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企業のIR担当は、企業とステークホルダーとの信頼関係を構築し、自社の持続的な成長を支えるために、さまざまな活動を展開します。
投資家などからの資金調達や株価に影響を与えるため、企業にとって非常に重要なポジションだといえるでしょう。
本記事では、IR担当の仕事をテーマに、仕事内容ややりがい・大変なところ、必要なスキルなどについて解説します。
IR(Investor Relations)とは、企業がステークホルダーに対して自社の財務状態や経営方針、ビジョンなどを伝える活動のことです。
ここでは、IR担当の役割と近年における環境の変化について解説します。
IR担当とは、投資家やアナリストなどのステークホルダーに対して企業の財務状況や経営戦略、ビジョンなどを伝える役割を担う人のことです。
IR担当のミッションは、企業の価値を正しく評価してもらうことにより、株価の安定化や資金調達の円滑化に貢献することです。
近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)への関心の高まりやデジタル技術の発展など、IR担当を取り巻く環境は大きく変化しています。コロナ禍をきっかけに対面コミュニケーションの制限も生じました。
これらの要因に対応するために、IR担当は新たなスキルを身につける必要性に迫られています。
たとえば、ESGに関する情報開示や取り組みの評価方法を理解し、投資家のニーズに応えることが必要です。
また、WebサイトやSNSなどのデジタルメディアを効果的に活用し、オンラインでのコミュニケーションを強化することも求められています。
IR担当の仕事内容について、5つに分けて解説します。
決算発表や株主総会などの資料作成は、IR担当の重要な仕事のひとつです。これらの資料は、企業の財務状況や経営戦略、将来の展望などを外部に伝えるために欠かせないものです。
資料作成の際には、正確かつわかりやすい情報を提供することが求められます。また、会計や財務分析などの専門知識だけでなく、デザインやプレゼンテーションスキルも必要です。
企業の株主や投資家、アナリストなどのステークホルダーに対して財務諸表や決算短信、有価証券報告書などの財務情報を提供します。また経営戦略やビジョン、市場動向や競合分析などの経営情報も伝えることもIR担当の重要な仕事です。
これらの情報はステークホルダーの企業評価や投資判断に影響を与えるため、正確かつ迅速に伝達しなければなりません。
Webサイトは、自社の財務状況や経営方針、株主・投資家向けの情報を公開する重要な場です。IR担当者はWebサイトの更新や管理を行い、最新の情報を提供します。
また、株主・投資家と直接対話する機会を設けるためにセミナーを開催することもあります。IR担当はセミナーの企画や準備を行い、経営陣や担当部署と連携して企業の魅力や戦略を伝えます。
ステークホルダーからの問い合わせ対応は、企業とステークホルダーとの信頼関係を築くために欠かせない仕事です。
問い合わせには、企業の財務状況や経営戦略、市場動向などさまざまな内容が含まれます。IR担当はこれらの問い合わせに対して、正確かつ迅速に回答することが求められます。
また、問い合わせの内容や回答の方法を記録・分析することでステークホルダーのニーズや関心事を把握し、IR活動の改善に役立てることも大切です。
IR活動を行う際には、IR関連の法令や規制への対応が欠かせません。たとえば有価証券報告書や決算短信などの開示資料の作成や提出、内部統制システムの整備や監査、インサイダー取引の防止などが挙げられます。
法令や規制に違反すると、企業に対して行政処分や罰金などの制裁が科される可能性があります。株主や投資家からの信頼を失うことにもつながるでしょう。
そのため、IR担当は常に最新の法令や規制に精通し、適切に対応することが求められます。
ここからは、IR担当として働くことで感じられるやりがいやメリットについて解説します。
IR担当は株主や投資家に対して自社の情報を正しく公開することで、自社の価値や評価を高め、支援してもらうために欠かせない役割を担っています。また、ステークホルダーからの要望を経営陣に伝えることで、経営の意思決定に影響を与えることがあります。
このような貢献ができることは働くうえでの大きなやりがいとなります。企業の株価に直接的な影響を与えることで、自分の仕事の成果を実感することもできるでしょう。
経営に関する幅広い知識や視野を持つことができるのも、IR担当として働くメリットです。
IR担当は企業の財務状況や戦略、市場動向などを分析し、ステークホルダーに説明する仕事です。これらの業務を通じて経営の全体像や課題を把握することができます。
また企業のトップや各部門の責任者と密に連携することで、経営に関する幅広い知識や視野を身につけられます。さまざまな業界や企業に関する情報に触れることで、自分の知識を深めたり、新しい視点をもったりすることも可能です。
これらの知識や視点は、自身のスキルアップはもちろん、今後のキャリアを大きく展開することにつながります。
IR担当はやりがいの大きな仕事ですが、業務の難易度が高く、責任やプレッシャーも大きい面があります。
IR担当は、企業の業績や将来の見通しを公平かつ透明性をもって開示する必要があります。しかし、開示すべき情報の範囲やタイミングは常に変化するため、判断が難しい場面も多くあります。
また、開示した情報が株価に影響を与える可能性もあるため、慎重さが求められます。IR担当の活動によって与える影響が大きいため、非常に責任の重い仕事です。
IR担当は投資家やアナリストから厳しい質問や批判を受けることもあります。特に決算発表などの重要なイベントでは、プレッシャーが高まるでしょう。
また、IR担当は経営陣や社内の他部署とも連携する必要がありますが、意見の食い違いや調整の難しさもストレスの原因になります。
IR担当には、以下のように多様なスキルや知識が求められます。
IR担当は、企業の財務諸表や業績予想などを分析し、ステークホルダーに対してわかりやすく伝えることが求められます。そのためには、財務知識や財務分析スキルが必要です。
財務知識とは、たとえば会計原則や財務諸表の読み方、財務指標の意味などを理解することです。財務分析スキルは財務諸表や財務指標を用いて企業の収益性や資産効率、財務リスクなどを評価し、改善点や課題を見つけることです。
専門性の高い分野の知識やスキルなので身につけるには相応の努力が必要です。
企業とステークホルダーとのコミュニケーションを円滑にすることで、企業のブランドイメージや株価を向上させることができます。そのため、IR担当には高度なコミュニケーションスキルが必要です。
さまざまなステークホルダーと関わるため、その特性や背景に応じてコミュニケーションスタイルを変える柔軟性も求められるでしょう。
IR担当は自社の情報だけでなく、競合他社や業界動向、経済・政治・社会情勢などの幅広い情報を把握する必要があります。そのためには情報収集力が不可欠です。
これには、情報源の信頼性を判断したり、重要なポイントを見極めたりする力が含まれます。
またIR担当は自社の事業や製品・サービスが市場でどのような位置にあるか、どのような競争優位性を持っているか、どのような課題や改善点があるかを明確にする必要があります。
そのためには市場分析スキルも必要です。市場データや統計資料を活用するのはもちろん、SWOT分析やポートフォリオ分析などの手法を活用するスキルも含まれます。
IR担当には、自社の経営戦略やビジョンに対する深い理解が欠かせません。
ステークホルダーに対して自社の魅力や将来性を伝えるためには、自社の経営戦略やビジョンがどのように市場や競合と関係しているか、どのような成果や課題があるかなどを正確かつわかりやすく説明できる必要があります。
自社の経営戦略やビジョンを深く理解することで、IR担当としての信頼性や説得力を高めるだけでなく、自社の価値を最大化するための提案や改善も行えるようになるでしょう。
CSRとは、企業が社会的責任を果たすことを目的とした取り組みのことです。環境保護や人権尊重、社会貢献など多様な分野があります。
CSR活動は企業のブランドイメージやリスク管理などにも影響を与えるため、非財務的な指標として投資家などから注目されています。
IR担当はCSR活動に関する知識を深めることで、ステークホルダーとのコミュニケーションを円滑にすることができます。またステークホルダーの声を聞き取り、企業のCSR戦略や成果を適切にフィードバックすることで、信頼関係を築くことができます。
IR担当者の年収は400万~650万円が目安です。これは基本的に3年以上のIR経験がある方の年収で、新人IR担当は300万~350万円が目安となります。
一方、IR部門の責任者は800万以上、あるいは1,000万近い年収を得ている方もいます。したがって、IR担当は経験を積むことや役職者を目指すことで年収アップに期待できます。
IR担当者の年収を一般の会社員と比べてみましょう。民間給与実態統計調査によると給与所得者の平均給与は443万円(男性545万円、女性302万円)です。IRの経験が浅いうちはそれほど差がありませんが、経験値が高い方の年収は一般的に見て高い水準にあるといえます。
※参考:転職会議|IRの年収まとめ(給料/平均年収/企業名などを集計)
※参考:マイナビエージェント|IR・広報・宣伝
※参考:国税庁|令和3年分 民間給与実態統計調査
最後に、IR担当になるルートや転職市場の動向を解説します。
IR担当になるには、会計や財務などのバックオフィス系職種から異動するケースが一般的です。理由は、IR担当には企業の財務状況や業績予想などを正確に理解し、説明できる能力が求められるからです。
また、バックオフィス系職種では、社内外のさまざまなステークホルダーとコミュニケーションを図ったり連携したりする機会が多くあります。
これらの点からIR業務との親和性が高いため、バックオフィス系職種からの異動が多くなっています。
企業の規模によってはIR専門ではなく、財務や広報などのポジションと兼務するケースも少なくありません。
財務については、IR担当には財務知識や財務分析スキルが求められることから、非常に親和性が高い職種であるといえます。広報については、ステークホルダーとのコミュニケーションや情報発信力という点でIR業務にも共通するものがあるでしょう。
したがって、IR担当になるには財務や広報で実績を積みながら目指すというのも方法です。
ただし、財務や広報の経験だけでIR担当に転職するのは難しいため、あくまでも段階的に目指すという意識はもっておくほうがよいでしょう。
IR担当の求人はあまり多くありません。これは、IRに求められる経験やスキルが非常に高度で多岐にわたることが理由のひとつです。
IR担当は、財務分野の知識やビジネス知識、高度なコミュニケーションが必要です。加えて企業の業界や事業に関する深い理解も欠かせません。
このような要素をすべて備えた人材は転職市場にほとんどいないため、企業も外部からの採用ではなく社内の異動などで獲得するケースが多いのです。特に、自社の業界や事業に関する理解という点では既存人材の活用が好ましいと考えられています。
またIR担当を置く企業が限定されるというのも理由です。
ただし、即戦力人材のニーズはあります。IR担当経験者はもちろん、財務知識や市場分析スキル、コミュニケーションスキルなども兼ね備えた金融業界やコンサル出身者などはマッチする可能性があるでしょう。
IR担当はステークホルダーに対する財務状況や経営方針の説明のほかに、Webサイトの更新や資料作成、問い合わせ対応などさまざまな業務を行っています。
幅広い知識やスキルが求められるため転職難易度は高いですが、やりがいは大きく挑戦する価値のある仕事です。