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D&Iとはダイバーシティ&インクルージョンの略称です。
ビジネスを取り巻く環境がめまぐるしく変化する中で、企業はD&Iに取り組むことでイノベーションの創出や労働力不足の解消などさまざまなメリットを得られます。
昨今では、多くの企業がD&Iに積極的に取り組んでいます。
この記事では、D&Iの定義や目的、注目されるようになった背景を紹介するとともに、推進方法や進める際のポイント・注意点などについて解説します。
実際に取り組む企業の事例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の定義や目的、具体例について解説します。
D&Iとは、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂)の略語です。
ダイバーシティとは、人々が持つさまざまな属性や特徴、価値観や考え方などの違いを認めることです。インクルージョンとは、それぞれの違いを尊重し、差別や偏見を排除してすべての人が参加できる環境や文化を作ることです。
ダイバーシティは多様性を認めること、インクルージョンは多様性を尊重して活かすことです。
ダイバーシティとインクルージョンは、表裏一体の関係にあります。
ダイバーシティだけでは、違いを認めるだけで終わってしまい、それぞれの人が活躍できるかどうかは保証されません。インクルージョンだけでは違いを尊重するだけで満足してしまい、それぞれの人の成長は促されません。
ダイバーシティとインクルージョンを両立させることで、違いを活かして、よりよい結果や価値を生み出すことができるのです。
企業がD&Iに取り組む目的は、多様な人材を引き寄せて、組織の競争力や創造力を高めることです。
D&Iに取り組むことで、従業員の働きがいや満足度が高まり、人材の確保や定着につながります。また多様な人材の活躍により、イノベーションの創出や自社の課題解決に貢献します。
これらは、顧客や市場のニーズに応えることにもつながります。
D&Iの取り組みは、多種多様です。
たとえば子育て中の人が働きやすい職場環境を整備することや、テレワークやフレックスタイム制などの多様な働き方・制度を整備すること、女性の管理職比率の引き上げなどが挙げられます。
副業や兼業の推進、部署を横断したプロジェクトの実施なども取り組みのひとつです。
性別や年齢、障がいや性的指向などに関係なくチャンスや報酬が平等に与えられる仕組みが整っていることもD&Iです。
近年D&Iに取り組む企業は多くあります。その背景として、労働力不足やグローバル化、価値観の変化など社会で起きているあらゆる変化が関係しています。
日本では人口減少や少子高齢化にともなって労働力人口が減少しており、多くの企業では人材確保や育成に課題を抱えています。
D&Iを推進することで、女性やシニア、外国人など従来の枠にとらわれない多様な人材を採用し、長期的に活躍してもらうことができます。
世界はグローバル化やデジタル化により、市場や顧客が多様化しています。
国際的な取引やインターネットの発展により、企業は異なる地域や文化の市場に参入する機会が増えています。
また、顧客のニーズや価値観も多様化し、個別化やカスタマイズされた商品・サービスが求められています。
こうした中で企業はD&Iの推進により、多様なバックグラウンドや視点を持つ人材を集め、新たなアイデアやソリューションを生み出すことができます。
ここ数年で、社会は働き方や価値観を大きく変化させました。
コロナ禍により、在宅勤務やフレックスタイムなどの柔軟な働き方が普及しています。また、従業員は単なる給与や福利厚生だけでなく、仕事の意義や自己実現などの内発的な動機づけを重視する傾向が強く見られるようになりました。
D&Iに取り組むことで、企業は従業員の個性や能力を尊重し、柔軟な働き方やキャリアパスを提供することができます。
昨今、人種や性別、年齢や障がいなどによる差別や偏見に対する社会的な批判が高まっています。また、企業は社会的責任や信頼性を重視するステークホルダーからの評価や要求に応える必要があります。
企業がD&Iを推進することで、差別や偏見を排除し、公平な評価や報酬を実現することができます。ステークホルダーからの評価改善にもつながります。
近年の経済界では、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営や人的資本経営が注目されています。これにより、企業は持続可能な成長を目指す必要があります。
D&Iの推進によって、企業は環境への配慮や社会への貢献、ガバナンスの強化など、ESGの各要素を実現することができます。
D&Iは世界的に注目されている概念ですが、日本における現状と課題はどのようになっているのでしょうか。
日本のD&Iで代表的な取り組みは、女性やシニア、外国人の活用です。
政府は女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)の制定や外国人材の受け入れを拡大するための入管法の改正など、多様な人材の活用に向けた取り組みを強化しています。
そうした中で企業でも、女性の社会進出やシニア層の再就職、外国人の受け入れなど多様な人材の活用に向けた取り組みが進んでいます。
また、一部の企業では、女性や外国人の管理職登用やフレックスタイム制度の導入などを実施しています。
D&Iは性別や国籍、LGBTQや障がいなどさまざまな属性の人々の社会的地位や機会の平等を図るための取り組みでもあります。これは、日本だけでなく世界の各国で進められていることです。
しかし日本のD&Iの水準は、世界と比べると大きく遅れをとっています。
たとえば世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ指数2022」(ジェンダーギャップ:各国における男女格差を測る指数)では、日本は146カ国中116位という低い順位にランクされました。
日本のD&Iが世界的に遅れている理由のひとつに、無自覚の偏見が根強いことが挙げられます。
無自覚の偏見とは、自分では気づかないうちに他者に対して持っている先入観や固定観念のことです。
たとえば「女性は家庭を優先すべきだ」「高齢者は仕事に向いていない」「外国人は日本文化に馴染めない」といった思い込みです。こ
れらの偏見は多様な人材の採用や評価などに影響を与え、D&Iを阻害する要因となります。
もうひとつの理由は、表面的な多様性にとどまるケースが多いことです。
表面的な多様性とは、数だけ増やすことで満足し、実質的な変化を起こさないことを指します。
たとえば、「女性比率を上げるために採用するだけで、育児休暇やキャリア支援などをしない」「外国人を雇うだけで、言語や文化の違いに配慮しない」といった状況です。
これらの場合は、ダイバーシティが形だけで終わり、インクルージョンが実現されません。
D&Iを推進するためには、経営層のコミットメントや組織文化の変革が必要です。
しかし、経営層がD&Iの重要性を理解していない、D&Iという言葉が現場の社員に浸透していないといったケースは多々あります。
経営層はD&Iがビジネスにとって重要であることを認識し、具体的な目標や戦略を策定・実行し、評価することが求められます。
また組織文化は、多様な人材が安心して働けるように、偏見や差別を排除して対話や協働を促進するように改革することが必要です。
D&Iは一朝一夕にはできないものですが、日本が世界に追いつくためには積極的に取り組むことが不可欠です。
多くの企業がD&Iに取り組むのは、組織や個人にとって以下のようなメリットがあるからです。
D&Iに取り組むことで、企業は多様な視点やアイデアを持つ人材を活用し、イノベーションを創出することができます。これにより新しい価値や解決策を生み出し、市場や顧客のニーズに応えられます。
また、多様な市場に対応できる製品やサービスを開発することで、競争力の向上にもつながります。これによりほかの企業との差別化や優位性を確保し、収益の向上や成長につなげられます。
顧客や社会のニーズに応えるためには、多様な価値観や文化を理解し、尊重することが必要です。D&Iはそのための土台となります。
企業はD&Iに取り組むことで、多様な顧客や社会のニーズに対応できるようになります。
顧客は自分の価値観やライフスタイルに合った製品やサービスを求めており、企業はそれに応えることで顧客満足度やロイヤリティを高めることができます。これによりリピートや口コミなどの効果を生み出し、シェア拡大につなげることも可能です。
また、社会的な課題や変化に対応することで、社会からの信頼を得ることができます。このことはステークホルダーとの関係性を強化し、リスクやコストを低減することにもつながります。
D&Iによって、従業員の満足度やモチベーションが高まり、生産性やパフォーマンスが向上します。
従業員は自分の個性や能力を尊重される環境で働くことを望んでおり、それが実現することで、パフォーマンスや生産性を高めることができます。このことは品質や効率などの指標を改善し、利益や成果につながります。
企業のブランドイメージを向上させることができる点もメリットです。
企業はD&Iに関するビジョンや価値観を明確にし、それを社内外に発信することで、多様なステークホルダーからの支持や信頼を得ることができます。
これにより企業の評判や知名度を高め、魅力や業界での影響力が増します。
D&Iを組織に浸透させるための手順や推進方法について解説します。
まずは自社のD&Iに関する現状を客観的に把握することが大切です。
組織の多様性のレベルや課題を把握するために、定量的・定性的なデータを収集し、分析します。たとえば性別や年齢、国籍や障害、性的指向などさまざまな観点から社員の構成比を調べます。
社内外のアンケートやインタビューを実施し、D&Iに関する課題やニーズを把握することも方法です。
D&Iを推進するためには、経営トップがその重要性や意義を理解し、ビジョンや方針を明確化することが必要です。そのうえで、全社員に共有します。
経営トップがD&Iに対するコミットメントを示すことで、社員のモチベーションや信頼感が高まります。また、ビジョンや方針を全社員で共有することで、D&Iに対する共通の理解や目的意識が生まれます。
ビジョンや方針は、具体的かつ実現可能なものであることが望ましいでしょう。
ビジョンや方針にもとづいて目標や指標を設定します。目標や指標は、短期的なものと長期的なものをバランスよく設定します。
目標や指標の例としては、たとえば女性管理職の割合や外国人従業員の数などの定量的な指標が挙げられます。社員満足度やエンゲージメントなどの定性的な指標も設定しましょう。
また、目標や指標は全社レベルだけでなく、部門レベルや個人レベルでも設定し、それぞれの責任者や担当者を明確にすることも大切です。
目標や指標に沿って、施策や具体的な活動を決定します。施策や活動は多岐にわたりますが、大きく分けて「意識」「制度」「交流」の3つのカテゴリーに分類できます。
意識は、社員のD&Iに対する意識や知識を高めるための施策です。たとえばD&Iに関する研修やワークショップ、社内外の講演会やセミナー、社内メディアやSNSでの情報発信などがあります。
制度は社員のD&Iに対する行動やパフォーマンスを支援するための施策です。柔軟な勤務形態や福利厚生、採用や評価などの人事制度の見直しや改善などがあります。
交流は、社員のD&Iに対する関係性やコミュニケーションを促進するための施策です。たとえば社内外のネットワーキングイベントやメンタリングプログラムの実施、社内コミュニティの設立などがあります。
D&Iを推進するためには、人事制度や評価基準を見直すことも重要です。人事制度や評価基準は、社員の行動やパフォーマンスに影響を与えます。
たとえば多様な人材を惹きつけるための改善をしたり、個人の価値観に合った人材育成プログラムを提供したりします。また、多様な人材の貢献を正しく認めるための、公平で透明性の高い評価基準を設定することなども考えられます。
施策や具体的な活動を実行します。実行にあたっては、施策の目的や内容、効果や成果などを従業員に分かりやすく伝えましょう。
従業員からのフィードバックや意見を積極的に収集し、反映させることも大切です。
施策や活動の成果や課題を定期的に測定し、改善策を講じます。
測定にあたっては、定量的・定性的に測定・分析し、フィードバックすることで効果を高めることができます。
D&Iを推進する際には、以下のポイントを意識しましょう。
D&Iでは多様性を認めるだけでなく、それぞれの個性や特徴を尊重し、互いに協力し合うことを目指します。そのため、コミュニケーションやフィードバックの機会を増やし、対話や理解を深めることが必要です。
取り組みにあたっては、多様なバックグラウンドや価値観を持つ社員の声を聞き、意見交換や協働の機会を増やしましょう。
たとえば従業員のD&Iに対する態度や満足度を測るアンケートやインタビューを実施する、D&Iに関する意見や提案を収集するチャネルや機会を設けるなどが考えられます。
D&Iは性別・年齢・国籍などの単なる表面的な違いにとどまらず、個人の能力や貢献を評価することが欠かせません。
そのためには経験やスキル、性格や価値観、ワークスタイルやコミュニケーションのスタイルなどさまざまな観点から個人を見る必要があります。
これらの観点から個人を評価することで、表面的な違いにとらわれずに、本質的な能力や適性を見出すことができます。
また、個人の強みや弱みを把握し、適切な役割分担や育成プランを策定することも可能となります。
D&Iは人材活用に関連する取り組みなので、人事プロセスと連動させることも重要です。たとえば採用や昇進などの人事プロセスにD&Iの観点が反映されているか、多様なバックグラウンドや視点を持つメンバーで構成されるプロジェクトチームや委員会が発足されているかなどを確認しましょう。
D&Iに関する成果や貢献は、評価や報酬に反映されることで取り組みの活発化につながります。そのため、貢献を評価する仕組みを構築することが必要です。
たとえばD&Iの目標達成度や改善点を定期的にレビューする仕組みや、D&Iに積極的に取り組んだり貢献したりした従業員を表彰や報奨する仕組みや制度などがあるとよいでしょう。
D&I は単発の取り組みや短期間で効果が出るものではないため、継続的に取り組むことが大切です。
Plan(計画・Do(実行)・Check(測定・評価)・Action(対策・改善)のPDCAサイクルを回すことで取り組みの精度や効果を高めていきましょう。
最後に、D&Iに積極的に取り組んでいる企業の事例を紹介します。
どのような取り組みから始めればよいのか分からない場合には、他社の事例が参考になります。
BIPROGY株式会社では、2013年度から専任組織としてダイバーシティ推進室を設置しています。D&Iに関する取り組みは外部から高く評価されており、「なでしこ銘柄」や「イクメン企業アワード」などさまざまな賞や評価を獲得しています。
たとえば女性活躍推進では女性活躍推進法にもとづく行動計画を公表し、女性役員比率20%、女性管理職数を2020年度の2倍にすることを目指しています。
ほかには多様な働き方を支える仕組みとして、法令を上回る介護制度を策定し、介護セミナーの開催や介護ハンドブックの配布などを行っています。
※参考:当社のダイバーシティ&インクルージョン|BIPROGY株式会社
株式会社資生堂のスローガンは、「LOVE THE DIFFERENCES(違いを愛そう)」です。性別・年齢・国籍などの属性や考え方の違いに関係なく、それぞれの違いを認め合い尊重し合うことを大切にしています。
資生堂の取り組みとして、女性活躍推進やLGBTに関する取り組み、障がいのある社員や外国籍社員の活躍推進、再雇用や有期社員の雇用などの施策が挙げられます。
たとえば障害のある社員の活躍推進では、障害のある社員の雇用に積極的に取り組んでおり、日本国内の資生堂グループでは約350名の障がいのある社員が活躍しています。
ANAグループでは、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン:D&Iに「公平/公正性(Equity)」という考えを足した概念)を経営戦略のひとつと捉え、積極的な取り組みを続けています。
主な取り組みとして、管理職向け研修の実施やキャリア支援に向けた取り組み、「仕事と育児の両立支援セミナー」の開催などがあります。
2021年には、国際航空運送協会(IATA)が主催するダイバーシティ&インクルージョンア ワードの「D&Iチーム賞」を受賞するなど、外部からの高い評価を得ています。
※参考:ジェンダー平等に関する取り組み|ANAホールディングス株式会社
株式会社ローソンでは、社長をトップに人事本部と連動してDE&I推進担当役員を配置し、制度設計・運用・人材登用などを行っています。
ローソンの主な取り組みは、女性活躍推進に向けた取り組み、育児と仕事の両立支援制度、多様な人財の採用などです。
たとえば2008年から外国籍社員の採用に積極的に取り組んでおり、すでに在籍している外国籍社員140名の多くは管理職として活躍しています。
※参考:ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)推進|株式会社ローソン
ベネッセグループでは、企業理念である「よく生きる」の実現のために、多様な価値観や経験を尊重し、それぞれの個性を活かすことができる環境を重視しています。
D&Iの具体的な取り組みとしては、ジェンダーダイバーシティの推進や障がいがある方の雇用の促進、シニアの活躍促進やLGBTQの理解促進があります。
たとえばLGBTQの理解促進では、すべての従業員に向けた「LGBTQ研修」の実施や、年1回の「ダイバーシティDAY」での情報発信などを行っています。
※参考:ダイバーシティ、エクイティ&インクリュージョン(DE&I)|株式会社ベネッセホールディングス
D&Iとは、多様性を認めるとともに、多様性を尊重して活かすことです。
D&Iの取り組みでは、表面的な違いにとどまらずさまざまな観点から個人を評価する仕組みづくりや、継続的な取り組みを続けることなどが大切です。
他社の事例を参考にしながら、自社に合った取り組みを進めていきましょう。