する事柄に関する記者会見も実施します。
自動車産業記者会は、日本自動車会館内に設置された記者クラブです。
自動車専門紙を扱う企業が加盟し、主に自動車産業の動向を取材します。
東商記者クラブは、東京商工会議所にある記者クラブです。
流通や小売、通販や信販、食品の関連企業が入会し、各自で記者発表資料の配布や記者会見を行います。
最後は、市や地域の経済団体が運営する「地方の記者クラブ」です。
県庁所在地の市役所に設置されているほか、政令指定都市などの主要自治体ごとに置かれているケースもあります。
地域に関連するプレスリリースを行う際は、情報の投げ込み先として活用が可能です。
記者クラブに向けてプレスリリースを配布する行為を投げ込みと呼びます。
ここからは、プレスリリースを投げ込むまでの流れや企業側のメリット、活用時のポイントを紹介します。
プレスリリースの投げ込みは、以下3ステップで行います。
まずは、記者クラブのリサーチを行います。
投げ込み先が決まったら記者クラブに連絡し、プレスリリース配布を申し込みます。
そして幹事社と呼ばれる事務担当者につないでもらい、社名やリリースの概要、配布の希望日時を簡潔に伝えましょう。
その後は、プレスリリースを必要な分用意して記者クラブへ届けます。
記者クラブの入り口に設置された専用ボックスに投函する方法もあれば、受付スタッフに渡したり、記者クラブ内に入って各メディアに直接渡したりする場合もあります。
プレスリリースを投げ込むことで、企業側は以下3つのメリットを得られます。
記者クラブには、全国紙や通信社、地方新聞や地方テレビ局、専門雑誌などさまざまなメディアの記者が在籍しています。
そのため、一度の投げ込みで幅広い関連メディアに情報を届けられるのがメリットです。
各メディアへ個別にアプローチする手間が省けるので効率化が見込めます。
それぞれの記者クラブには、取材対象の分野をよく知る報道機関が加盟しています。
したがって、プレスリリースの内容に合った投げ込み先を選べば、特定の業界や業態を専門とするメディアに絞ってアプローチできるのもメリットです。
プレスリリースの投げ込みにかかる費用は、記者クラブへの移動費や書類コピー代のみです。
依頼・契約料がかからず、コストを安く抑えられる点もメリットです。
ただし、どのような情報でも配信できるわけではありません。
各記者クラブのルールをきちんと守り、適切な情報を見極めて投げ込みを行いましょう。
プレスリリースの投げ込みをスムーズに進めるには、以下4つのポイントをおさえましょう。
まずは記者クラブが求める情報と、プレスリリースの内容が合致していることが重要です。
例えば、人材サービス会社が新規事業のプレスリリースをしたい場合、厚生労働省内にある厚生労働記者会や、経済ニュースを扱う経済産業記者会が適しています。
記者クラブの方針に合わないプレスリリース内容だと、受け付けてもらえない可能性があるため、投げ込み先をきちんと見極めましょう。
なお断られた場合、マイナスイメージにつながるため、何度も交渉するのは控えましょう。
記者クラブごとにルールを設けている場合があります。記者クラブへの申し込み時は、プレスリリースの必要部数・投げ込み手順や手段・投げ込み日時の3点を必ず確認しましょう。
また記者クラブは、毎日数十〜数百ものリリースが投げ込まれるほど多忙なタイミングもあります。
突然訪問したり何度も交渉したりせず、マナーを守ることも大切です。
記者クラブの加盟社は、1〜2ヵ月ごとに輪番制で幹事社という役割を担当します。
幹事社は、事務担当者としてプレスリリースの配布や会見実施を承諾するポジションです。
通常、記者クラブでは官公庁や地方自治体、大手企業などに関係する情報を優先的に取り上げます。
マスコミとの関係が希薄な企業は、記者クラブへの投げ込みだけでは記事にならないケースもあります。
そのため、投げ込みや記者会見時に記者クラブを訪れた際は、幹事社をはじめ記者への挨拶回りや名刺交換を行い、関係構築を図りましょう。
ただし、記者クラブによっては禁止されている場合もあるため、事前のルール確認が必要です。
記者クラブの目的は「世間にとって必要とされる情報を届けること」です。
そのため、プレスリリースは未発表の内容に限られます。また広告・宣伝を主とした、プレスリリース配信は認められません。
プレスリリースとして推奨される情報は、以下の2つです。
地域活性化や課題解決に向けた取り組み・商品開発など、社会性や公共性の高い情報であれば採用してもらえるかもしれません。
もし新しい情報を付け加えるのであれば、既知の事実であっても再リリースできる可能性があります。
記者クラブは、プレスリリースの投げ込み先としてだけでなく「記者会見を開く場」としても活用できます。
記者クラブには会見室が併設され、加盟メディアがいるなかで記者会見をおこなえます。
記者会見は、主に以下の流れで実施します。
まず事実関係と対応方針を整理し、会見の内容を決めます。
その後、役員以上のポジションから会見者を選出し、想定される質問と回答の準備を行いましょう。
プレスリリースの投げ込みと同様、内容に合った記者クラブを選定し、幹事社に連絡します。
幹事社から承諾を得られたら、開催日時を設定します。
なお場合によっては、幹事社が会見をセッティングしたり、代表として質問したりすることもあるため、事前に確認しましょう。
もし会見室を使用できれば、会場費や依頼費をかけずに会見ができるのもメリットです。
会見では、記者への説明資料配布・概要説明・質疑応答の順で行います。
会見後は名刺交換や雑談ができるので、今後の活動につなげるためにも有効活用しましょう。
なお記者会見できる内容は「慈善事業やボランティア」と「公益性の高い商品やサービスの発表」の2種類です。
今回は記者クラブの概要や活用するメリット、具体的な活用方法をまとめて解説しました。
記者クラブは各都道府県に設置され、それぞれ取り扱うテーマが異なります。
情報提供者である企業側は、プレスリリースの投げ込みや記者会見の場として記者クラブを活用できます。
記者クラブを通して情報発信すれば、一度で複数のメディアに情報を届けられるほか、特定の分野を扱うメディアに絞ってアプローチできるのがメリットです。
社会性・公共性のある情報発信を検討中の方は、記者クラブの活用もぜひ視野に入れてみてください。