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企業分析を行う際に、欠かせない指標の一つが「財務レバレッジ」です。財務レバレッジは、自己資本を1としたときに何倍の資金を事業に投じているのかということを意味します。
財務レバレッジを分析することで、企業が借入金などの他人資本をどれだけ有効に活用しているか判断できます。
財務レバレッジは低ければ良いというわけではありません。企業の成長や状況に合わせて上手に他人資本を活用し、適切なバランスを保つことが大切です。
本記事では、財務レバレッジの概要および計算方法を解説します。財務レバレッジを活用するメリットと注意点も紹介するので、経営判断に役立ててください。
財務レバレッジとは、他人資本の利用度合いを表す指標です。レバレッジという言葉は「てこの原理」を意味し、小さい力で大きな力を動かす仕組みです。
ビジネスでは、自己資本を増加させることなく他人資本の増加によって事業を拡大させることがあります。このとき、財務レバレッジは高い値になります。
逆に自己資本の割合が高い状態で利益を出している場合は、財務レバレッジは低くなります。
財務レバレッジは、総資産が自己資金の何倍となるかを表す数値です。
総資産とは、企業が保有する資産のすべてで、固定資産も含まれます。自己資本は、株主から出資してもらったお金のような返済が不要な資産です。
財務レバレッジの計算式は、総資産÷自己資本=財務レバレッジとなります。
例えば、自己資本が500万円で総資産が1,500万円だとすると、財務レバレッジは3倍です。財務レバレッジが高いほど、他人資本の割合が高く、自己資本比率は低いことになります。
借入金や社債などの他人資本がなく、自己資本だけで賄えている場合は財務レバレッジが1倍です。このように他人資本がない企業は少ないといえます。
財務レバレッジから、資本のバランスを読み取ることができます。
財務レバレッジの適正値は「2倍程度」といわれ、自己資本と他人資本の比率が同じで、バランスが取れている状態です。
ただしこの数値はあくまで目安であり、企業の状況や成長に応じて適切な水準を維持する必要があります。
平成30年から令和2年度までの業界別の財務レバレッジ平均値は、以下のとおりです。
業種 | 平成30年度 | 令和元年 | 令和2年度 |
---|---|---|---|
合計 | 2.41 | 2.28 | 2.55 |
建設業 | 2.29 | 2.40 | 2.28 |
製造業 | 2.21 | 2.13 | 2.17 |
情報通信業 | 1.78 | 1.76 | 1.93 |
運輸業、郵便業 | 2.93 | 2.85 | 2.78 |
卸売業 | 2.47 | 2.54 | 2.60 |
小売業 | 3.11 | 3.05 | 3.18 |
不動産業、物品賃貸業 | 2.56 | 2.79 | 3.09 |
学術研究、専門・技術サービス業 | 1.77 | 1.31 | 1.95 |
宿泊業、飲食サービス業 | 4.96 | 6.08 | 7.15 |
生活関連サービス業、娯楽業 | 2.94 | 2.60 | 2.94 |
サービス業(他に分類されないもの) | 2.07 | 2.14 | 2.57 |
引用:中小企業実態基本調査 / 令和3年確報|政府統計の総合窓口
「宿泊・飲食サービス業」や「小売業」は、ほかの業種と比べて財務レバレッジが高い傾向にあります。
一方で「情報通信業」や「学術研究・専門技術サービス業」は、財務レバレッジが低い傾向にあり、他人資本をあまり活用しない業種です。
財務レバレッジは企業の財務状況を判断する指標となります。ただし、数値の高低が状況の良し悪しに直結するわけではありません。
財務レバレッジから予想できる財務状況のパターンが複数あるため、以下を財務分析の参考にしてください。
財務レバレッジが高い場合、他人資本の割合が高いことを意味します。
他人資本は返済義務があり、借入金は利息が発生します。財務レバレッジが高い場合は、返済と利息に苦しむリスクがあるため、リスク管理が重要です。
しかし、財務レバレッジが高いからといって悪いわけではありません。企業の成長するタイミングであるなど、ポジティブに捉えられる場合もあります。
財務レバレッジが高くなる要因には、以下が考えられます。
リスク管理が不十分な状態で利子などの負担が増加している場合は、財務レバレッジを適切な水準に戻す対策を講じる必要があるでしょう。
財務レバレッジが低い企業は、自己資本の割合が高い企業であることを意味します。企業は借入などに依存せずに経営しているため、安定していると評価できるでしょう。
ただし、財務レバレッジは業種ごとに平均値が異なります。競合他社や平均値との比較、ほかの財務指標との分析をし、総合的な判断が重要です。
また、財務レバレッジは低いからといって優良であるとは限りません。企業は市場や時代の変化に合わせて成長する機会があり、多くの資金が必要となります。
ビジネスの拡大や成長を自己資金のみで賄うことは難しく、融資をはじめとした他人資本を活用せざるを得ません。したがって財務レバレッジが低い企業は、企業が経営推進に消極的である可能性もあります。
財務レバレッジが低くなる要因には、以下が考えられるでしょう。
値が低すぎる場合は業界の平均値や動向を分析して、経営戦略を見直すのも良いかもしれません。
財務レバレッジを利かせるとは、金融機関から多くの資金調達をして総資本を増やし、積極的に収益を高めることです。
財務レバレッジを利かせると、以下の3つのメリットを得られます。
ROE(Return On Equity)とは、自己資本利益率です。企業が株主から集めた資本をどれだけ効率的に利益にできるかを表します。
ROEと財務レバレッジの関係性は密接で、財務レバレッジが高くなるとROEも高くなります。
ROEの計算式は、当期純利益÷自己資本×100=ROE(%)です。当期純利益とは、1会計期間の収益から費用を差し引いた後の企業の最終収益を指します。
具体例をみていきましょう。
<例>企業の自己資本が1,000万円、銀行からの借入がない時は総資産が1,000万円、純資産利益率は10%です。銀行から4,000万円借り入れて総資産が5,000万円になった場合と比較してみます。
財務レバレッジは借入前が1倍で、借入後は5倍です。利益は借入前が100万円、借入後が500万円となります。その結果、ROEは借入前が10%で借入後は50%となり、利益率を維持できた場合は借入金を増やすとROEが高まるということです。
ROEを高めるメリットは、以下のとおりです。
ROEは投資家が企業を判断する指標となります。
ただし、借入金を増やしたり自社株買いをしたりしてROEを一次的に高めてもリスクが伴うため、ほかの財務指標と比較して総合的に判断しましょう。
他人資本を集めると投資資金が増え、自己資本が小さくても大規模なビジネスに挑戦できます。
既存ビジネスの拡大や新規事業への参入、企業買収、設備投資、開発投資は企業の成長に欠かせません。順調に事業を拡大し、利益が増加している企業はROEも上がります。
企業の利益はさらに事業拡大に向けた再投資の元手となり、成長を続けられるでしょう。
自己資本には利息が発生しないため、財務諸表の損益計算書には計上できません。しかし他人資本を活用すると利息が発生し、損益計算書の費用に計上できます。
そうすると、税引前利益が減少して法人税の負担が軽減します。
具体例は、以下のとおりです。
<例>企業が5億円を利息4%/年で借入しているとしましょう。この場合、年間の利息支払いが2,000万円となり、企業の営業収益が1億円であれば、利息支払い後の税引前当期純利益は8,000万円です。
法人税率が30%だとすると、利息支払いにより節税される金額は600万円となります。財務レバレッジを利かせたことによる節税効果は、借入金の金額が上がるほど高くなります。
財務レバレッジを利かせる際は、財務リスクが高くなる点や融資審査が厳しくなる点に注意しなければなりません。
財務レバレッジを利かせる際の注意点を解説します。
財務レバレッジを利かせると、財務リスクも高まります。
借入金の返済計画やキャッシュフローの適切な管理がなされていない場合、黒字であっても倒産のリスクが生じます。返済不能になれば、財務の安定性や信用力に悪影響が及ぶため、リスクヘッジが重要です。
財務レバレッジを効かせる前に、まずは予備資金の準備・返済スケジュールの見直しをおこないましょう。また、事前に景気や市場動向をチェックすることも大切です。
財務レバレッジを利かせた場合、金融機関からの融資審査が厳しくなる可能性があります。
金融機関は財務状況や返済能力を評価し、融資の承認を決定します。財務レバレッジが高い状態は負債が増加していることを意味するため、財務リスクが高いと判断されて企業評価が下がり、融資の承認が下りづらくなる可能性があります。
したがって財務レバレッジの活用と融資審査を並行して進める場合は、信頼性のある決算書の提供が必要です。内部統制の強化や監査の実施などを通じて、信頼性を向上させましょう。
金融機関からの評価が下がってしまうと、融資期間が短縮されたり、特定の条件が付与されたり、最悪の場合は融資が受けられない可能性があります。
本記事では、財務レバレッジの概要および計算方法、注意点を解説しました。
企業が成長するために、他人資本の活用は欠かせません。他人資本は活用するメリットがある分、財務的なリスクも高まります。
財務レバレッジが高すぎるとリスクが増大し、市場変化に柔軟に対応できなくなる恐れがあるでしょう。
逆に言えば、しっかりと対策をたてて必要なタイミングで財務レバレッジを利かせられると、事業を成功させる機会が生まれます。
業界平均と比較したり、ほかの財務指標と総合的に判断したりして、財務レバレッジを経営判断に生かしましょう。