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弁護士の多くは法律事務所で働いていますが、近年のコンプライアンス意識の高まりやグローバル化にともない、インハウスローヤー(企業内弁護士)を採用する企業が増えています。
インハウスローヤーの働き方は法律事務所で働く弁護士とは異なりますし、給与や福利厚生などの条件の違いも出てきます。
本記事では、法律事務所勤務の弁護士とインハウスローヤーの違いを解説しながら、インハウスローヤーに転職する方法や、どのような人がインハウスローヤーに向いているかなどを解説します。
インハウスローヤーの転職市場には、どのような特徴があるのでしょうか?
まずは、インハウスローヤーが求められる理由や積極採用している企業の特徴など、インハウスローヤーの転職市場の傾向からご説明します。
インハウスローヤーの需要は年々高まっています。
実際、インハウスローヤーとして働く弁護士の数は毎年増え続け、この10年で3倍以上に増加しています。
年度 | 企業内弁護士数 |
---|---|
2014年 | 1,179 |
2015年 | 1,442 |
2016年 | 1,707 |
2017年 | 1,931 |
2018年 | 2,161 |
2019年 | 2,418 |
2020年 | 2,629 |
2021年 | 2,820 |
2022年 | 2,965 |
2023年 | 3,184 |
インハウスローヤーの需要の高まりは、以下のような世況が影響していると考えられます。
これらは今後も発展するものであるため、インハウスローヤーも求められ続けると考えられます。
法律事務所から企業に転職する弁護士だけでなく、インハウスローヤーの経験者が別の企業に転職することも増えるでしょう。
インハウスローヤーの転職市場は、今まで以上に活発化していくことが予想されます。
インハウスローヤーを採用する企業は大企業や外資系などが中心になりますが、それらの会社の多くが都市部に集中しています。
よってインハウスローヤーへの転職を検討する場合、都市部で働くことを前提に考えましょう。
地方の大手企業や地方自治体職員に就職する方法もありますが、採用数が少ないため、より計画的に転職活動をおこなう必要があります。
現役のインハウスローヤーにアンケートをとったところ、勤務先の業界は主に以下の3つでした。
いずれも、専門性が高い法律知識と業界知識を持ち合わせていなければ法務の仕事が務まらない業界です。
メーカー業界は自社製品の開発や保守のために特許の取得や訴訟に対応しなければなりませんし、金融業界は金融法など細かな規制に対応し、IT業界は流動性が高い法改正や判例を常に取得しなければ対応できません。
一般の法務部員では対応しきれない領域を担っているのが、インハウスローヤーです。
インハウスローヤーは大企業での採用がほとんどですが、外資系企業や急成長しているベンチャー企業でも弁護士の需要が高まっています。
海外では日本以上にインハウスローヤーの需要が高く、取引先の信頼を得るために外資系企業やグローバル化が進む大企業の弁護士採用数が増えています。
またベンチャー企業やスタートアップ企業では先進的なサービス・事業を扱うために、リーガルリスクの予防や問題への対処スピード向上を目的として、弁護士を採用しています。
インハウスローヤーに転職する際は、希望する業界にそもそも需要があるのか、自分の経験・知識が活きる業界なのかをよく考える必要があります。
インハウスローヤーの年収は、750万円~1000万円未満が最も多くなっています。
500万円未満はほとんどおらず、約6割が1000万円以上の年収を得ています。
年収 | 人数 | 割合 |
---|---|---|
250万円~500万円未満 | 6 | 2.9% |
500万円~750万円未満 | 27 | 13.2% |
750万円~1000万円未満 | 50 | 24.5% |
1000万円~1250万円未満 | 42 | 20.6% |
1250万円~1500万円未満 | 27 | 13.2% |
1500万円~2000万円未満 | 20 | 9.8% |
2000万円~3000万円未満 | 20 | 9.8% |
3000万円~5000万円未満 | 9 | 4.4% |
5000万円以上 | 3 | 1.5% |
※参考:企業内弁護士に関するアンケート集計結果|日本組織内弁護士協会
法律事務所は対応した案件の種類や件数によって収入が左右されますが、インハウスローヤーは入社当初の年収から大きく下がったり、急激な増加や瞬間的な増加は基本的にありません。
安定した収入を得られることがインハウスローヤーに転職するメリットですが、高収入を得たい人には物足りなく感じることもあるでしょう。
上限なく自分のペースで稼ぎたい人は、法律事務所でパートナー弁護士になったり、自分で法律事務所を立ち上げたりした方がチャンスがあります。
収入の安定感を取るか、高収入を取るかの考え方の違いでも、インハウスローヤーの働き方があっているかどうかが判断できます。
インハウスローヤーに転職すると、法律事務所での働き方と大きく変わってきます。
法律事務所勤務の場合は、依頼元の人物や企業のために弁護士業務をおこなっていきますが、インハウスローヤーは基本的に所属している企業に関する法務に限定されます。
インハウスローヤーの主な業務内容としては、次のものがあります。
企業法務を取り扱う顧問弁護士との大きな違いは、企業に属するか否かです。顧問弁護士は外部からサポートするまでに留まりますが、インハウスローヤーは企業に所属し企業の売上利益につながるように活動します。
企業への貢献度の高さや経営に近いところで働けることに魅力を感じ、インハウスローヤーに転職する人は多いでしょう。
弁護士を続けていくために必要な弁護士会費は、自費か会社負担かで収入に差が出ます。
インハウスローヤーの88.2%が、弁護士会費は所属先負担と回答しています。
インハウスローヤーへの転職で、年収が下がることを懸念する弁護士は多いですが、企業に弁護士会費を負担してもらうことで不安を減らすことができるでしょう。
今までにインハウスローヤーを採用したことがない企業では、弁護士会費の負担有無が決まっていないケースもあるため、事前に確認するようにしましょう。
※参考:企業内弁護士に関するアンケート集計結果|日本組織内弁護士協会
インハウスローヤーの業務内容の中心は、所属する企業の法務です。しかし一部のインハウスローヤーは、個人受任などの副業にも取り組んでいます。
企業の約4割が、インハウスローヤーに個人事件の受任を認めているようです。
ただし実際に受任したことがある方は1割程度しかおらず、インハウスローヤーをしながら本格的に弁護士活動をすることは難しいことがわかります。
また企業によっては自社の業務に専念してもらいたいために、副業を禁止するか細かく制限しているケースがあります。
あらかじめ副業を見据えて転職する場合には、副業可否のほかに副業のルールまで確認しましょう。
※参考:企業内弁護士に関するアンケート集計結果|日本組織内弁護士協会
企業によっては、弁護士会や日弁連の会務など、公益活動に積極的に参加する取り組みをしています。
約半数のインハウスローヤーが、公益活動をおこなっています。
公益活動をおこなっていないインハウスローヤーは、業務時間と会務の時間が被るために参加が難しいようです。
会務などの公益活動に積極的に参加したい場合には、参加可否のほかに、スケジュールの調整が可能かどうかを企業に確認するべきでしょう。
※参考:企業内弁護士に関するアンケート集計結果|日本組織内弁護士協会
インハウスローヤーに転職しようと考えている方は、何かしらの理由や動機があってのことだと思います。
インハウスローヤーに転職した大きな理由として、次の5つがよく挙げられます。
※参考:企業内弁護士に関するアンケート集計結果|日本組織内弁護士協会
転職理由につながるインハウスローヤーに転職するメリットとして、以下の3つがあると考えられます。
インハウスローヤーが転職を決めていまの勤務先を選んだ理由として、ワークライフバランスの確保が65.7%を占めています。
法律事務所勤務はどうしても勤務時間という概念から離れてしまいがちで、依頼の内容や数によっては私生活を犠牲にして業務に取り組まなくてはならないこともあります。
もちろん仕事に熱中できることも良いことですが、人によってはワークライフバランスを改善したいと考える人も出てくることでしょう。
インハウスローヤーは、基本的に社内の就業規定に沿って働きます。
とくに弁護士採用が進んでいる上場企業では残業時間や休日出勤が厳しく制限されているため、ワークライフバランスが確保しやすいでしょう。
法律事務所の弁護士は、あらゆる依頼者から依頼を受けて、弁護士活動をおこないます。
大手法律事務所になるとある程度専門分野を固定しますが、若手や中小事務所の弁護士は分野問わず案件を受け持つことが多いでしょう。
その点、インハウスローヤーは希望する業界業種を絞って所属先を選択し、スキルを磨きたい分野に特化して職務にあたることができます。
また事務所で受ける案件からの長期的な付き合いは稀で、案件が終了したら付き合いも終了します。顧問契約などの長期的な契約を受けることもありますが、企業の経営や体制まで深く関わることはあまりありません。
インハウスローヤーは経営戦略やリスクマネジメントに深く関与することを求められるため、企業および業界に詳しくならなければ務まりません。
法律事務所の弁護士は、案件の内容や数によって収入が変動します。働き方次第で上限なく稼げる可能性は高いですが、そのためには夜遅くまで働いたり自ら営業活動をおこなったりと、並々ならぬ努力が必要です。
一方でインハウスローヤーは結果に左右されることは少なく、企業が提示した想定年収から大きく外れることはありません。
もちろんインハウスローヤーも役割や責務を果たすために努力が必要ですが、異常なストレスやプレッシャーがかかる環境から解放されるメリットもあるでしょう。
インハウスローヤーに転職する場合、今までの法律事務所での採用とはまた違った部分が見られることもあります。
こちらの項目では、インハウスローヤーに転職する際に求められるスキルや能力についてご説明します。
基本的にインハウスローヤーは即戦力となることが求められるため、企業法務の経験があることが前提条件です。
はじめてインハウスローヤーを採用する企業や、法務部立ち上げのために弁護士を採用する企業は、とくに経験の有無を重視するでしょう。
一般民事の経験しかない弁護士の場合は、現職で企業法務の案件を受けるか、企業法務の法律事務所への転職を挟まなければ、インハウスローヤーへの転職は難しいでしょう。
未経験でも採用される可能性が高いのは、年収が低い若手や司法修習生です。弁護士の経験年数が長くても、企業法務の経験がなければ採用されない可能性が高いです。
社会人に必須スキルとされるコミュニケーション能力ですが、インハウスローヤーにとくに必要な能力です。
インハウスローヤーの仕事では、法務に関する社内整備をおこなうために、調整役に回ることが多いです。経営陣や他部署、取引先の意見を集めながら、法務とビジネスのバランスをとらなければなりません。
インハウスローヤーの役回りを果たすためには、社内外の人間との関係値づくりが欠かせません。法務に関する説明やプレゼンにもスキルが必要です。
インハウスローヤーは、法務部や事業の要職に就くことがあります。ベンチャー企業では、法務部の部長クラスや法務部立ち上げのために採用されることもあります。
マネジメント経験がないと、インハウスローヤーに管理職やマネージャーのキャリアパスが用意されている企業では、採用されない可能性があります。
実務ができるだけでなく、他の社員を巻き込んでリーダーシップを発揮できる人であれば、応募できる求人の幅が広がるでしょう。
インハウスローヤーを採用している企業には、日常的に海外の支社やクライアントとやり取りをしているところも多く、ビジネスレベルの英語力が必須要件な求人も少なくありません。
外資系企業やグローバル展開している日系企業への転職を希望する場合は、書類作成や会議で難なく使用できるレベルの英語力が必要です。
応募先の企業によっては、まったく必要なかったり、入社後に身に着けることを条件としていることもあります。募集要件でしっかりチェックしましょう。
インハウスローヤーの需要が高まっているからといって、必ず転職が成功するわけではありません。
以下では、インハウスローヤーへの転職を成功させるためのポイントについて解説していきます。
インハウスローヤーの採用では、即戦力となる人材が求められます。
企業が求める弁護士像に適応し採用担当が実際に働く姿を想像できるように、具体的なアピールを意識しましょう。
大前提、企業法務の経験があることが望まれます。さらに金融や知的財産など応募先で重視される経験・知識があれば、具体的な事例を交えてそのスキルを持つことをアピールしましょう。
求める人物像や必須要件は求人サイトにも掲載されています。さらに深掘りして、持っていると「歓迎される」経験やスキルまで把握するためには、実際に働く人や転職エージェントを通して調べましょう。
企業研究や業界研究は転職後のミスマッチを防ぐだけでなく、アピールポイントを選定するために役立ちます。
弁護士が法律事務所で働く場合、多くは業務委託で契約していることでしょう。一方インハウスローヤーは、正社員として企業に雇用されます。
そこで、採用する企業としては「なぜそこまで大きな変化を求めるのか?」が気になるポイントです。
インハウスローヤーに転職する理由や応募先企業を選んだ理由については、的確に説明できるようにしておきましょう。
そもそも弁護士を目指した理由も、面接で聞かれる可能性が高いです。弁護士を目指した理由とインハウスローヤーに転職する理由も、軸はぶれないように説明できるとよいでしょう。
最近、転職サイトや転職エージェントを使っての転職が一般的になっています。弁護士の転職も例にもれず、弁護士業界に強い転職エージェントが登場しています。
大手人材会社が運営する大型の転職サイトや転職エージェントは、業界業種や職種を限定しておらず、「総合型転職サイト」「総合型転職エージェント」と呼ばれます。
総合型は多くの求人に出会えることがメリットですが、母数が多い分目当ての求人が見つけることが難しかったり、インハウスローヤーという特定の職種に対するサポートが十分ではない場合があります。
そこでインハウスローヤーに転職する場合には、弁護士や企業内法務部に特化した転職エージェントを利用することをおすすめします。
業界や職種に特化した転職エージェントの場合、インハウスローヤーとしての働き方や、弁護士がインハウスに転職して良いこと悪いこと、各企業の上司の人柄や休暇の取りやすさなどの内情まで把握しており、キャリアプランをしっかり練った上で選考に臨むことができます。
以下では、「弁護士特化型」と「企業内法務部への転職に強い」2つの方向性でおすすめの転職エージェントを紹介します。
インハウスローヤーに転職を希望する弁護士の方は、ぜひ参考にしてみてください。
弁護士向けの転職エージェントは、法律事務所での転職だけでなく、インハウスローヤーへの転職支援実績もあります。
インハウスローヤーの求人を探している場合には、まずは弁護士向けの転職エージェントに登録してみましょう。
代表的な弁護士特化型の転職エージェントには次の3つがありますので、参考にしてみてください。
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NO-LIMITは、弁護士の転職に特化した転職エージェントです。法律事務所だけでなく、企業の弁護士求人も扱います。
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