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近年、SNSでのいわゆる「炎上」の事例が企業においても散見されます。そうした炎上対策も含め、企業のリスク管理・コンプライアンス管理に欠かせない部署として、法律関係・知的財産関係の業務を一手に引き受けているのが「法務部」です。
本記事では、専門性の高い法務部への就職を検討される方向けに、本当に役立つ8つの資格をご紹介するとともに、実務面で求められるスキルや、身につけたいスキルについて解説します。
法務として働くうえで、取っておくと業務に役立つおすすめ資格を一覧におまとめしました。
国家資格(士業) | 弁護士 |
---|---|
司法書士 | |
行政書士 | |
民間資格 | ビジネス実務法務検定 |
ビジネスコンプライアンス検定 | |
個人情報保護士 | |
国家資格(技能士) | 知的財産管理技能検定 |
国際的資格 | 公認不正検査士(CFE) |
まず、上記にリストアップした法務関係のおすすめ資格について、個々の詳細を解説します。
弁護士は言わずと知れた憲法・法律の専門家であり、基本的人権擁護の立場からさまざまな事件・紛争の解決にあたる国家資格です。
弁護士となるには、法科大学院を修了する(または予備試験に合格する)ことで司法試験の受験資格を取得し、合格後にも各機関での司法修習を受けなければなりません。受験準備に長期間を要するうえ、試験の合格率自体も50%を切る難関国家資格のひとつとしても知られています。
企業においては「企業内弁護士(インハウスローヤー)」と呼ばれるポジションが存在し、豊富な法律・判例知識を活かした法務の専任者・管理職としての活躍が望めます。
単一の企業に所属する企業内弁護士に対して、法律事務所に所属して複数企業と契約を結び、法的業務を引き受けたり、アドバイザー業務を行ったりする弁護士は「企業法務弁護士」と呼ばれるのが通例です。
司法書士とは、法務局・裁判所・検察庁といった司法・法律にかかわる機関へ提出する、書類の作成・手続き代行を行うことのできる国家資格です。
弁護士と比較すると、特に民法・会社法の広範にわたる知識が要求される資格で、公表されている2022年の合格率は5.2%、直近5年間で見ると毎年4~5%とやはり難関となっています。
登記申請・供託といった手続きを行えるほか、140万円以下の訴訟の代理人となったり、成年後見業務を担当したりすることが可能です。
弁護士と同様、法律の専門家という側面をもつことから、司法書士の有資格者も企業専属の法務担当として就職するケースがあります。
行政書士は「官公署に提出する書類」「権利義務に関する書類」「事実証明に関する書類」の作成・代理手続き・相談業務を可能とする国家資格です。取得には民法全般の基礎的知識が要求されることから、法律系資格の登竜門と言われることもあるようです。
司法書士と異なり、企業内では主に許認可に関わる書類や、各種契約書、議事録、会計帳簿、財務諸表といった書類作成・提出に関わります。企業法務はもちろん、総務・財務など幅広い部署の業務で活かすことができるでしょう。
ビジネス法務実務検定は、東京商工会議所が開催している検定試験で、1~3級にレベルが分かれています。あらゆる業種に通用する法律知識を身につけることを目的としており、以下の概要の通り、同資格内でも難易度にかなり幅のある試験です。
法務担当者として実務へ活かすのであれば、管理職候補相当の2級以上の取得が望ましいところです。難関の1級を取得できれば、就職・転職活動においても十分に法律知識のアピールとして機能するでしょう。
ビジネスコンプライアンス検定は、株式会社サーティファイによるコンプライアンス経営の根幹となる法律知識・価値判断基準を有する人材育成を目的とした民間資格です。
ペーパーテストの上級・初級のほか、Webテストのみで取得できるBASICの3種類があり、受験のハードルはご紹介してきた国家資格や実務法務検定よりも明確に低くなっています。
BASICおよび初級はコンプライアンス教育を受ける側の社員向けであるのに対し、上級は実施主体・推進者向けで、試験内容には事例問題・記述問題を含むのが特徴です。
法務関係資格の入門としてはもちろん、コンプライアンスを重要な経営課題とする企業においては、コンプライアンス意識底上げを図っている証明として有効にはたらくでしょう。
個人情報保護士は、企業の保有する顧客情報・従業員の個人情報を、サイバー攻撃・情報漏えいなどのリスクから守るスキルを図る検定です。一般財団法人全日本情報学習振興協会が開催しており、2005年の個人情報保護法施行に伴って新設されました。
求められる法律知識は個人情報保護法、そしていわゆるマイナンバー法に関するものに絞られており、国家資格ほど網羅的な知識は要求されません。そのためか、公式に発表されている合格率は37.3%と高めの民間資格となっています。
法務担当者は広範な法律知識を持っていることが望ましいですが、個人情報管理を専門として実務に活かしていきたい場合、スキルの補強として取得を考えてもよいでしょう。
知的財産管理技能検定は国の技能検定制度のもと、ライセンス戦略や特許出願といった知的財産(知財)管理職種向けに、2008年から「技能士」のカテゴリに新設された国家資格試験です。
取得することで知財マネジメントのスキルを公的に証明でき、イノベーション創出・競争力の強化につながることが見込まれています。認定は1~3級の級位に分かれており、実技試験も盛り込まれていますが、3級に関しては実務経験不問で受験可能です。
2級から上は実務経験(保有資格により緩和あり)が要件となり、1級はさらに特許・コンテンツ・ブランドという3つの専門業務に細分化され、それぞれ実技試験の内容が異なります。ここまで取得できれば得意分野や担当業務に応じたスキルの証明となり、総じて実践的な国家資格といえるでしょう。
なお、知的財産権のスペシャリストとしては他に「弁理士」という、特許出願に高い専門性をもつ士業も存在しています。知名度がそこまで高くないことに加え、法律と理工学という文理系の相反する知識を求められる特徴からか、近年は志願者が減少傾向にあ るようです。
公認不正検査士(CFE)はご紹介する中では唯一の国際共通資格で、全世界に200以上の支部と、約90,000人の会員を有するACFE(公認不正検査士協会)が認定する資格です。
米国ではCPA(公認会計士)などと同等の不正対策資格として公的機関・監査機関などで認知されており、日本では一般社団法人日本公認不正検査士協会が普及活動を行っています。
取得には資格要件の定められたACFE JAPANへの入会が前提となり、資格試験の合格に加えて学位・実務経験などに準拠した点数式の資格要件を満たさなければなりません。
法律・財務の知識に加え、不正調査・抑止・防止といった専門的実務も出題範囲となるため、難度は相当に高いといえます。
その分、グローバルな就職・転職活動を視野に入れている方にとっては、外資系企業や海外企業にも通用する大きな強みとなるでしょう。
このように多くの種類がある法務関係の各資格は、何を基準として選択し、取得を考えればよいのでしょうか。ここでは資格・検定の選び方と、心構えについても触れておきましょう。
結論から言えば、企業法務としての仕事は関係資格を持っていなくても担当できます。
しかしながら、確かな法律知識と、そこに立脚した判断力が求められることは間違いないため、実務で求められるのは経験者・有資格者レベルのスキルであることもまた事実です。
例えば「法学部を卒業し、新卒として法務部へ配属。法務担当者のもとで実務経験を積む」というような状況であれば、資格は重視されないかもしれません。
対してその数年後、現職と同条件以上での転職を検討する場合、たとえ募集要項に記載がなくとも、キャリア相応のスキルを客観的に証明できる資格を持っていたほうが有利になるでしょう。
つまりはどのような状況・条件下で法務として働きたいかによって、資格の要不要や、取得すべき資格の種類は変わってくるということになります。
資格の中には、幅広い分野を網羅したものから、一部の法律・業務に特化した知識を求められるものもあります。いかに合格難度の高い資格を数多く保有していても、担当する実務に役立つ資格でなければ、多くの時間を割く意義は薄くなるでしょう。
例えばリーガルチェック業務でのキャリアアップを目指しているのに、個人情報保護士のように関係度が低い資格の取得を目指すのは非効率です。この場合、多少時間がかかったとしても、行政書士などの契約書作成に重きを置いた資格の取得を考慮したほうがよいでしょう。
そもそも民間資格の中には、試験内容に実践的な科目をあまり含まず、資格の有無と受験者のスキルが必ずしも比例しないものも多くあります。そのような場合、試験科目に実技を含む、同系統の国家資格・公的資格と比較した際の優先度は下がると言わざるを得ません。
もちろん、実務に役立つのであれば、関連分野の知識を身に着けておくこと自体は有意義です。担当業務を手広く増やしていきたい場合や、事業規模が小さく専任者が自分だけ、といった場合には、民間資格にはあえてこだわらず自学自習するという選択肢もあるでしょう。
これまでご説明してきたように、結局のところ、企業法務の専門家としていかに実務経験を積み、仕事をこなせるかが就職・転職活動では重要になります。
各種資格はたとえ国家資格であっても、その知識量・スキルをひとつの側面から証明するに過ぎません。実務から得られたノウハウをどのように活かしていくか、常に意識することが求められます。これは有資格でないと担当できない業務であっても通底する心構えといえるでしょう。
それでは、法務部の実務において資格を問わず求められる経験やスキルとは、一体どのようなものなのでしょうか。ここでは特に重要となる3つのスキルに的を絞って解説します。
契約交渉・取引は会社という組織同士の決めごとであると同時に、経営者あるいは担当者という、個々人同士の対話でもあります。契約の適切な履行には、取引先の同意と理解が欠かせません。
難解な法律用語は、専任者同士の会話では問題なく伝わっても、専門外の関係部署にはなかなか理解されづらいこともあるでしょう。これは相手方だけでなく、社内向けの説明においても同様です。
そうした用語をわかりやすく解説するだけでなく、契約・取引そのものへの理解を求めるためには、高いコミュニケーションスキルと柔軟な対応力が重要となります。
これはたとえ交渉担当者が別に設定され、自身はその補佐につく場合であっても、大きく変わることはありません。その担当者に対して専門家としての見解や、契約意図を適切に伝える必要があるためです。
近年の企業法務においては、特許権・意匠権・実用新案権・商標権といった知的財産権(IP)の戦略的な位置づけが高まっています。こうした知財の保護・管理を特に「知財法務」と呼び、前述の4つの権利については所管の特許庁にて「産業財産権」と総称されています。
知財法務担当者は、法令遵守や申請手続きのみならず、こうした産業財産権をいかにビジネス的な目線で捉え、会社や顧客の利益とするかという点にも目を向ける必要があるのです。
そのためには、法律の知識だけでなくマーケティング戦略の観点からも各種知財を分析し、市場や業界の動向にアンテナを立てるスキルが重要になるでしょう。
知財法務に関係して、コンプライアンス意識の高まりに合わせた関連知識の情報収集・アップデートも抜かりないようにしましょう。
知財法務は自社の知財を保護するのみならず「自社が他社の知財を侵害していないか」という、いわば加害による損害賠償リスクにも注意しなければなりません。無論、プロジェクトが進行してからでは手遅れの可能性もあるため、開発に取り掛かる以前、プランニングの段階で察知しておくべきリスクです。
対策としてはやはり業界動向に注意深く目を向けるほか、特許庁への申請・受理状況を常に確認しておく、実際に産業財産権の申請を数多く行っている弁理士(特許事務所)に協力を仰ぐなどが考えられます。
おしなべて、昨今の法務担当者は自身の保有資格の関連分野や、社内の業況・法令遵守だけに注意を払っていればよい職種ではなくなっている、という点を覚えておきましょう。
以下では、法務で役立つ資格の取得に役立つ予備校を5つピックアップして、各校の特徴をご紹介します。いずれも複数の資格準備を取り扱っている予備校で、先にご紹介した8資格についての取り扱いは下表のとおりです。
アガルート | スタディング | BEXA | LEC東京 | TAC | |
---|---|---|---|---|---|
弁護士 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
司法書士 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
行政書士 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
ビジネス実務法務検定 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
ビジネスコンプライアンス検定 | 取り扱い校なし | ||||
個人情報保護士 | 〇 | 〇 | |||
知的財産管理技能検定 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
公認不正検査士(CFE) | 取り扱い校なし |
ビジネスコンプライアンス検定に関しては、受験者向けの教材を開催元であるサーティファイが公式販売しており、2023年6月時点で取り扱いのある予備校は存在しないようです。
公認不正検査士(CFE)についても同様で、ACFE JAPANが販売提供しているeラーニング・Webセミナー・マニュアル・カンファレンス等を通して学習する形となっています。
これら2資格の取得を目指す場合の教材や受講方法などは、開催元の団体までお問い合わせください。
アガルートアカデミーは、2015年に開校したオンライン講座中心の資格予備校です。ご紹介した資格では3士業に対応しています。
基本的にはオンライン講座と手元に届く教材の両方を使用して学習を進めるシステムですが、一部の講座においては、動画・テキスト入りUSBによるオフライン受講も可能です。
倍速機能による時短視聴により、多忙な方や繰り返し視聴することで理解度を高めたい方にも向いているといえるでしょう。
スタディングは、スキマ時間の活用による資格取得を売りにした予備校です。コンプラ検定・CFE以外の6資格を幅広く取り扱っています。
1動画最短5分からという「細切れ」動画と、学習フロー・レポート・AI復習機能といったサポート昨日の組み合わせで、通勤中などの空き時間でも勉強を容易にしているのが特徴です。
一方、サポート機能でも通信を行う都合上、オフライン講座は設けられていないため、アガルートとは異なり常にネット接続できる環境が必要となります。
BEXAは司法試験・予備試験を主眼におき、公務員試験・建築士試験も取り扱う予備校です。アガルートと同じく、ご紹介した中では3士業のみの対応となっています。
各講座・判例集はオンラインクラスで受講するほか、個性豊かな講師陣からオンライン個別指導を受けることができ、コース買い切り型のプランも取り扱っています。
同じ講座内容でも、講師の違いによってバリエーションが多岐にわたるぶん、統一感に欠けることから、BEXAの利用のみで合格を目指すのは少し遠回りになるかもしれません。あらかじめ不得意分野を洗い出し、その克服にピンポイントで利用する勉強法で真価を発揮するでしょう。
LEC東京リーガルマインドは、法律系・会計系・IT系・福祉系など多彩なジャンルの資格を取り扱う予備校で、おすすめ資格のうち個人情報保護士以外に対応しています。
オンライン講座と、通学による模擬試験の受験(全国各地に本校・提携校あり)を組み合わせた受講形式を採っており、システムによる出席確認なども導入されています。そのため、基本オンラインでありつつも、一般的な通信制高校・予備校に近い形で受講したい方におすすめです。
資格の学校TACはスタディング同様、ご紹介したおすすめ資格6種に対応しているオンライン予備校です。
こちらはアプリ中心のスタディングよりも、上記のLECに近いスタイルで、通学と通信メディア(WEB SCHOOL)を選択式で受講することができます。
米国で重視されるCFA(証券アナリスト)、USCMA(公認会計士)、CIA(公認内部監査人)といった国際的資格も取り扱っていますが、残念ながらCFEの講座は開講していません。
受講科目にかかわる各種セミナーも積極的に開催しているため、グローバルな視点も含めて、広くアンテナを立てておきたい方におすすめできる予備校といえるでしょう。
法務部で働くうえで必須ではないとはいえ、客観的な評価指標として機能し、また実務に役立つ資格を持っておくことで、キャリアアップの近道となることは間違いありません。
ただし、資格だけでは推し量れないスキルが存在することもまた事実です。ここでは法務のキャリアアップに役立つスキルをご紹介します。
法務の仕事は、ほとんどの場面で法律・法令・コンプライアンスにかかわる専門知識を求められます。こういった知識を持っていることは前提条件として、さらに課題に対する洞察力や、論理的思考力、深く考察する問題解決力といったスキルが問われることになるのです。
この二者はどちらも欠かせない要素ですが、資格は前者の専門知識を担保するものであり、後者の実務スキルを磨いていくことこそが、キャリアアップの要といえるでしょう。
法務として磨き上げていきたい実務スキルの一例としては、下記のようなものが挙げられます。
語学力については指標としてTOEICなどが存在しますが、他のほとんどが定量的な評価が難しく、資格の有無では十分に測ることができないスキルとなります。
これらのスキルを意識して日々の実務にあたることで、法務としてのキャリアアップの道筋を立てやすくなるでしょう。
資格・検定に頼らず実務スキルを磨く具体的な勉強法としては、まずは日々の実務を自身に対するOJTとして捉えることが第一となります。
経験した事案や事例を効率的に糧にできるよう、課題解決の方法・結果・所感といったデータをまとめ、自分なりの事例集として記録しておくとよいでしょう。
加えて、業界誌や書籍・論文を読んで知識を吸収したり、省庁や各団体が開催するセミナーへの参加で情報をアップデートするなど、専門知識が旧式化しないための努力も必要です。
転職活動においては、社内でのキャリアアップを目指す場合よりも資格の重要性・存在感がやや上がってきます。理由としては、実務経験が重要であることに大きく変わりはないものの、志望企業に対してスキルを証明できる手段が増えるためです。
職務経歴書や面接でのアピールの際には、ただ資格を持っているというだけでなく、その資格がこれまでどのように役立ち、成果に結びついたかを説明しましょう。わかりやすく伝えることができれば、間接的にコミュニケーションスキルやプレゼンテーションスキルのアピールにもつながります。
そのため、転職を視野に入れて法務部に所属する場合は、たとえ無資格からの入社であったとしても、実務に強い資格を取得しておくと転職活動を有利に進めることができるでしょう。
法務関連の資格は、ハードルの低めな民間資格から、全資格の中でも難関に位置する国家資格まで幅広く存在します。
広範な法律知識を要求される法務部ですが、無資格でも業務を行うことができるため、資格取得を検討する場合は実務に活用できるかどうかを重視するのがよいでしょう。
先々の転職を視野に入れている場合は、ご紹介したような予備校を利用して短期間で資格取得を目指すのもひとつの方法です。
また、資格に関係なく要求されるスキルとしては、対応の柔軟性・ビジネス感覚・コンプラ意識以外にも、コミュニケーション能力・プレゼン能力・業界知識といったスキルがあります。
これらは実務を通して磨いていくことも十分可能であるため、入社してからも実務経験を無駄にしない心構えで日常業務にあたり、基礎的スキルの底上げを図りましょう。