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2024年10月に施行された改正景品表示法は、企業の自主的な是正の取り組みを促進し、違反行為に対する抑止力強化による法執行の円滑化を目的としています。
本記事では、改正景品表示法について弁護士が詳しく解説します。
2024年10月に施行された改正景品表示法(景表法)は、
これらの3つを目的としています。
これまで景表法上の違反行為である優良誤認表示や有利誤認表示などの不当表示に該当する疑いがある場合、規制所管庁である消費者庁は、①違反が認められる場合には措置命令や課徴金納付命令、②違反のおそれがある場合には行政指導を行うかで対処していました。
これら①及び②のいずれも、消費者庁が動くことで事業活動に対する制約や経済的不利益が大きいほか、それが報道やネット上で公表されることでレピュテーションリスクが不必要に大きくなることもありました。
とりわけ、消費者庁が処分する前に事業者自らが検知して動いているとしても、それを評価した上で、事業者が評判を維持して是正に取り組む機会は制度上に無い状況です。
そこで今般の改正では、対象事業者が違反是正計画を作成・申請し、認定を受けることによって措置命令や課徴金納付命令の適用を受けないことになりました。
これにより、事業者自身の自主的な違反検知や是正を促すことが期待されます。
消費者庁による課徴金調査に対して、帳簿書類の一部が欠落しているといった理由で適切に売上額を報告できない事業者がいる場合があります。
このような場合、課徴金の基礎となる事実関係が正確に把握できず、実効性のある課徴金制裁ができず、ひいては課徴金納付命令までの審理が長期化してしまい対象事業者及び消費者庁双方にとって不利益になってしまう事態が生じてしまうおそれがあるでしょう。
そこで、課徴金調査において、必要な事実の報告がない場合には、消費者庁が課徴金の計算基礎となる事実を把握することができない期間の売上額を推計計算により算出して課徴金納付をできる制度としました。
これにより、課徴金納付を行わせるまでのリードタイムを短縮することができ、スムーズに違反行為の是正に向けた処分をすることが期待されます。
また、違反行為を繰り返す事業者も一定数いることから、より重い制裁や処分を用意することにより違反防止の徹底が必要です。
措置命令について、これまで公示送達等によることができず、特に海外事業者に対しては送達が不奏功となり制裁の実効性が確保されていませんでした。
そのため、BtoCの取引も国際化する中で、違反行為に対する措置の幅広い実効性を確保するために、措置命令においても国際化に対する対応が必要です。
また、海外事業者が行う表示によって消費者の誤認が生じ、特に詐欺的手法による投資事業などにおいて海外事業者の表示が合理的な選択を妨げている実情があります。
そこで、海外事業者が所在する国の当局との間で情報提供などの連携を図ることができる体制の構築が求められています。
今回の景表法改正における改正項目は、次のとおりです。
企業による自主的な取り組み強化 | 確約手続の導入 |
---|---|
課徴金制度における返金措置の弾力化 | |
反行為への抑止力の強化 | 徴金の計算基礎となる売上額の推計 |
課徴金額の加算 | |
罰則規定の拡充 | |
円滑な法執行の実現に向けた各規定の整備 | 送達制度の整備・拡充に関する規定 |
適格消費者団体による開示要請の規定 |
確約手続とは、「違反被疑行為をした事業者が、違反被疑行為及びその影響を是正するための是正措置計画等を作成・申請し、内閣総理大臣(消費者庁長官)から認定を受けたときは、当該違反被疑行為について、措置命令・課徴金納付命令の適用を受けないこととすることで、迅速に問題を改善する制度」をいいます。
出典:消費者庁表示対策課|『【令和6年10月1日施行】改正景品表示法の概要』3頁
課徴金納付命令や措置命令がされるまでの通常の手続フローとしては、違反行為の調査が開始された後、行政指導が入る場合にはそれを経た上で、弁明の機会付与の通知がされ、その後に課徴金納付命令や措置命令が出されます。
確約手続は、事業者に対して確約手続の通知がされ、それに基づいて対象事業者が是正を計画・実施していきます。
確約手続の通知にも要件があり、①一般消費者による自主的かつ合理的な商品及び役務の選択を確保する上で必要があると認めるときであって、②弁明の機会の付与の通知がなされていないことが必要です。特に①が重要です。
判断基準と考慮要素については、分解すると次のとおりです。
判断基準 | 個別具体的な事案に応じて、違反被疑行為等を迅速に是正する必要性、あるいは、違反被疑行為者の提案に基づいた方がより実態に即した効果的な措置となる可能性などの観点から判断する。 |
---|---|
考慮要素 | 違反被疑行為がなされるに至った経緯(法第22条第1項に規定する義務の遵守の状況を含む。)、違反被疑行為の規模及び態様、一般消費者に与える影響の程度並びに確約計画において見込まれる内容その他当該事案における一切の事情を考慮する。 |
なお、確約手続の対象外となるケースとして、過去10年以内に措置命令や課徴金納付命令を受けている場合と、故意的な不当表示など悪質性・重大性のある違反被疑行為の場合があります。
これらの場合は、確約手続による課徴金納付命令などを回避することができません。
また、確約手続の通知がされ、その後手続が進行する案件となったとしても、確約計画とその実施が求められますが、確約計画においても認定要件があります。
具体的な内容や詳細については後述します。
課徴金制度における返金措置について、弾力化を図るのがこの制度です。
現在の課徴金制度では、消費者が被った現実の損害回復を促すために、対象事業者が特定の消費者に対して一定の返金を行った場合に、返金額分を減額するという自主返金制度があります(景表法第10条、第11条)。
これまでに自主返金制度が利用されたケースがほとんどないため、より選択肢を増やしたのが今回の改正ポイントです。
具体的には、次の一定の要件の下に電子マネー等による返金を許容した点です。
課徴金制度の見直しは、先ほどの表で整理した課徴金納付命令における売上額の推計規定と、課徴金額の加算に関する制度の2つを含みます。
前者は、消費者庁が課徴金の計算の基礎となるべき事実報告をしない場合、消費者庁が課徴金の計算基礎となる金額を把握できない期間の売上額に関して、対象事業者もしくは課徴金対象行為に係る商品やサービスを供給する・供給を受ける他の事業者による資料を用いて合理的な方法により推計し、課徴金の額とすることができる制度です。
一方で後者の課徴金額の加算は、課徴金納付命令の対象となった違反行為から遡って10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある事業者に対しては、課徴金の額を1.5倍加算する制度です。
事業者の中には、消費者に対する表示についてその内容が法的根拠を有しないまま表示を行ったり、表示内容と実際の商品が乖離することを認識しつつ故意的に違反行為を行う悪質な事業者がいることから、刑事罰対象とすることにより違反行為の抑止を図る定めが追加されました。
具体的には、故意に優良誤認表示及び有利誤認表示をする行為に対して100万円以下の罰金に処する規定です。
これは、直罰規定で違反行為の是正などの求めがあるにも関わらずこれを無視したようなケースに初めて課される段階的なものではなく、故意的な違反行為があることをもって科されます。
なお、両罰規定もあり、代表者自身が刑事罰を科される可能性がある点にも留意が必要です。
第四十八条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、百万円以下の罰金に処する。
一 自己の供給する商品又は役務の取引における当該商品又は役務の品質、規格その他の内容について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると一般消費者を誤認させるような表示をしたとき。
二 自己の供給する商品又は役務の取引における当該商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者を誤認させるような表示をしたとき。
第四十九条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、当該各号に定める罰金刑を科する。
一 第四十六条第一項三億円以下の罰金刑
二 前二条各本条の罰金刑
国際化の進展への対応については、1つは海外当局との協力体制についてです。
具体的には、日本から海外の当局に対し、違反行為を行う事業者に関する情報提供を行うなどの協力体制を定め、海外当局による執行を促進できるような規定が新設されています。
第四十一条 内閣総理大臣は、この法律に相当する外国の法令を執行する外国の当局(次項及び第三項において「外国執行当局」という。)に対し、その職務(この法律に規定する職務に相当するものに限る。次項において同じ。)の遂行に資すると認める情報の提供を行うことができる。
2から4 略
また、もう1つは、送達規定についてです。
送達規定は、改正前においては課徴金納付命令に関する規定において定められており、措置命令においては定められていませんでした。
しかし、改正法では、送達書類に関する包括的な規定として、措置命令を含む形の建付で整理されました。
その結果、公示送達に関する規定も含めて適用ができるようになりました。
優良誤認表示に関して、適格消費者団体は優良誤認表示や有利誤認表示が行い、またはそのおそれがある場合には、事業者に対する差止請求が認められています(景表法第34条第1項)。
この差止請求において、適格消費者団体側が優良誤認表示に該当すること、具体的には商品やサービスに謳われる効能や機能、性能が表示に表れている内容と異なる、あるいは存在しないことを立証する必要があります。
この立証においては、必要な資料や証拠の収集が容易ではありません。
そこで、差止請求の現実的な機能を担保するために、適格消費者団体側が事業者に対して合理的な根拠を示す資料の開示要請を行うことができる規定が定められました。
この開示請求を受けた場合、事業者側は開示の努力義務を負います。
第三十五条 適格消費者団体は、事業者が現にする表示が前条第一項第一号に規定する表示に該当すると疑うに足りる相当な理由があるときは、内閣府令で定めるところにより、当該事業者に対し、その理由を示して、当該事業者のする表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を開示するよう要請することができる。
2 事業者は、前項の資料に営業秘密(不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)第二条第六項 に規定する営業秘密をいう。)が含まれる場合その他の正当な理由がある場合を除き、前項の規定 による要請に応じるよう努めなければならない。
ここまで、改正景品表示法の具体的な内容について、各項目ごとに内容を解説してきました。
次に、今般の改正を受けて、企業側が押さえておくべき実務上重要なポイントを3つピックアップして解説します。
自社の広告やプロモーションに関する施策の内容の中で、違法と思われるものを検知した場合に確約手続を通じたインシデント対応が考えられます。
もちろん、消費者庁が具体的に検知する以前に直ちに表示内容を改善した場合にはそもそも問題となりませんが、表示について違法性の有無を検討している最中に違法性が疑われる広告表現が取り沙汰される場合があります。
その契機となるのが、SNSで取り上げられ、リツイートの過熱などにより「炎上」「バズる」ことになった場合です。
消費者庁が処分を下すに足りる証拠を得て措置命令等の処分を行うべく、弁明の機会付与(行政手続法第29条)に係る通知(同法第30条)をする前の段階で、特に過去の違反実績がなければこの確約手続に係る通知を受け取った際に速やかな対応を取ることが考えられます。
具体的には、是正計画を策定してこれを申請し、認定を受けた上で実施するという流れにです。
是正計画の内容が重要となりますが、これには措置内容の十分性と措置実施の確実性が必要とされます(景表法第27条第3項)。
第二十七条
1及び2 略
3 内閣総理大臣は、第一項の規定による認定の申請があつた場合において、その是正措置計画が次の各号のいずれにも適合すると認めるときは、その認定をするものとする。
一 是正措置が疑いの理由となつた行為及びその影響を是正するために十分なものであること。
二 是正措置が確実に実施されると見込まれるものであること。
※既にあった違反行為による影響の是正についても、同様の確約手続が定められていますが、これも同様の枠組みで規定されています(同法第30条、第31条)。
確約手続を利用して是正計画の認定を受け、これを実施していく際の注意点等の詳細は後述します。
確約計画が認定されると、後で取り消されるようなことがない限りは、措置命令や課徴金納付命令が行われないこととなります(景表法第28条、第32条)。
また認定後には、認定した確約計画の概要や違反被疑行為の内容等が公表されることとなります。
その際には、違反したことを認定するものではないことが付記され、事業者として対応がされる限りネガティブなレピュテーション効果を生まないような配慮がされる制度となっています(後掲確約手続に関する運用基準9)。
さらに後述のように、確約手続が現在進行していない段階でも、確約手続の適用を受けるかどうかの事前相談や、事業者側からの希望で確約手続を申し出ることも可能とされています(運用基準3)。
そのため、法務部門などは、当局側のイニシアチブよりも、自ら検知した場合に確約手続を戦略的にとっていくことも選択肢として考えられるでしょう。
返金措置を活用して、課徴金納付命令による経済的制裁をいくらか減額して回避することも考えられます。
自社サービス内でのポイントなどの活用はできませんが、現金の移動を伴う補償でなくても、利便性の高さから電子マネーによる対応を行うことも有用であると考えられます。
実際に違反が疑われる広告などによる被害回復を積極的に行うことは、単に課徴金の減額効果を生むだけでなく、確約手続と合わせて考えれば、確約計画の認定を受けるための考慮要素になります。
そのため、返金措置も積極的に活用することにより、行政処分を受けるインパクトを抑えることができると考えられます。
優良誤認表示等に対する適格消費者団体による開示要請を受けた場合の対策についても、重要です。
すでに述べた通り、要請を受けた事業者の対応については努力義務とされます。
とりわけ、営業秘密を内容とする開示など正当な理由がある場合には開示の拒否をすることができます。
開示請求を受けたからといって分別なく開示してしまうと、かえって自社の事業にとって不必要にリスクを生じかねないため、対応範囲についての正確な理解が重要です。
2024年10月施行の改正景品表示法における確約手続を効果的に活用するため、ガイドラインとなりうる運用基準が策定されています。
参考:消費者庁表示対策課|確約手続に関する運用基準 令和6年4月18日
この運用基準について、主な5つのポイントを解説していきます。
1つが、先ほども触れた確約手続に関する相談です(運用基準3)。
確約手続の趣旨は、事業者自身の自主的な取り組みにより、違反が疑われる表示が速やかに是正されることです。
そのため、確約手続通知前であっても、事業者が自ら、違反が疑われる可能性があるものについて確約手続の対象となるか、確約手続を希望する旨を申し出すなどの相談を行うことができます。
2つ目が、確約手続を利用することは、事業者の選択に委ねられるという点です(運用基準6(1))。
確約手続の対象になることを踏んで事前相談をした場合でも、確約手続を積極的に利用するか、確約手続に関する通知を受けたとしても確約認定の申請をするのか、いずれも事業者の任意とされています。
確約手続の効果として、消費者庁による公表があることからも、一定レピュテーションリスクがあることは認識しておく必要があります。
そのため、違反被疑行為の内容や性質により、戦略的に確約手続をとるべきかどうかの判断が求められるといえます。
3つ目に、確約手続において認定申請資料が一定期間内であれば、参考となるべき事項を記載した書面を追加提出することができます(運用基準6(2))。
確約手続は、あくまで事業者側が自らの計画策定を行って進めていくものであるため、過不足のない形で計画を立てることが重要です。
その際に、不足があっても、追加提出が可能であることを踏まえて、余剰にならない形で資料を提出していくことが考えられます。
4つ目に、確約措置の典型例についてです(運用基準6(3)イ)。これについては、次のセクションで詳しく解説します。
5つ目に、確約手続が移行した後における各種の取扱いについてです。
例えば、確約手続の通知後は、制度設計上弁明の機会付与を行い措置命令に移行することは可能ですが、原則として行わないものとしています(運用基準10(2))。
また、事業者から提出された資料について、確約手続について認定申請についての処分が下されるまで法的措置を取るなどのために必要な事実認定の資料としては用いられないものとしています(運用基準同(3))。
先ほどの運用基準のポイントの4つ目で触れた点に関し、確約手続においては措置の具体的な内容について、運用基準上典型例が7項目示されています。
確約手続に際しては、上記の典型例の内容も踏まえて、確約計画を策定・実施していくのがよいでしょう。
2024年10月1日施行の改正景品表示法では、独禁法でも運用されているような確約手続が導入されたことなど画期的な改正内容を含んでいます。
合わせて、事業者としてきちんと違反の是正に取り組まないような場合には、課徴金制度等が拡充され、より重く制裁が与えられることとなります。
そのため、事業者としては、改正点をしっかりと把握して、違反の検知や是正に対して主体的に取り組んでいくことが求められます。
愛知県弁護士会所属。旭合同法律事務所に所属しながら、事業会社の法務部に出向。企業法務に関心があり、取り扱い分野は戦略・政策渉外、コーポレートガバナンス、内部統制、M&A、ファイナンス、AI、Web3.0、SaaS、人材プラットフォーム、航空・宇宙、データ法務、広告法務、エンタメ、消費者被害、相続、破産・再生など。学生時代は法律問題を取り上げるメディア運営会社にてインターンを経験し、現在もWEBメディアにて執筆活動を続ける。詳しいプロフィールはこちら:https://asahigodo.jp/lawyer-introduction/kawamura-masaki/