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令和6年度の税制改正で押さえるべきポイントとは?一覧から注目ポイントをまで解説

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令和6年度の税制改正で押さえるべきポイントとは?一覧から注目ポイントをまで解説

毎年度、国が打ち出す税務施策が税制改正大綱です。

令和6年度も様々な税制が打ち出されており、事業者にとっても個人にとっても知っておくべきポイントが様々あります。

本記事では、令和6年度の税制改正大綱について、全体像とポイントになる点を深堀りして弁護士が解説します。

令和6年度税制改正の項目

まず、今年令和6年度の税制改正は、どのような内容になっているでしょうか。

全体像を表でまとめると、下表の通りとなります。

課税カテゴリ 税制カテゴリ 個別の項目
個人所得課税 所得税及び個人住民税の定額減税
  • 所得税の特別控除:所得区分別の控除措置
  • 地方住民税の特別控除:所得区分別の控除措置
金融・証券税制
  • 税制適格ストックオプションの要件見直し
  • 特定中小会社が発行した株式取得金額の控除等、譲渡損失の繰越控除
  • 公共法人等や公益信託等に係る非課税措置など
  • 積み立てNISAの拡充施策 など
子育て支援に関する政策税制
  • 住宅ローン特別控除借入限度額要件の緩和
  • 震災被災者の住宅ローン特別控除に関する要件緩和
  • 子育て対応のための改修工事をした場合の工事費用の減税
土地及び住宅税制
  • GX、都市緑化施策にあたっての土地の譲渡所得控除
  • オープンスペース化に関する建築の課税標準の特例
  • 土地区画整理事業に際しての地権者による土地譲渡における譲渡所得の特別控除  など
租税特別措置
  • 政治活動に対する寄付金の控除特例の延長
  • 公益法人等に寄付した場合の特別控除 など
その他
  • 支払調書等のe-Taxでの提出義務の下限枚数引き下げ
  • 新しい公益信託制度の創設に伴う措置 など
資産課税 土地に係る税の負担調整
  • 固定資産税の負担調整
  • 都市計画税の負担調整
租税特別措置
  • 産業競争力強化法の改正を前提とした、特別事業再編における各種の会社組織行為に伴う登記の登録免許税の税率低減
  • スマート農業に関する事業者の登記の登録免許税の低減
  • 直系尊属から住宅取得等の資金贈与を受けた場合の非課税措置の延長 など
法人課税 構造的な賃上げの実現
  • 給与等の支給額が増額した場合の税額控除
  • 継続雇用者に対する賃上げにおける税額控除
  • 大企業における研究開発に関する税制 など

生産性向上・供給力強化に向けた国内投資の促進

  • 半導体、電動車、鉄鋼などの産業競争力基盤強化商品に該当する商品(エネルギー利用環境負荷低減に適応するもの)の生産設備の増設に関する税負担軽減
  • イノベーションボックス税制の創設
  • 法人が有するICO済み暗号資産の評価額に関する措置 など
地域・中小企業の活性化
  • 給与等の支給額が増加した場合の税額控除
  • 中小企業事業再編投資損失準備金制度に関する追加措置と負担軽減の延長 など
円滑・適正な納税のための環境整備 現物出資に関する見直し→特に無形資産
租税特別措置
  • 農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律(仮称)の制定を前提とした、スマート農業技術を実装した機械等の取得に関する減価償却処理の特別償却の新設
  • カーボンニュートラル投資促進税制に関する追加措置
その他
  • 漁港におけるいけすなどの水面施設運営権の償却ルール
  • 二酸化炭素の貯留事業における貯留権や試掘権の取扱いについて
消費課税 国外事業者の消費税課税の適正化
  • プラットフォーム課税の導入→指定特定DPF
  • 事業者免税点制度の見直し
国際課税
  • 対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税等の見直し
  • 非居住者の暗号資産等取引情報の自動的交換のための制度創設
納税環境の整備
  • GビズIDとの連携によるe-Taxの利便性向上
  • 処分通知等の電子広布の拡充
  • 隠ぺいや仮装による更生請求書を提出した場合の重加算税制度の導入 など
関税
  • 暫定税率等の適用期限の延長
  • 個別品目の関税率の見直し
  • 輸入手続の利便性向上 など

参考:令和6年度税制改正の大綱(目次)|財務省

令和6年度の税制改正における5つのポイント

令和6年度の税制改正における5つのポイントは、次のとおりです。

個人所得課税

所得税・個人住民税の定額減税

賃金上昇が物価高に追い付いていない国民の負担を緩和するため、所得税・個人住民税の減税が行われることになりました。

所得税に関しては、令和6年分の所得税の額から特別控除の額に相当する金額が控除されます。

また、個人住民税に関しては、令和6年分の個人住民税について、納税義務者の所得割の額から特別控除の額が控除されます。

具体的な控除の額及び所得制限については、下図のとおりです。

子育て世帯等に対する政策税制(住宅ローン控除の拡充等)

子育て世帯等、一定要件を満たした者の住宅ローン控除について、借入限度額が上乗せされました。

令和6年限りの措置とはなりますが、認定住宅は5,000円、ZEH水準省エネ住宅は4,500万円、省エネ基準適合住宅は4,000万円と上乗せされました。

また、床面積要件が緩和され、令和6年12月(31日以前に建築確認を受けた家屋についても適用できることとなりました。

金融・証券税制

税制適格ストックオプションに関し、次のような要件緩和などが定められました。

保管委託要件の緩和

一定の要件を満たす場合には、税制適格ストックオプションの要件の一つである「保管委託要件」(租税特別措置法第29条の2第1項第6号)が不要となりました。

これまでは、未上場企業が保管委託要件を満たすことは手続きの煩雑さゆえ困難であり、どのようにして保管委託要件を満たすかが問題となっていました。

しかし、今回の改正で保管委託要件が不要となったことにより、このような問題が緩和されました。

権利行使価額の限度額の引き上げ

また、1年あたりの新株予約券の行使に係る権利行使価額の限度額が、下図のとおり引き上げられました。

特定従事者に係る要件の見直し

認定新規中小企業者等に係る要件のうち、資本金及び従業員数に関する要件が廃止されました。

また、社外高度人材の要件が見直され、実務経験の年数や対象者の範囲の拡充が図られることになりました。

法人課税

構造的な賃上げの実現

賃金上昇に向けた施策について、企業規模に応じて税額控除率の上乗せなどが定められました。

大企業向けの措置として、税額控除率の上乗せ措置等が見直され、適用期限が3年延長されました。具体的な上乗せ措置は、下図のとおりです。

また、従業員数が2,000人以下の法人についても、下図のとおり税額控除率が見直されました。

中小企業向けの措置として、教育訓練費に係る税額控除率の上乗せ措置等が見直され、適用期限が3年延長されました。控除限度超過額については、5年間の繰り越しが可能となります。

もっとも、繰越税額控除制度は、繰越税額控除をする事業年度において雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額を超える場合に限り適用できます。

生産性向上・供給力強化に向けた国内投資の促進

目新しいものとしては、戦略分野国内生産促進税制とイノベーションボックス税制があります。

前者に関して、産業競争力強化法の認定事業者が、産業競争力基盤強化商品の生産用設備を整える場合に必要とする資産の取得等をしたときは、一定の税額控除が可能となりました。

後者に関して、大学発ベンチャーやディープテック分野などの先端事業において、新技術に関する特定特許権の譲渡又は貸付けを行った場合、その事業年度において最大30%の金額を損金算入することが可能となりました。

地域・中小企業の活性化

中小企業の活性化を図る施策も、幅広く定められました。

1つが、再編投資損失準備金制度です。特別事業再編計画(仮称)の認定事業者が、複数回のM&Aを行う場合の積立率を拡充し、据置期間を3年に延長しました。

具体的には、買収に際して株式等の取得価額に90%又は100%の割合を乗じた金額以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、当該積立金額をその事業年度において損金算入することを可能とする措置が加えられました。

2つ目は、交際費等の損金不算入制度も拡充されました。損金不算入となる交際費等の範囲から除外される一定の飲食費に係る金額基準が見直されました。

現行では、1人あたりの金額基準が5,000円以下でしたが、改正により金額基準が引き上げられ、令和6年4月1日以降に支出した飲食費に関して、1人あたり10,000円となりました。そして、その適用期間が3年延長されました。

さらに、外形標準課税の適用対象法人の見直しも行われました。外形標準課税の対象法人について、現行基準(資本金又は出資金1億円超)は維持されることとなりました。

ただし、当分の間は、資本金及び準備金の合計額等が一定の基準を超える法人が外形標準課税の対象となります。

他にも、円滑・適正な納税のための環境整備として、現物出資の対象範囲等が見直されました。

具体的には、内国法人が外国法人の本店等に無形資産等(工業所有権や著作権等)の移転を行う現物出資(令和6年10月1日以降に行われるものに限る)について、適格現物出資の対象から除外されました。

消費課税

プラットフォーム課税の導入

国税庁の指定を受けたプラットフォーム事業者に対し、一定の場合に申告・納税を行うとされました。

具体的には、国外事業者が、日本国内の消費者等に向けてデジタルプラットフォームを介して行うデジタルサービスについて、当該事業者が特定プラットフォーム事業者を介して役務提供の対価を収受する場合には、当該特定プラットフォーム事業者が当該役務の提供を行ったものとみなし、申告・納税を行う制度が導入されました。

また、国外事業者に対する事業者免税店制度の特例や簡易課税制度等についても見直されることとなりました。

外国人旅行者向け免税制度(輸出物品販売場制度)の抜本的な見直し

外国人旅行者向け免税制度は、制度が不正利用されているという現状を踏まえ、免税販売要件が新たに追加されることになりました。

具体的には、政府の免税販売管理システムを通じて取得した税関確認情報(仮称)の保存が求められることになります。制度の詳細については、免税店の事務負担の軽減等に十分配慮した上、令和7年度税制改正に置いて結論を得るとしています。

資産課税

資産課税に関しては、土地に係る租税の負担調整措置が定められました。

項目としては、固定資産税と都市計画税についての負担調整です。

また、宅地等及び農地の負担調整措置については、一定期間、現行の負担調整措置の仕組みが継続されることとなりました。

具体的には、令和6年度から令和8年度までの間、商業地等に係る条例減額制度及び税負担急増土地に係る条例減額制度を含め、現行の負担調整措置の仕組みが継続されます。

扶養控除等の見直し

税制改正により、児童手当の所得制限が撤廃されました。

これまでは児童手当の支給対象が中学生まででしたが、高校生にまで拡充、所得制限の撤廃、支給対象の拡充により、全ての子育て世代に対して支援がなされることになり、ひとり親控除に関しても、所得要件や所得税・住民税の控除が見直され、要件の引き上げがなされました。

具体的な変更点は、下図のとおりです。困難な境遇に置かれているひとり親の自立支援を進める観点から見直しが図られています。

各課税項目の中での注目トピック5つを掘り下げ

多種多様な税制改正の項目がありますが、次の5つをさらに深堀りしていきます。

所得税・住民税の定額減税について

所得税や住民税の定額減税は、月次での減税事務と年末調整の際の減税事務の2つのポイントで反映されていきます。

給与所得者に関して具体的には、令和6年4月1日以降の給与計算において、源泉徴収税額から控除されていくことになります。

手順としては、次の通りです。

参考:国税庁|給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税の仕方

減税額の計算が主要なポイントになりますが、今回の定額減税において計算の対象となるのが同一生計配偶者です。

同一生計配偶者は、控除対象者となる給与等の所得者のうち、合計所得金額が48万円以下の人を指します(事業所得者に係る青色申告特別控除55万円を控除した金額)。※配偶者が給与等の所得者の場合は、103万円となります。

48万円を超える場合には、今回の定額減税における減税額計算の対象人数に含まれないことになります。

扶養控除等申告書に記載されていない同一生計配偶者がいる場合においては、初月の月次減税事務を行うときまでに、控除対象の所得者は、「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」の提出を給与等の支払者である事業者などに行う必要があります。

また、減税額が控除前の税額以下の場合においては、その月の中で減税が行われます。

一方で、減税額が控除前税額を上回る場合には、控除前税額と同額分を控除し、以後の月に控除しきれない分を順次なし崩し的に控除していく形になります。

ストックオプションの税制優遇の拡大

行使価額の上限拡大

これまで、税制適格ストックオプションの行使価額の上限が一律で1200万円と定められていました。1200万円という金額では、成長性が高い企業であったり、時価総額が大きくレバレッジが高い企業であるほど、行使時の税制適格を満たさないことがネックになっていました。

令和6年度の税制改正では、設立後の年数、上場後の年数に関する一定の要件の下、2倍から3倍の行使価額要件に緩和されました。

  • 設立後5年未満の会社→2400万円
  • 設立以後5年以上20年未満で、かつ未上場又は上場後5年未満の会社→3600万円

社外高度人材に係る要件の見直し

ストックオプションは、元は役員や従業員などの社内人材に対するインセンティブ報酬の形態のものでした。

一方で、業務委託などの社外人材の枠で従事する者に対してのストックオプション付与は、税制優遇措置がありませんでした。

その後、2019年の税制改正を経て、一定の社外人材に対する税制適格ストックオプションが導入されました。

そして、令和6年度の税制改正大綱において、社外高度人材の要件が緩和されることとなりました。

これまで、国家資格や博士の学位等を有する者は、3年以上の実務経験がなければ社外高度人材になることはできませんでした。

しかし、税制改正により一定の資格者に対しては、実務経験の要件が廃止されることになりました。また、上場企業での役員経験があるものは、経験年数が1年以上でも社外高度人材として認められることになり、要件が緩和されています。

今回の改正で、新たに社外高度人材の対象となる者が加わり、その範囲が拡充しています。

参考:ストックオプション税制の適⽤対象者の拡⼤|経済産業省

児童手当の見直し

これまでは、子供の人数によって所得制限の限度額がそれぞれ定められており、所得制限限度額以上の場合には児童手当が減額支給され(特例給付として月額一律5,000円)、所得上限限度額以上の場合には児童手当が支給されないという運用がなされていました。

しかし、今回の税制改正により、これらの所得制限が撤廃されたことで、どの世帯でも平等に児童手当を受けることが可能となりました。また、改正により新たに高校生も支給の対象となりました。

さらに、現行では、3歳~小学校修了までの児童のみを対象として第三子以降の手当を増額していましたが、令和6年度の税制改正により、第三子以降に対する支援金の対象が3歳~18歳までに拡充され、さらなる子育て世帯への支援が拡充しています。

参考:児童手当制度のご案内|こども家庭庁

まとめ

本記事のポイントは、次の3点です。

  • 令和6年度税制改正大綱では、個人所得税や住民税、資産課税、賃上げ施策に関する税額控除などの法人課税、消費課税を中心に多岐に渡る内容が盛り込まれている。
  • 特に、個人所得税や住民税における定額減税、ストックオプション税制、イノベーションボックス税制、扶養控除の見直しなどの新しい施策が注目される。
  • 令和6年1月における新NISAのほか、賃上げを支援する法人課税の税額控除の拡充、税制適格ストックオプションの要件緩和などにより個人の資産形成を後押しする施策、子育て支援税制による社会課題解決を志向した施策も幅広く定められている。
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川村将輝
この記事の執筆者
川村将輝

愛知県弁護士会所属。旭合同法律事務所に所属しながら、事業会社の法務部に出向。企業法務に関心があり、取り扱い分野は戦略・政策渉外、コーポレートガバナンス、内部統制、M&A、ファイナンス、AI、Web3.0、SaaS、人材プラットフォーム、航空・宇宙、データ法務、広告法務、エンタメ、消費者被害、相続、破産・再生など。学生時代は法律問題を取り上げるメディア運営会社にてインターンを経験し、現在もWEBメディアにて執筆活動を続ける。詳しいプロフィールはこちら:https://asahigodo.jp/lawyer-introduction/kawamura-masaki/