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「法定福利費ってなに?」「福利厚生と法定福利費はなにが違うの?」と疑問を持っている方はいらっしゃるかもしれません。
また、ひと言で法定福利費といっても、対象となる保険はさまざまあり、保険ごとに算出方法や保険料率が異なります。
本記事では、法定福利費の概要や法定福利費の対象となる保険および、計算方法などを解説いたします。
法定福利費とは、企業が支払う福利厚生費のうち、法律で義務付けられている費用のことです。
具体的には、健康保険料や厚生年金保険料、雇用保険料、介護保険料、労災保険料、子ども・子育て拠出金の企業負担分が法定福利費の対象となります。
企業および従業員が法定福利費の要件に該当する場合、事業主は必ず加入し、企業負担分の費用を負担しなければなりません。
参考:調査の結果|厚生労働省
法定外福利費とは、企業が独自に設けている福利厚生費のことです。
代表的な法定外福利費としては、通勤手当や家賃補助、社員旅行、忘年会・新年会の費用負担などが挙げられます。
しかし、法定外福利費は法定福利費のように決まったものではないため、さまざまな種類があり、上記はあくまでも一例に過ぎません。
企業の中には働きやすさを向上させるために、フィットネスジムの利用や結婚・出産祝い金の支給、クラブ活動など、ユニークな法定外福利費を整備しているところもあります。
参考:調査の結果|厚生労働省
福利厚生費とは、給与・賞与とは別に、企業が従業員とその家族に支出する費用のことです。
また、法律で支払いが義務付けられている法定福利費と企業が独自に設けている法定外福利費の総称でもあります。
法定福利費の対象となる保険は、次の6つです。
健康保険とは、従業員およびその家族が加入する保険のことで、病気・ケガをした際に医療費の自己負担を軽減してくれる制度です。
正社員は原則加入義務があり、パート・アルバイトであっても一定の労働条件を満たすのであれば、加入義務が生じます。
厚生年金とは、老齢・障害・死亡に対して給付金を支払うための保険で、民間企業で働いている人を対象として1942年に誕生した公的年金制度です。国民年金に上乗せして、管理・運営されています。
厚生年金保険は国籍・性別にかかわらず加入できますが、加入できるのは満70歳になるまでであり、満70歳を迎える誕生日に被保険者としての資格が喪失します。
厚生年金保険の加入対象となる条件は、次のとおりです。
【加入対象となる労働者】
就業規則や労働契約などに定められた一般社員の1週間の所定労働時間および1月の所定労働日数の4分の3以上ある従業員
【短時間労働者の加入要件】
- 「特定適用事業所」「任意特定適用事業所」または「国・地方公共団体に属する事業所」に勤務
- 通常の労働者の1週間の所定労働時間または、1月の所定労働日数が4分の3未満である方
上記要件に該当しなおかつ、以下の要件すべてに該当する場合
- 週の所定労働時間が20時間以上あること
- 賃金の月額が8.8万円以上であること
- 学生でないこと
引用:会社に勤めたときは、必ず厚生年金保険に加入するのですか。|日本年金機構
雇用保険とは、失業や休業で働けなくなった際、生活をサポートするための保険金を給付する制度です。
雇用保険には加入要件があるため、会社で働いているからといってすべての労働者が加入するわけではありません。
雇用保険の加入要件は、次のとおりです。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上の雇用見込みがあること
上記要件を満たしている場合、パート・アルバイトも雇用保険の加入対象です。
介護保険とは、社会が一丸となって介護を支援することを目的に設立された公的保険制度です。
介護保険を活用すれば、要介護もしくは要支援状態になった65歳以上の方が介護サービスを利用した場合、その費用を一部保障してくれます。
介護保険は40歳以上が被保険者となり、年齢によって次のように区分されます。
労災保険(労働者災害補償保険)とは、雇用されている人が業務中・通勤中に発生した事象により、業務・ケガ・障害・死亡した場合に保険が給付される制度です。
労災保険は政府が管理・運営しており、正社員はもちろん、パート・アルバイトを含めてすべての労働者が必ず加入しなければなりません。
子ども・子育て拠出金とは、国・地方自治外が実施する子育て支援サービスに使用するために徴収される費用です。
法定福利費は、他の保険と違って従業員に負担義務はないため、企業が全額納付します。
なお、従業員の子どもの有無は関係ないため、従業員に子どもがいなくても納付しなければなりません。
法定福利費の計算方法を、次の6項目に分けて解説します。
健康保険料の算出方法は、次のとおりです。
「健康保険料=標準報酬月額×健康保険料率」
標準報酬とは、報酬月額(月々の給与)に応じて50等級に区分して規定されているものです。
一方で健康保険料率は、会社所在地の都道府県によって異なります。
仮に会社の所在地が東京都である場合、介護保険第2号被保険者に該当しない際の保険料率は9.81%、介護保険第2号被保険者に該当する際は11.45%となります。
下記表は、東京都の健康保険料額表を一部抜粋したものです。
標準報酬 | 報酬月額 | 介護保険第2号被保険者に該当しない際の健康保険料(9.81%) | 介護保険第2号被保険者に該当する際の健康保険料(11.45%) | |
等級 | 月額 | |||
15 | 180,000円 | 175,000~ 185,000円 | 17,658円 | 20,610円 |
16 | 190,000円 | 185,000~195,000円 | 18,639円 | 21,755円 |
17 | 200,000円 | 195,000~210,000円 | 19,620円 | 22,900円 |
引用・抜粋:令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
例えば、月々の給与が205,000円の場合、報酬月額が195,000〜210,000円である17等級になります。
そのため、標準報酬200,000円に保険料率9.81%をかけることになり、健康保険料は月額19,620円です。
ただし、保険料は企業と従業員が半分ずつお金を出し合う労使折半となるため、企業の負担額は実質9,810円となります。
厚生年金保険料の算出方法は、次のとおりです。
「厚生年金保険料=標準報酬月額×厚生年金保険料率」
標準報酬月額は健康保険料と同様、健康保険・厚生年金保険の保険料額表に記載されている報酬月額と等級によって算出されます。
厚生年金保険料率は一律18.30%ですが、厚生年金基金に加入している際は免除保険料率が適用され、加入している基金によって保険料率は13.3~15.9%となります。
下記表は、東京都の厚生年金保険料額表を一部抜粋したものです。
標準報酬 | 報酬月額 | 厚生年金保険料 | |
等級 | 月額 | ||
15 | 180,000円 | 175,000~ 185,000円 | 32,940円 |
16 | 190,000円 | 185,000~195,000円 | 34,770円 |
17 | 200,000円 | 195,000~210,000円 | 36,600円 |
引用・抜粋:令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
例えば、月々の給与が205,000円の場合、報酬月額が195,000〜210,000円である14等級になります。
そのため、厚生年金基金に加入していない場合は標準報酬200,000円に保険料率18.30%をかけることになり、厚生年金保険料は月額36,600円です。
健康保険料同様、厚生年金保険料も企業と従業員が半分ずつお金を出し合う労使折半となるため、企業の負担額は実質18,300円となります。
雇用保険料の算出方法は、次のとおりです。
「額面賞与×雇用保険料率」
額面賞与とは、基本給×支給月数もしくは、基本給×支給月数×評価係数で算出される賞与のことです。
雇用保険料率は事業の種類によって異なり、一般事業の場合は15.5%ですが、農林水産・清酒製造事業は17.5%、建設事業は18.5%となります。
介護保険料の算出方法は、65歳以上の第1号被保険者と、40歳~64歳までの医療保険加入者である第2号被保険者で異なるため、注意が必要です。
第1号被保険者の1ヶ月分の介護保険料は、3年に1度条例で規定されている基準額に対し、所得段階に応じた割合をかけて算出します。
また、所得段階は市区町村によって異なり、それに応じて介護保険料も変動するため、自身が居住する市区町村がどのように設定しているか確認しなければなりません。
第2号被保険者の場合、算出方法は国民健康保険加入者と国民健康保険以外の医療保険への加入者で異なります。
【国民健康保険加入者】
国民健康保険加入者の場合、介護保険料は下記いずれかを市区町村ごとに組み合わせて算出します。
算出方法は市区町村によって異なるため、詳細については、自身が居住する市区町村の算出方法を確認しなければなりません。
【国民健康保険以外の医療保険への加入者】
サラリーマンなどのように国民健康保険以外の医療保険へ加入している場合の算出方法は次のとおりです。
介護保険料率は健康保険組合ごとに異なり、毎年見直されるため、毎年確認する必要があります。
また、給与にかかる介護保険料の標準報酬月額は原則4~6月の平均給与額を計算したうえで、健康保険料で使用した健康保険料額表に照らし合わせて算出します。
一方、標準賞与額は税引き前の賞与総額から1,000円未満を切り捨てて算出しますが、標準賞与額の年度累計額の上限は573万円です。
そのため、仮に6月に400万円、12月に400万円の賞与をもらった場合は800万円となり、標準賞与額の年度累計額を超えています。
そのため、6月は400万円、12月は173万円で賞与にかかる介護保険料を算出します。
労災保険料の算出方法は次のとおりです。
「全従業員の年度内賃金総額×労災保険料率」
賃金総額とは、労災保険に加入できない事業主および役員などの賃金を除く、全従業員に支給した賃金の総額です。
労災のリスクは事業内容によって異なることから、労災保険料率は事業ごとによって異なり、労災のリスクに応じて2.5/1.000~88/1,000となります。
例えば、従業員が10人で年収400万円の宿泊業の場合、次のように計算します。
したがって、「4,000万円×3/1,000」となり、労災保険料は120,000円です。
子ども・子育て拠出金の算出方法は次のとおりです。
「標準報酬月額×子ども・子育て拠出金率」
標準報酬月額は厚生年金保険料を算出する際と同じ、厚生年金保険料額表を使用します。
子ども・子育て拠出金率は3.6/1,000です。
下記表は、厚生年金保険の保険料額表を一部抜粋したものです。
標準報酬 | |
---|---|
等級 | 月額 |
12 | 180,000円 |
13 | 190,000円 |
14 | 200,000円 |
引用・抜粋:令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
例えば、月々の給与が205,000円の場合、報酬月額が195,000〜210,000円である14等級になります。
そのため、標準報酬200,000円に子ども・子育て拠出金率3.6/1,000(0.0036)をかけるため、子ども・子育て拠出金は月額720円です。
法定福利費の仕訳方法は、次の2つです。
発生主義とは、収入や支出額が確定した段階の日付で帳簿をつける考え方で、ほとんどの企業で発生主義による複式簿記が採用されています。
発生主義で法定福利費の仕訳する場合の勘定科目は、企業負担分が「法定福利費」、従業員負担分が「預り金」もしくは「立替金」で処理します。
従業員の給与が30万円で、従業員負担額(社会保険料)が3万円の場合の仕訳方法は次のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
給与 | 300,000 | 普通預金 | 270,000 |
預り金 | 30,000 |
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
法定福利費 | 30,000 | 未払金 | 30,000 |
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
未払金 | 30,000 | 普通預金 | 60,000 |
預り金 | 30,000 |
当月分の社会保険料は翌月末に納付するため、当月分の企業負担額は「未払金」として負債計上し、納付完了日に従業員負担額の預り金と合わせて仕訳処理する流れとなります。
現金主義とは、現金の授受や支払いが完了した時点で会計処理する考え方です。
従業員の給与が30万円で、従業員負担額(社会保険料)が3万円の場合、仕訳方法は次のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
給与 | 300,000 | 普通預金 | 270,000 |
法定福利費 | 30,000 |
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
法定福利費 | 80,000 | 未払金 | 80,000 |
現金主義の認識基準は現金が動いた時点であるため、発生主義と比較すると会計処理の回数が少なく、取引管理の手間がかからないといった特徴があります。
法定福利費の支払い義務があるにもかかわらず、従業員が未加入で法定福利費を支払っていない場合は法律違反となり、罰金・懲役などの罰則が科せられます。
法律に違反した場合、罰則だけでなく社会的な信用も低下してしまい、最悪の場合は企業の存続にも影響しかねません。
そのような事態を避けるためにも、自社が保険適用対象かどうか、従業員が未加入になってないかしっかりと確認する必要があります。
法人および、特定業種を除く従業員5名以上の個人事業主は、社会保険料への加入が義務付けられています。
しかし、法定福利費の支払いは経済的な負担となるため、小規模な下請業者が多い建設業では保険未加入の事業者が多く、大きな問題となっていました。
また、法定福利費の確保にあたって、従来の取引慣行では平米単価・トン単価が一般的だったことから、その扱い方がわかりにくい状態だったそうです。
そこで国は社会保険をはじめとする各種保険の加入を推進するため、2013年に下請業者に対して元請業者に提出する見積書を作成する際は、法定福利費も含めて計算・記載するように義務付けました。
法定福利費を内訳明示した見積書を作成していないからといって、法令違反による罰則などはありません。
しかし、法定福利費を内訳明示した見積書を作成しない場合、きちんと保険に加入していても法定福利費を支払っていない業者だとみなされるリスクがあります。
社会保険などに加入しておらず法定福利費を支払っていない建設業者は工事などの事業を実施してはいけないというルールが定められているため、注意が必要です。
参考:建設会社の法令違反を手助けしていませんか?|国土交通省
法定福利費に関する見積書作成までの流れは、次の3ステップです。
労務費とは、人件費の一部で、工事施工に直接携わる職人の工賃などのことです。
労務費には工事に従事している間のみの工賃である「直接労務費」、直接労務費以外の労務費である「関節労務費」の2種類があります。
労務費の種類によって算出方法は異なりますが、建設業では積算にて労務費を算出します。
積算での労務費の算出方法は、次のとおりです。
「労務費=所有人数(設計作業量×該当作業の歩掛)×労務単価(基本日額+割増賃金)」
歩掛は、1つの作業を実施するために必要な作業の手間を数値化したものですが、作業の手間がどれくらいかかるかは従業員の熟練度によって変化します。
そのため、歩掛は国土交通省が毎年公表している標準歩掛を利用しますが、自社で従事している従業員に合わせて変更も可能です。
法定福利費の一般的な算出方法は、次のとおりです。
「法定福利費=労務費総額×法定保険料率」
法定福利費は、年間賃金総額に各保険の保険料をかけて算出します。
しかし、各工事の見積りでは従業員の年間賃金を把握できません。
そのため、ステップ1で計上した労務費総額を賃金と見なし、それに各保険の保険料をかけて算出します。
算出した法定福利費は次のように見積書へ記載します。
法定福利費事業主負担額 | 対象金額 | 料率 | 金額 |
---|---|---|---|
雇用保険料 | B | p | E:B×p |
健康保険料 | B | q | F:B×q |
介護保険料 | B | r | G:B×r |
厚生年金保険料(児童手当拠出金含む) | B | s | H:B×s |
合計 | B | t | I:B×t |
上記のとおり、見積書には「法定福利費事業主負担額」という項目名とし、各法定福利費が事業主負担分であることを明示します。
そのうえで、法定福利費の対象となる労務費と、事業主負担割合、法定福利費の金額を記載し、合計額を記載しましょう。
法定福利費も消費税の対象となるため、工事代金と法定福利費を小計としたうえで、全額に消費税をかけて見積書の総額を算出します。
福利厚生費は、従業員やその家族の福利厚生を目的に、全従業員に平等で支出する費用であり、税法上では原則、損金算入が認められています。
そのため、福利厚生費の一部である法定福利費も損金算入が可能であり、正しく算出して仕訳すれば経費計上によって節税効果が期待できます。
節税効果を期待できるのは法人税で、福利厚生費を算入させた際の法人税の算出方法は次のとおりです。
損金算入により、売上から経費を差し引いた利益に対して税をかけられます。
税がかけられる必要な利益が減る分、節税効果が期待できるというわけです。
法定福利費とは、企業の福利厚生の1つです。
企業が独自に整備している法定外福利費と違い、法定福利費は法律で義務付けられている福利厚生費となります。
法定福利費の対象となる保険は健康保険や厚生年金保険、雇用保険など6種類あり、損金算入によって節税効果が期待できます。
節税効果を最大化させるためには、保険ごとの保険料率や算出方法を理解したうえで、保険料を正しく算出し仕訳することが大切です。