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2024年も年末が近づき、来年度の税制改正についての議論が高まっています。
各省庁からの税制改正要望が出そろい、次年度の税制改正大綱の策定に向けて本格的に内容が固まっていくフェーズに入ります。
とりわけ、10月の衆院選において与党側が大敗したことにより、政策においても消費税や所得税を中心とした議論も行われ、今後も税制の動きが重要なポイントになってくると考えられます。
本記事では、令和7年の税制改正について、先取り的に各省庁から出された税制改正要望の内容や注目のトピックを取り上げ、ポイントを解説していきます。
まず、令和7年度税制改正について、各府省庁からの主なラインナップについて全般的にご紹介していきます。
内閣府からは、14項目の税制改正要望が提出されています。
内閣府からの税制改正要望事項としては、地方創生応援税制の延長(いわゆる企業版ふるさと納税)についての延長、新型コロナウィルスに関する特別貸付についての金銭消費貸借契約における契約書の印紙税非課税措置の延長が挙げられます。
また、沖縄関連の特例措置について要望事項が6つ提出されています。
沖縄関連の税制として、沖縄の離島における旅館業において、地域振興や離島地域の特質から自立的な観光産業の発展のための、旅館業に係る施設の新設や増設における特別償却を認める特例措置の延長が挙げられます。
他にも、沖縄県内における産業イノベーション促進地域における産業高度化等のための設備の増設について、法人税額からの控除措置などを認める特例措置の延長が挙げられます
中小企業の経営再生の観点から行われている、再生企業に対する事業用資産の私財提供を行った場合において、譲渡益の課税を非課税とする措置についての延長も、中小企業の再生支援策として引き続き継続する方針とされている点は注目されます。
さらに、公益信託制度改革等における所要の措置として行われる各種の措置とし、公益信託法に基づく認定を受けた民間の法人などが公益法人と共通の枠組みで税制優遇を受ける制度に関して、寄附等における譲渡所得等の非課税措置などの要望事項が提出されています。
こども家庭庁からは、次の2項目について税制改正要望が出されています。
所得税、法人税、印紙税、関税等の様々な税項目について、児童福祉法に規定される事業などは、公益性等に鑑みて非課税措置など税制上の優遇措置の適用があります。
児童福祉法上、新たに妊婦等包括相談支援事業と乳児等通園支援事業を新たに位置づけるとともに、同法の施行後において非課税措置が適用される事業として含める旨の要望事項が提出されています。
各事業の内容などについては割愛しますが、産前産後の母子のケアに関する分野は、特に産後うつの問題など社会課題として重要性が増している中、児童福祉法においても今後法令の中で規定していくものとされています。
それに伴って、こうした公益性を有する事業における利用料等の非課税措置などが適用される趣旨のものであると考えられます。
これは所得税及び贈与税の税項目に関するものですが、扶養控除の見直しのほか、次の5つのトピックに関するものです
まず前提として、児童手当の所得制限が撤廃されますが、これにより所得に関わらず広く児童手当を受けることができます。
また、児童手当の支給期間は、高校生の年代まで延長されることになります。
これらを受け、16歳から18歳までの扶養控除について、15歳以下の取扱いとのバランスの観点とともに、教育費が増加する時期である特質を踏まえて、高校実質無償化に伴い廃止された特定扶養親族に対する控除の上乗せ部分を復元することとされます。
また、いわゆるシン・ママ、シン・パパのひとり親についての控除に関し、自立支援を進める観点から、所得要件について現行の500万円から2倍の1000万円まで引き上げる内容が盛り込まれています。
①子育て世帯等に対する住宅ローン控除の拡充
└住宅ローン減税の拡充について、詳しい内容は後述します。
②子育て世帯等に対する住宅リフォーム税制の拡充
└これは、既存の住宅リフォーム税制において、子育て世才の居住環境改善の観点から、一定の子育て対応のための改修工事について対象に加える旨の要望事項です。
➂子育て世帯に対する生命保険料控除の拡充
└これは、所得税の生命保険料控除において、いわゆる遺族保障について、23歳未満の扶養親族を有する場合に、現行の4万円の適用限度k額に対し2万円の上乗せ措置を講ずるという内容です。
④結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税措置の拡充と延長
└これは、子や孫への贈与が行われた場合に、贈与税の非課税措置の対象となる費用に「乳児等通園支援事業」に係る費用を追加することと、非課税措置を2年延長し、令和9年3月31日までとする内容です。
⑤ひとり親家庭高等職業訓練促進資金貸付事業の住宅支援資金貸付け等に係る非課税措置の延長
└これは、ひとり親家庭に対する住宅支援資金の貸付けによる金銭貸付けについて、一定の場合に債務免除を受ける場合に、免除による経済的な利益についてこれまでと引き続き所得税の非課税とするスキームを講じることなどを内容としています。
デジタル庁については、2点の税制改正要望が提出されています。
これは、マイナンバーカードに係る機能をスマホ自体に搭載することにより、本人確認をマイナンバーカードに代替する形で行うことができる仕組みを設け、手続に係る負担を軽減するという内容です。
現在はマイナポータルアプリの普及が進んでいる一方で、税務関係についての本人確認でマイナンバーカードが必要になる仕様となっています。
そのため、マイナンバーカード自体を必要としない税務手続を可能とし、より簡便に手続を行うことができるようにすることが要望事項として提出されています。
預貯金口座付番制度において付番されたマイナンバーについて、税法上の告知の要件を満たすような措置を講じることを内容としています。
預貯金口座付番制度とは、預貯金の口座とマイナンバーを紐づける形で金融機関にマイナンバーを届け出る制度のことです。
これにより、相続時や災害時に1つの金融機関の窓口を通じてマイナンバーが付番された預貯金の所在を一括で確認することができるものとされます。※公金受取口座の登録制度とは異なります。
この預貯金口座付番制度におけるマイナンバーの告知要求に際し、1つの金融機関への届出のみで、必ずしも預貯金利用者が照会先の金融機関に直接マイナンバーを告知していないことも想定されます。
そのため個々の告知の手間を省き、税法上の告知要件を満たすような措置を講じることが要望事項として提出されています。
文部科学省からは、6つの税制改正要望が出されています。
公的年金制度の見直しに伴う税制上の措置について、省庁横断的な要素を含むため注目トピックとして詳細を後述します。
法務省からは、3点の税制改正要望が出されています。
2点目の要望事項について、現状非典型担保として民法上規定されていない譲渡担保契約や所有権留保特約に関し、今年2024年6月の骨太の方針において、「不動産担保や個人保証に依存しない資金調達を促進するため、動産、債権その他の財産を目的とする譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法制化の準備を進める」とされています。
今後譲渡担保契約及び所有権留保契約に関して明文化がされていくことを踏まえ、税法上の取扱いについて整理していく要望が示されたものと考えられます。
ここから、省庁ごと、あるいはトピックごとに、注目される税制改正要望事項について解説していきます。まずは、省庁ごとの注目事項です。
経済産業省は、近年ベンチャー・スタートアップの税制優遇などのほか先進的な分野における投資を促進するため、日本の成長産業分野を支える税制を進めており、注目されます。
経済産業省からは、35項目の税制改正要望事項が提出されています。主なものとして、下記が挙げられます。
AIや半導体分野に関しては、世界的な開発競争や経済市場の拡大があるため、国内の産業分野への投資拡大に向けた税制上の政策として力点が置かれていることがうかがわれます。
上記記載事項の他にも、内閣府における税制改正要望に含まれる沖縄の観光振興や産業イノベーション促進に関する事項など、共同提出の形となっているものもあります。
また、後述する中小企業の経営強化の税制についても、経済産業省から出されている改正要望事項として注目されます。
金融庁は、例年、個人・法人を問わず、国内の金融及び投資拡大に向けた税制上の措置を進めており、注目されます。金融庁からは、22項目の税制改正要望が提出されています。
個人投資・金融関連では、主に次のような改正要望事項があります。
企業に関するもの(法人税)関連では、主に次のような改正要望事項があります。
国民全体の資産形成力向上に向けた様々な施策がうかがわれます。各項目の内容については、一部について詳細を後述します。
総務省は、今回他の省庁との共同提出、通信分野など重要なインフラに関連する税制上の要望事項を提出するなどの観点で注目されます。
総務省からは、9つの税制改正要望が提出されています。
要望事項のうち、公的年金制度の見直しに伴う税制上の措置、中小企業の経営強化支援に関する税制、企業版ふるさと納税の延長、AI分野の税制上の措置の検討などは、経済産業省や内閣府など省庁横断での共同提出のものとなっています。
独自提出の部分として注目されるのは、NHK受信料について、インターネット配信についてNHKの必須業務となることに伴う受信契約の拡大に係る放送法の改正に関するものです。
「配信」について「放送」と同様の扱いとなるように消費税法上の所要の措置の要望が出されています。
国土交通省からは、総務省と同様に特に共同提出となっている分野を中心に重要な税制改正要望が提出されているほか、住宅ローンやインバウンド税制に関しての要望が提出されているなど政策的に重要なトピックに関連するため、注目されます。
国土交通省からは、17項目の改正要望が提出されています。
中小企業の経営強化支援税制に関しては経済産業省、半島振興や離島振興対策に関する工業用機械導入についての特別償却について総務省、不動産特定共同事業契約に関する税制など不動産投資に関して金融庁、それぞれ共同提出の要望事項となっています。
また、老朽化マンションの再生等の円滑化を目的とする組合による事業施行のための特例措置や、カーボンニュートラルの政策推進に向けた自動車重量税の課税のあり方の検討について税制改正要望が提出されています。
厚生労働省による税制改正要望は、医療や介護分野のDX推進や、働き方改革関連の推進に伴う要望などが注目されます。
厚生労働省からは、20項目の税制改正要望が提出されています。
国民生活に関わるものとしては、たばこ税の税率引き上げです。
また、近年目立つ帯状疱疹が今後予防接種の定期接種項目とされるため、税制上の措置が要望事項として提出されています。
医療分野のDX推進として、電子カルテやレセプトのほか医療介護の現場におけるデジタル化と合わせて様々な医療データの利活用が政策分野として注目されますが、それに伴いデータ利活用の方針や基盤整備、運用主体のあり方など、税制上の措置をとるように要望が提出されています。
また、雇用保険制度の見直しに伴う税制については、国のリスキリング戦略を支えるための給付や融資制度に関して非課税措置や債務免除における所得税の非課税などを内容とする要望が提出されています。
重要なトピック7つをピックアップして、税制改正要望の内容を解説していきます。
今年2024年6月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024」において、公的年金について「働き方に中立的な年金制度の構築等を目指して、今夏の財政検証の結果を踏まえ、2024年末までに制度改正についての道筋を付ける」こととされています。
その要因として、女性や高齢者の就業拡大や、家族構成やライフスタイルの多様化、人手不足の中での労働力確保などが挙げられます。
こうした現状を踏まえ、全世代型社会保障として、年金制度の再構築が検討されています。
衆院選でも議論されていた「年収の壁」の解消に向けた政策推進などを中心に、社会保障審議会の年金部会における今後の議論の結果をもとに税制上の措置を講じる要望として、総務省、厚労省、文科省との共同要望として提出されています。
参考:厚生労働省|令和7年度主な税制改正要望の概要 令和6年8月 6頁
経営者の高齢化に伴い、日本の産業競争力維持のために、事業承継など持続的な中小企業の経営基盤が社会課題とされます。
こうした中小企業の事業承継を中心とした経営基盤を支え、後押しするための税制として、経済産業省を中心に経営強化支援の税制要望が出されています。
例えば、事業承継税制の特例措置としては、非上場株式等についての納税猶予と免除、個人の事業用資産についての納税猶予と免除などについて役員就任要件の見直し等が挙げられます。
また、中小企業投資促進税制として中小企業等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額等30%の特別控除(7%の税額控除)の2年間延長が盛り込まれています。
参考:中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額等の特別控除(中小企業投資促進税制)の延長
2023年頃から、国際的に、急速にAIや半導体分野の開発競争が進んでいます。
日本国内でも、サカナAIなどの有望なユニコーン企業が頭角を現している潮流から、AI・半導体分野への投資促進による国際競争力強化のため、経済産業省及び総務省から税制改正要望が提出されています。
具体的な内容については今後議論がされていくことが予想されますが、来年度の要望事項として提出された点は注目されます
参考:AI分野における国内投資の継続的な拡大に向けた税制上の措置の検討
半導体分野における国内投資の継続的な拡大に向けた税制上の措置の検討
2024年1月から新NISAが開始し、報道などでも大きく取り沙汰されるなどして急速に拡大し、3月末時点でNISA口座数が2323万口座、買い付け金額が41兆円となるなど資産形成として普及しています。
こうした背景から、金融庁からの要望事項として、手続の簡易化か、より幅広い対象商品創出のための要件見直しなど税制上の所要の措置をとるべき旨の要望が提出されています。
参考:NISAの利便性向上等
これは、1つはローンの借入限度額について、新築等の認定住宅について500万円、いわゆるZEH水準省エネ住宅棟については1000万円の上乗せ措置が挙げられます。
また、所得税額から控除しきれない金額について、控除限度額の範囲内で個人住民税から控除することも、要望事項として提出されています。
令和7年度税制改正要望として、各省庁から様々な要望が提出されました。
政策的に重要な課題に紐づくものがあり注目されます。
具体的には、子育て支援に関わる住宅ローン減税等の優遇措置、国内外の投資促進に向けた要望事項、AIなど著しい成長産業分野への投資促進に向けた要望、中小企業の経営強化支援の税制の拡充などが挙げられます。
税制の拡充により、国内の経済に対する影響も大きいことから、来年度の税制改正においてどのように具現化されるかなど引き続き注目が必要です。
愛知県弁護士会所属。旭合同法律事務所に所属しながら、事業会社の法務部に出向。企業法務に関心があり、取り扱い分野は戦略・政策渉外、コーポレートガバナンス、内部統制、M&A、ファイナンス、AI、Web3.0、SaaS、人材プラットフォーム、航空・宇宙、データ法務、広告法務、エンタメ、消費者被害、相続、破産・再生など。学生時代は法律問題を取り上げるメディア運営会社にてインターンを経験し、現在もWEBメディアにて執筆活動を続ける。詳しいプロフィールはこちら:https://asahigodo.jp/lawyer-introduction/kawamura-masaki/