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不正受給・法的リスクの低減、無駄なコストを削減するためには、経費精算規定(ルール)の策定が欠かせません。
ただし、経費精算規定を策定しても必要な項目が盛り込まれていなければ、正しく経費精算されず、かえって現場の混乱を招きます。
このような事態を避けるためには、自社の状況に合った内容かつ必要な項目を盛り込んだ経費精算規定を策定しなければなりません。
本記事では、経費精算規定(ルール)の作り方や必要な理由、設定すべき項目などを解説します。
経費精算規定の作り方は、次のとおりです。
経費精算規定の代表的な規定項目としては、交通費規定や出張費規定、交際費規定といった規定がありますが、出張のない企業が出張費規定を定めても意味がありません。
そのため、まずは自社の状況をしっかりと理解したうえで、自社に適した規定項目および上限金額を決めていきます。
また、正社員やアルバイト、契約社員などがいる場合、どの従業員を経費精算の対象とするのかといった細かい部分まで決めておくことが大切です。
規定項目をはじめとする経費精算規定が定まったら、規定に応じた経費精算書のフォーマットを作成します。
精算書フォーマットを作成すれば、申請の不備・ミスを低減できるため、経費精算業務を円滑に進めることが可能です。
ただし、フォーマットの内容が複雑な場合、申請者が書きにくく、経理担当者が読みにくいものとなってしまうため、かえって申請の不備・ミスのリスクが高まります。
そのため、経費精算書フォーマットは書きやすく、読みやすいものを用意しなければなりません。
精算書のフォーマットを作成し、経費精算規定を運用する準備が整ったら、社内に周知していきます。
経費精算規定を設けても、社内に周知しなければ正しく運用されません。
必要であれば、社内研修などを実施するなどして、正しく運用できる環境を整備することが大切です。
経費精算規定を適時更新することも大切です。
自社状況の変化にあわせて、経費精算規定を更新しないと、従業員は古い規定で経費精算してしまうため、不備・ミスが発生しやすくなる他、不正受給・法的リスクも高まってしまいます。
経費精算が正しく行われるためにも、経費精算規定の適時更新は欠かせません。
経費精算規定を更新するおすすめのタイミングは、次の3つです。
常に最新の状態にしたいのであれば、状況が変わったら都度更新するべきです。
ただし、数週間のスパンで頻繁に経費精算規定を更新してしまうと現場の混乱を招き、かえって不備・ミスが増えるリスクが高まります。
そのため、都度変更する場合は、どこを更新したか確認できるように履歴に残し、管理・周知を徹底することが大切です。
経費精算ルールで設定すべき項目は、次の9項目です。
それぞれ詳しく解説します。
経費として請求できる範囲を決めておかなければなりません。
経費として請求できる範囲を設けておかないと、経費認定をめぐって従業員ともめたり、不正精算のリスクが高まったりします。
経費として認定する範囲あるいは、経費から除外されるものを明確にしておけば基準がはっきりするため、トラブル・不正精算の発生リスクを抑えられます。
経費精算の申請期限も、設定しておくべき項目の1つです。
申請期限が設定されていないと、経費が発生してからかなり時間がたったタイミングで経費申請されるリスクがあります。
適切なタイミングで経費精算されないと、財務状況や経営成績を明確に把握できない他、確定申告にも大きな影響を与えかねません。
経費精算の申請期限を設けておけば、適切なタイミングで申請されるようになるため、上記のような事態を避けられます。
なお、申請期限を設定する際は、あわせて申請期限を過ぎた場合の規定も設けておくことをおすすめします。
精算可能な金額の上限も、ルールとして設定しておくとよいです。
金額の上限を設けておけば、経費の水増し請求を防止できるため、不正精算リスクの低減が可能です。
交際費は1人あたりの月間(年間)の上限金額を設けたり、電車・バス代は区間の最安値で経費計上したりするなど、規定を細かく設けておけば、不要な経費が発生しないため、コストも抑えられます。
領収書・レシートがない場合の対応方法についても規定しておくとよいです。
経費精算するためには、必ず領収書・レシートなど、経費を利用したことを証明できる書類を添付しなければなりません。
領収書・レシートがなければ、経費を利用したことを証明できる手段がないため、正しく経理処理ができず、税務上の問題に発生するリスクがあります。
領収書・レシートがない場合、原則自己負担であると明記しておけば、従業員とのトラブルや税務上のリスクをなくせます。
特に経費精算規定で特に重要なのが、例外禁止の規定です。
必要に応じて経費精算可能か判断することもありますが、1度例外を認めてしまうと、それ以降、同様のケースは経費精算を認めなくてはなりません。
1度認められた精算が認められない場合、対応に差が生じてしまい、従業員が不公平感を覚えてしまいます。
このような問題を発生させないためには、例外を禁止する規定を設け、確実に履行させなければなりません。
自己決済の禁止も経費精算ルールに設けることをおすすめします。
自己決裁とは、経費申請者と決裁者(承認者)が同一の経費申請です、
自己決裁が可能になると二重チェックが実施されないため、経費の不正利用リスクが高まります。
第三者承認を加えたり、システムを使用している場合は社員IDを付与し申請者と承認者が異なるIDでなければ承認できない仕様にしたりするなどして、自己決裁を防止する体制を構築することが大切です。
経費精算は、科目別に注意点があります。
そのため、経費精算規定を策定する際は、科目にあったルールをそれぞれ設定しなければなりません。
ここでは、上記3科目について解説していきます。
交通費規定を設ける場合、就業規則で定めている通勤手当の定期区間を控除した公共交通機関費を経費精算するように規定しましょう。
この規定に沿って申請フォーマットを作成しておけば、交通費の二重計上を防止できます。
また、移動手段別に規定を設けておくとよいです。
たとえば、電車・バスの場合は領収書が発行されないため、利用区間の運賃で費用を計算しなければなりません。
移動区間に複数の経路がある場合、最安値の料金を支給することを規定しておけば、基準が明確となり、無駄なコストを抑えられます。
自家用車・社用車を利用する場合は移動距離に応じてガソリン代を支給するのが一般的です。
ただし、自家用車で従業員が移動する場合、従業員ごとに車の燃費が違い、不公平感が生まれやすくなります。
このような場合は、請求可能なガソリン代の計算式をあらかじめ規定しておくと、基準が明確となるため、無用なトラブルをなくせます。
高速道路の使用が想定される場合、どのようなシーンで高速道路料金を経費として認めるのかもあらかじめ策定しておくとよいです。
タクシーの場合、電車・バスと比べて、費用が高くなります。
そのため、タクシーを利用する際は、タクシーを利用した理由を記載する旨を規定することで、タクシーの無駄な利用をなくせます。
より厳格に管理したいのであれば、「目的地と最寄りの駅・バス停が何km離れている場合は利用可能」など、具体的な条件を設けておくとよいです。
交際費規定では1人あたりの月間(年間)の上限金額を設定することをおすすめします。
上限金額を設定しておくことで、無駄なコストを抑えられます。
また、交際費規定を設ける際は、法律で定められている交際費の取り扱いを意識しなければなりません。
事業関係者への接待にともなう飲食費は通常、接待交際費として計上されます。
しかし、飲食費が1人あたり5,000円以下の場合は100%経費となり非課税となりますが、5,000円を超えた場合は50%が経費となり非課税となります。
つまり、1度の接待で飲食費が5,000円を超えた場合、全額法人税の損金に算入されないというわけです。
また、接待交際費を非課税で計上するためには、利用年月日・利用した飲食店名および所在地・参加人数・参加者の氏名および所属組織と関係性・他参考事項を明確にして記録する必要があります。
そのため、交際費規定では、これら内容を記載しやすい申請書フォーマットに反映させなければなりません。
出張費規定は出張に関わる経費について規定するものですが法律上、出張費の明確な定義はありません。
そのため、どの支出を出張費として認めるのか、あらかじめ基準を設けておく必要があります。
出張費規定では、出張にかかる費用(交通費・宿泊費など)を定めるのが一般的です。
交通費については交通費規定を基準にすれば問題ありませんが、出張は交通費に飛行機や新幹線代がかかります。
飛行機や新幹線はクラスによって費用が異なるため、飛行機はビジネスクラス、新幹線は指定席など、役職に応じて経費と認める範囲を規定しておくとよいです。
また、宿泊を要する出張の場合、出張費が高額となりやすく、従業員に立て替えさせると、経済的な負担が大きくなります。
この場合、仮払金で出張費を精算する企業も少なくありません。
仮払いを実施する場合は、仮払金を支給する条件や申請する方法なども規定に盛り込んでおくとよいです。
経費精算は申請側だけでなく、処理側にもルールを定めておかなければなりません。
正しく税務申告していることを証明できるように各種書類はしっかりと保管する必要がある他、領収書は法律上、7~10年間の保管が義務付けられています。
税務調査が実施された際、領収書などが適切に管理されておらず、書類が提示できなければ、不正会計の疑いをかけられるリスクがあります。
そのため、書類の管理方法などをはじめ、処理側にもしっかりとルールを設けて、管理体制を構築しておくことが大切です。
経費精算規定が必要な理由は、次の3つです。
経費精算規定が必要な理由として挙げられるのが、不正受給・法的リスクの低減です。
経費精算が頻繁に行われる会社の場合、経費精算件数が多いため、管理しきれなくなります。
そのため、経費の架空請求や交通費の水増し請求、私的交際費の申請といった不正受給の発生リスクが高まります。
経費精算規定により、不正受給した場合の処分を設けておけば、処分規定が抑止力となるため、不正受給の発生リスクを低減可能です。
また、経費として処理すべきでないものを経費として処理した場合、脱税とみなされて処罰を受ける可能性が高まります。
経費精算規定を設けて基準を明確にすれば、経費精算による法定リスクを低減できます。
経費をすべて認めてしまうと、経費の無駄遣いが起きて、企業会計に大きな負担を与えかねません。
経費精算規定により、経費精算の範囲や経費の上限額を設けておくことで、経費の無駄遣いを抑えられるため、コスト削減につなげられます。
経費精算規定を設けて全体に周知していれば、規定の範囲内で経費精算請求されるようになるため、差し戻し発生リスクの低減が可能です。
また、経費精算規定があれば、経費精算時、都度内容を細かく確認・判断する必要もなくなるため、経費精算業務がスムーズに行われるようになり、業務の効率化を図れます。
電子帳簿保存法とは、国税関連の帳簿・書類などの電子保存を認める法律です。
ここでは、2022年の電子帳簿保存法改正により、経費精算にどのような影響を与えているのかを解説します。
電子取引で受け取った書類は、これまで紙に印刷して保存しても問題ありませんでした。
しかし、改正電子帳簿保存法では、電子取引で受け取った書類の紙保存は認められないため、電子データで保存しなければなりません。
なお、電子データで保存する際は、電子取引の保存要件である「真実性の要件」と「可視性の要件」を満たす必要があります。
細かい要件は次のとおりです。
真実性の要件 |
以下の措置のいずれかを行うこと
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可視性の要件 |
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電子取引における検索機能を確保するためには、以下の帳簿の検索要件を満たしておく必要があります。
- 取引年月日・取引金額・取引先の検索ができること
- 日付または金額の範囲指定により検索できること
- 2つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できること
なお、税務職員による質問検査権にもとづいて電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、検索要件のうち2・3の要件が不要となります
1月1日から12月31日までの売上高が5,000万円以下の事業者の場合、すべての検索要件を満たす必要はありません。
また、これら電子取引制度の保存要件を満たすためには、タイムスタンプの付与が可能な検索機能付きのシステムを導入、もしくは事務処理規定の策定および、検索要件を満たすファイル名をつける必要があります。
電子帳簿保存法改正により、税務署長の事前承認制度が廃止されました。
これにより、企業は好きなタイミングで紙保存からデータ保存に切り替えられます。
また、紙の領収書をデータ化する場合、3営業日以内にタイムスタンプを付与しなければなりませんでしたが、電子帳簿保存法改正により、タイムスタンプ要件が緩和されました。
付与期間の最長が約2ヶ月と7日以内に延長され、タイムスタンプを付与すれば、紙の原本を廃棄できるようになっています。
ただし、紙の領収書をデータ化した場合は、電子取引制度ではなく、スキャナ保存制度の要件を満たす必要があります。
経費精算業務をより効率化させる方法は次の2つです。
経費精算業務を効率化させる方法の1つとして挙げられるのが、ペーパーレス化の推進です。
ペーパーレス化によって領収書をデータ化できれば、申請書の印刷やファイリングといった様々な業務工数を削減できます。
また、必要書類の検索・整理も容易となるため、過去の書類も見つけやすくなります。
そのため、税務調査の準備などの手間も省くことが可能です。
ペーパーレス化の推進とあわせて実施したいのが、経費精算システムの導入です。
経費精算システムを導入すれば、経費精算の申請・承認がオンラインで実施できるようになるため、オフィスにいなくても経費精算業務ができるようになります。
また、システム上で経費精算業務の進捗が確認できるようになる他、各種システムとの連携によって経費精算業務の1部を自動化できるため、業務の効率化が可能です。
従業員が好き勝手に経費申請してしまうと、不正受給・法的リスクが高まったり、無駄なコストがかかったりするなど、さまざまな問題が生じます。
これら問題の発生リスクを低減しながら、正しく経費精算していくためには、経費精算規定(ルール)が欠かせません。
経費精算規定があいまいという場合は、本記事で解説した「経費精算ルールで設定すべき項目」を参考にしながら、経費精算規定を策定することをおすすめします。
ただ、経費精算規定は1度策定したら終わりというわけではありません。
会社の状況は日々変化している他、電子帳簿保存法改正をはじめ、法律も時代の変化に応じて、改正されています。
自社の状況および現行法にあった経費精算を実施していくためには、経費精算規定の内容を適時更新し、最新の状態を保つことが大切です。