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企業のコンプライアンスやガバナンス強化の流れを受け、内部監査という仕事に注目が集まっています。しかし、内部監査の具体的な仕事内容や外部監査との違いなど、詳しくは分からないという方も多いことでしょう。
そこで本記事では内部監査の仕事をテーマに、内部監査の概要や仕事内容、必要なスキルや年収などについて解説します。
「内部監査」とは、企業が自社のビジネスプロセスを評価し、改善するために行うプロセスです。
以下では内部監査部門に求められる役割と、内部監査とともに「三様監査」と呼ばれる「外部監査」と「監査役監査」との違いについて解説します。
内部監査部門は、企業のルールや基準にもとづいて各部署やプロジェクトの業務をチェックし、リスクや不正を発見するとともに効率性や効果を高めるための提案を行います。
これにより、企業の経営者や株主に対して、自社の業務や経営状況を透明化し、信頼性を高める役割を果たします。企業のリスク管理やコンプライアンスを強化し、不正や違法行為を防止することも大きな役割です。
また、企業の業務プロセスや組織体制を改善し、効率性や効果を向上させることも求められます。
外部監査とは、企業が独立した公認会計士や監査法人に依頼して行う監査で、財務諸表の信頼性や正当性を検証するものです。内部監査と外部監査の違いは監査の目的や対象、方法、報告などにあります。
まず、目的が違います。内部監査は企業の経営改善やリスク管理のために行われるのに対し、外部監査は財務諸表の信頼性を高めるために行われます。
対象や方法も異なります。内部監査は企業のすべての業務や活動を対象とするのに対し、外部監査は財務諸表に関連する事項に限定されます。内部監査は企業の内部基準やガイドラインにもとづいて行われるのに対し、外部監査は会計基準や監査基準などの外部基準にそって行われます。
また内部監査は経営者や株主などの内部関係者に報告されるのに対し、外部監査は財務諸表とともに公開されるという違いもあります。
監査役監査とは、企業の株主が選任した監査役が行う、独立した監査です。監査役監査では取締役の職務執行の適法性や妥当性を審査・判断します。株主や投資家などのステークホルダーに対して監査の結果を適正に開示することで、企業の社会的責任を果たす役割も担います。
内部監査との主な違いは監査を実施する人や対象です。内部監査は内部監査部門などの社内担当者が行いますが、監査役監査は株主総会で選任された人が行います。また内部監査がすべての従業員の業務活動を対象に行うのに対し、監査役監査は取締役の職務執行に対して行います。
ここからは、内部監査部門の仕事内容について解説します。
リスク評価と管理は、企業が直面するリスクを評価し、それらを管理するためのプロセスです。
リスクにはたとえば法令違反や不正行為、事故や災害、市場変動などがあります。内部監査担当者はこれらのリスクを特定し、その重要度を評価し、対策を策定します。
リスク管理はリスク評価の結果にもとづいて、リスクを適切にコントロールするための方針や手順、責任者や役割分担などを定めることです。リスクが発生した場合に備えて、事前に計画を立てることもあります。
コンプライアンスの確保は、企業が法律や規制に適合していることを確認するためのプロセスです。コンプライアンスを守ることは、企業の信頼や社会的評価を高めるだけでなく、法的なトラブルや損失を防ぐことにもつながります。
内部監査担当者はコンプライアンスに関する方針や規程が適切に策定されているか、従業員や取引先がそれらに沿って行動しているか、不正や違反が発生していないかなどをチェックします。
また、コンプライアンスに関する教育や啓発活動を行ったり、問題が発見された場合は改善策を提案したりすることもあります。
企業のビジネスプロセスを評価し、改善するためのプロセスです。プロセスの評価および改善は、企業のパフォーマンスや競争力の向上につながります。
内部監査担当者はさまざまな部署の業務についてデータや資料を収集・分析し、プロセスの有効性や効率性、合理性などを評価します。
またプロセスにおけるリスクや問題点、改善点を特定し、プロセスの改善策などの提案も行います。
内部監査は「予備調査およびプランニング」「監査」「報告」「フォローアップ」という4つのステップに分けることができます。
最初に、予備調査とプランニングを行います。内部監査の対象を選定し、その目的や範囲、方法などを決める段階です。
予備調査では対象部門や業務の概要・特徴、関連する法令や規則、過去の監査結果などを把握します。
プランニングでは、予備調査で得た情報をもとに監査計画書を作成します。監査計画書には、監査の目的・範囲・期間・チーム構成・主要な監査項目や手順などを記載します。
事前に作成した監査計画書にもとづき、監査を実施します。具体的には、文書や記録の確認、 業務やシステムのテストなどを行います。従業員や関係者へのインタビュー、現場の写真撮影なども実施します。
監査対象の状況や問題点、改善策などをまとめた監査報告書を作成します。報告書は、監査対象部門や経営陣に配布され、必要に応じて社外の関係者にも提供されます。
報告書の内容については監査対象部門や経営陣からのフィードバックを受け取り、必要な場合は修正や補足を行います。
フォローアップとは、報告書にもとづいて改善策の実施状況や効果を確認する作業のことです。これにより内部監査の品質を高めるとともに、組織全体のリスク管理やコンプライアンス意識を向上させることができます。
フォローアップの方法としては、書面による確認や現地での検証などがあります。
内部監査担当者には、以下のように幅広い知識やスキルが求められます。
内部統制とは、組織の目的や目標を達成するために業務の効率や有効性を高め、リスクや不正を防止する仕組みのことです。
内部監査担当は、内部統制の設計や運用に関する評価や監査を行い、改善点や問題点を報告します。そのためには内部統制の原則や規制・基準、ツールや手法などを理解し、適切に適用できる能力が求められます。
監査スキルは内部監査担当者に欠かせないスキルです。監査対象の業務やリスクを理解して適切な監査計画や手順を立て、効率的に監査を実施するスキルを指します。
客観的かつ公正な監査結果を報告する能力も含まれます。
監査対象者や関係者と円滑にコミュニケーションをとり、信頼関係を築く能力が必要です。
内部監査担当は、さまざまな部門や関係者と連携し、監査計画や結果を共有する必要があります。その際には相手の立場やニーズを理解し、適切な言葉遣いや表現方法を選ぶことが求められます。
また、監査対象者に対しては、信頼関係を築きながら、問題点や改善策を伝えられるようにすることも大切です。
業務やリスク管理を効果的に評価して改善策を提案するためには、財務や情報技術、オペレーションなどの分野に関する知識も必要です。
財務知識があると、会計基準や財務報告、予算管理などのプロセスを理解できます。不正を発見する力も高まるでしょう。
情報技術知識があるとシステムのセキュリティや効率性などの要素を評価し、改善点やリスクを特定することができます。
オペレーションに関する知識は、業務の流れや品質管理などを分析し、業績向上やコスト削減などの提案を行うために必要です。
内部監査担当者として欠かせないのが独立性と職業的懐疑心です。
独立性とは、内部監査担当が自身の判断や行動に影響を与えるような圧力や利害関係に屈しないことです。内部監査担当は自社の一員でありながら、上層部や監査対象部門とは距離を置き、客観的かつ公正な立場で監査活動を行う必要があります。そのためには、自分の役割や責任を理解し、組織の方針や規則にそって行動することが求められます。
職業的懐疑心とは、調査や監査で得た情報や証拠に対して常に慎重かつ批判的な態度を取ることです。内部監査担当は、監査対象部門から提供される資料や説明だけでなく、自分でも現場を観察したり聞き取り調査を実施したりして、事実と異なる可能性や不正の兆候がないか確認する必要があります。
内部監査担当者の平均年収はおよそ600万円です。ただし、経験年数や役職の有無、企業の規模などによって異なります。監査部門の管理職になると800万円近い収入を得ている人や、中には1,000万円を超える人もいるようです。
日本の平均年収は443万円なので、内部監査担当者の平均年収は高い水準にあるといえます。
※参考:求人ボックス給料ナビ|内部監査の仕事の年収・時給・給料
※参考:MS Agent|内部監査の基礎知識 転職FAQ
※参考:国税庁|令和3年分 民間給与実態統計調査
内部監査担当者の年収が高い理由はいくつかありますが、主に専門性が高く責任が重いこと、高い倫理観が求められることが挙げられます。
内部監査担当者は会計や法律、経営管理などの幅広い知識とスキルが必要です。市場価値が高いため年収も高い傾向にあります。
また企業の経営陣や株主に対して、リスク管理やコンプライアンスの状況を報告する責任があります。問題点や改善策を指摘することで、組織の変革や成長に貢献する役割も果たします。企業の重要な意思決定に関わるため、非常に責任が重い仕事です。
さらに企業の内部情報にアクセスできるため、高い倫理観も欠かせません。こうした理由から内部監査担当者の平均年収は高くなっています。
最後に、内部監査部門が抱えている課題について解説します。
これから内部監査への転職を考えている方は、内部監査部門の課題を理解したうえで、どのように対応するべきか考える必要があります。
近年、内部監査部門は人材不足に悩まされています。原因としては、内部監査に必要な知識やスキルが多岐にわたり、適切な教育や研修が不足していることが挙げられます。
また内部監査のキャリアパスが明確でなく、モチベーションや成長機会が乏しいことから目指す人が少ないのも理由です。
人材不足は、内部監査の質や効果を低下させるだけでなく、組織全体のリスクを高める可能性もあります。また内部監査担当者ひとりあたりの業務量や責任が増加し、ワークライフバランスが崩れてしまうという問題も無視できません。
内部監査活動に対する従業員や経営者の理解不足も課題です。理解不足の原因としては、従業員や経営者の偏見や誤解、抵抗感などが挙げられます。
たとえば内部監査部門が自分の部署の弱点を暴くことで責任を問われるという抵抗感がある、内部監査が自分たちの仕事に口出しすることで権限を侵害されるという不信感や反発感があるといったことです。
また従業員の中には、内部監査が経営者に忠実で、従業員の利益や声を無視するという偏見や誤解をもっている人もいます。
このような理解不足は、内部監査活動の効果を低下させるだけでなく、内部監査部門のモチベーションや信頼性を損なうことにもつながります。
近年、ビッグデータやAIなどの情報技術が急速に発展し、経営や業務に大きな影響を与えています。しかし、内部監査部門は、これらの技術を活用する能力や知識が不十分であるという問題が指摘されています。
たとえば情報技術を用いたリスク分析や監査手法の開発、情報セキュリティやプライバシー保護の確保といったことが挙げられます。
こうした課題に対応するためには、内部監査部門は情報技術に関する教育や研修を積極的に受ける必要があります。情報システム部門や外部専門家との連携を強化する必要もあるでしょう。
内部監査部門は、企業のリスク管理やコンプライアンス、および内部統制を確保するために活動する部署です。
幅広い知識やスキル、倫理観が求められる難易度の高い仕事です。しかし企業への貢献度は高く、非常にやりがいのある仕事でもあります。