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支払調書は、年間報酬額や源泉徴収税額を集計・記載した書類です。
その特徴から源泉徴収票と混同されがちですが、両者には大きな違いがあります。
そのため、源泉徴収票を発行したから問題ないと思っていると、提出義務を怠ったとして所得税法違反となり、罰則の対象となります。
本記事では、支払調書の概要や提出範囲、記載事項などを解説します。
支払調書とは、企業がフリーランスの方などに支払った年間報酬額や源泉徴収税額を集計した書類のことです。
税務署への報告書類の1つであり、提出義務が生じている場合、企業は年1回税務署へ提出する必要があります。
支払調書を発行する目的は、税金を正しく申告・徴収しているかどうか税務署が確認するためです。
報酬の支払元である企業が支払調書を提出すれば、報酬の受け取り先であるフリーランスの確定申告内容と照らし合わせられます。
これにより、個人が正しく申告しているか、報酬の支払元である企業が正しく源泉徴収しているかどうかを確認できます。
報酬・料金等を支払った翌年の1月31日までに、納税地などを管轄する税務署長に支払調書を提出します。
支払調書の提出義務があるにもかかわらず、提出しなかった場合、所得税法に則って以下の罰則が課せられる可能性があります。
給与等の支払を受ける人に支払明細書を交付しなかったり、偽りの記載をして交付(電磁的方法により提供)したりした者は、1年以下の懲役又は 50 万円以下の罰金に処すこととされています(所法 242 七)。
支払調書と源泉徴収票の違いは、報酬の支払先です。
支払調書は、フリーランスなどの取引先に支払った報酬分が発行・提出の対象となります。
一方、源泉徴収票は、雇用契約を締結している従業員に発行する法定調書です。
また、支払調書は報酬を支払った取引先へ交付する義務はありませんが、源泉徴収票は従業員本人への交付義務があるといった違いもあります。
支払調書の種類は、次の4つです。
原稿料や講演料、弁護士・税理士などへの報酬を支払った場合などに提出する支払調書です。
支払う際、支払側は所得税を源泉徴収するため、年間の支払額と源泉徴収額を記載したうえで税務署に提出します。
なお、同一の者への年間支払額が5万円以下の場合は、提出する必要がありません。
不動産などの使用料を支払った場合に提出しなければならない支払調書で、提出義務があるのは法人および不動産業者である個人です。
事務所の家賃・権利金・更新料・礼金、一時的な地代などが提出対象となりますが、同一の者への年間支払額が15万円以下であれば提出する必要がありません。
また、敷金・保証金が返還されない場合や、家賃・賃貸料のみ支払っている場合など、提出不要なケースも多々あるため、作成する際は注意が必要です。
不動産の売買・交換や競売、現物出資など、不動産を譲り受けた場合に提出しなければならない支払調書です。
また、不動産などの譲り受け代金とあわせて補償金が支払われる場合は、概要欄に補償金の種類および金額を記載しなければなりません。
なお、同一の者への年間支払額が100万円を超えていない場合、提出する必要がありません。
不動産などの売買・貸付けにかかわるあっせん手数料を支払った場合に提出が必要な支払調書です。
同一の者への年間支払額が15万円を超えてない場合や、不動産業を営む個人事業者かつ建物の賃貸借の代理・仲介を主な目的として事業している場合は、提出する必要がありません。
また、「不動産の使用料等に関する支払調書」や「不動産の譲受け対価に関する支払調書」にあるあっせんをした者の欄に必要事項を入力している場合は提出を省略できます。
「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲は、次のとおりです。
(1) 外交員、集金人、電力量計の検針人およびプロボクサー等の報酬・料金、バー、キャバレー等のホステス等の報酬・料金、広告宣伝のための賞金については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50万円を超えるもの
(2) 馬主に支払う競馬の賞金については、同一人に対するその年中の1回の支払賞金額が75万円を超えるものの支払を受けた者に係るその年中のすべての支払金額
(3) プロ野球の選手などに支払う報酬、契約金については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50,000円を超えるもの
(4) 弁護士や税理士等に対する報酬、作家や画家に対する原稿料や画料、講演料等については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50,000円を超えるもの
(5) 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50万円を超えるもの
引用:「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲と提出枚数等|国税庁
引用:報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書(同合計表)「[手書用] 令和 年分 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」|国税庁
「支払いを受ける者」には、報酬の支払先の情報を記載します。記載する情報は、次のとおりです。
税務署に提出する支払調書にはマイナンバーの記入が必須ですが、本人に交付する支払調書の場合はマイナンバーを未記載する必要があります。
「区分」では、報酬・料金の名称を記載して支払内容を明らかにします。報酬・料金の代表的な名称は、次のとおりです。
「細目」には、区分の詳細について記載します。細目で記載すべき情報は、区分別に次のとおりです。
「支払金額」には、対象年に支払った報酬の合計額を記載します。
消費税を支払う場合、消費税を含めた金額を記入しなければなりません。
「源泉徴収税額」には、支払金額(消費税を含む)から徴収した源泉徴収税額を記載します。
なお、支払金額に源泉徴収税率をかけた金額と、源泉徴収税額欄に記載する金額は一致しない場合もあるため、注意が必要です。
「摘要」に情報を記載するのは、次のケースに該当する場合のみです。
- 診療報酬のうち、家族診療分についてはその金額を記載するとともに、金額の頭部に 家族 と記載してください。
- 災害により被害を受けたため、報酬、料金等に対する源泉所得税及び復興特別所得税の徴収の猶予を受けた税額がある場合には、その税額を記載するとともに、金額の頭部に「災 」と記載してください。
- 広告宣伝のための賞金が金銭以外のものである場合には、その旨とその種類等の明細を記載してください。
- 支払を受ける方が「源泉徴収の免除証明書」を提出した方である場合、その他法律上源泉徴収を要しない方である場合には、その旨を記載してください。
「支払者」には、支払調書の発行事業者すなわち、報酬の支払元の情報を記載します。記載する情報は、次のとおりです。
支払調書の作成方法は、次の3つです。
国税庁の公式ホームページに用意されているフォーマットは、次の2つです。
なお、手書き用のフォーマットに関しては、税務署でも配布されています。
Excelで支払調書を作成する方法は、大きく分けて次の2つです。
国税庁が提供しているフォーマットで作成すべきと思われがちですが、必要事項が盛り込まれていれば独自様式で作成・提出可能です。
専用システムを使用した場合、報酬支払額を入力すれば自動で支払調書・合計票を作成できます。
手動で計算する手間を省けるため、正確な支払調書を簡単に作成可能です。
事業規模にともなって支払調書の発行数が多くなるため、業務を効率化させたいのであれば、専用システムの導入がおすすめです。
支払調書の取り扱いにおける注意点は、次の4つです。
法人に支払った報酬は原則、源泉徴収しません。
しかし、社外弁護士や建築士に報酬を支払った場合は支払調書の発行対象となるため、法人であっても支払調書を発行する必要があります。
一方、社外行政書士と自社と雇用契約を結んでいる社内弁護士は対象外となるため、支払調書を発行する必要はありません。
ただし、社内弁護士に対しては、給与所得の源泉徴収票を発行する必要があります。
支払調書を税務署に提出する際は、法定調書合計書も添付して提出しなければなりません。
法定調書合計書とは、支払調書や給与所得・退職所得の源泉徴収票など、各法定調書の内容を記載した書類です。
支払調書の内容は、法定調書合計書の真ん中あたりにある「3 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書合計表」の欄に、区分ごとの合計人数・支払金額の合計・源泉徴収税額・総合計をそれぞれ記載します。
本人交付義務とは、報酬を受け取った本人に支払調書を発行する義務のことです。
発行した支払調書は税務署に提出するだけでよいため、本人に対して交付する義務はありません。
ただし、支払額によっては支払調書を本人に交付する企業もいる他、取引している個人事業主・フリーランスから交付を依頼される場合もあります。
企業方針として支払調書を交付する場合、確定申告に間に合うように送付しなければなりまん。
支払調書にマイナンバーを記載するのは義務です。
そのため、支払調書の発行者は支払先からマイナンバーを提供してもらい、支払調書に記載する必要があります。
ただし、相手によってはマイナンバーの提出を断られる可能性がありますが、そのような場合はマイナンバーを未記載で提出しても問題ありません。
というのも、実務上の困難さなどを加味して国税庁も未記載での提出を許容しています。
そのため、マイナンバーが提供されていない状態で支払調書を提出しても、一律義務違反になるわけではありません。
ただし、未記載として認められるためには、以下の手順を踏む必要があります。
1回断られただけであきらめている場合は義務違反とみなされる可能性が高いため、注意が必要です。
支払調書とは、フリーランスなどに支払った年間報酬額および、源泉徴収税額を集計・記載した税務署への報告書類です。
書類を提出してもらうことで税務署は、税金を正しく申告・徴収しているかどうかを確認できます。
支払調書の正式名称は「報酬・料金・契約金および賞金に関する支払調書」ですが、本記事で解説したとおり、支払調書は支払内容別にさまざまな種類があります。
また、支払調書は提出期限が設けられている他、種類別に提出義務が生じる条件が異なるため、内容を正しく理解していないと提出していなかったという事態になりかねません。
最悪の場合、所得税法違反となり、罰則が課せられてしまうため、支払調書の制度内容を正しく理解し、法律に違反しないように努めることが大切です。